峻烈のムテ騎士団

いらいあす

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第五話 転売に明日はない その1「大した額じゃない」

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早朝、タナカは大きな音と共に目覚めた。

「な、なんだ!?」

起き上がり周囲を見渡すと、自分の向かいの牢屋にムテ騎士団の一同が集まっているのが見えた。

「何やってんだお前ら」

ムテ騎士団はちらりと一瞬タナカの方に目をやるがすぐに無視した。

「無視すんな」
「いやーだってさ。お前に話すべきかどうか」

デーツは頭をかいてからしばらく考える。

「いや、でも大したことじゃないしいいだろう」
「で、なんなんだ?」
「この下に全財産詰まった金庫があるんだ」
「大したこと中の大したことだよ! 聞いた俺が言うのもなんだけどさ!」

寝起きのタナカでも思わず叫ぶ。

「え?! 全財産!? そんなもんの隣で寝たの俺!?」
「まあまあ、そんなとこで叫ぶより近くに来て喋れ。鍵は開いてんだ」

タナカが牢の扉を押すと、確かに鍵がかかっていなかった。

「いつの間に?」
「昨日からずっとだ。もういちいち閉めるの面倒くさくてな」
「じゃあ金庫が眠る隣で、出入り自由な囚人が眠ってたのか。へぇー。バカじゃねーのお前ら」
「「いえーす」」

ムテ騎士団全員で親指立ててそう宣言した。

「はあ・・・・・・」
「でもここ大した額は入ってないよ?」

ローナがそう言うので、タナカは少しだけ安心した。部屋いっぱいの金貨や紙幣や宝石などが沢山積まれている場所を平然と部外者に教える奴らがいるという事実など、到底受け入れられるものではなかったからだ。

「そうだよな。流石に大金じゃないから余裕なんだよな」
「とりあえず覗いて見るといいよ」

バーベラが床に開けられた穴を指す。どうやら大きな音の正体は、ここに蓋をしていた扉を開けた時の音のようだ。
そしてそこには梯子がかけられており、下りると金貨や紙幣や宝石などが沢山積まれている場所があった。

「大した額中の大した額だよ!」

そこは階全体が大きな金庫になっており、タナカのツッコミの声が遠くまで響いていた。
そしてどの場所も柱のように金貨や紙幣が積まれ、宝石は子供が散らかしたおもちゃのように雑に置かれている。

「一体いくらあるんだよ」
「さあ? 1億ゴルドを超えたあたりから数えるのやめた。
それにゴルド以外のお金もあるから単純に合算できない」

そう話すマァチを筆頭に、一同が降りてくる。

「億!?」
「それに今じゃ使われなくなったお金もあるし。ほら」

バーベラは部屋の遠くへ一瞬で行って戻って、一枚の紙幣を見せた。

「これは連合統一期以前に、カミネムで使われていた紙幣さ。
もちろん通貨がゴルドに変わったせいで、今じゃただの紙屑。
だからゴルドもいつ価値がなくなるかわからないし、これだけ持ってても大した額じゃないってわけさ」
「そうは言っても、今現在の相場が全てでしょうよ」

納得いかないタナカの肩にデーツが手を置く。

「いいか。世の中はお金が全てじゃないぞ」
「こんだけ持ってる奴に言われても・・・・・・・」
「お金で買えないものもある。お金より大事なものを見つけるのが人生。お金の有無が幸せの基準じゃない」
「しかも立て続けに連発で余計に白々しい」

すると何故かデーツが無言で札束を、彼の頬に押し付けてくる。

「なに!? なんだよ! なにがしたいんだよ!?」

すると他の団員も札束を押し付ける。

「やめろ! せめてなんか言えよ! 怖いよ!」
「お金はおっかねえ」

マァチが呟くも、特に誰も触れない。

「さて、戯れはこれぐらいにしてそろそろ行くぞ」

持っていた札束を手に、デーツが地下を出て行く。そしてそれを追って団員達も。

「行くってどこに?」
「買い物に決まってるだろ!!!!」

アストリアの大声が地下室に響く。その声に積み上げていたお金が崩れそうになる。

「しー、アスティ。金庫で大声出しちゃダメだって言ってるでしょ」
「ごめーんローナ!!!」

ローナはこれ以上の被害を出すまいと、アストリアの口にお札を貼り付けて黙らせる。

「タナカ君も一緒に行くよ。荷物持ってもらわないと」
「はいはい」

タナカは呆れながらも一緒に外に出て、タイガーマーク2号に乗り込んだ。時刻はまだ夜明け前。

「それで団長。どこ行くー?」

タイガーマーク2号と一体化したローナが質問する。

「そうだな。さっき話題に出たしカミネム地方でいいんじゃないか?
今から行けば、ちょうど朝市の時間に間に合うだろうし」
「カミネムならテラノの港がいい。あそこは今、旬のものが目白押しだから」

マァチが挙手して言う。

「はいはーい。カミネム地方のテラノの港ねー。略してカミテラ」

なぜか行き先を略したローナは、そのカミテラへ向けて発進する。
タナカは普段より早い時間に起こされたせいか、機内の中で二度寝し、そしてたどり着いた時に目が覚めた。

「もう着いたのか?」
「着いたっちゃ着いたけど、また移動しないといけないんだ」

ローナはタイガーマーク2号の憑依を解除してタナカの前に現れる。

「さあ早く早く」
「はいはい」

タナカ以外は既に外に出ており、彼が出たと同時にマァチが魔法でタイガーマーク2号を小さくしてリュックにしまう。
そして同時にバギーカーのミニカーを取り出して、それを大きくした。

「タイガーマーク1号。ここからはこれで移動する」
「これが1号なのか。てか、なんで乗り換えの必要が」
「2号は一旦広い場所を見つけて着陸しないといけないから。
で、ここから港までは距離あるから1号で移動する」

マァチは運転席に乗りながら説明をする。そして他の団員が乗り込んだ時にタナカはあることに気づく。

「これって4人乗りじゃね?」

この場にいるのは6名。もちろんローナは憑依するので問題ないが、タナカの席はない。

「後ろの席を詰めれば乗れると思うが」

マァチの隣に座るデーツがそう提案するも、バーベラは嫌な顔をする。

「つまり男と密着しろと? 僕はやだよ」
「ていうか、お前ならこれに乗らなくても走った方が早くね?」
「僕達は効率主義じゃないんでね。ワイワイと車中を楽し見たいのさ」
「はいはい。じゃあ我が代わってやる」

仕方なしにと、バーベラとデーツが席を代わり、後部座席はアストリア、タナカ、デーツの順に並ぶ。
確かに詰めれば3人座れたが、タナカの体をデーツの贅肉が圧迫しており、かなりキツイ状態となっていた。
アストリアの口を未だにお札が塞いでいるので、彼女が静かにしている事だけが唯一の救いだ。

「ふごふごふごっふごふごごご」

静かにと言っても、普段に比べてという意味なので、別に喋っていないわけじゃない。お札を貼られていることを忘れているのか、アストリアはふごふごと何か言っている。

「いや何言ってるかわからねえから」
「ふんごふごふごごふふふ!ふごふごふー」

まあ、外したところで彼女の言動は普段から何言ってるのかわからないことが多いので、タナカはそのまま放置した。
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