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5.初任務:〇〇しないと出られない部屋
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橘さんを介抱したあの日から早1ヶ月。
彼は事あるごとに俺に絡んでくるようになっていた。
廊下ですれ違う時、オフィスで資料整理をしている時、食堂で昼食を取っている時……橘さんはまるで飼い主を見つけた犬のように駆け寄ってきては「今日もいい匂いだね♡」と嬉しそうに俺の体臭を嗅いでくる。
そして、それを死んだ魚のような目で躱す俺の図は今や技術開発部での日常風景と化しつつあった。
職場ではなるべく目立たず静かに過ごしたい俺にとっては迷惑以外の何物でもないのだが、俺の体臭を嗅ぐ事で橘さんの体調が安定するという話もあながち嘘ではないらしく……強く咎める事ができないというのが現状だ。
しかし、体臭を嗅がれる事以上に厄介なのは同僚達から向けられる羨望と好奇の眼差しだ。
元赤柴のエースであり、容姿も人柄も申し分ない橘さんと、ただの地味な黒柴職員の俺。
そんな相反する関係が興味をそそられるのか、職員の間で俺と橘さんの関係性は専ら噂になっていた。
最近では“あの蟲吐き王子に見そめられた男”などという不名誉極まりない呼び名まで生まれてしまった。
そもそも個人の嗜好というものは体質や生育環境、生活習慣など様々な要因が絡み合って形成されている。
それは犬憑きも例外ではない。
つまり橘さんはたまたま、偶然、図らずも俺の体臭を気に入っただけで、俺個人に特別な感情を抱いているわけではないのだ。
それでも、どうしてよりによって俺なんだと思わずにはいられないけれど。
できることなら橘さんのセクハラ行為は訴えてやりたいところだが、残念なことに柴は犬憑きファーストの組織。
橘さんによるセクハラ行為を俺が訴え出たところで「犬憑きのQOL向上は怪異探知能力の精度に影響するため必要な行為である」と判断が下され、逆に俺が注意を受ける羽目になることは目に見えている。
そんな日々が続いたある日のこと。
「……異界モバイルの性能テスト?」
プロジェクトリーダーである神崎さんから告げられたのは、ある新製品の試作機を用いた実地試験に俺が指名されたという知らせだった。
デスク上に置かれたクリアファイルには、『異世界からの通信を可能にする次世代型携帯電話』という仰々しい煽り文句が記載された資料が挟まれている。
開発品の実地試験は技術開発部の業務の中でも難易度が高く、対応を誤れば命に関わる場合もある。
だからこそその任務に当たるには相当な経験と実力を備えた職員が選出されるはずなのだが。
俺は椅子のキャスターを滑らせ、背後に立つ神崎さんに向き直ると訝しげに眉をひそめた。
特徴的な丸眼鏡に白髪交じりの頭。
くたびれた白衣を身に纏った中年男性は、痩せこけた頬に苦笑いを浮かべて頭を搔いた。
「いやー急に悪いね。担当の増村君が急遽入院することになっちゃってさ」
「……でも俺、実地試験の経験なんてないですよ」
「実地試験って言っても、今回はただ異空間に赴いて通信テストをして帰ってくるだけだから。そんなに難しいもんじゃないよ」
優秀な君なら大丈夫大丈夫!なんて気軽に言ってのける神崎さんを恨めしげに見やりつつ、俺は「はあ」と気のない返事を返す。
「にしても急すぎじゃありませんか。明日だなんて……俺、今バディも居ませんし」
「それなら大丈夫。橘君にはもう話を通してあるから」
「…………は?」
神崎さんからの思いがけない言葉に、俺は目を見開いた。
「橘君は現場経験が豊富で怪異探知能力にも長けているし、実地試験の経験が無い君のペアには最適だと思うんだ。それに、佐竹君と一緒に居ると彼の体調も安定するみたいだし」
やつれた顔に喜色を滲ませて語る神崎さんの一言に、俺は思わず顔を引き攣らせる。
「ん、なに?呼んだー?」
少し遠くで作業をしていた橘さんが、俺たちの会話に気が付いたのか人懐っこい笑みを浮かべて近づいてくる。
そして俺と神崎さんの顔を交互に見つめながら、不思議そうに首を傾げた。
「橘くん、明日の実地試験の件よろしく頼むよ」
「ああ!それなら任せてください。佐竹君と一緒なら心強いし、俺も嬉しいですよ」
「あの……橘さん?」
神崎さんから任命された以上、俺が口を出す余地はないのだけれど……正直この人と組むのはちょっと……いやかなり遠慮したい。
しかしそんな俺の心情など知る由もない2人は、和やかに会話を続けている。
今から新しい相手を探すのも億劫だし、何より橘さんをチェンジしたいなんて言ったらそれこそ周囲から反感を買いかねない。
ここは腹を括るしかなさそうだ。
「……いえ、せっかくなんで勉強させて頂きます」
「へへ、じゃあよろしくね!」
こうして俺の意思とは裏腹に、橘さんとの初めての任務が始まるのだった。
「……〇〇まるまるしないと出られない部屋?」
俺が運転する車の助手席で、橘さんは資料に記載された怪異の概要を読みながら不思議そうな声を上げた。
「はい、この怪異はその名の通り……対象を異空間へ閉じ込めるという性質を持っているようです。ただ、脱出条件さえ満たせば元の世界へ戻れるそうですが」
そんな俺の言葉を聞いて橘さんは「へぇー……」と感心したような声を上げた。
今回俺たちに課された任務は、『怪異が作り出す異空間へ赴き、“異界モバイル”の通信テストを行うこと』だ。
異界モバイルとは、異世界や異空間と呼ばれる別世界からの通信を可能にする次世代型携帯電話だ。
怪異による神隠し被害が多発する昨今。
異空間との通信手段を確保できれば、より異空間での怪異調査が捗る他、神隠しで失踪した人物の捜索などにも役立つ。
そんな期待を胸に始動したプロジェクトだったが、開発は難航し……ようやく試作品が完成したのがつい先日のこと。
実際の使用環境での通信テストを行うために異空間へ赴く必要があった。
そして、その実験場として選ばれたのが今世間を騒がせている“〇〇しないと出られない部屋”だ。
出没率が高く比較的容易に異空間へ辿り着くことができる上に危険度が低いとされているため、今回の任務には最適だとプロジェクトリーダーが判断したのだった。
ひと月ほど前から首都圏を中心に出没しているその怪異は、突如ぽつんと出現する扉を開けてしまうと真っ白な部屋へと強制的に閉じ込められるというものらしい。
そして、その部屋には「〇〇しないと出られない」という脱出条件が書かれた看板と大きなベッドだけが設置されているのだそうだ。
看板に書かれている条件はランダムで、その難易度も様々。
ただ、この怪異は2人で遭遇した際に初めて発動する性質を持っているとみて間違いないとの事だ。
「……ハグしないと出られない部屋、手を繋がないと出られない部屋……あ、2人で巨大パフェを完食しないと出られない部屋なんてのもあるよ。俺、これがいいな~」
橘さんはこれまでに報告された脱出条件を読み上げながら楽しそうに笑いかけてくるが、俺は曖昧な表情を浮かべることしかできなかった。
そう。
この「出られない部屋」の脱出条件の中にはカップルがするような行為も含まれている。
むしろ大半の脱出条件がそれだ。
キスやハグなんて可愛いもので、それ以上のもっと過激で生々しい行為を強制される部屋も報告に上がっている。
そういった性質上、最近では若いカップルが面白半分で「〇〇しないと出られない部屋」へ入ってしまう事例も急増しており問題となっている。
2人の絆を試すための試練だの、2人の仲を深めるための試練だのと……SNS上では前向きに捉える声が拡散されているようだが、そんな馬鹿げた理由で自ら怪異に接近する奴らの気がしれない。
万が一、実行不可能な条件の部屋に閉じ込められてしまったらどうするつもりなのだろうか。
「佐竹君はどんな部屋がいい?」なんて無邪気に聞いてくる橘さんを横目に、俺は小さくため息をついたのだった。
真昼間の住宅街。
各家の洗濯物がのんびりと風にはためき、そよそよと穏やかな陽気にカーテンが揺れている。
買い物帰りの主婦らしき女性や犬を連れた散歩中の老夫婦……気味の悪い不穏な存在とは無縁の、平和な光景だ。
橘さんの鼻を頼りに怪異の気配を探りつつ車を走らせること数十分。
特に怪異の匂いが強いエリアに辿り着いた俺たちは、近くのコインパーキングに車を停車させ周辺を探索することにした。
「ねぇ、この仕事が終わったら2人でご飯食べに行こうよ」
俺の隣を歩く橘さんは甘い垂れ目を細めながらそう微笑んだ。
「仕事中ですよ。もっと緊張感を持ってください」
「えー。せっかくバディになったんだし、親睦を深めるのも大事なことだと思うけどなー」
「バディと言っても臨時ですからね。あまり慣れ合う必要は無いかと」
実地試験というものはもっと緊張感のある雰囲気の中行われるものだと思っていたのだが、橘さんの緩い態度のせいで俺もなんだか気が抜けてしまう。
しかし、橘さんは俺の素っ気ない態度など気にする素振りもなく、鼻歌交じりに長い足で歩を進めている。
こんな調子で本当に異空間への扉までたどり着くことが出来るのか?
そう思った矢先のことだった。
橘さんは急に足を止めると、すんと鼻を鳴らしながら周囲を見渡した。
「こっち」
細い路地を通り抜け、角を曲がり……まるで迷路のように入り組んだ道を迷いのない足取りで進んでいく。
そして辿り着いたのは、住宅街の片隅にひっそりと佇む小さな公園だった。
公園と言っても、あるのは古びたブランコと砂場だけ。
平日の真昼間ということもあり、子供たちの姿はなく……静寂が辺りを包み込んでいる。
「……あ」
そんな公園の砂場に、不気味な存在感を放つ真っ白な扉がぽつんと佇んでいた。
アンティーク調の片開き戸。
それは、某SFアニメに登場する猫型ロボットがポケットから出す便利アイテムを彷彿とさせた。
「まさか、あれが……?」
「そうみたいだね。行こうか」
「え、あ、はい」
橘さんはそう言って、なんの躊躇もなくその扉へと近づいて行く。
慣れから来る余裕なのか、はたまた怪異に対する恐怖心が欠如しているのか……。
俺はそんな橘さんの背中を追いかけながら改めて心の準備を済ませた。
扉の前に並んで立って目配せをする。
橘さんの手がドアノブにかけられるのを確認し、俺はゴクリと唾を呑んだ。
どうか簡単なお題でありますように。
そんな俺の不安など知る由もない橘さんは「たのも~」と気抜けするような掛け声を発しながらドアノブを捻った。
「……えっ」
瞬きをしたほんの僅かな時間。
気がつけば、俺と橘さんは真っ白な部屋の中にいた。
広さにして20畳程度だろうか。
窓や照明の類が一切見た当たらないが、なぜか室内は程よい明るさに保たれている。
「ここが……異空間?」
部屋の中央にはこの無機質な空間には似つかわしくない、アンティーク調の天蓋付きベッドがひとつ。
高級感溢れるそれは、この殺風景な部屋では異様な存在感を放っていた。
「わ~!でっかいベッド~!」
橘さんはその異様な光景を目の当たりにしてもなお、緊張感のない口調で目を輝かせてベッドへと駆け寄って行く。
俺は扉の前に立ち尽くしたまま、橘さんがベッドにダイブする様を呆然と眺めていた。
「佐竹君もおいでよ。ふかふかで気持ちいいよ~」
「ちょっと、なにがあるかわかりませんし……不用意に近づかない方が」
「大丈夫大丈夫。弱い怪異の気配しか感じないし」
橘さんはベッドに仰向けに寝転んだまま手招きをしている。
その危機感のない様子に呆れながらも、俺は部屋の中をぐるりと見回した。
ベッドの他にあるのは壁に取り付けられた扉と、その上に設置された看板だけ。
そこには『相手を笑わせないと出られない部屋』と書かれていた。
試しにドアノブを捻ってみるが、案の定施錠されているらしく、押しても引いてもびくともしない。
「相手を笑わせないと出られない部屋……かぁ」
橘さんはベッドに仰向けに寝転んだまま、ぽつりとそう呟いた。
キスだのハグだのといったお題でなくて良かった、と安堵する反面……この看板を信じるならば俺は橘さんを笑わせなければならないということになる。
果たして俺にそんな芸当ができるだろうか。
「……ひとまず、異界モバイルの通信テストをしましょう」
俺はジャケットの内ポケットから異界モバイルを取り出しながらベッドへ歩み寄った。
「それが異界モバイル?俺、もっと近未来的な感じの想像してたんだけど……」
ベッドのふちに腰掛けると、橘さんが寝返りをうって俺の手元を覗き込んでくる。
「見た目はガラケーですが、中身は最新技術が詰め込まれてるんですよ」
彼の言う通り、異界モバイルのフォルムはまさに“ガラケー”そのもの。
開発過程でこの形状が最も通信が安定するという結論に至ったのだが、今の時代にそぐわない……言ってしまえばかなりダサいデザインをしている。
シルバーの本体は折りたたみ式になっており、上半分は液晶画面、下半分はボタンが並んだ操作パネルになっている。
俺は操作パネルに指を滑らせて連絡先一覧の中から神崎さんの名前を選び通話ボタンを押した。
ぷるるるるる……というお決まりのコール音が2回ほど響き、「はい」と聞き慣れた声が応答する。
「佐竹です。神崎さん、聞こえますか?」
「おー繋がったね。うん、よく聞こえるよ」
神崎さんはいつもと変わらない調子でそう答えた。
ひとまず無事繋がった事に安心しつつ、スピーカーモードに切り替えて橘さんにも会話が聞こえるようにする。
「では、通信テストも兼ねて現在の状況を報告します」
俺は室内の様子や看板の内容、そして脱出条件などをかいつまんで説明していく。
一般的な通信機器は異空間では電波が遮断されて使い物にならなくなるのだが、異界モバイルは特殊技術によってその常識を覆した優れ物なのだ。
問題はどれだけの時間安定して通信できるかという点だが……。
「橘君の調子はどうだい?久しぶりの任務で体調を崩したりしていないかな?」
「えーっと……体調は問題なさそうです。今はベッドに横になって寛いでいます」
ちらりと橘さんの方を一瞥すると、彼はひらひらと手を振って「心配無用でーす」と笑った。
「そうかい。それなら良かった。じゃああとはメッセージの送受信テストをよろしくね。さっきこちらからメッセージを送信したけど届いてる?」
メールボックスを確認すると、神崎さんから1件のメッセージが届いていた。
トイプードルを抱えた神崎さんの写真と共に『2人の初任務、頑張ってね』とのメッセージが添えられている。
「はい、ちゃんと届いてます。こちらからも送りま……」
「ん?電波の調子が悪いのかな?ノイズが入ってるね」
「……あ、いえ。大丈夫です。すみません。こちらからもメッセージを送信しますね」
適当な文章を入力して送信ボタンを押せば、10秒ほどの間を置いて神崎さんから返事が返ってきた。
「うん、問題なく届いてるみたいだね。じゃあそろそろ脱出条件の実行を……よ……うかな。佐竹く……笑わ……」
「もしもし?すみません、ノイズが酷くて」
音声がぷつぷつと途切れ始め、やがて完全に通信が途切れてしまった。
「……5分28秒」
通信が安定していた時間だ。
異界モバイルの液晶画面には『圏外』の文字が表示されている。
もう一度神崎さんに電話をかけてみるが、やはり繋がらない。
「うーん……ここまでか」
俺は異界モバイルをジャケットの内ポケットに戻しながら小さくため息をついた。
それでも従来の携帯電話では考えられないほどの時間、現実世界と通信ができたということになる。
これは大きな成果だ。
「電話、切れちゃった?」
「ええ。通信テストは一旦終了ですね」
「そっかあ。じゃあ、ここからは2人で協力し合って脱出条件をクリアしないとだね」
「それはそうなんですが……その前に、ひとついいですか?」
「ん?なに?」
俺は自分の膝に視線を落としながら、真っ直ぐな眼差しでこちらを見上げる橘さんに問いかけた。
「人の足でくつろぐの、やめてもらっていいですか?」
先ほどから気になっていたのだが……通話中、橘さんはベッドに腰掛ける俺の足を枕代わりにして寝転んでいたのだ。
いわゆる膝枕という状態になっている俺の足は、橘さんの頭の重さや体温をダイレクトに感じている。
「あ、ごめん。電話の邪魔だったよね」
「そういう問題ではなく……枕ならそこに高そうなのが沢山あるでしょう」
俺はベッドの枕元に並べられたクッションを視線で指し示した。
「え~?だってこっちの方が佐竹君の匂いを近くで感じられるし」
「まぁそんな事だろうとは思いましたけど」
「今日は扉探しでたくさん歩いて疲れたし……ちょっとだけ休憩させてよ」
そっと目を閉じる橘さんの顔は少し疲労の色が浮かんでいる。
持病の影響で極端に体力が低下しているとは聞いていたが、こんな短時間で疲労してしまうとは。
そんな橘さんを見ていたらそれ以上文句など言えるはずもなく……俺は小さくため息を吐いて「仕方ないですね」と呟いたのだった。
それから10分ほど経過した頃。
俺は一向に膝から退く気配のない橘さんに困り果てていた。
「あの、そろそろ部屋から出たいんですけど」
「んー……」
俺の膝上で寝返りをうった橘さんは、そのまま腹側に顔をすり寄せてきた。
どこまでマイペースなんだこの人は。
「そういえば俺、佐竹君の笑った顔一度も見た事ないかも」
ぽつりとそう呟く橘さんは、俺の腹に顔を埋めたまま横目だけでこちらを見上げてきた。
「子供の頃からずっとこんな感じですよ。感情表現が苦手なんです」
「うーん。これは手強そうだぞ」
俺もあのお題を目にした瞬間から、この部屋の攻略法をずっと考えていた。
笑いのセンスを待ち合わせていない俺が橘さんを笑わせるにはどうしたらいいのか?
その答えは案外シンプルなものだった。
この部屋の脱出条件は“相手を笑わせる事”としか書かれていなかった。
ということはつまり、愛想笑いや冷笑、苦笑い……など、“笑いの種類は問わない”ということではないだろうか。
「……あの、俺に考えがあるのですが」
俺はその仮説を橘さんに説明し、協力を仰ぐことにした。
「なるほど。佐竹君の仮説が正しければ、口角さえ上がらせることができたら笑顔判定になる…ってことだよね」
「おそらく……」
「……よーしじゃあ早速試してみよう」
橘さんはがばりと身体を起こし、俺の肩をがっちり掴んだ。
その顔はやる気に満ち溢れており、すでに妙な緊張感すら漂っている。
そんな橘さんの様子に気圧されつつも俺は小さく頷いたのだった。
一体どんなギャグを披露してくれるのだろうか、と身構えていた俺だったが……。
「隣の家に囲いができたって」
あまりにもベタなダジャレに、俺は思わず真顔になってしまった。
「は?」と口から出そうになった言葉を飲み込みつつ橘さんの表情を伺ったものの、彼は俺からの返答を期待しているらしくキラキラした眼差しでこちらを見つめている。
「…………へ、へぇ。かっこいー……」
一拍遅れてなんとか口角を釣り上げて笑みを作って見せるが、実際のところはかなり辛い状況だ。
そんな俺のぎこちない笑顔は、この部屋の求める“笑顔”とは程遠いものかもしれない。
「あはは!佐竹くんすごい顔してる」
「あんなしょうもないダジャレで笑えるわけないでしょう」
「まぁまぁ、そう言わず。ほらスマイルスマイル~」
俺が険しい顔をしているのを気遣ってか、橘さんは俺の頬に手を添えてむにむにと揉みほぐしてくる。
ひんやりとした橘さんの手が頬の熱を吸い取っていく。
「はい、次は佐竹君の番だよ」
俺の頬からぱっと手を離した橘さんにそう促され、俺は小さくため息を吐いた。
そして橘さんの顔をまじまじと見つめながら、何か笑いを誘うような話題はないかと頭をフル回転させる。
「……“お寿司屋さん”と掛けまして“すごろく”と解きます」
「その心は?」
「どちらも最後はあがりでしょう」
「…………」
「…………」
完全に滑った。
キョトンとした顔で俺を見つめる橘さんの視線が痛い。
「あっ!そう言うことか!へぇ~、面白いねぇ」
数秒の沈黙の末、橘さんはぱちぱちと手を叩きながらお見事!と言わんばかりの笑顔で笑った。
滑ったかどうかは別として、とにかく橘さんの“愛想笑い”を引き出すことには成功したようだ。
しかし、なにか大切なものを失った気がするのはなぜだろうか。
「これで脱出条件クリア……ってことになるはず、です」
俺たちはベッドから降りて扉の方へと歩み寄った。
恐る恐るドアノブを捻り、ゆっくりと扉を押してみれば……。
「……開きません」
押しても引いても扉はびくともしない。
やはり、作り笑いでは脱出条件をクリアしたことにならないのか?
落胆する俺とは対照的に橘さんは「うーん、ダメかぁ」とさほど残念でもなさそうに呟いた。
俺たちは再びベッドに腰掛けて作戦を練り直すことにした。
「橘さんの愛想笑いは大したもんでしたよ」
「俺、愛想笑いなんてしてないよ。心から笑ってたもん」
この人の言葉はどこまでが本心なのか、俺にはさっぱりわからない。
とはいえ、橘さんの言葉が事実なら脱出の足を引っ張っているのは俺ということになる。
「んー。ちょっと強引だけど……別の方法を試してみようか」
そう言って、橘さんはおもむろに俺の両脇に手を差し入れてきた。
そしてそのまま指をこしょこしょと動かしながら俺の脇腹をくすぐり始めた。
「こちょこちょ~」
「…………」
「こちょこちょ~」
「…………」
橘さんはにこにこと楽しそうな笑顔で俺をくすぐっているが、俺の表情筋はピクリとも動かない。
元々くすぐりが効かない体質なのか、それとも橘さんが下手くそなのか……。
いずれにせよ、この行為も無駄骨に終わりそうだ。
俺は自分の表情筋の硬さに少し絶望しながら橘さんのくすぐり攻撃を真顔のまま受け続けたのだった。
「…………ふは、」
程なくして先に音を上げたのは橘さんの方だった。
「あはは、駄目だ。全然効かない~」
橘さんは俺の膝の上に倒れ込み、腹を抱えて笑い出す。
真顔でくすぐり攻撃を受ける俺がツボにハマったらしい。
というか、またしても膝上に頭を乗せられてしまった。
ふにゃふにゃと気の抜けた笑みを浮かべる橘さんを見ていると、だんだん申し訳なくなってくる。
「すみません。俺、本当に表情筋が硬くて……最後に心から笑ったのがいつだったかも記憶にないんです」
「えっ……そんな事ある……?」
「自分でももう少し愛想良くするべきかなとは思ってるんですけどね。無愛想な人間とは仕事もやりづらいでしょうし」
正直、今更愛想良く振舞ったところで気味悪がられるだけだろうと諦めている節もある。
無愛想なせいで知らない間に損をしていた事もあったかもしれないが、日常生活に支障はないのだ。
「俺は今の佐竹君も好きだよ」
「それはどうも」
ただの社交辞令だろうと適当に相槌を打てば、「あ、信じてないな~」と橘さんは少し不満げな様子で笑う。
「佐竹君はさ。初めて俺の事介抱してくれた日のこと、覚えてる?」
突然何を言い出すかと思えば、橘さんはまるで世間話でもするかのようにそんな事を聞いてきた。
「……ええ、資料室で発作を起こした橘さんを偶然見つけて」
初めて橘さんを介抱した日。
それは、俺が初めて蟲吐き病の発作を目の当たりにした日でもある。
当時はまだ簡単な知識しか持ち合わせていなかったため、蟲吐き病の発作がどういうものなのかも理解していなかった。
吐血を伴うものは蟲吐き病の発作の中でも特に重いもので、普段はただ少量の虫を吐くだけだと知ったのは後日ネットで調べてからの事だった。
「あの時ね、すごく嬉しかったんだ。大抵の人は俺が虫吐いてるとこ見ると分かりやすく表情が強張るのに、佐竹君ってば全然動じなくてさ。顔色ひとつ変えずに背中をさすってくれて心強かった」
「ああ……あれはまぁ、自分でも思ったより落ち着いて対応できたなとは思います」
淡々とそう答えれば、橘さんは嬉しそうに目を細めた。
「俺、あの日から佐竹君みたいな人がバディだったらいいな~って思ってたんだよね。だから今こうして一緒に仕事できて嬉しい」
橘さんの大きな丸い瞳に見つめられ、俺は思わず言葉に詰まってしまった。
確かにあの日を境に橘さんはよく俺に絡んでくるようになったと思う。
しかしそれはただ単に俺の体臭が彼にとって非常に好ましいものだからだと解釈していたのだが。
ちゃんと内面も評価されていたとは。
俺は大きな勘違いをしていたことを反省しつつ、橘さんへの認識を改めたのだった。
「橘さんは俺の体目当てだとばかり思っていました」
「体目当て!?俺、そんな最低な男だと思われてたの!?」
ガバッと勢いよく身体を起こした橘さんは、心外だと言わんばかりに目を丸くしている。
まさか今まで自覚がなかったのか、この人は。
「だって、いつも俺の体臭がどうのこうのと迫って来るじゃないですか」
「………………体臭?あ、ああ~!そういう事か!びっくりした~」
橘さんは俺の肩を軽く叩きながら、はははと朗らかに笑った。
彼の奇妙な反応に一瞬思考が停止する。
それから程なくして、自分がとんでもない語弊のある言い方をしていたことに気が付いた。
顔に熱が集中するのを感じ、慌てて訂正しようと口を開く。
「すみません、今のは語弊が……誤解を生むような言い方でしたね」
「あはは、大丈夫大丈夫。佐竹君の匂いが好きなのは間違ってないから。でも体臭を嗅ぐためだけに接近してるって思われたのは心外だなぁ」
橘さんは小さく笑みを浮かべながら俺の顔を覗き込んできた。
「俺、佐竹君と仲良くなりたくて必死だったのに」と唇を尖らせる橘さんの表情はどこか拗ねているようにも見える。
「さりげなくお昼誘ったり、佐竹君の好きそうなお菓子の差し入れしてみたり……仕事中もちょくちょく話しかけたり。俺なりにアプローチしてたつもりなんだけどなぁ」
「全く気づきませんでした」
橘さんは人懐っこく誰とでも分け隔てなく接していた印象だったし、対俺に関しては体臭を嗅ぐためのご機嫌取りの一環だと解釈していたため、そんなアピールをされているとは夢にも思わなかった。
いつも余裕たっぷりで飄々としている彼が、俺のような根暗と親しくなるためにあれこれ画策し、必死になっている姿を想像するとなんだか急におかしくなってくる。
「佐竹君が笑った」
「え?」
そう言われて初めて自分が笑っていることを知った。
「俺、今笑ってました?」
「うん、ほんの少しだけどちゃんと笑ってたよ」
橘さんは俺の顔をまじまじと見つめながら、うんうんと満足そうに頷いている。
……と、いうことは。
ガチャリ。
突然扉の方から鍵が開くような音がして、俺と橘さんは反射的にそちらへ顔を向けた。
「もしかして今のでクリアしたんじゃない?」
俺たちは扉に駆け寄り、ドアノブを捻ってみれば……案の定、扉はすんなりと開いた。
扉の向こうには俺たちが居た公園が広がっている。
「やった、脱出成功だ」
「みたいですね。良かったです」
「これからもっと佐竹君の笑顔が見れたら嬉しいな」
視界が眩い光に包まれる直前、そんな橘さんの声が聞こえた気がした。
その後、無事帰還を果たした俺たちは報告のために本部へと向かった。
車に乗り込むなり助手席で寝息を立て始めた橘さんを見て、本当に自由な人だと呆れながらも俺はどこか穏やかな気持ちでハンドルを握っていたのだった。
彼は事あるごとに俺に絡んでくるようになっていた。
廊下ですれ違う時、オフィスで資料整理をしている時、食堂で昼食を取っている時……橘さんはまるで飼い主を見つけた犬のように駆け寄ってきては「今日もいい匂いだね♡」と嬉しそうに俺の体臭を嗅いでくる。
そして、それを死んだ魚のような目で躱す俺の図は今や技術開発部での日常風景と化しつつあった。
職場ではなるべく目立たず静かに過ごしたい俺にとっては迷惑以外の何物でもないのだが、俺の体臭を嗅ぐ事で橘さんの体調が安定するという話もあながち嘘ではないらしく……強く咎める事ができないというのが現状だ。
しかし、体臭を嗅がれる事以上に厄介なのは同僚達から向けられる羨望と好奇の眼差しだ。
元赤柴のエースであり、容姿も人柄も申し分ない橘さんと、ただの地味な黒柴職員の俺。
そんな相反する関係が興味をそそられるのか、職員の間で俺と橘さんの関係性は専ら噂になっていた。
最近では“あの蟲吐き王子に見そめられた男”などという不名誉極まりない呼び名まで生まれてしまった。
そもそも個人の嗜好というものは体質や生育環境、生活習慣など様々な要因が絡み合って形成されている。
それは犬憑きも例外ではない。
つまり橘さんはたまたま、偶然、図らずも俺の体臭を気に入っただけで、俺個人に特別な感情を抱いているわけではないのだ。
それでも、どうしてよりによって俺なんだと思わずにはいられないけれど。
できることなら橘さんのセクハラ行為は訴えてやりたいところだが、残念なことに柴は犬憑きファーストの組織。
橘さんによるセクハラ行為を俺が訴え出たところで「犬憑きのQOL向上は怪異探知能力の精度に影響するため必要な行為である」と判断が下され、逆に俺が注意を受ける羽目になることは目に見えている。
そんな日々が続いたある日のこと。
「……異界モバイルの性能テスト?」
プロジェクトリーダーである神崎さんから告げられたのは、ある新製品の試作機を用いた実地試験に俺が指名されたという知らせだった。
デスク上に置かれたクリアファイルには、『異世界からの通信を可能にする次世代型携帯電話』という仰々しい煽り文句が記載された資料が挟まれている。
開発品の実地試験は技術開発部の業務の中でも難易度が高く、対応を誤れば命に関わる場合もある。
だからこそその任務に当たるには相当な経験と実力を備えた職員が選出されるはずなのだが。
俺は椅子のキャスターを滑らせ、背後に立つ神崎さんに向き直ると訝しげに眉をひそめた。
特徴的な丸眼鏡に白髪交じりの頭。
くたびれた白衣を身に纏った中年男性は、痩せこけた頬に苦笑いを浮かべて頭を搔いた。
「いやー急に悪いね。担当の増村君が急遽入院することになっちゃってさ」
「……でも俺、実地試験の経験なんてないですよ」
「実地試験って言っても、今回はただ異空間に赴いて通信テストをして帰ってくるだけだから。そんなに難しいもんじゃないよ」
優秀な君なら大丈夫大丈夫!なんて気軽に言ってのける神崎さんを恨めしげに見やりつつ、俺は「はあ」と気のない返事を返す。
「にしても急すぎじゃありませんか。明日だなんて……俺、今バディも居ませんし」
「それなら大丈夫。橘君にはもう話を通してあるから」
「…………は?」
神崎さんからの思いがけない言葉に、俺は目を見開いた。
「橘君は現場経験が豊富で怪異探知能力にも長けているし、実地試験の経験が無い君のペアには最適だと思うんだ。それに、佐竹君と一緒に居ると彼の体調も安定するみたいだし」
やつれた顔に喜色を滲ませて語る神崎さんの一言に、俺は思わず顔を引き攣らせる。
「ん、なに?呼んだー?」
少し遠くで作業をしていた橘さんが、俺たちの会話に気が付いたのか人懐っこい笑みを浮かべて近づいてくる。
そして俺と神崎さんの顔を交互に見つめながら、不思議そうに首を傾げた。
「橘くん、明日の実地試験の件よろしく頼むよ」
「ああ!それなら任せてください。佐竹君と一緒なら心強いし、俺も嬉しいですよ」
「あの……橘さん?」
神崎さんから任命された以上、俺が口を出す余地はないのだけれど……正直この人と組むのはちょっと……いやかなり遠慮したい。
しかしそんな俺の心情など知る由もない2人は、和やかに会話を続けている。
今から新しい相手を探すのも億劫だし、何より橘さんをチェンジしたいなんて言ったらそれこそ周囲から反感を買いかねない。
ここは腹を括るしかなさそうだ。
「……いえ、せっかくなんで勉強させて頂きます」
「へへ、じゃあよろしくね!」
こうして俺の意思とは裏腹に、橘さんとの初めての任務が始まるのだった。
「……〇〇まるまるしないと出られない部屋?」
俺が運転する車の助手席で、橘さんは資料に記載された怪異の概要を読みながら不思議そうな声を上げた。
「はい、この怪異はその名の通り……対象を異空間へ閉じ込めるという性質を持っているようです。ただ、脱出条件さえ満たせば元の世界へ戻れるそうですが」
そんな俺の言葉を聞いて橘さんは「へぇー……」と感心したような声を上げた。
今回俺たちに課された任務は、『怪異が作り出す異空間へ赴き、“異界モバイル”の通信テストを行うこと』だ。
異界モバイルとは、異世界や異空間と呼ばれる別世界からの通信を可能にする次世代型携帯電話だ。
怪異による神隠し被害が多発する昨今。
異空間との通信手段を確保できれば、より異空間での怪異調査が捗る他、神隠しで失踪した人物の捜索などにも役立つ。
そんな期待を胸に始動したプロジェクトだったが、開発は難航し……ようやく試作品が完成したのがつい先日のこと。
実際の使用環境での通信テストを行うために異空間へ赴く必要があった。
そして、その実験場として選ばれたのが今世間を騒がせている“〇〇しないと出られない部屋”だ。
出没率が高く比較的容易に異空間へ辿り着くことができる上に危険度が低いとされているため、今回の任務には最適だとプロジェクトリーダーが判断したのだった。
ひと月ほど前から首都圏を中心に出没しているその怪異は、突如ぽつんと出現する扉を開けてしまうと真っ白な部屋へと強制的に閉じ込められるというものらしい。
そして、その部屋には「〇〇しないと出られない」という脱出条件が書かれた看板と大きなベッドだけが設置されているのだそうだ。
看板に書かれている条件はランダムで、その難易度も様々。
ただ、この怪異は2人で遭遇した際に初めて発動する性質を持っているとみて間違いないとの事だ。
「……ハグしないと出られない部屋、手を繋がないと出られない部屋……あ、2人で巨大パフェを完食しないと出られない部屋なんてのもあるよ。俺、これがいいな~」
橘さんはこれまでに報告された脱出条件を読み上げながら楽しそうに笑いかけてくるが、俺は曖昧な表情を浮かべることしかできなかった。
そう。
この「出られない部屋」の脱出条件の中にはカップルがするような行為も含まれている。
むしろ大半の脱出条件がそれだ。
キスやハグなんて可愛いもので、それ以上のもっと過激で生々しい行為を強制される部屋も報告に上がっている。
そういった性質上、最近では若いカップルが面白半分で「〇〇しないと出られない部屋」へ入ってしまう事例も急増しており問題となっている。
2人の絆を試すための試練だの、2人の仲を深めるための試練だのと……SNS上では前向きに捉える声が拡散されているようだが、そんな馬鹿げた理由で自ら怪異に接近する奴らの気がしれない。
万が一、実行不可能な条件の部屋に閉じ込められてしまったらどうするつもりなのだろうか。
「佐竹君はどんな部屋がいい?」なんて無邪気に聞いてくる橘さんを横目に、俺は小さくため息をついたのだった。
真昼間の住宅街。
各家の洗濯物がのんびりと風にはためき、そよそよと穏やかな陽気にカーテンが揺れている。
買い物帰りの主婦らしき女性や犬を連れた散歩中の老夫婦……気味の悪い不穏な存在とは無縁の、平和な光景だ。
橘さんの鼻を頼りに怪異の気配を探りつつ車を走らせること数十分。
特に怪異の匂いが強いエリアに辿り着いた俺たちは、近くのコインパーキングに車を停車させ周辺を探索することにした。
「ねぇ、この仕事が終わったら2人でご飯食べに行こうよ」
俺の隣を歩く橘さんは甘い垂れ目を細めながらそう微笑んだ。
「仕事中ですよ。もっと緊張感を持ってください」
「えー。せっかくバディになったんだし、親睦を深めるのも大事なことだと思うけどなー」
「バディと言っても臨時ですからね。あまり慣れ合う必要は無いかと」
実地試験というものはもっと緊張感のある雰囲気の中行われるものだと思っていたのだが、橘さんの緩い態度のせいで俺もなんだか気が抜けてしまう。
しかし、橘さんは俺の素っ気ない態度など気にする素振りもなく、鼻歌交じりに長い足で歩を進めている。
こんな調子で本当に異空間への扉までたどり着くことが出来るのか?
そう思った矢先のことだった。
橘さんは急に足を止めると、すんと鼻を鳴らしながら周囲を見渡した。
「こっち」
細い路地を通り抜け、角を曲がり……まるで迷路のように入り組んだ道を迷いのない足取りで進んでいく。
そして辿り着いたのは、住宅街の片隅にひっそりと佇む小さな公園だった。
公園と言っても、あるのは古びたブランコと砂場だけ。
平日の真昼間ということもあり、子供たちの姿はなく……静寂が辺りを包み込んでいる。
「……あ」
そんな公園の砂場に、不気味な存在感を放つ真っ白な扉がぽつんと佇んでいた。
アンティーク調の片開き戸。
それは、某SFアニメに登場する猫型ロボットがポケットから出す便利アイテムを彷彿とさせた。
「まさか、あれが……?」
「そうみたいだね。行こうか」
「え、あ、はい」
橘さんはそう言って、なんの躊躇もなくその扉へと近づいて行く。
慣れから来る余裕なのか、はたまた怪異に対する恐怖心が欠如しているのか……。
俺はそんな橘さんの背中を追いかけながら改めて心の準備を済ませた。
扉の前に並んで立って目配せをする。
橘さんの手がドアノブにかけられるのを確認し、俺はゴクリと唾を呑んだ。
どうか簡単なお題でありますように。
そんな俺の不安など知る由もない橘さんは「たのも~」と気抜けするような掛け声を発しながらドアノブを捻った。
「……えっ」
瞬きをしたほんの僅かな時間。
気がつけば、俺と橘さんは真っ白な部屋の中にいた。
広さにして20畳程度だろうか。
窓や照明の類が一切見た当たらないが、なぜか室内は程よい明るさに保たれている。
「ここが……異空間?」
部屋の中央にはこの無機質な空間には似つかわしくない、アンティーク調の天蓋付きベッドがひとつ。
高級感溢れるそれは、この殺風景な部屋では異様な存在感を放っていた。
「わ~!でっかいベッド~!」
橘さんはその異様な光景を目の当たりにしてもなお、緊張感のない口調で目を輝かせてベッドへと駆け寄って行く。
俺は扉の前に立ち尽くしたまま、橘さんがベッドにダイブする様を呆然と眺めていた。
「佐竹君もおいでよ。ふかふかで気持ちいいよ~」
「ちょっと、なにがあるかわかりませんし……不用意に近づかない方が」
「大丈夫大丈夫。弱い怪異の気配しか感じないし」
橘さんはベッドに仰向けに寝転んだまま手招きをしている。
その危機感のない様子に呆れながらも、俺は部屋の中をぐるりと見回した。
ベッドの他にあるのは壁に取り付けられた扉と、その上に設置された看板だけ。
そこには『相手を笑わせないと出られない部屋』と書かれていた。
試しにドアノブを捻ってみるが、案の定施錠されているらしく、押しても引いてもびくともしない。
「相手を笑わせないと出られない部屋……かぁ」
橘さんはベッドに仰向けに寝転んだまま、ぽつりとそう呟いた。
キスだのハグだのといったお題でなくて良かった、と安堵する反面……この看板を信じるならば俺は橘さんを笑わせなければならないということになる。
果たして俺にそんな芸当ができるだろうか。
「……ひとまず、異界モバイルの通信テストをしましょう」
俺はジャケットの内ポケットから異界モバイルを取り出しながらベッドへ歩み寄った。
「それが異界モバイル?俺、もっと近未来的な感じの想像してたんだけど……」
ベッドのふちに腰掛けると、橘さんが寝返りをうって俺の手元を覗き込んでくる。
「見た目はガラケーですが、中身は最新技術が詰め込まれてるんですよ」
彼の言う通り、異界モバイルのフォルムはまさに“ガラケー”そのもの。
開発過程でこの形状が最も通信が安定するという結論に至ったのだが、今の時代にそぐわない……言ってしまえばかなりダサいデザインをしている。
シルバーの本体は折りたたみ式になっており、上半分は液晶画面、下半分はボタンが並んだ操作パネルになっている。
俺は操作パネルに指を滑らせて連絡先一覧の中から神崎さんの名前を選び通話ボタンを押した。
ぷるるるるる……というお決まりのコール音が2回ほど響き、「はい」と聞き慣れた声が応答する。
「佐竹です。神崎さん、聞こえますか?」
「おー繋がったね。うん、よく聞こえるよ」
神崎さんはいつもと変わらない調子でそう答えた。
ひとまず無事繋がった事に安心しつつ、スピーカーモードに切り替えて橘さんにも会話が聞こえるようにする。
「では、通信テストも兼ねて現在の状況を報告します」
俺は室内の様子や看板の内容、そして脱出条件などをかいつまんで説明していく。
一般的な通信機器は異空間では電波が遮断されて使い物にならなくなるのだが、異界モバイルは特殊技術によってその常識を覆した優れ物なのだ。
問題はどれだけの時間安定して通信できるかという点だが……。
「橘君の調子はどうだい?久しぶりの任務で体調を崩したりしていないかな?」
「えーっと……体調は問題なさそうです。今はベッドに横になって寛いでいます」
ちらりと橘さんの方を一瞥すると、彼はひらひらと手を振って「心配無用でーす」と笑った。
「そうかい。それなら良かった。じゃああとはメッセージの送受信テストをよろしくね。さっきこちらからメッセージを送信したけど届いてる?」
メールボックスを確認すると、神崎さんから1件のメッセージが届いていた。
トイプードルを抱えた神崎さんの写真と共に『2人の初任務、頑張ってね』とのメッセージが添えられている。
「はい、ちゃんと届いてます。こちらからも送りま……」
「ん?電波の調子が悪いのかな?ノイズが入ってるね」
「……あ、いえ。大丈夫です。すみません。こちらからもメッセージを送信しますね」
適当な文章を入力して送信ボタンを押せば、10秒ほどの間を置いて神崎さんから返事が返ってきた。
「うん、問題なく届いてるみたいだね。じゃあそろそろ脱出条件の実行を……よ……うかな。佐竹く……笑わ……」
「もしもし?すみません、ノイズが酷くて」
音声がぷつぷつと途切れ始め、やがて完全に通信が途切れてしまった。
「……5分28秒」
通信が安定していた時間だ。
異界モバイルの液晶画面には『圏外』の文字が表示されている。
もう一度神崎さんに電話をかけてみるが、やはり繋がらない。
「うーん……ここまでか」
俺は異界モバイルをジャケットの内ポケットに戻しながら小さくため息をついた。
それでも従来の携帯電話では考えられないほどの時間、現実世界と通信ができたということになる。
これは大きな成果だ。
「電話、切れちゃった?」
「ええ。通信テストは一旦終了ですね」
「そっかあ。じゃあ、ここからは2人で協力し合って脱出条件をクリアしないとだね」
「それはそうなんですが……その前に、ひとついいですか?」
「ん?なに?」
俺は自分の膝に視線を落としながら、真っ直ぐな眼差しでこちらを見上げる橘さんに問いかけた。
「人の足でくつろぐの、やめてもらっていいですか?」
先ほどから気になっていたのだが……通話中、橘さんはベッドに腰掛ける俺の足を枕代わりにして寝転んでいたのだ。
いわゆる膝枕という状態になっている俺の足は、橘さんの頭の重さや体温をダイレクトに感じている。
「あ、ごめん。電話の邪魔だったよね」
「そういう問題ではなく……枕ならそこに高そうなのが沢山あるでしょう」
俺はベッドの枕元に並べられたクッションを視線で指し示した。
「え~?だってこっちの方が佐竹君の匂いを近くで感じられるし」
「まぁそんな事だろうとは思いましたけど」
「今日は扉探しでたくさん歩いて疲れたし……ちょっとだけ休憩させてよ」
そっと目を閉じる橘さんの顔は少し疲労の色が浮かんでいる。
持病の影響で極端に体力が低下しているとは聞いていたが、こんな短時間で疲労してしまうとは。
そんな橘さんを見ていたらそれ以上文句など言えるはずもなく……俺は小さくため息を吐いて「仕方ないですね」と呟いたのだった。
それから10分ほど経過した頃。
俺は一向に膝から退く気配のない橘さんに困り果てていた。
「あの、そろそろ部屋から出たいんですけど」
「んー……」
俺の膝上で寝返りをうった橘さんは、そのまま腹側に顔をすり寄せてきた。
どこまでマイペースなんだこの人は。
「そういえば俺、佐竹君の笑った顔一度も見た事ないかも」
ぽつりとそう呟く橘さんは、俺の腹に顔を埋めたまま横目だけでこちらを見上げてきた。
「子供の頃からずっとこんな感じですよ。感情表現が苦手なんです」
「うーん。これは手強そうだぞ」
俺もあのお題を目にした瞬間から、この部屋の攻略法をずっと考えていた。
笑いのセンスを待ち合わせていない俺が橘さんを笑わせるにはどうしたらいいのか?
その答えは案外シンプルなものだった。
この部屋の脱出条件は“相手を笑わせる事”としか書かれていなかった。
ということはつまり、愛想笑いや冷笑、苦笑い……など、“笑いの種類は問わない”ということではないだろうか。
「……あの、俺に考えがあるのですが」
俺はその仮説を橘さんに説明し、協力を仰ぐことにした。
「なるほど。佐竹君の仮説が正しければ、口角さえ上がらせることができたら笑顔判定になる…ってことだよね」
「おそらく……」
「……よーしじゃあ早速試してみよう」
橘さんはがばりと身体を起こし、俺の肩をがっちり掴んだ。
その顔はやる気に満ち溢れており、すでに妙な緊張感すら漂っている。
そんな橘さんの様子に気圧されつつも俺は小さく頷いたのだった。
一体どんなギャグを披露してくれるのだろうか、と身構えていた俺だったが……。
「隣の家に囲いができたって」
あまりにもベタなダジャレに、俺は思わず真顔になってしまった。
「は?」と口から出そうになった言葉を飲み込みつつ橘さんの表情を伺ったものの、彼は俺からの返答を期待しているらしくキラキラした眼差しでこちらを見つめている。
「…………へ、へぇ。かっこいー……」
一拍遅れてなんとか口角を釣り上げて笑みを作って見せるが、実際のところはかなり辛い状況だ。
そんな俺のぎこちない笑顔は、この部屋の求める“笑顔”とは程遠いものかもしれない。
「あはは!佐竹くんすごい顔してる」
「あんなしょうもないダジャレで笑えるわけないでしょう」
「まぁまぁ、そう言わず。ほらスマイルスマイル~」
俺が険しい顔をしているのを気遣ってか、橘さんは俺の頬に手を添えてむにむにと揉みほぐしてくる。
ひんやりとした橘さんの手が頬の熱を吸い取っていく。
「はい、次は佐竹君の番だよ」
俺の頬からぱっと手を離した橘さんにそう促され、俺は小さくため息を吐いた。
そして橘さんの顔をまじまじと見つめながら、何か笑いを誘うような話題はないかと頭をフル回転させる。
「……“お寿司屋さん”と掛けまして“すごろく”と解きます」
「その心は?」
「どちらも最後はあがりでしょう」
「…………」
「…………」
完全に滑った。
キョトンとした顔で俺を見つめる橘さんの視線が痛い。
「あっ!そう言うことか!へぇ~、面白いねぇ」
数秒の沈黙の末、橘さんはぱちぱちと手を叩きながらお見事!と言わんばかりの笑顔で笑った。
滑ったかどうかは別として、とにかく橘さんの“愛想笑い”を引き出すことには成功したようだ。
しかし、なにか大切なものを失った気がするのはなぜだろうか。
「これで脱出条件クリア……ってことになるはず、です」
俺たちはベッドから降りて扉の方へと歩み寄った。
恐る恐るドアノブを捻り、ゆっくりと扉を押してみれば……。
「……開きません」
押しても引いても扉はびくともしない。
やはり、作り笑いでは脱出条件をクリアしたことにならないのか?
落胆する俺とは対照的に橘さんは「うーん、ダメかぁ」とさほど残念でもなさそうに呟いた。
俺たちは再びベッドに腰掛けて作戦を練り直すことにした。
「橘さんの愛想笑いは大したもんでしたよ」
「俺、愛想笑いなんてしてないよ。心から笑ってたもん」
この人の言葉はどこまでが本心なのか、俺にはさっぱりわからない。
とはいえ、橘さんの言葉が事実なら脱出の足を引っ張っているのは俺ということになる。
「んー。ちょっと強引だけど……別の方法を試してみようか」
そう言って、橘さんはおもむろに俺の両脇に手を差し入れてきた。
そしてそのまま指をこしょこしょと動かしながら俺の脇腹をくすぐり始めた。
「こちょこちょ~」
「…………」
「こちょこちょ~」
「…………」
橘さんはにこにこと楽しそうな笑顔で俺をくすぐっているが、俺の表情筋はピクリとも動かない。
元々くすぐりが効かない体質なのか、それとも橘さんが下手くそなのか……。
いずれにせよ、この行為も無駄骨に終わりそうだ。
俺は自分の表情筋の硬さに少し絶望しながら橘さんのくすぐり攻撃を真顔のまま受け続けたのだった。
「…………ふは、」
程なくして先に音を上げたのは橘さんの方だった。
「あはは、駄目だ。全然効かない~」
橘さんは俺の膝の上に倒れ込み、腹を抱えて笑い出す。
真顔でくすぐり攻撃を受ける俺がツボにハマったらしい。
というか、またしても膝上に頭を乗せられてしまった。
ふにゃふにゃと気の抜けた笑みを浮かべる橘さんを見ていると、だんだん申し訳なくなってくる。
「すみません。俺、本当に表情筋が硬くて……最後に心から笑ったのがいつだったかも記憶にないんです」
「えっ……そんな事ある……?」
「自分でももう少し愛想良くするべきかなとは思ってるんですけどね。無愛想な人間とは仕事もやりづらいでしょうし」
正直、今更愛想良く振舞ったところで気味悪がられるだけだろうと諦めている節もある。
無愛想なせいで知らない間に損をしていた事もあったかもしれないが、日常生活に支障はないのだ。
「俺は今の佐竹君も好きだよ」
「それはどうも」
ただの社交辞令だろうと適当に相槌を打てば、「あ、信じてないな~」と橘さんは少し不満げな様子で笑う。
「佐竹君はさ。初めて俺の事介抱してくれた日のこと、覚えてる?」
突然何を言い出すかと思えば、橘さんはまるで世間話でもするかのようにそんな事を聞いてきた。
「……ええ、資料室で発作を起こした橘さんを偶然見つけて」
初めて橘さんを介抱した日。
それは、俺が初めて蟲吐き病の発作を目の当たりにした日でもある。
当時はまだ簡単な知識しか持ち合わせていなかったため、蟲吐き病の発作がどういうものなのかも理解していなかった。
吐血を伴うものは蟲吐き病の発作の中でも特に重いもので、普段はただ少量の虫を吐くだけだと知ったのは後日ネットで調べてからの事だった。
「あの時ね、すごく嬉しかったんだ。大抵の人は俺が虫吐いてるとこ見ると分かりやすく表情が強張るのに、佐竹君ってば全然動じなくてさ。顔色ひとつ変えずに背中をさすってくれて心強かった」
「ああ……あれはまぁ、自分でも思ったより落ち着いて対応できたなとは思います」
淡々とそう答えれば、橘さんは嬉しそうに目を細めた。
「俺、あの日から佐竹君みたいな人がバディだったらいいな~って思ってたんだよね。だから今こうして一緒に仕事できて嬉しい」
橘さんの大きな丸い瞳に見つめられ、俺は思わず言葉に詰まってしまった。
確かにあの日を境に橘さんはよく俺に絡んでくるようになったと思う。
しかしそれはただ単に俺の体臭が彼にとって非常に好ましいものだからだと解釈していたのだが。
ちゃんと内面も評価されていたとは。
俺は大きな勘違いをしていたことを反省しつつ、橘さんへの認識を改めたのだった。
「橘さんは俺の体目当てだとばかり思っていました」
「体目当て!?俺、そんな最低な男だと思われてたの!?」
ガバッと勢いよく身体を起こした橘さんは、心外だと言わんばかりに目を丸くしている。
まさか今まで自覚がなかったのか、この人は。
「だって、いつも俺の体臭がどうのこうのと迫って来るじゃないですか」
「………………体臭?あ、ああ~!そういう事か!びっくりした~」
橘さんは俺の肩を軽く叩きながら、はははと朗らかに笑った。
彼の奇妙な反応に一瞬思考が停止する。
それから程なくして、自分がとんでもない語弊のある言い方をしていたことに気が付いた。
顔に熱が集中するのを感じ、慌てて訂正しようと口を開く。
「すみません、今のは語弊が……誤解を生むような言い方でしたね」
「あはは、大丈夫大丈夫。佐竹君の匂いが好きなのは間違ってないから。でも体臭を嗅ぐためだけに接近してるって思われたのは心外だなぁ」
橘さんは小さく笑みを浮かべながら俺の顔を覗き込んできた。
「俺、佐竹君と仲良くなりたくて必死だったのに」と唇を尖らせる橘さんの表情はどこか拗ねているようにも見える。
「さりげなくお昼誘ったり、佐竹君の好きそうなお菓子の差し入れしてみたり……仕事中もちょくちょく話しかけたり。俺なりにアプローチしてたつもりなんだけどなぁ」
「全く気づきませんでした」
橘さんは人懐っこく誰とでも分け隔てなく接していた印象だったし、対俺に関しては体臭を嗅ぐためのご機嫌取りの一環だと解釈していたため、そんなアピールをされているとは夢にも思わなかった。
いつも余裕たっぷりで飄々としている彼が、俺のような根暗と親しくなるためにあれこれ画策し、必死になっている姿を想像するとなんだか急におかしくなってくる。
「佐竹君が笑った」
「え?」
そう言われて初めて自分が笑っていることを知った。
「俺、今笑ってました?」
「うん、ほんの少しだけどちゃんと笑ってたよ」
橘さんは俺の顔をまじまじと見つめながら、うんうんと満足そうに頷いている。
……と、いうことは。
ガチャリ。
突然扉の方から鍵が開くような音がして、俺と橘さんは反射的にそちらへ顔を向けた。
「もしかして今のでクリアしたんじゃない?」
俺たちは扉に駆け寄り、ドアノブを捻ってみれば……案の定、扉はすんなりと開いた。
扉の向こうには俺たちが居た公園が広がっている。
「やった、脱出成功だ」
「みたいですね。良かったです」
「これからもっと佐竹君の笑顔が見れたら嬉しいな」
視界が眩い光に包まれる直前、そんな橘さんの声が聞こえた気がした。
その後、無事帰還を果たした俺たちは報告のために本部へと向かった。
車に乗り込むなり助手席で寝息を立て始めた橘さんを見て、本当に自由な人だと呆れながらも俺はどこか穏やかな気持ちでハンドルを握っていたのだった。
20
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