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第十一話 吟遊詩人のバラッド その2「ロッケンロール」
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酒場を出て、人気のない路地へと逃げ込んだ前衛的バンドムテ騎士団。
しかし彼女たちは追い出されたことを気にすることもなく、演奏を終えて舞台袖に捌けたバンドマン達のごとく、自分たちのパフォーマンスに満足しているようだった。
「お前ら、本当何やってんだ」
「これぞロッケンロール」
呆れるタナカの疑問に、マァチが親指たてて答える。
「何がロッケンロールだよ。ただただ喧嘩吹っ掛けてるだけじゃねえか」
「さてさて、この先にもう一軒あるからはしごするぞ」
「え? まだやんの!? 本当に喧嘩になるぞ!?」
やはりデーツは無視を決め込む姿勢なので、タナカの忠告を無視して店へ行き歌を歌って、酔いつぶれた爺さんが笑って客が物を投げる。
「それ見ろ、また同じ結果じゃないか。ていうか、何がしたいんだよ」
「僕たちの歌で、真の音楽を広めているのさ」
今度はバーベラが親指たてて言う。
「俺、音楽のことは詳しくないが、真の音楽ってこんなんじゃないと思う」
「それよりタナカ君もなんか演奏したら? ローナちゃんのハンドベル二本あるから、片方貸すけど」
ローナがハンドベルを差し出しながら言う。
「いや、やる気ないし」
「やりたい音楽の方向性と違うのか!!!!?」
「方向性とか以前にやりたくない」
「さては音痴だな!!!」
アストリアがタナカの頬をつつきながら言う。
「は? そんなことねーし」
「じゃあ歌ってみろ!!!」
「わかった。よーし」
と、深呼吸したところでタナカはムテ騎士団のニヤニヤとした目線に気づいて、歌い出すのをやめた。
「やめた」
「やっぱり音痴か!!!」
「単に、お前らの前では歌いたくないって思っただけ、ていうか絶対歌わないと誓ったは今」
「「ブーブー」」
巻き起こるブーイングの嵐。
「うるせえ! 絶対歌わねえ!」
「一番 僕はエルフさエルフのバーベラ」
「いや、いつかの自己紹介ソング歌われても返さねえから!」
「仕方ない。タナカは我らのバンドのおっかけとして、次の店に行くぞ」
「おっかけでもねーし!」
とはいうものの、結局彼女らを追いかけていくしかできないタナカ。そして歌を歌って、酔いつぶれた爺さんが笑って客が物を投げるのであった。
そしてタナカは、顔にぶつけられたり料理などを拭きながらこう言った。
「ほれ見ろ、またこのパターン。歌って、爺さんが笑って、客がもの投げてって」
そう、呆れながらも彼はあることに気が付いた。
「爺さん? そういえばあの爆笑してる爺さん毎回いないか?」
後ろを振り返ると、なんとそこにはその爆笑爺さんがいた。
「うわあ!? いたの!?」
「いたよー」
何食わぬ顔で酒瓶を一気飲みして、タナカにそう告げる爺さん。
「まさか、あんた追っかけ? もしくは熱心なカモンアンチ?」
「両方かな。それより若いの、酒はないか?」
「ない」
「あっそ」
爺さんの存在に気付いたのか、先行して歩いていたデーツが彼の方へと近づく。
「やあ、今日の歌はどうだったか?」
「ああ、最高だった。"豚の鳴きまねしながら逃亡"の部分の、ビブラートのかけ方がいい。
それより酒はないかい? 酒だ酒」
「今は持ってないが、買ってこよう」
デーツが指パッチンすると同時に、一瞬でバーベラが酒場から酒を購入して持ってくる。
「ありがとうありがとう」
そうして爺さんはただひたすらに酒をすするのであった。
「なんだい、あんたらこの爺さんの知り合いなのか」
「ああ、我らの大ファンのカモンさんだ」
「へー」
デーツがまるで近所に住む名物お爺さんを紹介するかのように軽く言ったせいか、タナカは一瞬、大事な情報をスルーしかけた。が、すぐに気づく。
「待て、今なんて言った?」
「我らの大ファンのカモンさんだ。って言った」
「ええええええええ!?」
先ほどから、罵詈雑言の集中砲火を浴びせられている本人が目の前にいること、そしてそれを本人が楽しく聴いていること、そして身なりはみすぼらしくて人々が歌っているようなとても猛々しい兵士には見えないことの以上三つの違和感が、タナカを襲って彼はパニック状態に。
「落ち着けって」
「いや、落ち着けないって!? どういうこと!? まるで意味わからないんだけど!」
「まあまあ、お若いの。落ち着きなさいな。飲むか?」
「いや、それはいいです」
流石に口をつけた酒を勧めてくる老人に、とりあえずノーが突き付けられるぐらいにはタナカの判断力は鈍っていないようであった。
「とりあえず順を追って話そうかね。紹介に合った通り、わたくしめが件のカモン本人だよ」
「でも、噂じゃもっと大男だとか聞いたが」
「噂はあくまで噂だ。途中で勝手な創作が加わる。
それに全盛期ですら既に40代だったから、今じゃこの通りよぼよぼのじじいだ。まあ、生活習慣のせいもあるがな」
カモンは持ってる酒瓶を、自嘲気味な笑顔で軽く振った。
「あんたがカモンだということを認めるとして、じゃあなんでこんな自分をバカにする歌聴いてるんだよ。悔しくないのか?」
「悔しいも何も、作詞は俺がやったんだぞ」
「はああああああああ!?」
しかし彼女たちは追い出されたことを気にすることもなく、演奏を終えて舞台袖に捌けたバンドマン達のごとく、自分たちのパフォーマンスに満足しているようだった。
「お前ら、本当何やってんだ」
「これぞロッケンロール」
呆れるタナカの疑問に、マァチが親指たてて答える。
「何がロッケンロールだよ。ただただ喧嘩吹っ掛けてるだけじゃねえか」
「さてさて、この先にもう一軒あるからはしごするぞ」
「え? まだやんの!? 本当に喧嘩になるぞ!?」
やはりデーツは無視を決め込む姿勢なので、タナカの忠告を無視して店へ行き歌を歌って、酔いつぶれた爺さんが笑って客が物を投げる。
「それ見ろ、また同じ結果じゃないか。ていうか、何がしたいんだよ」
「僕たちの歌で、真の音楽を広めているのさ」
今度はバーベラが親指たてて言う。
「俺、音楽のことは詳しくないが、真の音楽ってこんなんじゃないと思う」
「それよりタナカ君もなんか演奏したら? ローナちゃんのハンドベル二本あるから、片方貸すけど」
ローナがハンドベルを差し出しながら言う。
「いや、やる気ないし」
「やりたい音楽の方向性と違うのか!!!!?」
「方向性とか以前にやりたくない」
「さては音痴だな!!!」
アストリアがタナカの頬をつつきながら言う。
「は? そんなことねーし」
「じゃあ歌ってみろ!!!」
「わかった。よーし」
と、深呼吸したところでタナカはムテ騎士団のニヤニヤとした目線に気づいて、歌い出すのをやめた。
「やめた」
「やっぱり音痴か!!!」
「単に、お前らの前では歌いたくないって思っただけ、ていうか絶対歌わないと誓ったは今」
「「ブーブー」」
巻き起こるブーイングの嵐。
「うるせえ! 絶対歌わねえ!」
「一番 僕はエルフさエルフのバーベラ」
「いや、いつかの自己紹介ソング歌われても返さねえから!」
「仕方ない。タナカは我らのバンドのおっかけとして、次の店に行くぞ」
「おっかけでもねーし!」
とはいうものの、結局彼女らを追いかけていくしかできないタナカ。そして歌を歌って、酔いつぶれた爺さんが笑って客が物を投げるのであった。
そしてタナカは、顔にぶつけられたり料理などを拭きながらこう言った。
「ほれ見ろ、またこのパターン。歌って、爺さんが笑って、客がもの投げてって」
そう、呆れながらも彼はあることに気が付いた。
「爺さん? そういえばあの爆笑してる爺さん毎回いないか?」
後ろを振り返ると、なんとそこにはその爆笑爺さんがいた。
「うわあ!? いたの!?」
「いたよー」
何食わぬ顔で酒瓶を一気飲みして、タナカにそう告げる爺さん。
「まさか、あんた追っかけ? もしくは熱心なカモンアンチ?」
「両方かな。それより若いの、酒はないか?」
「ない」
「あっそ」
爺さんの存在に気付いたのか、先行して歩いていたデーツが彼の方へと近づく。
「やあ、今日の歌はどうだったか?」
「ああ、最高だった。"豚の鳴きまねしながら逃亡"の部分の、ビブラートのかけ方がいい。
それより酒はないかい? 酒だ酒」
「今は持ってないが、買ってこよう」
デーツが指パッチンすると同時に、一瞬でバーベラが酒場から酒を購入して持ってくる。
「ありがとうありがとう」
そうして爺さんはただひたすらに酒をすするのであった。
「なんだい、あんたらこの爺さんの知り合いなのか」
「ああ、我らの大ファンのカモンさんだ」
「へー」
デーツがまるで近所に住む名物お爺さんを紹介するかのように軽く言ったせいか、タナカは一瞬、大事な情報をスルーしかけた。が、すぐに気づく。
「待て、今なんて言った?」
「我らの大ファンのカモンさんだ。って言った」
「ええええええええ!?」
先ほどから、罵詈雑言の集中砲火を浴びせられている本人が目の前にいること、そしてそれを本人が楽しく聴いていること、そして身なりはみすぼらしくて人々が歌っているようなとても猛々しい兵士には見えないことの以上三つの違和感が、タナカを襲って彼はパニック状態に。
「落ち着けって」
「いや、落ち着けないって!? どういうこと!? まるで意味わからないんだけど!」
「まあまあ、お若いの。落ち着きなさいな。飲むか?」
「いや、それはいいです」
流石に口をつけた酒を勧めてくる老人に、とりあえずノーが突き付けられるぐらいにはタナカの判断力は鈍っていないようであった。
「とりあえず順を追って話そうかね。紹介に合った通り、わたくしめが件のカモン本人だよ」
「でも、噂じゃもっと大男だとか聞いたが」
「噂はあくまで噂だ。途中で勝手な創作が加わる。
それに全盛期ですら既に40代だったから、今じゃこの通りよぼよぼのじじいだ。まあ、生活習慣のせいもあるがな」
カモンは持ってる酒瓶を、自嘲気味な笑顔で軽く振った。
「あんたがカモンだということを認めるとして、じゃあなんでこんな自分をバカにする歌聴いてるんだよ。悔しくないのか?」
「悔しいも何も、作詞は俺がやったんだぞ」
「はああああああああ!?」
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