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完璧なんて嘘
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長身で足が長くて、顔もかっこ良くて。頭がよくて、分け隔てなく誰となく感じよく接してくれて。
こんな恵まれた人がいるんだと思った。
「逢沢先輩って本当に完璧だよね」
同僚の子は口を揃えてそういう。
私も完璧だと思っていた。
あの日までは。
「田賀さん、今週中にこれまとめてもらえないかな?忙しいと思うんだけど…本当にごめん」
両手を合わせて私の前に立つ逢沢は眉を八の字にしていた。
「わかりました。」
「田賀さん、本当にありがとう」
彼の笑顔に何人の人が騙されたのだろうか。
私はその顔を見て思った。
月末で一番忙しい時期だ。
本当なら断っている。
案の定、私は残業の連続となる。
定時を遥かに超え、社内のみんなが帰り始めても私は書類と格闘していた。
「田賀さんにお願いしすぎて悪かった。俺、時間出来たので頼んだ仕事自分でやるよ。」
「大丈夫です。一度引き受けたものはやります。」
「田賀さんは本当に真面目だから、無理しすぎちゃう所あるから…俺いつも見てて心配になるんだ。
頼んでおきながらこんな事言うのもおかしいけど。」
「逢沢さん、大丈夫ですか?何か手伝いましょうか?」
猫なで声の先輩がやってきた。
「お疲れ様です。お気遣いありがとうございます。大丈夫です。」
「そう?何かあったら言ってね。」
私には目もくれず先輩は去って行く。
「田賀さん、そしたらこっち半分俺がやる。こっちをお願いします。それでもいい?」
社内は二人だけになった。
私の座ってる席からだと、彼の背中だけが見える。
数メートル先の彼はいつも背筋が伸びている。
半分ずつに分けた仕事はもう終わった。
私は席を立ち逢沢さんに声をかける。
「終わりました。手伝います。」
「ありがとう。助かったよ。俺もあと10分ぐらいで終わるよ。あのー、よかったらこの後、飯でも行かない?時間ある?」
「え、あ、はい。」
思わず声が上ずってしまう。
二人でなんて想像もつかなかった。
会社を出て、5分ほどの居酒屋に入った。
ビールで乾杯し彼はいつもと変わらぬ笑顔だった。
「本当に助かったよ。ありがとう。」
「こちらこそ頼まれてた仕事なのに、少ししか手伝えずすいませんでした」
形式的な会話を済ませ、食事が運ばれてくる。
彼は今夢中になっている趣味の話をし私は自分の気になることを話した。
本当に気さくで良い先輩だと思いながらも、どこか緊張していた。
でも、心地よい空気感が私の緊張を解き、彼を男性としての魅力を感じずにはいられなかった。
食事が終わり駅に向かって歩いてると、それまで話していたのに沈黙となる。
そして、急に腕を引っ張られ、気付くと彼の胸の中にいた。
「ごめん。ずっとこうしたかったんだ。」
私は硬直しながらも彼を受け入れていた。
そして、そこから私達の関係は始まった。
週に何度か会い、私の家を訪れ泊まって会社に行く日もあった。
知れば知るほど彼が好きになった。
会社では気づかれないように普通に接した。
このまま上手くいくのではないかと私は毎日が楽しかった。
「ごめん。好きだけど一緒には居られない。本当にごめん」
彼は私にそう告げるだけ告げ去って行った。
私は整理がついていなかった。
もう一度、時間を置いて話をしようと思っていた。
彼は席を外している事が多くなり、
その度に社内を見渡すも彼はいない。
3日が経ち、朝の朝礼で彼が呼ばれた。
「下半期から副社長として逢沢くんに任す事になった。そして、役員である私の娘と結婚することになった。逢沢くん一言いいかい?」
社長が直々に朝礼に出てくる事はなかったのに、娘の結婚が嬉しいのか満面の笑みで拍手をしている。
でも、挨拶の場で話し始め彼の顔は引きつり決して幸せそうな顔ではなかった。
私はただ、彼の顔を見つめていた。
完璧な人間なんかじゃない。
彼は卑怯だ。好きだけど…なんて。
出世を選んだんだ。そう気付いていた。
私は気づかれないようにその場を静かに去った。
こんな恵まれた人がいるんだと思った。
「逢沢先輩って本当に完璧だよね」
同僚の子は口を揃えてそういう。
私も完璧だと思っていた。
あの日までは。
「田賀さん、今週中にこれまとめてもらえないかな?忙しいと思うんだけど…本当にごめん」
両手を合わせて私の前に立つ逢沢は眉を八の字にしていた。
「わかりました。」
「田賀さん、本当にありがとう」
彼の笑顔に何人の人が騙されたのだろうか。
私はその顔を見て思った。
月末で一番忙しい時期だ。
本当なら断っている。
案の定、私は残業の連続となる。
定時を遥かに超え、社内のみんなが帰り始めても私は書類と格闘していた。
「田賀さんにお願いしすぎて悪かった。俺、時間出来たので頼んだ仕事自分でやるよ。」
「大丈夫です。一度引き受けたものはやります。」
「田賀さんは本当に真面目だから、無理しすぎちゃう所あるから…俺いつも見てて心配になるんだ。
頼んでおきながらこんな事言うのもおかしいけど。」
「逢沢さん、大丈夫ですか?何か手伝いましょうか?」
猫なで声の先輩がやってきた。
「お疲れ様です。お気遣いありがとうございます。大丈夫です。」
「そう?何かあったら言ってね。」
私には目もくれず先輩は去って行く。
「田賀さん、そしたらこっち半分俺がやる。こっちをお願いします。それでもいい?」
社内は二人だけになった。
私の座ってる席からだと、彼の背中だけが見える。
数メートル先の彼はいつも背筋が伸びている。
半分ずつに分けた仕事はもう終わった。
私は席を立ち逢沢さんに声をかける。
「終わりました。手伝います。」
「ありがとう。助かったよ。俺もあと10分ぐらいで終わるよ。あのー、よかったらこの後、飯でも行かない?時間ある?」
「え、あ、はい。」
思わず声が上ずってしまう。
二人でなんて想像もつかなかった。
会社を出て、5分ほどの居酒屋に入った。
ビールで乾杯し彼はいつもと変わらぬ笑顔だった。
「本当に助かったよ。ありがとう。」
「こちらこそ頼まれてた仕事なのに、少ししか手伝えずすいませんでした」
形式的な会話を済ませ、食事が運ばれてくる。
彼は今夢中になっている趣味の話をし私は自分の気になることを話した。
本当に気さくで良い先輩だと思いながらも、どこか緊張していた。
でも、心地よい空気感が私の緊張を解き、彼を男性としての魅力を感じずにはいられなかった。
食事が終わり駅に向かって歩いてると、それまで話していたのに沈黙となる。
そして、急に腕を引っ張られ、気付くと彼の胸の中にいた。
「ごめん。ずっとこうしたかったんだ。」
私は硬直しながらも彼を受け入れていた。
そして、そこから私達の関係は始まった。
週に何度か会い、私の家を訪れ泊まって会社に行く日もあった。
知れば知るほど彼が好きになった。
会社では気づかれないように普通に接した。
このまま上手くいくのではないかと私は毎日が楽しかった。
「ごめん。好きだけど一緒には居られない。本当にごめん」
彼は私にそう告げるだけ告げ去って行った。
私は整理がついていなかった。
もう一度、時間を置いて話をしようと思っていた。
彼は席を外している事が多くなり、
その度に社内を見渡すも彼はいない。
3日が経ち、朝の朝礼で彼が呼ばれた。
「下半期から副社長として逢沢くんに任す事になった。そして、役員である私の娘と結婚することになった。逢沢くん一言いいかい?」
社長が直々に朝礼に出てくる事はなかったのに、娘の結婚が嬉しいのか満面の笑みで拍手をしている。
でも、挨拶の場で話し始め彼の顔は引きつり決して幸せそうな顔ではなかった。
私はただ、彼の顔を見つめていた。
完璧な人間なんかじゃない。
彼は卑怯だ。好きだけど…なんて。
出世を選んだんだ。そう気付いていた。
私は気づかれないようにその場を静かに去った。
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