38 / 52
以下、下書き中原稿
生涯現役1941/8/12
しおりを挟む
「チェンバレン首相、大変ですっ!!」
「……案の定か、それでは、潔く……」
「いえ、それが……」
「どうしたというのかね、君等は私と違ってジェントリだろう、確りしたまえ」
「……一通目、「潔く議会で現役の儘死ね」。二通目、「今更引退など虫が良い」。三通目、「英日同盟はさておいてアンタが議会で死ぬ姿は見たい」。四通目、「ああ死ね、但し英日同盟は締結して貰うぞ」。五通目、「肉屋に負けるな」。六通目、「死んでから休め」。……ええと、概ね、以上の通りです」
「……はい?」
チェンバレンに寄せられた手紙は、文面こそ「死ね」だの「くたばれ」だのといった悪口であったが、その飾り文句には「但し議会で」だの「生涯現役でいろ」だの「同盟締結してからな!」とか「引退するな」とか書かれており、まあ言ってしまえば、次のようになる。
「……まあ、概ね意見としては「肉屋に負けんな、生涯現役の儘議会で回顧録でも書かれながら斃れろ」だそうで」
「……ハハッ」
なんともやれやれ、どうやら我等が国民達は非常にひねくれ者らしい。そして、残酷だ。この老骨にまだ鞭を打って働けと命ずるとは。
「……首相?」
「いやなに、確かに、酷い文面だね」
言葉とは裏腹に、チェンバレンはこれ以上無いほどの笑みを浮かべていた。何せ、彼自身は遂に、「国民の意思」という名目で英国史上最高の首相として人生を終えることを許されたのだから!
「それじゃ、挨拶してこようかね」
「……そうですね」
チェンバレンの秘書も、またはにかんでいた。何せ彼も万一チェンバレンが憤死してはいけないと思い黙って文面を読んでいて、案の定ドギツイ文句が躍っていることに当初怒りで震えていたが、よくよく読むと「議会で生涯現役の儘潔く名誉を受けて老衰しろ」という文面が大多数、否、ほぼ全てを占めるという異例の事態に、チェンバレンが如何に代議士として愛されていたかを知ることになったのだから。
「……国民投票の結果、きちんと精査致しました。……どうやら、英国国民諸君に於かれましては、私を死ぬまで働かせたい、という結果になった模様です。よって、最期の仕事として、英日同盟を確りと復活させてから、地獄へ旅立とうと思います。尤も、入れてくれるかどうかまでは、全く見当がつきませんが……」
国民投票の後、イギリス連邦は大日本帝国との同盟締結を再交渉し始めた。調査の結果より、大日本帝国の機嫌が大いに損なわれていることを把握したチェンバレンは、大日本帝国側の自尊心をくすぐる形で同盟再締結の交渉を開始。斯くて、1941年も9月になった頃には、早くも同盟再締結を行うための枠組が概ね確定した……。
「これで、やっと死ねる、か……」
「首相、大変です!」
「どうした?」
「陛下から、こんなものが……」
「……陛下から?」
チェンバレンが、もどかしそうに封を開けたら、次のものが封入されていた。それは、まだ各国が試作中であるはずの電気式の腕時計と、一通の手紙だった。
我が寵臣チェンバレンへ
まずは、18年振りの英日同盟の再締結おめでとう。朕は余り派手な演説はできない性質なので簡潔に書くことにしよう。
……貴殿を、北アイルランド大公に任ずる。公爵よりも上である旨を考えたが、さすがに「護国卿」は縁起が悪すぎるし、だったら僻まれないように、しかしきちんと報いられるような立場に任じようと思った。
卿を貴族として取り立てることを、許して欲しい。なんだったら、断っても構わない。だが、朕の心だけは、信じて欲しい。
大英帝国皇帝、ジョージ6世
「……ッッ!!」
「首相?」
「……私は、世界一幸運な目に合ったようだ……。だが、それでも」
「……首相、何が書かれてたんです?」
「少し、待ってなさい」
「はあ……」
「これを、皇帝陛下に」
「あ、はい、畏まりました」
「陛下、チェンバレン首相より返事の手紙を預かって参りました」
「早いな。して、何と書いてある」
「ははっ、此方で御座います」
「うむ」
偉大なる我が主ジョージ6世陛下へ
まずは、北アイルランド大公位、ありがとうございます。私はあくまでも選挙民と同じ一平民で居とう御座いました。どうも、宮廷にて他の貴族と舌戦を合わせられる自信がありませんので。
しかし、それでも尚私に大公位を戴けるというのであれば、断ったら断ったで不忠というもの。
老骨への年金であると思い、深々と頂戴仕ります。
北アイルランド大公、チェンバレン
「…………成る程」
「如何為さいましたか」
「……無事、受け取ってくれたようだ」
「それは、ようございましたな」
「ああ」
斯くて、チェンバレンは人生最後の舞台を北アイルランド大公として暮らすこととなった。後の回顧録に、「断るべきだったかもしれない」と書いた後に「しかし、たとえ俗物と思われようと、子孫が新興貴族と白眼視されようと、断るのは不忠である」と書かれており、如何に彼がその重責を扱うかためらっていた痕跡が見受けられる。
だが、日英同盟は抑止力としてこれ以上無い程、効果的に働くこととなる。少なくとも、イギリスはそう認識していた。だが、彼らが大日本帝国を「東洋の番犬」として侮っていることが、最後に致命傷となって効いてくることを知る者は、この場には誰も居ない。
「……案の定か、それでは、潔く……」
「いえ、それが……」
「どうしたというのかね、君等は私と違ってジェントリだろう、確りしたまえ」
「……一通目、「潔く議会で現役の儘死ね」。二通目、「今更引退など虫が良い」。三通目、「英日同盟はさておいてアンタが議会で死ぬ姿は見たい」。四通目、「ああ死ね、但し英日同盟は締結して貰うぞ」。五通目、「肉屋に負けるな」。六通目、「死んでから休め」。……ええと、概ね、以上の通りです」
「……はい?」
チェンバレンに寄せられた手紙は、文面こそ「死ね」だの「くたばれ」だのといった悪口であったが、その飾り文句には「但し議会で」だの「生涯現役でいろ」だの「同盟締結してからな!」とか「引退するな」とか書かれており、まあ言ってしまえば、次のようになる。
「……まあ、概ね意見としては「肉屋に負けんな、生涯現役の儘議会で回顧録でも書かれながら斃れろ」だそうで」
「……ハハッ」
なんともやれやれ、どうやら我等が国民達は非常にひねくれ者らしい。そして、残酷だ。この老骨にまだ鞭を打って働けと命ずるとは。
「……首相?」
「いやなに、確かに、酷い文面だね」
言葉とは裏腹に、チェンバレンはこれ以上無いほどの笑みを浮かべていた。何せ、彼自身は遂に、「国民の意思」という名目で英国史上最高の首相として人生を終えることを許されたのだから!
「それじゃ、挨拶してこようかね」
「……そうですね」
チェンバレンの秘書も、またはにかんでいた。何せ彼も万一チェンバレンが憤死してはいけないと思い黙って文面を読んでいて、案の定ドギツイ文句が躍っていることに当初怒りで震えていたが、よくよく読むと「議会で生涯現役の儘潔く名誉を受けて老衰しろ」という文面が大多数、否、ほぼ全てを占めるという異例の事態に、チェンバレンが如何に代議士として愛されていたかを知ることになったのだから。
「……国民投票の結果、きちんと精査致しました。……どうやら、英国国民諸君に於かれましては、私を死ぬまで働かせたい、という結果になった模様です。よって、最期の仕事として、英日同盟を確りと復活させてから、地獄へ旅立とうと思います。尤も、入れてくれるかどうかまでは、全く見当がつきませんが……」
国民投票の後、イギリス連邦は大日本帝国との同盟締結を再交渉し始めた。調査の結果より、大日本帝国の機嫌が大いに損なわれていることを把握したチェンバレンは、大日本帝国側の自尊心をくすぐる形で同盟再締結の交渉を開始。斯くて、1941年も9月になった頃には、早くも同盟再締結を行うための枠組が概ね確定した……。
「これで、やっと死ねる、か……」
「首相、大変です!」
「どうした?」
「陛下から、こんなものが……」
「……陛下から?」
チェンバレンが、もどかしそうに封を開けたら、次のものが封入されていた。それは、まだ各国が試作中であるはずの電気式の腕時計と、一通の手紙だった。
我が寵臣チェンバレンへ
まずは、18年振りの英日同盟の再締結おめでとう。朕は余り派手な演説はできない性質なので簡潔に書くことにしよう。
……貴殿を、北アイルランド大公に任ずる。公爵よりも上である旨を考えたが、さすがに「護国卿」は縁起が悪すぎるし、だったら僻まれないように、しかしきちんと報いられるような立場に任じようと思った。
卿を貴族として取り立てることを、許して欲しい。なんだったら、断っても構わない。だが、朕の心だけは、信じて欲しい。
大英帝国皇帝、ジョージ6世
「……ッッ!!」
「首相?」
「……私は、世界一幸運な目に合ったようだ……。だが、それでも」
「……首相、何が書かれてたんです?」
「少し、待ってなさい」
「はあ……」
「これを、皇帝陛下に」
「あ、はい、畏まりました」
「陛下、チェンバレン首相より返事の手紙を預かって参りました」
「早いな。して、何と書いてある」
「ははっ、此方で御座います」
「うむ」
偉大なる我が主ジョージ6世陛下へ
まずは、北アイルランド大公位、ありがとうございます。私はあくまでも選挙民と同じ一平民で居とう御座いました。どうも、宮廷にて他の貴族と舌戦を合わせられる自信がありませんので。
しかし、それでも尚私に大公位を戴けるというのであれば、断ったら断ったで不忠というもの。
老骨への年金であると思い、深々と頂戴仕ります。
北アイルランド大公、チェンバレン
「…………成る程」
「如何為さいましたか」
「……無事、受け取ってくれたようだ」
「それは、ようございましたな」
「ああ」
斯くて、チェンバレンは人生最後の舞台を北アイルランド大公として暮らすこととなった。後の回顧録に、「断るべきだったかもしれない」と書いた後に「しかし、たとえ俗物と思われようと、子孫が新興貴族と白眼視されようと、断るのは不忠である」と書かれており、如何に彼がその重責を扱うかためらっていた痕跡が見受けられる。
だが、日英同盟は抑止力としてこれ以上無い程、効果的に働くこととなる。少なくとも、イギリスはそう認識していた。だが、彼らが大日本帝国を「東洋の番犬」として侮っていることが、最後に致命傷となって効いてくることを知る者は、この場には誰も居ない。
1
あなたにおすすめの小説
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
電子の帝国
Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか
明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。
改大和型戦艦一番艦「若狭」抜錨す
みにみ
歴史・時代
史実の第二次世界大戦が起きず、各国は技術力を誇示するための
「第二次海軍休日」崩壊後の無制限建艦競争に突入した
航空機技術も発達したが、それ以上に電子射撃装置が劇的に進化。
航空攻撃を無力化する防御陣形が確立されたことで、海戦の決定打は再び「巨大な砲」へと回帰した。
そんな中⑤計画で建造された改大和型戦艦「若狭」 彼女が歩む太平洋の航跡は
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。
克全
歴史・時代
西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。
幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。
北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。
清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。
色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。
一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。
印旛沼開拓は成功するのか?
蝦夷開拓は成功するのか?
オロシャとは戦争になるのか?
蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか?
それともオロシャになるのか?
西洋帆船は導入されるのか?
幕府は開国に踏み切れるのか?
アイヌとの関係はどうなるのか?
幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる