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リュシコフ亡命1938/06/13
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1938年夏、最早恒例となったソ連からの亡命者受け入れが行われた。だが、今回はひと味違った。なんと……。
「秘密警察の人間が亡命してきたぁ!?」
「……間違い、ないのか」
「おそらくは。何せ、同じソ連からの亡命者から石を投げられておりましたが故」
「……一応、受け入れる方向で固めておこう。どんな情報を持っているかわからんしな」
……ゲンリフ・リュシコフと名乗るその秘密警察中将|(正確には「三等国家保安委員」なのだが、わかりやすさ重視!)は、満州に入国するや投石によって出迎えられた。無理もない、彼は本来、粛清を実行する人間である、それが亡命してきたのだから、ソ連の体制がいよいよ末期症状となっていることを示すと同時に、ソ連軍将校が投石を行っていたその行為こそが、投石の的となっていたその彼が本物の秘密警察中将であることを意味していた。
……そして、彼がもたらした情報により、大日本帝国は遂に今まで亡命ソ連軍人の情報提供があっても尚部分部分でしか知らなかったソ連の現状の全貌を知ることとなる。それは、如何に粛清によって痩せ衰えたといえども、まだまだ侮れないソ連軍の内部事情であった。少なくとも、その数は戦車が四,五千台はいることを考えたら、現状の大日本帝国の国力では攻略不可能とも言えた。そう、そのはずだった……。
「……本気ですが、参謀長」
「無論、手続きはきちんと踏む必要があるがね」
「……どうなっても、知りませんからな」
ただ一人、ソ連軍の弱体化を見抜いていた人物が存在した。もう、言うまでも無いだろう。古今未曾有の大英雄、石原莞爾である。彼は、宇垣内閣の組閣の阻止に失敗したものの、回顧録に於いて「あのときの自分は生涯で一番愚かであった」と振り返る程には、宇垣内閣の組閣は成功といえたのだ。まさに宇垣内閣の阻止を考えたのは千慮、否、万慮の一失と言えよう。
そして、遂に大東亜共栄圏は再び産声を上げ始めた。通称、「国柱の誓い」である。
そんな彼の我々の世界での名句を最後に記して本章を閉めたいと思う。
「予は東條個人に恩怨なし、但し彼が戦争中言論抑圧を極度にしたるを悪む。これが日本を亡ぼした。後に来る者はこれに鑑むべきだ。」(前後略)
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