恋愛 短編集

noraneko

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手紙

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毎日、手紙を書き続けている。

1年近くなり、今となっては日課だ。


雨の日も雪の日も嵐の日でも彼に手紙を書いていた。


彼も時々、返信を書いてくれる。


その返信の文字が徐々に震え始めて、
今では記号のような文字になっている。

それでも私は彼に向け書いているのだ。


彼とは1年前に同じ病室になった。


人見知りで誰とも打ち解けられない私に声をかけてくれて、
退屈な入院生活を楽しく過ごすことができた。

私はその時小学校6年生で彼は25歳。


私は腎臓が悪くて入院し治療を続け、
彼は膵臓が悪くて入院していた。


点滴をぶら下げて、歩いていた彼は私よりも細い手足で懸命に歩いていた。


「歩かないと筋肉が落ちちゃうんだ」

じっと見つめていた私と目が合い彼はそう口にした。

彼は本当に優しい笑顔をする。


私はその笑顔が好きだった。
これが恋なのだと思うと彼と話すのも恥ずかしくなった。


3ヶ月の辛い入院生活が終わろうとしていたのに、私は全く嬉しくなんかなかった。

彼ともう会えなくなる気がして悲しかった。

「七海ちゃんはね、これから沢山学んで、友達と沢山遊びな。辛い治療に耐えたんだから、これからは笑顔で過ごせる毎日を作りな。」

退院が近くなる日に彼はそう言った。

「うん。俊平くんも早く元気になってね」

私はそれが精一杯の言葉だった。

彼は出会った時から、更に痩せた気がした。

「もちろん、すぐ治すさ。」

彼は笑っていた。

退院してからも、私は彼が気になり仕方なかった。

その病院は家から近くて、自転車で5分もあれば着く。

何か出来ないか、私は考えた。

手紙を書こう。

恥ずかしく私は面倒みてもらっていた、看護師さんに手紙をお願いした。

それから学校が終わると自転車で通い、看護師さんにお願いした。


看護師さんは毎日やってくる私に驚いていたけれど、そうしているうちに待っていてくれるようになった。

新しい友達が出来たこと、勉強のおくれを取り戻すため必死であること、
日常のこと、彼の治療が良くなることなどなんでも書いた。


それから1週間後、お手紙がきた。

「七海ちゃん、良かったね。お返事きたよ。高田さんね、お手紙楽しみにしてるんだって。なんか嬉しそうにしてたよ。」

その言葉とお手紙とで私は嬉しかった。
すぐに読みたい気持ちをおさえ、
急いで家に帰りその手紙を開けた。


感謝の言葉と私の生活を応援する言葉、そして、体調が少しずつ良くなってる事が書いてあった。

その手紙を何度も読み返した。

それからというものずっと続いていたけれど、中学に入り忙しくて、
手紙は毎日書いて届けるのは数日置きになったが欠かさずに書いている。

時々、返ってくる返事が嬉しくて仕方なかった。

彼の字はきれいだった。
丁寧に書いてくれていた。

数ヶ月が過ぎるたびに彼の文字は所々震えているようなところがあり、
今ではなんて書いてあるのか分からなくなっている。

今では読み取りなど出来ないし、
返事も極端に減っていた。

その意味も分かり始めていたけれど、
信じたくなかった。


学校の帰り道、私は嫌な予感がしてそのまま歩いて病室に向かった。

手紙はいつも鞄の中だ。

走って病棟に向かうが、いつもの看護師さんがいない。

忙しい時は待つ時間も当然あったけど、今日はやけに遅い。

壁に寄りかかり、床を見つめた。

彼と並んでよく歩いた。

もう1年も彼に会ってない。

会いたい。

いつか彼の退院が決まったら…


その時、私を呼ぶ声が聞こえた。

「七海ちゃん…。」

顔を上げると、悲しい顔で看護師さんは立っていた。

「あの、これお願いします」

手紙を差し出す。

「七海ちゃん、ごめんね。もう渡してあげられないの。」

その言葉で分かった。
彼が遠くに行ったということを。


「いつですか?いつ亡くなったんですか?」

「…数時間前。枕元に手紙が積んであったよ。本当に嬉しかったんだと思う。」

看護師さんは急に私を抱きしめた。

私はその温もりを感じた瞬間に涙が零れ落ちた。

「気持ち伝わったかな?」
私は泣きながら口にした。

「伝わってるよ。想いは届いてる。」


私は泣いた。

外に出てから空を見たら、
彼の笑顔が浮かんで見えた。

これからも手紙を綴ろう。
私は空に向かい、彼に負けない笑顔を向けた。




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