49 / 57
第十一話 吟遊詩人のバラッド その1「吟遊詩人と英雄カモン」
しおりを挟む
吟遊詩人、それは詩曲を歌いながら各地を周る者達のことを言う。
その内容は神話や歴史など多岐にわたり、今、この世界で人気なのは戦争叙事詩である。
それは少し前に起こった、統一戦争時の兵士達の活躍を歌ったものであり、彼らがいかに敵と戦ったのか、また何人を討ち取ったのかを記録した内容となっている。
例えばこんな感じだ。
「今から歌いますことは レイド連合一の大国カパーナの英雄カモンの物語
彼はどんな男よりも勇ましく 剣一つで戦地へ向かい バッサバッサと邪悪な兵士の首を刈り取った その数は千を優に超える
彼はどんな男よりも勇ましく たった一人で敵地に向かい バッサバッサと愚かな民の指を切り落とした その数は万を優に超える」
バンボロと呼ばれる小さな弦楽器を弾きながら、夜の酒場にひょいと現れた吟遊詩人がそんな歌を歌い始める。
その歌に客は盛り上がって拍手喝采。指笛を吹いたり、相槌を打ったり、ついには輪唱をし始める。
「彼はどんな男よりも勇ましく 彼はどんな男よりも勇ましく」
どうしてここまで皆が戦争叙事詩に盛り上がるのか。それは客の大半が、統一戦争の休戦に伴って行き場を失い、飲んだくれている元兵士達だからだ。
彼らは吟遊詩人の歌を聴いて、戦地での高揚感を思い出しながら酒を煽って満足する。
特に英雄カモンは、戦時中に"彼の名を聞かない者は墓の下の者だけだ"と言われるほど、名の知れた兵士であり、当時も今も彼は憧れの的である。
そのためどんなに演奏が下手な吟遊詩人でも、彼の名を出せば瞬く間に人気者となれるので、今では各地でカモンの歌が歌われている。
やがて、演奏が終わって吟遊詩人が頭を下げると同時に、店の窓が割れそうなぐらいに大きな歓声と拍手の音が響く。
「ありがとう。ありがとう。つきましては歌う事しか能のないわたくしめに、その日暮らしできるだけの銭をお恵みください」
そうへりくだっている吟遊詩人に、客のほとんどが金貨を投げる。彼らとてその日暮らしをする者達ではあるが、それでも投げ銭をしたくなる程、気分が高まっていた。
一人一人が投げる金額自体は大した額ではないが、それらを全て合わせるとその日どころか一か月は過ごせそうなぐらいには金が集まる。今や吟遊詩人は儲かる職業の一つである。
「ありがとうございます。ありがとうございます。ではでは、今日はもう一つおまけして他の歌も歌いましょうかね。今度はかの有名な伝説、蠢く影の歌でも」
吟遊詩人が再びバンボロの弦に指をかけようとした時、急に笛の音が聞こえてきた。
どうしたものかと彼が後ろを振り返ると、店の入り口から楽団のように楽器を携えた一団が入ってきた。
「なんだ? 新しい吟遊詩人が来たか?」
「今度は楽団かよ」
「しかも女子供ばっかだな」
楽団は一列に並ぶと、頭を下げて挨拶をする。
「どうもー前衛的バンド ムテ騎士団でーす」
と、代表して語るは団長のデーツ。いつからムテ騎士団が楽団になったのかは不明だが、とにかく今日のムテ騎士団は前衛的バンド ムテ騎士団なのである。
バーベラが高速で弦楽器を引き、マァチは笛を吹き、ローナは念力でハンドベルを鳴らし、アストリアは太鼓を叩き、タナカは特に何もしない。というよりも、いつもながら、ムテ騎士団のやることについて行けてないだけである。
「何やってんだこいつら」
いつものごとく、タナカの疑問を無視してボーカルのデーツが歌い始める。
「今から歌うは みなさんおなじみ英雄カモンの 真実の物語」
思わぬ美声で歌うデーツに、タナカは少しだけ驚く。
「おい、またカモンの話かよ」
「いいじゃねえか。カモンの物語は何度聞いてもいいもんだ」
「でも真実の物語って?」
歌が始まった当初はひそひそと話し合う声が聞こえたが、歌が進むにつれて、品があってなおかつ厳かなデーツの歌声にみな黙って聴き始めた。
「カモン 親の顔も知らずに育った 不幸な生い立ち
カモン 見つけたのは剣の道 それは後戻りできぬ獣の道」
ブルースのような物悲しい曲調に、普段騒いでばかりの吞兵衛達も心打たれたのか、曲の序盤にもかかわらず涙ぐむ。
「ああ カモン お前が目指したその先に何があるのか」
すると、バーベラは弦楽器を高速の手さばきで激しく弾き始め、他の団員もアップテンポかつ激しく演奏し始め、曲調は一気にハードロックの様に変わってしまう。
「え!?」
と、タナカも客も驚くが、基本的に無視する姿勢のデーツはドスの効いた声でハウリングする。
「ファッキンザ カモン! ファッキンザ カモン! この世で一番の糞野郎!
ファッキンザ カモン! ファッキンザ カモン! 世界がお前を恨んでる!」
そして出てくる歌詞もカモンを罵るようなものばかりに。そこに他の団員もサブボーカルで歌い始める。
「殺した人数! 実は千も満たない!」
「そのうち大半! 女、子供、老人ばかり!」
「自慢の剣も本当は盗品! お金がないから万引きしたよ!」
「余裕こいて酒飲んで酔っ払って部隊が全滅!!!!!!」
急なアンチ活動に、これにはカモンファンお怒り。酔いつぶれている爺さんが一人大爆笑してるが、ほとんどの客はみな弁償代のことなど気にせずに食器やグラスを投げつける。
ムテ騎士団はそんなこと気にせずに歌を続けるが、まともな感性を持つタナカは狼狽する。
「おい! これ以上刺激すんなよ!」
基本的に無視する姿勢のデーツはまだまだノリノリだ。
「さあ皆さんご一緒に! ファッキンザ カモン!!!!」
とうとう客の一人が剣を取り出したので、流石に潮時と感じたムテ騎士団は店を後にする。ただし、歌を続けながらだが。
その内容は神話や歴史など多岐にわたり、今、この世界で人気なのは戦争叙事詩である。
それは少し前に起こった、統一戦争時の兵士達の活躍を歌ったものであり、彼らがいかに敵と戦ったのか、また何人を討ち取ったのかを記録した内容となっている。
例えばこんな感じだ。
「今から歌いますことは レイド連合一の大国カパーナの英雄カモンの物語
彼はどんな男よりも勇ましく 剣一つで戦地へ向かい バッサバッサと邪悪な兵士の首を刈り取った その数は千を優に超える
彼はどんな男よりも勇ましく たった一人で敵地に向かい バッサバッサと愚かな民の指を切り落とした その数は万を優に超える」
バンボロと呼ばれる小さな弦楽器を弾きながら、夜の酒場にひょいと現れた吟遊詩人がそんな歌を歌い始める。
その歌に客は盛り上がって拍手喝采。指笛を吹いたり、相槌を打ったり、ついには輪唱をし始める。
「彼はどんな男よりも勇ましく 彼はどんな男よりも勇ましく」
どうしてここまで皆が戦争叙事詩に盛り上がるのか。それは客の大半が、統一戦争の休戦に伴って行き場を失い、飲んだくれている元兵士達だからだ。
彼らは吟遊詩人の歌を聴いて、戦地での高揚感を思い出しながら酒を煽って満足する。
特に英雄カモンは、戦時中に"彼の名を聞かない者は墓の下の者だけだ"と言われるほど、名の知れた兵士であり、当時も今も彼は憧れの的である。
そのためどんなに演奏が下手な吟遊詩人でも、彼の名を出せば瞬く間に人気者となれるので、今では各地でカモンの歌が歌われている。
やがて、演奏が終わって吟遊詩人が頭を下げると同時に、店の窓が割れそうなぐらいに大きな歓声と拍手の音が響く。
「ありがとう。ありがとう。つきましては歌う事しか能のないわたくしめに、その日暮らしできるだけの銭をお恵みください」
そうへりくだっている吟遊詩人に、客のほとんどが金貨を投げる。彼らとてその日暮らしをする者達ではあるが、それでも投げ銭をしたくなる程、気分が高まっていた。
一人一人が投げる金額自体は大した額ではないが、それらを全て合わせるとその日どころか一か月は過ごせそうなぐらいには金が集まる。今や吟遊詩人は儲かる職業の一つである。
「ありがとうございます。ありがとうございます。ではでは、今日はもう一つおまけして他の歌も歌いましょうかね。今度はかの有名な伝説、蠢く影の歌でも」
吟遊詩人が再びバンボロの弦に指をかけようとした時、急に笛の音が聞こえてきた。
どうしたものかと彼が後ろを振り返ると、店の入り口から楽団のように楽器を携えた一団が入ってきた。
「なんだ? 新しい吟遊詩人が来たか?」
「今度は楽団かよ」
「しかも女子供ばっかだな」
楽団は一列に並ぶと、頭を下げて挨拶をする。
「どうもー前衛的バンド ムテ騎士団でーす」
と、代表して語るは団長のデーツ。いつからムテ騎士団が楽団になったのかは不明だが、とにかく今日のムテ騎士団は前衛的バンド ムテ騎士団なのである。
バーベラが高速で弦楽器を引き、マァチは笛を吹き、ローナは念力でハンドベルを鳴らし、アストリアは太鼓を叩き、タナカは特に何もしない。というよりも、いつもながら、ムテ騎士団のやることについて行けてないだけである。
「何やってんだこいつら」
いつものごとく、タナカの疑問を無視してボーカルのデーツが歌い始める。
「今から歌うは みなさんおなじみ英雄カモンの 真実の物語」
思わぬ美声で歌うデーツに、タナカは少しだけ驚く。
「おい、またカモンの話かよ」
「いいじゃねえか。カモンの物語は何度聞いてもいいもんだ」
「でも真実の物語って?」
歌が始まった当初はひそひそと話し合う声が聞こえたが、歌が進むにつれて、品があってなおかつ厳かなデーツの歌声にみな黙って聴き始めた。
「カモン 親の顔も知らずに育った 不幸な生い立ち
カモン 見つけたのは剣の道 それは後戻りできぬ獣の道」
ブルースのような物悲しい曲調に、普段騒いでばかりの吞兵衛達も心打たれたのか、曲の序盤にもかかわらず涙ぐむ。
「ああ カモン お前が目指したその先に何があるのか」
すると、バーベラは弦楽器を高速の手さばきで激しく弾き始め、他の団員もアップテンポかつ激しく演奏し始め、曲調は一気にハードロックの様に変わってしまう。
「え!?」
と、タナカも客も驚くが、基本的に無視する姿勢のデーツはドスの効いた声でハウリングする。
「ファッキンザ カモン! ファッキンザ カモン! この世で一番の糞野郎!
ファッキンザ カモン! ファッキンザ カモン! 世界がお前を恨んでる!」
そして出てくる歌詞もカモンを罵るようなものばかりに。そこに他の団員もサブボーカルで歌い始める。
「殺した人数! 実は千も満たない!」
「そのうち大半! 女、子供、老人ばかり!」
「自慢の剣も本当は盗品! お金がないから万引きしたよ!」
「余裕こいて酒飲んで酔っ払って部隊が全滅!!!!!!」
急なアンチ活動に、これにはカモンファンお怒り。酔いつぶれている爺さんが一人大爆笑してるが、ほとんどの客はみな弁償代のことなど気にせずに食器やグラスを投げつける。
ムテ騎士団はそんなこと気にせずに歌を続けるが、まともな感性を持つタナカは狼狽する。
「おい! これ以上刺激すんなよ!」
基本的に無視する姿勢のデーツはまだまだノリノリだ。
「さあ皆さんご一緒に! ファッキンザ カモン!!!!」
とうとう客の一人が剣を取り出したので、流石に潮時と感じたムテ騎士団は店を後にする。ただし、歌を続けながらだが。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる