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第二話 突撃せよムテ騎士団 その3「報復」
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動きがあったのは薬屋でのことであった。ようやくそこの店主が反抗に出たのだ。
「私の店には一歩も入れん!」
「ケチ!」
「ハゲ!」
「骨粗鬆症!」
頑として入口を守る店主。ケチはともかく、頭髪が薄くてヨボヨボなのはご愛嬌。
ちなみにアストリアとローナは飽きたのか、この店の二人の子供とボールで遊んでいる。
子供達は5、6歳ぐらいの兄弟で、店主の見た目から一瞬孫かと思えるぐらいの年齢であった。
「そっちがその気ならこっちにも手がある。アストリア、その子達を抑えとけ。
あ、もちろん優しくだぞ、お前じゃ骨を折りかねん」
「わかった!!!!」
アストリアはしゃがんだ状態で、挟み込むように二人の兄弟の肩をそっと両手で押さえた。
そっとのはずだが、それでも子供達が抜け出せない程にはがっちりと抑えている。
「うちの子に何する気だ!」
「ちょっと大人の階段を登ってもらうだけだ。
さあ、子供達よ。おばさんがいいものを見せてやろうぞ」
「なーにー?」
「どんなのー?」
「こんなのだ」
あどけない笑顔で興味津々に期待する子供達。
そんな無垢な子供の前で、デーツはマントを翻して例のビキニアーマーを着た肉ダルマの姿を晒した。
「ほーら、その目に刻め子供達よ」
「ぎゃああ! 脂肪のお化けだああ!」
「助けてお父さん!!!」
「やめろこの野郎!」
あまりの残酷な行為にタナカはデーツを殴った。
「いったー。まあ自分で言うのもなんだが、お前のやったことは正しいので、この件は不問とする」
「暴行が不問になるぐらいの事だと自覚あるなら最初からするな!」
「はいはい」
デーツは再びマントで体を覆うと、未だ店の前から動かない店主を見た。
「自分の子のピンチに動かぬとはな」
「ピンチはピンチだが、あまりのことに頭が混乱したんだ! さあ、お前達早く家に」
二人の子供は急いで父親の元に駆け寄り、その足にしがみついた。
「なあ!これ忘れてるぞ!!」
アストリアがさっきまで遊んでいたボールを指す。
「アストリア、我にそれをくれぬか」
「わかった!!!!」
アストリアが豪速球でボールを投げるも、デーツはノールックでキャッチする。
「バーベラ、これをどう思う?」
バーベラはデーツの持つボールを一瞬で掴んで観察してすぐに戻した。
「成る程、皮の照り方から見るに材料はベルビーストの胃袋を加工したもの。
重さと音から中身は羊毛とカルメン草が詰められている。
しかも、加工が丁寧でアストリアの豪速球にも耐えた。いやーいい仕事してますねー」
一方マァチは、紙とペンを店主に渡そうとするも受け取ってもらえず、舌打ちをしていた。
「これがいくらにせよ、結構な値段なのは確かだよ」
「どうもバーベラ。
君達は幸運だね。お父さんにいい物を買ってもらえるぐらい愛されているようだ。
もしくは相当羽振りがいいのかなこの店」
デーツは兄の方にボールを投げ渡した。
その時、ラッパの音が鳴り響いて、馬に乗った兵士達と冠を被った王が城の方からやってきたのだ。そして彼らを見た民衆はみな頭を下げ始める。
「ようやくトカルリナ王のお出ましか」
「お前達か。不埒な行為を働いては、余のせいにして周っている者どもは。あとトカリルナ王である」
「どうもー不埒ってまーす。でも実際にお前のせいだぞ?
何せ我々ムテ騎士団に対して兵を送り込むという戦争行為を働いたのだからな」
「お前ら本当にムテ騎士団なのか? ついこの間兵を送ったばかりなのに」
「それについてはこいつが証言する」
デーツが親指でタナカを指し、彼はおずおずと王様の前に出た。
「確かお前は、うちで雇った傭兵。これはどういうことなのだ」
「申し訳ありませんトカリルナ王。私も兵団も返り討ちに遭いました。
兵団は引き上げ、私は捕虜となり、こいつらと一緒にヘリで数時間のうちにここに来ました」
「ヘリ?」
「そう、ヘリ」
釈然としない顔の王様。まあこんな話をすんなり受け入れているようであれば、人として何か欠落しているに違いない。
だが、タナカが嘘をついてるとも思えないぐらい可哀想な顔をしていたため、信じはしないものの、一旦置いておくことにした。
「とにかく、お前達が何者だろうが報復であろうが関係はない。
民を苦しめたとして、全員牢屋に閉じ込めてやる。衛兵よこやつらを」
王が衛兵に命令を出す前に、ムテ騎士団は既に彼らを戦闘不能にさせていた。ある者は高速で拘束され、ある者はケツを燃やされ、ある者は地面に顔がめり込んでいた。
「これは我らなりの戦争だぞ。戦争となれば民の犠牲も出る。それがわからないなら戦争なんてするもんじゃない」
デーツがムテの剣を王に向けた。王はびびって馬で後退しようとするも、既に三人の団員が包囲している。
その時タナカは気づいた。ローナの姿がないことに。
「まあ命まで取らぬ。だが少し気になることがあってな。
みんなお辞儀で頭下げてる中、なぜあの薬屋は下げていない?」
タナカが薬屋一家に目をやったが、デーツの言う通り、確かに頭を下げていない。
「それに薬屋を訪ねたらすぐに王様直々にやってきてくれたが、これは偶然か? それとも仲がいいのかな?」
デーツの言葉に王も薬屋の店主もたじろぎ始めた。
その時、店の奥からローナが顔を出した。店主も息子達もいつの間にという表情で彼女を見た。
「団長、こんなの見つけたよー」
彼女の手には、葉っぱが一枚握られている。
「こんなのがいーっぱい、店の地下に植えられてたの」
店主はローナ掴もうとするが、すり抜けてしまう。
「ごめんねー幽霊だから触れないの。まあ私は念力で触り放題だけど」
よく見ると、ローナは手に葉っぱを持っているのではなく、手の中で葉っぱを宙で浮かせているだけであった。
ローナはそのままデーツの元まで飛んで葉っぱを渡す。
「ふむふむ」
「僕がまた見てあげようか」
「いや、高速の一隻眼がなくても鑑定できる。こいつはマダラ麻。またの名を恍惚の入口。
こいつを精製した薬を服用した者は、多大な快楽を味わえるが、効果が切れたらたちまち廃人と化す厄介な代物。
故にレイド連合の属国と、その他の六十の国で使用と所持が禁止されている。
おかげで裏社会じゃ一つ10万ゴルドで取引される高級品でもある。だよな王様」
デーツは王様の方を向くが、当人は顔を逸らした。
「余はそんなもの知らぬ」
「そうか。なら全部没収しても構わんな」
デーツが指パッチンすると、店へと団員達が押し寄せようとする。
「ま、待て! マダラ麻の栽培は余の国では禁じられていないぞ」
「我らは法の取り締まりに来たわけじゃない。
ただ、報復ついでにこんな田舎の国が我らに楯突けると思い上がる程の資金源はどこかと探りに来たまでの事。
まあお前とこの店は無関係らしいがな。なあ、旦那。そこをどいてくれないか」
「こ、断る」
店主の声は震えていた。
「子供達が大事なら、必要な選択肢が何かわかるであろう。
それにあんた、本当はもっと若いはずだ。だが老け込んでいるのは、マダラ麻を栽培してるうちに毒素に蝕まれてしまったからなんじゃないか?」
それでも店主はその場を動かず、ただ押し黙るだけだった。
痺れを切らしたデーツが指パッチンをすると、ローナが店主の体に入り込んだ。
「じゃあ、後はローナちゃんに任せて」
店主を乗っ取ったローナが子供達の手を引き、店から離れていく。子供達は今何が起こっているのかわからず、不安気に父の手を握るだけであった。
「じゃあ突撃せよムテ騎士団」
デーツの指パッチンで、バーベラ、マァチ、アストリアが店の奥へと入っていく。
バーベラは高速で往復してマダラ麻の鉢植えを表に投げ捨て、アストリアはバカ力を使って鉢植えを大量に抱えて投げ捨て、マァチは特に魔法など使わず手でせっせと運んだ。
「団長、これで全部だ」
バーベラが最後の鉢を投げ捨てた。
「よし、じゃあ店主に楽しい瞬間を見せてやるか」
デーツの指パッチンでローナが店主の体から離れる。
「一体何が起こって……あ!俺の財産が!」
「悪いが差し押さえだ」
デーツの指パッチンでマァチが杖を振るうと、空中に小さい穴が開き、鉢植えを全て吸い込んでしまった。
「これぞマァチ流魔法バキュームゴックン」
足元から崩れ落ちる店主。そして王は怒りの表情で声を荒げる。
「貴様ら! ぜ、善良な市民の大事な商品を奪うとは! 悪党共め! この国ではマダラ麻は合法なのだ!」
「ああ、この国ではな」
店の中からドタバタと騒がしい音が鳴り、アストリアが大きめの本を持って外に出てきた。
「あったぞ団長!!!!」
大きな声に一同耳を塞ぐ。
「なんかいっぱい掘ったら出てきたぞ! 団長の言っていた名前がいっぱい書いてある本だ!!!!」
アストリアは先程の豪速球と同じ勢いで本を投げたが、デーツはまたしても片手で受け止め、本をパラパラとめくり始めた。
店主も王も、顔が死んだように青ざめている。
「ほうほう、各地の名のある貴族の名前が揃っているな。おっと、こりゃ教会の人間もいるじゃないか。
そして気になるのが横につけてある数字、ウン百万という値が並んでるぞ」
嬉々しく読み上げるデーツにタナカは質問する。
「その本、まさか帳簿か?」
「さあ? でも、どこもマダラ麻の取引が禁じられている国の者ばかり。
まさかまさか、そこに売って、軍資金を集めてるなんてことー……あるわけないよなー?」
デーツは、人を地獄の業火で焼いて喜ぶ悪魔のように、ニタニタと笑顔を浮かべて王と店主を見る。
「この本はお宝としていただいていく。いいな?
じゃあ今日はこの辺にしておくか。ムテ騎士団よ、帰るぞ」
トカリルナを去ろうとするムテ騎士団に、王は何か言ってやろうと拳を握るも、震えるばかりでただ見つめるだけだった。そんな王の気配を感じたのかデーツは振り返った。
「今日はこの辺にしておくと言ったのだ。もし今度、何かしようものなら、その時はまた……」
「お邪魔しまーす!!!!!!」
アストリアの声が、王に、そして怯える民衆の耳に響く。
「なあ、もしかしてあんたらは、迷惑かけるフリして麻薬の供給源を断ちたかったんじゃ」
夕日を背にして、再び帰りの足を進めるムテ騎士団にタナカが質問した。
「なんのことやら。我らは他所の家に勝手に上がり込んでタンスや宝箱を物色しただけに過ぎない」
デーツがそんな言葉を口にする中、ムテ騎士団が歩く先には一人もいなかった。みな家の中でじっとするばかり。
この国の人間にムテ騎士団の恐ろしさ、いや、いやらしさが身に染みたのであろう。
しかし、臆せずムテ騎士団に向かっていく者が二人いた。店主の息子達だ。
「このやろう! このやろう!」
2人は小石を投げる。しかし、その多くは四方に飛んで当たらず、そして当たっても痛くも痒くもない。
なおタナカは目に当たったので滅茶苦茶痛がっている。
「お父さんをいじめるな!」
マァチがお灸を据えてやろうと杖を構えるも、デーツはやめておけと言わんばかりに手で杖を抑えた。そして二人に近づきしゃがんだ。
「うわあ! 脂肪お化け!」
弟の方は逃げようとするも、兄が手を掴みそれを許さない。
「お父さんを泣かせた奴らから逃げるな! あいつらから本を取り返すんだ!」
そういう兄の方も声と足は震えている。
「安静しろ、もう脱ぎはしない。それよりあの本を返して欲しいのか?」
「うん……なんの本か知らないけど、でもお父さんが大事にしてるものなんだぞ」
「そうかそうか。お前たちはお父さんのことが好きか?」
二人はゆっくりと頷く。
「そうか。なら、その気持ちをこれからも大事にするのだぞ。例え何が起きようとも」
デーツは優しい笑みを浮かべて、二人の頭を撫でた。
彼女のことを悪魔だと思っていたタナカだが、その光景により、慈愛に満ちた母親のような暖かさを彼女から感じていた。
「バーベラ、例の本を」
「だけどこれは」
「いいから渡すんだ」
「わかったよ」
バーベラがデーツに渋々本を渡し、デーツはその本を兄弟達に渡した。
「大事な宝物だから大事にするのだぞ」
兄弟達は本を受け取ると、そそくさと家へ走って行った。
「今度こそ帰れるな」
「よかったのか? 渡してしまって」
再度デーツに質問するタナカだが、その問いにバーベラが答えた。
「よくないよ。大事な大事な僕のエロ本!」
「エ?」
よくよく見ると、帳簿の方はアストリアが脇に抱えていた。
「いいだろ、どうせ変なシミがあるぞあんなもん」
「でもあの手の本は戦時中にバカが焚書で燃やしたもんだから、今じゃ本当に宝物なんだよ!」
咽び泣くバーベラ。そう、さっき渡したのは最初にお邪魔した老人宅にあったエロ本である。
嬉しそうにエロ本を掲げて父親の元に駆け寄っていく兄弟達を見て、タナカは一瞬でもムテ騎士団が、実はいい奴らなのではないかと思ったことを大いに後悔した。
そしてこいつらの元で生活しなきゃなんないのかと思うと、死にたくなるのであった。
次回へつづく。
「私の店には一歩も入れん!」
「ケチ!」
「ハゲ!」
「骨粗鬆症!」
頑として入口を守る店主。ケチはともかく、頭髪が薄くてヨボヨボなのはご愛嬌。
ちなみにアストリアとローナは飽きたのか、この店の二人の子供とボールで遊んでいる。
子供達は5、6歳ぐらいの兄弟で、店主の見た目から一瞬孫かと思えるぐらいの年齢であった。
「そっちがその気ならこっちにも手がある。アストリア、その子達を抑えとけ。
あ、もちろん優しくだぞ、お前じゃ骨を折りかねん」
「わかった!!!!」
アストリアはしゃがんだ状態で、挟み込むように二人の兄弟の肩をそっと両手で押さえた。
そっとのはずだが、それでも子供達が抜け出せない程にはがっちりと抑えている。
「うちの子に何する気だ!」
「ちょっと大人の階段を登ってもらうだけだ。
さあ、子供達よ。おばさんがいいものを見せてやろうぞ」
「なーにー?」
「どんなのー?」
「こんなのだ」
あどけない笑顔で興味津々に期待する子供達。
そんな無垢な子供の前で、デーツはマントを翻して例のビキニアーマーを着た肉ダルマの姿を晒した。
「ほーら、その目に刻め子供達よ」
「ぎゃああ! 脂肪のお化けだああ!」
「助けてお父さん!!!」
「やめろこの野郎!」
あまりの残酷な行為にタナカはデーツを殴った。
「いったー。まあ自分で言うのもなんだが、お前のやったことは正しいので、この件は不問とする」
「暴行が不問になるぐらいの事だと自覚あるなら最初からするな!」
「はいはい」
デーツは再びマントで体を覆うと、未だ店の前から動かない店主を見た。
「自分の子のピンチに動かぬとはな」
「ピンチはピンチだが、あまりのことに頭が混乱したんだ! さあ、お前達早く家に」
二人の子供は急いで父親の元に駆け寄り、その足にしがみついた。
「なあ!これ忘れてるぞ!!」
アストリアがさっきまで遊んでいたボールを指す。
「アストリア、我にそれをくれぬか」
「わかった!!!!」
アストリアが豪速球でボールを投げるも、デーツはノールックでキャッチする。
「バーベラ、これをどう思う?」
バーベラはデーツの持つボールを一瞬で掴んで観察してすぐに戻した。
「成る程、皮の照り方から見るに材料はベルビーストの胃袋を加工したもの。
重さと音から中身は羊毛とカルメン草が詰められている。
しかも、加工が丁寧でアストリアの豪速球にも耐えた。いやーいい仕事してますねー」
一方マァチは、紙とペンを店主に渡そうとするも受け取ってもらえず、舌打ちをしていた。
「これがいくらにせよ、結構な値段なのは確かだよ」
「どうもバーベラ。
君達は幸運だね。お父さんにいい物を買ってもらえるぐらい愛されているようだ。
もしくは相当羽振りがいいのかなこの店」
デーツは兄の方にボールを投げ渡した。
その時、ラッパの音が鳴り響いて、馬に乗った兵士達と冠を被った王が城の方からやってきたのだ。そして彼らを見た民衆はみな頭を下げ始める。
「ようやくトカルリナ王のお出ましか」
「お前達か。不埒な行為を働いては、余のせいにして周っている者どもは。あとトカリルナ王である」
「どうもー不埒ってまーす。でも実際にお前のせいだぞ?
何せ我々ムテ騎士団に対して兵を送り込むという戦争行為を働いたのだからな」
「お前ら本当にムテ騎士団なのか? ついこの間兵を送ったばかりなのに」
「それについてはこいつが証言する」
デーツが親指でタナカを指し、彼はおずおずと王様の前に出た。
「確かお前は、うちで雇った傭兵。これはどういうことなのだ」
「申し訳ありませんトカリルナ王。私も兵団も返り討ちに遭いました。
兵団は引き上げ、私は捕虜となり、こいつらと一緒にヘリで数時間のうちにここに来ました」
「ヘリ?」
「そう、ヘリ」
釈然としない顔の王様。まあこんな話をすんなり受け入れているようであれば、人として何か欠落しているに違いない。
だが、タナカが嘘をついてるとも思えないぐらい可哀想な顔をしていたため、信じはしないものの、一旦置いておくことにした。
「とにかく、お前達が何者だろうが報復であろうが関係はない。
民を苦しめたとして、全員牢屋に閉じ込めてやる。衛兵よこやつらを」
王が衛兵に命令を出す前に、ムテ騎士団は既に彼らを戦闘不能にさせていた。ある者は高速で拘束され、ある者はケツを燃やされ、ある者は地面に顔がめり込んでいた。
「これは我らなりの戦争だぞ。戦争となれば民の犠牲も出る。それがわからないなら戦争なんてするもんじゃない」
デーツがムテの剣を王に向けた。王はびびって馬で後退しようとするも、既に三人の団員が包囲している。
その時タナカは気づいた。ローナの姿がないことに。
「まあ命まで取らぬ。だが少し気になることがあってな。
みんなお辞儀で頭下げてる中、なぜあの薬屋は下げていない?」
タナカが薬屋一家に目をやったが、デーツの言う通り、確かに頭を下げていない。
「それに薬屋を訪ねたらすぐに王様直々にやってきてくれたが、これは偶然か? それとも仲がいいのかな?」
デーツの言葉に王も薬屋の店主もたじろぎ始めた。
その時、店の奥からローナが顔を出した。店主も息子達もいつの間にという表情で彼女を見た。
「団長、こんなの見つけたよー」
彼女の手には、葉っぱが一枚握られている。
「こんなのがいーっぱい、店の地下に植えられてたの」
店主はローナ掴もうとするが、すり抜けてしまう。
「ごめんねー幽霊だから触れないの。まあ私は念力で触り放題だけど」
よく見ると、ローナは手に葉っぱを持っているのではなく、手の中で葉っぱを宙で浮かせているだけであった。
ローナはそのままデーツの元まで飛んで葉っぱを渡す。
「ふむふむ」
「僕がまた見てあげようか」
「いや、高速の一隻眼がなくても鑑定できる。こいつはマダラ麻。またの名を恍惚の入口。
こいつを精製した薬を服用した者は、多大な快楽を味わえるが、効果が切れたらたちまち廃人と化す厄介な代物。
故にレイド連合の属国と、その他の六十の国で使用と所持が禁止されている。
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デーツは王様の方を向くが、当人は顔を逸らした。
「余はそんなもの知らぬ」
「そうか。なら全部没収しても構わんな」
デーツが指パッチンすると、店へと団員達が押し寄せようとする。
「ま、待て! マダラ麻の栽培は余の国では禁じられていないぞ」
「我らは法の取り締まりに来たわけじゃない。
ただ、報復ついでにこんな田舎の国が我らに楯突けると思い上がる程の資金源はどこかと探りに来たまでの事。
まあお前とこの店は無関係らしいがな。なあ、旦那。そこをどいてくれないか」
「こ、断る」
店主の声は震えていた。
「子供達が大事なら、必要な選択肢が何かわかるであろう。
それにあんた、本当はもっと若いはずだ。だが老け込んでいるのは、マダラ麻を栽培してるうちに毒素に蝕まれてしまったからなんじゃないか?」
それでも店主はその場を動かず、ただ押し黙るだけだった。
痺れを切らしたデーツが指パッチンをすると、ローナが店主の体に入り込んだ。
「じゃあ、後はローナちゃんに任せて」
店主を乗っ取ったローナが子供達の手を引き、店から離れていく。子供達は今何が起こっているのかわからず、不安気に父の手を握るだけであった。
「じゃあ突撃せよムテ騎士団」
デーツの指パッチンで、バーベラ、マァチ、アストリアが店の奥へと入っていく。
バーベラは高速で往復してマダラ麻の鉢植えを表に投げ捨て、アストリアはバカ力を使って鉢植えを大量に抱えて投げ捨て、マァチは特に魔法など使わず手でせっせと運んだ。
「団長、これで全部だ」
バーベラが最後の鉢を投げ捨てた。
「よし、じゃあ店主に楽しい瞬間を見せてやるか」
デーツの指パッチンでローナが店主の体から離れる。
「一体何が起こって……あ!俺の財産が!」
「悪いが差し押さえだ」
デーツの指パッチンでマァチが杖を振るうと、空中に小さい穴が開き、鉢植えを全て吸い込んでしまった。
「これぞマァチ流魔法バキュームゴックン」
足元から崩れ落ちる店主。そして王は怒りの表情で声を荒げる。
「貴様ら! ぜ、善良な市民の大事な商品を奪うとは! 悪党共め! この国ではマダラ麻は合法なのだ!」
「ああ、この国ではな」
店の中からドタバタと騒がしい音が鳴り、アストリアが大きめの本を持って外に出てきた。
「あったぞ団長!!!!」
大きな声に一同耳を塞ぐ。
「なんかいっぱい掘ったら出てきたぞ! 団長の言っていた名前がいっぱい書いてある本だ!!!!」
アストリアは先程の豪速球と同じ勢いで本を投げたが、デーツはまたしても片手で受け止め、本をパラパラとめくり始めた。
店主も王も、顔が死んだように青ざめている。
「ほうほう、各地の名のある貴族の名前が揃っているな。おっと、こりゃ教会の人間もいるじゃないか。
そして気になるのが横につけてある数字、ウン百万という値が並んでるぞ」
嬉々しく読み上げるデーツにタナカは質問する。
「その本、まさか帳簿か?」
「さあ? でも、どこもマダラ麻の取引が禁じられている国の者ばかり。
まさかまさか、そこに売って、軍資金を集めてるなんてことー……あるわけないよなー?」
デーツは、人を地獄の業火で焼いて喜ぶ悪魔のように、ニタニタと笑顔を浮かべて王と店主を見る。
「この本はお宝としていただいていく。いいな?
じゃあ今日はこの辺にしておくか。ムテ騎士団よ、帰るぞ」
トカリルナを去ろうとするムテ騎士団に、王は何か言ってやろうと拳を握るも、震えるばかりでただ見つめるだけだった。そんな王の気配を感じたのかデーツは振り返った。
「今日はこの辺にしておくと言ったのだ。もし今度、何かしようものなら、その時はまた……」
「お邪魔しまーす!!!!!!」
アストリアの声が、王に、そして怯える民衆の耳に響く。
「なあ、もしかしてあんたらは、迷惑かけるフリして麻薬の供給源を断ちたかったんじゃ」
夕日を背にして、再び帰りの足を進めるムテ騎士団にタナカが質問した。
「なんのことやら。我らは他所の家に勝手に上がり込んでタンスや宝箱を物色しただけに過ぎない」
デーツがそんな言葉を口にする中、ムテ騎士団が歩く先には一人もいなかった。みな家の中でじっとするばかり。
この国の人間にムテ騎士団の恐ろしさ、いや、いやらしさが身に染みたのであろう。
しかし、臆せずムテ騎士団に向かっていく者が二人いた。店主の息子達だ。
「このやろう! このやろう!」
2人は小石を投げる。しかし、その多くは四方に飛んで当たらず、そして当たっても痛くも痒くもない。
なおタナカは目に当たったので滅茶苦茶痛がっている。
「お父さんをいじめるな!」
マァチがお灸を据えてやろうと杖を構えるも、デーツはやめておけと言わんばかりに手で杖を抑えた。そして二人に近づきしゃがんだ。
「うわあ! 脂肪お化け!」
弟の方は逃げようとするも、兄が手を掴みそれを許さない。
「お父さんを泣かせた奴らから逃げるな! あいつらから本を取り返すんだ!」
そういう兄の方も声と足は震えている。
「安静しろ、もう脱ぎはしない。それよりあの本を返して欲しいのか?」
「うん……なんの本か知らないけど、でもお父さんが大事にしてるものなんだぞ」
「そうかそうか。お前たちはお父さんのことが好きか?」
二人はゆっくりと頷く。
「そうか。なら、その気持ちをこれからも大事にするのだぞ。例え何が起きようとも」
デーツは優しい笑みを浮かべて、二人の頭を撫でた。
彼女のことを悪魔だと思っていたタナカだが、その光景により、慈愛に満ちた母親のような暖かさを彼女から感じていた。
「バーベラ、例の本を」
「だけどこれは」
「いいから渡すんだ」
「わかったよ」
バーベラがデーツに渋々本を渡し、デーツはその本を兄弟達に渡した。
「大事な宝物だから大事にするのだぞ」
兄弟達は本を受け取ると、そそくさと家へ走って行った。
「今度こそ帰れるな」
「よかったのか? 渡してしまって」
再度デーツに質問するタナカだが、その問いにバーベラが答えた。
「よくないよ。大事な大事な僕のエロ本!」
「エ?」
よくよく見ると、帳簿の方はアストリアが脇に抱えていた。
「いいだろ、どうせ変なシミがあるぞあんなもん」
「でもあの手の本は戦時中にバカが焚書で燃やしたもんだから、今じゃ本当に宝物なんだよ!」
咽び泣くバーベラ。そう、さっき渡したのは最初にお邪魔した老人宅にあったエロ本である。
嬉しそうにエロ本を掲げて父親の元に駆け寄っていく兄弟達を見て、タナカは一瞬でもムテ騎士団が、実はいい奴らなのではないかと思ったことを大いに後悔した。
そしてこいつらの元で生活しなきゃなんないのかと思うと、死にたくなるのであった。
次回へつづく。
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