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第十一話 吟遊詩人のバラッド その1「吟遊詩人と英雄カモン」
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吟遊詩人、それは詩曲を歌いながら各地を周る者達のことを言う。
その内容は神話や歴史など多岐にわたり、今、この世界で人気なのは戦争叙事詩である。
それは少し前に起こった、統一戦争時の兵士達の活躍を歌ったものであり、彼らがいかに敵と戦ったのか、また何人を討ち取ったのかを記録した内容となっている。
例えばこんな感じだ。
「今から歌いますことは レイド連合一の大国カパーナの英雄カモンの物語
彼はどんな男よりも勇ましく 剣一つで戦地へ向かい バッサバッサと邪悪な兵士の首を刈り取った その数は千を優に超える
彼はどんな男よりも勇ましく たった一人で敵地に向かい バッサバッサと愚かな民の指を切り落とした その数は万を優に超える」
バンボロと呼ばれる小さな弦楽器を弾きながら、夜の酒場にひょいと現れた吟遊詩人がそんな歌を歌い始める。
その歌に客は盛り上がって拍手喝采。指笛を吹いたり、相槌を打ったり、ついには輪唱をし始める。
「彼はどんな男よりも勇ましく 彼はどんな男よりも勇ましく」
どうしてここまで皆が戦争叙事詩に盛り上がるのか。それは客の大半が、統一戦争の休戦に伴って行き場を失い、飲んだくれている元兵士達だからだ。
彼らは吟遊詩人の歌を聴いて、戦地での高揚感を思い出しながら酒を煽って満足する。
特に英雄カモンは、戦時中に"彼の名を聞かない者は墓の下の者だけだ"と言われるほど、名の知れた兵士であり、当時も今も彼は憧れの的である。
そのためどんなに演奏が下手な吟遊詩人でも、彼の名を出せば瞬く間に人気者となれるので、今では各地でカモンの歌が歌われている。
やがて、演奏が終わって吟遊詩人が頭を下げると同時に、店の窓が割れそうなぐらいに大きな歓声と拍手の音が響く。
「ありがとう。ありがとう。つきましては歌う事しか能のないわたくしめに、その日暮らしできるだけの銭をお恵みください」
そうへりくだっている吟遊詩人に、客のほとんどが金貨を投げる。彼らとてその日暮らしをする者達ではあるが、それでも投げ銭をしたくなる程、気分が高まっていた。
一人一人が投げる金額自体は大した額ではないが、それらを全て合わせるとその日どころか一か月は過ごせそうなぐらいには金が集まる。今や吟遊詩人は儲かる職業の一つである。
「ありがとうございます。ありがとうございます。ではでは、今日はもう一つおまけして他の歌も歌いましょうかね。今度はかの有名な伝説、蠢く影の歌でも」
吟遊詩人が再びバンボロの弦に指をかけようとした時、急に笛の音が聞こえてきた。
どうしたものかと彼が後ろを振り返ると、店の入り口から楽団のように楽器を携えた一団が入ってきた。
「なんだ? 新しい吟遊詩人が来たか?」
「今度は楽団かよ」
「しかも女子供ばっかだな」
楽団は一列に並ぶと、頭を下げて挨拶をする。
「どうもー前衛的バンド ムテ騎士団でーす」
と、代表して語るは団長のデーツ。いつからムテ騎士団が楽団になったのかは不明だが、とにかく今日のムテ騎士団は前衛的バンド ムテ騎士団なのである。
バーベラが高速で弦楽器を引き、マァチは笛を吹き、ローナは念力でハンドベルを鳴らし、アストリアは太鼓を叩き、タナカは特に何もしない。というよりも、いつもながら、ムテ騎士団のやることについて行けてないだけである。
「何やってんだこいつら」
いつものごとく、タナカの疑問を無視してボーカルのデーツが歌い始める。
「今から歌うは みなさんおなじみ英雄カモンの 真実の物語」
思わぬ美声で歌うデーツに、タナカは少しだけ驚く。
「おい、またカモンの話かよ」
「いいじゃねえか。カモンの物語は何度聞いてもいいもんだ」
「でも真実の物語って?」
歌が始まった当初はひそひそと話し合う声が聞こえたが、歌が進むにつれて、品があってなおかつ厳かなデーツの歌声にみな黙って聴き始めた。
「カモン 親の顔も知らずに育った 不幸な生い立ち
カモン 見つけたのは剣の道 それは後戻りできぬ獣の道」
ブルースのような物悲しい曲調に、普段騒いでばかりの吞兵衛達も心打たれたのか、曲の序盤にもかかわらず涙ぐむ。
「ああ カモン お前が目指したその先に何があるのか」
すると、バーベラは弦楽器を高速の手さばきで激しく弾き始め、他の団員もアップテンポかつ激しく演奏し始め、曲調は一気にハードロックの様に変わってしまう。
「え!?」
と、タナカも客も驚くが、基本的に無視する姿勢のデーツはドスの効いた声でハウリングする。
「ファッキンザ カモン! ファッキンザ カモン! この世で一番の糞野郎!
ファッキンザ カモン! ファッキンザ カモン! 世界がお前を恨んでる!」
そして出てくる歌詞もカモンを罵るようなものばかりに。そこに他の団員もサブボーカルで歌い始める。
「殺した人数! 実は千も満たない!」
「そのうち大半! 女、子供、老人ばかり!」
「自慢の剣も本当は盗品! お金がないから万引きしたよ!」
「余裕こいて酒飲んで酔っ払って部隊が全滅!!!!!!」
急なアンチ活動に、これにはカモンファンお怒り。酔いつぶれている爺さんが一人大爆笑してるが、ほとんどの客はみな弁償代のことなど気にせずに食器やグラスを投げつける。
ムテ騎士団はそんなこと気にせずに歌を続けるが、まともな感性を持つタナカは狼狽する。
「おい! これ以上刺激すんなよ!」
基本的に無視する姿勢のデーツはまだまだノリノリだ。
「さあ皆さんご一緒に! ファッキンザ カモン!!!!」
とうとう客の一人が剣を取り出したので、流石に潮時と感じたムテ騎士団は店を後にする。ただし、歌を続けながらだが。
その内容は神話や歴史など多岐にわたり、今、この世界で人気なのは戦争叙事詩である。
それは少し前に起こった、統一戦争時の兵士達の活躍を歌ったものであり、彼らがいかに敵と戦ったのか、また何人を討ち取ったのかを記録した内容となっている。
例えばこんな感じだ。
「今から歌いますことは レイド連合一の大国カパーナの英雄カモンの物語
彼はどんな男よりも勇ましく 剣一つで戦地へ向かい バッサバッサと邪悪な兵士の首を刈り取った その数は千を優に超える
彼はどんな男よりも勇ましく たった一人で敵地に向かい バッサバッサと愚かな民の指を切り落とした その数は万を優に超える」
バンボロと呼ばれる小さな弦楽器を弾きながら、夜の酒場にひょいと現れた吟遊詩人がそんな歌を歌い始める。
その歌に客は盛り上がって拍手喝采。指笛を吹いたり、相槌を打ったり、ついには輪唱をし始める。
「彼はどんな男よりも勇ましく 彼はどんな男よりも勇ましく」
どうしてここまで皆が戦争叙事詩に盛り上がるのか。それは客の大半が、統一戦争の休戦に伴って行き場を失い、飲んだくれている元兵士達だからだ。
彼らは吟遊詩人の歌を聴いて、戦地での高揚感を思い出しながら酒を煽って満足する。
特に英雄カモンは、戦時中に"彼の名を聞かない者は墓の下の者だけだ"と言われるほど、名の知れた兵士であり、当時も今も彼は憧れの的である。
そのためどんなに演奏が下手な吟遊詩人でも、彼の名を出せば瞬く間に人気者となれるので、今では各地でカモンの歌が歌われている。
やがて、演奏が終わって吟遊詩人が頭を下げると同時に、店の窓が割れそうなぐらいに大きな歓声と拍手の音が響く。
「ありがとう。ありがとう。つきましては歌う事しか能のないわたくしめに、その日暮らしできるだけの銭をお恵みください」
そうへりくだっている吟遊詩人に、客のほとんどが金貨を投げる。彼らとてその日暮らしをする者達ではあるが、それでも投げ銭をしたくなる程、気分が高まっていた。
一人一人が投げる金額自体は大した額ではないが、それらを全て合わせるとその日どころか一か月は過ごせそうなぐらいには金が集まる。今や吟遊詩人は儲かる職業の一つである。
「ありがとうございます。ありがとうございます。ではでは、今日はもう一つおまけして他の歌も歌いましょうかね。今度はかの有名な伝説、蠢く影の歌でも」
吟遊詩人が再びバンボロの弦に指をかけようとした時、急に笛の音が聞こえてきた。
どうしたものかと彼が後ろを振り返ると、店の入り口から楽団のように楽器を携えた一団が入ってきた。
「なんだ? 新しい吟遊詩人が来たか?」
「今度は楽団かよ」
「しかも女子供ばっかだな」
楽団は一列に並ぶと、頭を下げて挨拶をする。
「どうもー前衛的バンド ムテ騎士団でーす」
と、代表して語るは団長のデーツ。いつからムテ騎士団が楽団になったのかは不明だが、とにかく今日のムテ騎士団は前衛的バンド ムテ騎士団なのである。
バーベラが高速で弦楽器を引き、マァチは笛を吹き、ローナは念力でハンドベルを鳴らし、アストリアは太鼓を叩き、タナカは特に何もしない。というよりも、いつもながら、ムテ騎士団のやることについて行けてないだけである。
「何やってんだこいつら」
いつものごとく、タナカの疑問を無視してボーカルのデーツが歌い始める。
「今から歌うは みなさんおなじみ英雄カモンの 真実の物語」
思わぬ美声で歌うデーツに、タナカは少しだけ驚く。
「おい、またカモンの話かよ」
「いいじゃねえか。カモンの物語は何度聞いてもいいもんだ」
「でも真実の物語って?」
歌が始まった当初はひそひそと話し合う声が聞こえたが、歌が進むにつれて、品があってなおかつ厳かなデーツの歌声にみな黙って聴き始めた。
「カモン 親の顔も知らずに育った 不幸な生い立ち
カモン 見つけたのは剣の道 それは後戻りできぬ獣の道」
ブルースのような物悲しい曲調に、普段騒いでばかりの吞兵衛達も心打たれたのか、曲の序盤にもかかわらず涙ぐむ。
「ああ カモン お前が目指したその先に何があるのか」
すると、バーベラは弦楽器を高速の手さばきで激しく弾き始め、他の団員もアップテンポかつ激しく演奏し始め、曲調は一気にハードロックの様に変わってしまう。
「え!?」
と、タナカも客も驚くが、基本的に無視する姿勢のデーツはドスの効いた声でハウリングする。
「ファッキンザ カモン! ファッキンザ カモン! この世で一番の糞野郎!
ファッキンザ カモン! ファッキンザ カモン! 世界がお前を恨んでる!」
そして出てくる歌詞もカモンを罵るようなものばかりに。そこに他の団員もサブボーカルで歌い始める。
「殺した人数! 実は千も満たない!」
「そのうち大半! 女、子供、老人ばかり!」
「自慢の剣も本当は盗品! お金がないから万引きしたよ!」
「余裕こいて酒飲んで酔っ払って部隊が全滅!!!!!!」
急なアンチ活動に、これにはカモンファンお怒り。酔いつぶれている爺さんが一人大爆笑してるが、ほとんどの客はみな弁償代のことなど気にせずに食器やグラスを投げつける。
ムテ騎士団はそんなこと気にせずに歌を続けるが、まともな感性を持つタナカは狼狽する。
「おい! これ以上刺激すんなよ!」
基本的に無視する姿勢のデーツはまだまだノリノリだ。
「さあ皆さんご一緒に! ファッキンザ カモン!!!!」
とうとう客の一人が剣を取り出したので、流石に潮時と感じたムテ騎士団は店を後にする。ただし、歌を続けながらだが。
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