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第十二話 童貞を殺す鎧 その3「読んでて心に刺さった? あっそう」
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通りすがりに斬られようとする男性を間一髪で、バーベラが救出する。
「タナカ、何やってる!」
「わからねえ! でも急にそいつを殺したくなったんだ!」
タナカはバーベラに抱えられている男性目掛けて何度も剣を振るい続ける。無論、彼女の高速で避けられてはいるが。
「タナカあああああ! 何やってんだああああ!」
アストリアが駆けながら、タナカの剣をめがけて拳を振るう。
本来ならその腕力で剣など簡単に折ってしまうのだが、鎧から出る黒い煙が剣を覆い、彼女の拳を防いでしまう。
「なんだ!!?」
煙に覆われた剣は、やがて漆黒のオーラを纏った大きなの剣へと変化する。
「邪魔だ! どこださっきのあいつは!」
タナカは先程斬りかかった男性を探すも、既にバーベラが遠くへと避難させていた。
「じゃあ、次はお前だー!」
すると、タナカはお店を出している別の男性の元へと走り出す。
「ちょっとちょっと落ち着きなよー。なんか変な主義に目覚めたの?」
ローナがタナカにとり憑いて動きを止めようとするも、彼女の霊体は鎧に弾かれてしまう。
「ありゃまあ……思ったより呪いの力が凄まじいや」
ローナのことはよそに、タナカは店主の男性の元に駆けていく。
「いらっしゃい。何か欲しいものありますか」
「お前の命だああああ!」
その男性に漆黒の剣を振り下ろすタナカ。しかし、そうはさせんとデーツのムテの剣がそれを防ぐ。
「タナカ! いい加減にしろ!」
ムテの剣に押し切られ、タナカは後ろへと弾き返されるも足で踏ん張り、そのまま倒れることはなかった。
「なんでなんだなんでなんだ!!」
一方、アストリアは自分の拳が通じなかった事を未だに不思議がって佇んでいた。
そこにマァチがやってくる。
「アスティ、どうせその頭で考えたって無駄でしょ」
「それもそうだな!!! それより、マァチは攻撃しないのか?!」
「駄目。人が多い。ここじゃ私の魔法は強力過ぎて、周りが危ない」
マァチの言う通り、通りは突如始まった喧嘩を見ようと野次馬で溢れ返っていた。普段はその圧倒的な力を振りかざす彼女だが、今回はそれが仇となった。
やがて、タナカは店主の男性を諦めて野次馬の中の一人の男性に襲いかかる。
「ターゲットが変わったか!」
デーツが急行してまたしても防ぐ。そしてひとしきり剣を交えた後、タナカはまた別の男性を襲おうとする。
今度も防ぐが、タナカはデーツと剣を交えるよりも、その男性に斬りかかることを優先しているようであった。
「一体何がしたいんだお前は!」
タナカとしての意識は既に失ってしまったのか、彼はデーツの言葉に返答することもなく、怒りの形相と虚ろな瞳だけが彼の顔に残されていた。
そこに、バーベラが一人の老人を連れてやってくる。
「ねえ団長! 連れてきたよ!」
「誰、このじいさん?」
と、ローナがバーベラに質問する。
「鎧の売主さ。彼なら何か知ってるはずさ」
「いや、ワシただ売っただけで」
「でも、童貞が着たら死ぬって言ってたろ」
「ああ。それ適当じゃ。ただ童貞を殺す鎧としか聞いてなくての。
だから仲間内で「おい、これ着ようとしないなんてお前童貞かよー」とか言って盛り上がるぐらいしか使ったことないんじゃよ」
「くだらないことやりやがって!」
そう憤るバーベラに、タナカが一瞬だけ動きを止める。
「お、お前らも同じことやってたろ」
「タナカ! 意識が戻ったのか!」
喜ぶの束の間、彼は再び別の男性に斬りかかる。どうやら、頑張って意識を戻してまでもツッコミたかったようだ
「こ、殺す! 童貞殺す!」
「何!?」
タナカの言葉に、デーツは剣で応戦しながらも一瞬だけ動きを止めた。
「まさか! おいそこのお前!」
「自分ですか?!」
タナカが斬りかかろうとする男性に向けてデーツが吠える。
「お前、童貞か!」
「え? あ、いや、その」
「童貞かと聞いている!!」
「は、はい! そうですよ! ええ、そうですとも!」
「殺す!!」
男の言葉にますます殺気立って睨みつけるタナカ。
「成る程、これは着た童貞を死に至らしめる鎧じゃない!
着た者が童貞を殺すようになる鎧なんだ!」
「「な、なんだってー!」」
デーツの結論に、まるで示し合わせたかのように声を合わせて驚くムテ騎士団達。だが、これが正しいリアクションなので仕方がない。
「童貞は消さなければならない。
お前達は生殖という、生命が生まれながらに与えられた使命を全うしようとしない屑だ。
この世にいる価値などない。死ね」
「うぐぅ!」
まだ剣に刺されていないものの、グサっと心を貫かれる男。
「で、でも卒業するチャンスはいくらでもあるし!」
「いや、お前にはない。決してない。生涯かけても童貞だ。顔を見ればわかる。
だからいっそ殺して、お前を楽にしてやる!」
「うぐぐぅ!」
またしても心を刺される男。
「あと、そこの奴とそこの奴、あとお前もだ」
「「うぐぐぐぅ!」」
次々と男性を指差すタナカ。次なる犠牲者がどんどん増えていく。
しかし、本当に刺された者はまだいないので、ムテ騎士団は先手を打つ事にした。
「よくわかんないけど、そんな理由で人を斬っちゃ駄目だぞ!!!」
背後から近づき、アストリアがタナカを羽交締めする。
「これでもう動けないだろ!! 参ったか!!」
そしてその間に、バーベラがタナカが狙った男性達を遠くに避難させていく。
そして、ローナとマァチが他の者に避難を呼びかける。
「童貞の方ー童貞の方は今の内に逃げてくださーい」
「童貞ー童貞はおらんかいー」
しかし、堂々と逃げ出す者はいなかった。
「いやはや、命の危機がかかっているのに童貞と思われる方が嫌だとはなんとも情け無い」
そう達観しているのは鎧を売った老人だ。そんな彼にデーツが近づく。
「なあ、爺さんよ。鎧について他に何か知らないか」
「うーん、説明書なら家にあったはず」
「それを先に言え。ていうか一緒に売れ」
「適当にしまってて探すのが面倒なものでのう」
「バーベラに取りに行かせるか。アストリアー、もうしばらく抑えててくれ」
「わかった!!!」
タナカへの羽交い締めを続行するアストリア。
タナカは最初こそ抵抗していたものの、急に大人しくなってしまう。
「参ったか!!!」
喜ぶアストリアだったが、それはぬか喜びであった。
タナカの持つ剣の先が伸びて、あちこちを這い回り、そして老人の腹を刺したのだ。
「爺さん!! あんた……童貞だったのか!」
「恥ずかしながらこの歳でサクランボなんじゃよ」
そう言い残して果てる老人。彼を介抱するデーツは空かさず脈を取る。
「大丈夫、まだ息はある。ローナ、マァチ。乗り物でこの人を近くの病院まで。傷が深いから慎重にな」
「わかった」
「ローナちゃんに任せろー!」
「それからバーベラはいるか!」
「今戻ったよ団長」
「お前も同行して、その人の住所をなんとか聞き出せ。鎧の説明書がそこにあるそうだ」
「出来るだけ早く持ってくるよ」
そして命令を受けた3名は、傷が広がらないように老人を優しく抱えて、タイガーマーク2号が出せる場所まで担いでいく。
「それでアストリアは、我と共にタナカを応戦するぞ」
「もうやってる!!!」
取り押さえていては、伸びた剣で攻撃されるとわかったアストリアは、タナカを放して彼と戦っている。
だが、彼女のありったけの拳で殴っているのにも関わらず、鎧も剣もびくともしていない。
「かったいなー!!!」
「アストリア、もしかするとこの鎧、我らの親類かもしれんぞ」
「親類? 鎧に血縁があるのか!!!?」
「そういう意味じゃない。我のムテの剣と、お前の体のことだ」
アストリアは動きを一瞬止め、そしてデーツの言葉の意味を考えた。
「成る程!! そっちのことか!!!」
しかし、一瞬動きを止めたのが悪かった。その隙にタナカは走り去る。
「タナカ、何やってる!」
「わからねえ! でも急にそいつを殺したくなったんだ!」
タナカはバーベラに抱えられている男性目掛けて何度も剣を振るい続ける。無論、彼女の高速で避けられてはいるが。
「タナカあああああ! 何やってんだああああ!」
アストリアが駆けながら、タナカの剣をめがけて拳を振るう。
本来ならその腕力で剣など簡単に折ってしまうのだが、鎧から出る黒い煙が剣を覆い、彼女の拳を防いでしまう。
「なんだ!!?」
煙に覆われた剣は、やがて漆黒のオーラを纏った大きなの剣へと変化する。
「邪魔だ! どこださっきのあいつは!」
タナカは先程斬りかかった男性を探すも、既にバーベラが遠くへと避難させていた。
「じゃあ、次はお前だー!」
すると、タナカはお店を出している別の男性の元へと走り出す。
「ちょっとちょっと落ち着きなよー。なんか変な主義に目覚めたの?」
ローナがタナカにとり憑いて動きを止めようとするも、彼女の霊体は鎧に弾かれてしまう。
「ありゃまあ……思ったより呪いの力が凄まじいや」
ローナのことはよそに、タナカは店主の男性の元に駆けていく。
「いらっしゃい。何か欲しいものありますか」
「お前の命だああああ!」
その男性に漆黒の剣を振り下ろすタナカ。しかし、そうはさせんとデーツのムテの剣がそれを防ぐ。
「タナカ! いい加減にしろ!」
ムテの剣に押し切られ、タナカは後ろへと弾き返されるも足で踏ん張り、そのまま倒れることはなかった。
「なんでなんだなんでなんだ!!」
一方、アストリアは自分の拳が通じなかった事を未だに不思議がって佇んでいた。
そこにマァチがやってくる。
「アスティ、どうせその頭で考えたって無駄でしょ」
「それもそうだな!!! それより、マァチは攻撃しないのか?!」
「駄目。人が多い。ここじゃ私の魔法は強力過ぎて、周りが危ない」
マァチの言う通り、通りは突如始まった喧嘩を見ようと野次馬で溢れ返っていた。普段はその圧倒的な力を振りかざす彼女だが、今回はそれが仇となった。
やがて、タナカは店主の男性を諦めて野次馬の中の一人の男性に襲いかかる。
「ターゲットが変わったか!」
デーツが急行してまたしても防ぐ。そしてひとしきり剣を交えた後、タナカはまた別の男性を襲おうとする。
今度も防ぐが、タナカはデーツと剣を交えるよりも、その男性に斬りかかることを優先しているようであった。
「一体何がしたいんだお前は!」
タナカとしての意識は既に失ってしまったのか、彼はデーツの言葉に返答することもなく、怒りの形相と虚ろな瞳だけが彼の顔に残されていた。
そこに、バーベラが一人の老人を連れてやってくる。
「ねえ団長! 連れてきたよ!」
「誰、このじいさん?」
と、ローナがバーベラに質問する。
「鎧の売主さ。彼なら何か知ってるはずさ」
「いや、ワシただ売っただけで」
「でも、童貞が着たら死ぬって言ってたろ」
「ああ。それ適当じゃ。ただ童貞を殺す鎧としか聞いてなくての。
だから仲間内で「おい、これ着ようとしないなんてお前童貞かよー」とか言って盛り上がるぐらいしか使ったことないんじゃよ」
「くだらないことやりやがって!」
そう憤るバーベラに、タナカが一瞬だけ動きを止める。
「お、お前らも同じことやってたろ」
「タナカ! 意識が戻ったのか!」
喜ぶの束の間、彼は再び別の男性に斬りかかる。どうやら、頑張って意識を戻してまでもツッコミたかったようだ
「こ、殺す! 童貞殺す!」
「何!?」
タナカの言葉に、デーツは剣で応戦しながらも一瞬だけ動きを止めた。
「まさか! おいそこのお前!」
「自分ですか?!」
タナカが斬りかかろうとする男性に向けてデーツが吠える。
「お前、童貞か!」
「え? あ、いや、その」
「童貞かと聞いている!!」
「は、はい! そうですよ! ええ、そうですとも!」
「殺す!!」
男の言葉にますます殺気立って睨みつけるタナカ。
「成る程、これは着た童貞を死に至らしめる鎧じゃない!
着た者が童貞を殺すようになる鎧なんだ!」
「「な、なんだってー!」」
デーツの結論に、まるで示し合わせたかのように声を合わせて驚くムテ騎士団達。だが、これが正しいリアクションなので仕方がない。
「童貞は消さなければならない。
お前達は生殖という、生命が生まれながらに与えられた使命を全うしようとしない屑だ。
この世にいる価値などない。死ね」
「うぐぅ!」
まだ剣に刺されていないものの、グサっと心を貫かれる男。
「で、でも卒業するチャンスはいくらでもあるし!」
「いや、お前にはない。決してない。生涯かけても童貞だ。顔を見ればわかる。
だからいっそ殺して、お前を楽にしてやる!」
「うぐぐぅ!」
またしても心を刺される男。
「あと、そこの奴とそこの奴、あとお前もだ」
「「うぐぐぐぅ!」」
次々と男性を指差すタナカ。次なる犠牲者がどんどん増えていく。
しかし、本当に刺された者はまだいないので、ムテ騎士団は先手を打つ事にした。
「よくわかんないけど、そんな理由で人を斬っちゃ駄目だぞ!!!」
背後から近づき、アストリアがタナカを羽交締めする。
「これでもう動けないだろ!! 参ったか!!」
そしてその間に、バーベラがタナカが狙った男性達を遠くに避難させていく。
そして、ローナとマァチが他の者に避難を呼びかける。
「童貞の方ー童貞の方は今の内に逃げてくださーい」
「童貞ー童貞はおらんかいー」
しかし、堂々と逃げ出す者はいなかった。
「いやはや、命の危機がかかっているのに童貞と思われる方が嫌だとはなんとも情け無い」
そう達観しているのは鎧を売った老人だ。そんな彼にデーツが近づく。
「なあ、爺さんよ。鎧について他に何か知らないか」
「うーん、説明書なら家にあったはず」
「それを先に言え。ていうか一緒に売れ」
「適当にしまってて探すのが面倒なものでのう」
「バーベラに取りに行かせるか。アストリアー、もうしばらく抑えててくれ」
「わかった!!!」
タナカへの羽交い締めを続行するアストリア。
タナカは最初こそ抵抗していたものの、急に大人しくなってしまう。
「参ったか!!!」
喜ぶアストリアだったが、それはぬか喜びであった。
タナカの持つ剣の先が伸びて、あちこちを這い回り、そして老人の腹を刺したのだ。
「爺さん!! あんた……童貞だったのか!」
「恥ずかしながらこの歳でサクランボなんじゃよ」
そう言い残して果てる老人。彼を介抱するデーツは空かさず脈を取る。
「大丈夫、まだ息はある。ローナ、マァチ。乗り物でこの人を近くの病院まで。傷が深いから慎重にな」
「わかった」
「ローナちゃんに任せろー!」
「それからバーベラはいるか!」
「今戻ったよ団長」
「お前も同行して、その人の住所をなんとか聞き出せ。鎧の説明書がそこにあるそうだ」
「出来るだけ早く持ってくるよ」
そして命令を受けた3名は、傷が広がらないように老人を優しく抱えて、タイガーマーク2号が出せる場所まで担いでいく。
「それでアストリアは、我と共にタナカを応戦するぞ」
「もうやってる!!!」
取り押さえていては、伸びた剣で攻撃されるとわかったアストリアは、タナカを放して彼と戦っている。
だが、彼女のありったけの拳で殴っているのにも関わらず、鎧も剣もびくともしていない。
「かったいなー!!!」
「アストリア、もしかするとこの鎧、我らの親類かもしれんぞ」
「親類? 鎧に血縁があるのか!!!?」
「そういう意味じゃない。我のムテの剣と、お前の体のことだ」
アストリアは動きを一瞬止め、そしてデーツの言葉の意味を考えた。
「成る程!! そっちのことか!!!」
しかし、一瞬動きを止めたのが悪かった。その隙にタナカは走り去る。
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