峻烈のムテ騎士団

いらいあす

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第二話 突撃せよムテ騎士団 その2「他所の家に勝手に上がり込んでタンスや宝箱を物色」

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トカリルナの城下町は小さいながらも活気で溢れていて、みな仕事や家事や遊びや食事を楽しんでいた。
そんな中デーツは深呼吸して叫んだ。

「どうもトカルリナのみなさーん! 我々はムテ騎士団でーす!」

みんな一斉にムテ騎士団の方を見たが、すぐに目を逸らし、自分たちの人生に戻っていった。

「あんたらは無視騎士団ですかそうですか。まあよい、すぐに我々のことがわかるようになるさ。
みんな、何処か行きたい場所あるか?」
「はーい!!!!」
「よしアストリア、何処がいい?」
「私あそこ行く! あそこ最初に目に映ったから行く!」

アストリアは一つの民家を指した。

「じゃあ行くか」
「いや、待てよ。あれただの家じゃないか?」

これに待ったをかけたタナカ。

「だから?」

それでも待たずに民家に入っていくムテ騎士団。残るわけにもいかないので、タナカも後を追う。

「お邪魔しまーす!!!」

アストリアの声に家主の年老いた男がなにごとかと飛び出して来た。

「あ、あのどちら様で?」
「ムテ騎士団です!!!」

そしてお構いなしに奥へと進んでいく。

「なんなんです!? なに勝手に入ってんですか!」
「お邪魔しますって言ったろ!!!」
「本当に邪魔しにくる奴があるか!」

お邪魔しているムテ騎士団は、それぞれ戸棚や金庫代わりの宝箱などを勝手に開けている。

「いいのあったか?」
「特にない」
「じじいのももひきが大量に出てきたけどいる?」
「いらなーい!!!!!」

タナカも老人もそのあまり傍若無人の態度に開いた口が塞がらない。
そして高速で家中を駆け回っていたバーベラが動きを止めた。

「いいのがあったよ。だいたい10年近く前のエロ本!」

かなり興奮気味のバーベラがデーツに詰め寄る。ちなみにここでいうエロ本とは、18禁な挿絵付きの文集のことである。

「えー、いるかこれ?」
「僕は欲しい」
「では、勝手にしろ」
「やったー!」

ムテ騎士団はエロ本を手に入れた。

「さて、ここにもう用はないから次行くか」
「おい! ワシの本返せ! ていうかなんなんだお前ら!」
「ムテ騎士団です!!!!」
「恨むなら王様を恨め。あいつが我らに喧嘩をふっかけてきたから、これはそのお返しだ」

そう言い残して彼女達は家を出ていった。
タナカも後を追うが、怨み増し増しの老人の目に心が苦しかった。

「なあ、あんたらの言う仕事ぶりって、他所の家に勝手に上がり込んでタンスや宝箱を物色することか!?」
「他所の家に勝手に上がり込んでタンスや宝箱を物色する以外のことをしてるように見えてたか?」
「最低だこいつら」

タナカにそう言われて全員が頬を赤らめて、頭をかいた。

「なんで照れる!?」
「それより腹が空いたな。どこかで飯を食うか」

目の前にはちょうど人々で賑わう大きな食堂があった……が、そこには目も暮れず、ムテ騎士団は通り過ぎてしまった。

「この家、小金持ちっぽさそうだからここにするか。いい匂いもするし」
「おいまさか!」

そのまさかである。ムテ騎士団はこの小金持ちっぽさそうな民家へと入っていく。

「お邪魔しまーす!!!!!」

またしてもアストリアの声に家主が飛び出してくる。今度は小さな子を抱えた主婦だ。

「あ、あの何か用ですか?」
「突撃!隣の昼ご飯! どうもーマチ助ですーというわけで奥さん、お昼いただいきますね」
「ええ!?」

いつの間にか大きなしゃもじを抱えていたマァチ、もといマチ助を筆頭にみんな食卓へと上がり込んだ。
テーブルに並べられていたのは豆のスープと、一口大のパンキレだけだった。そしてそれを見たマチ助の一言はこれだ。

「うわー思ったよりも貧乏くさいですねー」
「いいでしょお昼なんてこんなもんで!」

ケチはつけながらもムテ騎士団全員で、鍋のスープにスプーンをつっこんで勝手に飲んでいる。

「見た目通り」
「超薄味だね」
「これなら水の方が美味しい」
「幽霊目線で言わせてもらうと味が死んでる」
「うるさいわね、うちの子は薄味が好きなの」

抱えられてる子は首を横に振っていた。
みんなが不評する中、アストリアだけは違い、鍋を抱えて一気に飲み干した。

「私は好きだぞこれ!!!!」
「あ、ありがとう。いやありがとうでもないわこれ」
「というわけでご馳走様でした!!!! 恨むなら王様を恨め!!!!」

またしても傍若無人に振る舞って出て行くムテ騎士団。そして被害者の視線を受けるのは最後に出て行くタナカである。

「よし、じゃあ次行ってみよー」

次の家は壺の収集家の家だった。入るや否やバーベラは早速大きめの壺を手に取った。

「ちょっと何やってるの!」
「我々は鑑定団です。どうぞ、この壺の査定がいくらか予想してみて」

マァチが家主に紙とインクをつけた羽ペンを渡す。査定してくれることに気を許したのか、家主は言われるがままに本人評価額を書いて上に掲げた。

「じゃあ購入した時の100万ゴルドに上乗せして150万ゴルドで」
「では、バーベラさん結果は」

バーベラが高速で紙に査定額を上書きする。

「じゃかじゃん!2ゴルド!」
「ええー!?」
「いやークッッッッッソみたいな仕事してますねー。
これは一見サイレン期に流行したマデルネ様式の壺に見えますが、全くの贋作。
こんなの飾ってるだけで末代までの恥です。まあ割ってストレス解消するか、痰壺にでも利用してください」

落胆する家主は涙を流しながら、壺を放り投げて割った。最もバーベラに鑑定士の資格があるのかは不明だが。
次は小心者の家主が住む家。どのぐらい小心者かというと。

「僕は昼間のトイレも何か出るんじゃないかと怖くて仕方ないんだ。
もし急に何か出てきたら心臓でも止まっちゃうんじゃないかな。
こうやって独り言を呟くのも怖さを紛らわせるためさ。ああ怖い怖い」

だそうです。そんな彼がトイレの戸を開けると壁から首だけを飛び出させたローナが待っていた。

「トイレのローナちゃんだぞー」
「わあああああ!!?」

白目剥いて泡吹いてぶっ倒れる家主。デーツはすかさず脈を確認する。

「あー、生きてる生きてる。セーフ」
「アウトだと思う」

タナカは下半身がびしょ濡れになってしまった家主を見てそう言った。
こうして全ての家々を周った後は商店へと目を向けた。
武器屋の全ての武器に半額シールを貼って売り場をお買い物上手な主婦達の戦場へと変え、食堂の目の前で鰻の蒲焼を焼いて激安で販売、宿屋では何故か全てのベッドを回転するように改造。
こうしてありとあらゆる迷惑行為を行い、そして全ての場所で「恨むなら王様を恨め」と言い残していった。
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