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22.反省
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「えーっと、つまり。また例の夢を見たけど、俺は泥酔しててお前に抱きついたまま寝てしまった。で、俺が爆睡してる間、お前は1人でミッションをこなしていた、と……」
居酒屋の一角。
俺たちは向かい合うようにして座り、お互いに見つめ合ったまま固まっていた。
俺が昨夜の顛末について一通り話し終えると、桜庭は額に手を当てて項垂れてしまった。
『告白しないと出られない部屋』からなんとか帰還した俺たちは翌日仕事終わりに合流し、お互いの状況をすり合わせていた。
なんとなく予想はついていたが、桜庭には全くと言っていい程記憶がなかった。
「悪い。ほとんど覚えてなくて」
「あ、いや、別に責めてる訳じゃないから気にすんなよ。たまにはこういうこともあるって」
「でも、迷惑かけたろ」
迷惑どころか役得というかなんと言うか……なんて本音はさすがに言えない。
「桜庭がべろべろになってるとこなんて見たことなかったから結構面白かったよ」
俺としては、むしろ意識のある状態で面と向かって告白なんてできるはずもないので都合が良かった。
だが、そんな俺の思惑を知る由もない桜庭はさらに深く眉間にシワを寄せて難しい顔をしていた。
「そんな顔するなよ。ほら、これうまいぞ。お前も熱いうちに食いな」
そう言って先ほど運ばれてきたばかりの焼き鳥を勧めてみたが、なかなか箸をつけようとしなかった。
「……山吹」
「ん?」
「寝てる間に告ったって言ってたけど、どんな風に言ったんだ」
「あー……」
予想外の質問に一瞬戸惑ったが、変に隠した方が逆に不審がられると判断した俺は、正直に告白の内容を伝える事にした。
「えーっと……普通に?」
「普通って具体的には?」
「えっと、好きだよって言ったりとか……」
自分で言っておきながら恥ずかしくなって思わず語尾が小さくなる。
「それだけか?」
「んー……付き合って欲しい、とか可愛いとか」
珍しく食い気味で質問攻めにしてくる桜庭に少し気圧されながら、俺は夢の中の出来事を必死に思い返した。
やはり、意識が無い間になにか妙なことをされていないか不安になったのだろう。
「でも、あの、あくまでミッションの指示に従っただけだからな。俺の本心じゃなくてー……」
俺はもう一度念を押すように桜庭に説明した。
これはあくまでもミッションによる指示であって俺の本心ではない。
だから安心して欲しい。
そんな意味を含ませて伝えたつもりなのだが、桜庭の反応は俺の予想とは少し違っていた。
「そんな必死にならなくても分かってるっての」
桜庭は困ったように笑みを浮かべると、ジョッキに残ったビールを一気に飲み干してから勢いよくテーブルに置いた。
「……あ、そういやもう一個気になることがあったんだ」
俺は店員さんがお冷や運んでいる姿を横目で見ながら、桜庭に質問を投げかけた。
「あの夢でさ、初めて物が出現したんだよ」
「……え」
「ほら、自販機とかでも普通に売ってる、500mlのペットボトルのミネラルウォーター」
俺はジェスチャーでサイズ感を伝えると、桜庭は驚いたように目を見開いた。
「ちょうど桜庭が飲み物探して部屋をうろついてた時だったかな?ペットボトルが出てくる瞬間は見てないんだけど……お前が飲むの、止められなくて悪かった」
「いや、それは別にいいんだけど……」
桜庭は何か考えるように黙り込んでしまった。
「どうした?」
「あー……いや、なんでもない」
歯切れの悪い返事に首を傾げていると、タイミングよく注文していた料理が運ばれてきた。
とりあえず腹ごしらえをしようと箸を手に取る。
「おー!うまそ……」
「悪い。今日はもう帰るわ」
「えっまだ飲み始めたばっかだろ」
突然のお開き宣言に俺は驚いて目を見開く。
「明日早いの忘れててさ。お前はまだゆっくりしていけよ」
桜庭は財布を取り出すとテーブルの上に2人分の代金を置いて立ち上がった。
「桜庭……」
「迷惑かけたお詫び。釣りはやるから好きなもん食ってくれ」
「あ、え、ご馳走様です…」
引き止める間もなく彼は店から出て行ってしまった。
「いっちゃった……」
夢の中とはいえ、酔って寝ている間に告白されたという事実を知って気分が悪くなったのだろうか?
それとも、俺に泥酔姿を晒してしまったことが恥ずかしくなったのか?
モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、結局その日はそれ以上酒を飲む気にもなれず、テーブルに残された料理を黙々と片付けて帰宅することにした。
居酒屋の一角。
俺たちは向かい合うようにして座り、お互いに見つめ合ったまま固まっていた。
俺が昨夜の顛末について一通り話し終えると、桜庭は額に手を当てて項垂れてしまった。
『告白しないと出られない部屋』からなんとか帰還した俺たちは翌日仕事終わりに合流し、お互いの状況をすり合わせていた。
なんとなく予想はついていたが、桜庭には全くと言っていい程記憶がなかった。
「悪い。ほとんど覚えてなくて」
「あ、いや、別に責めてる訳じゃないから気にすんなよ。たまにはこういうこともあるって」
「でも、迷惑かけたろ」
迷惑どころか役得というかなんと言うか……なんて本音はさすがに言えない。
「桜庭がべろべろになってるとこなんて見たことなかったから結構面白かったよ」
俺としては、むしろ意識のある状態で面と向かって告白なんてできるはずもないので都合が良かった。
だが、そんな俺の思惑を知る由もない桜庭はさらに深く眉間にシワを寄せて難しい顔をしていた。
「そんな顔するなよ。ほら、これうまいぞ。お前も熱いうちに食いな」
そう言って先ほど運ばれてきたばかりの焼き鳥を勧めてみたが、なかなか箸をつけようとしなかった。
「……山吹」
「ん?」
「寝てる間に告ったって言ってたけど、どんな風に言ったんだ」
「あー……」
予想外の質問に一瞬戸惑ったが、変に隠した方が逆に不審がられると判断した俺は、正直に告白の内容を伝える事にした。
「えーっと……普通に?」
「普通って具体的には?」
「えっと、好きだよって言ったりとか……」
自分で言っておきながら恥ずかしくなって思わず語尾が小さくなる。
「それだけか?」
「んー……付き合って欲しい、とか可愛いとか」
珍しく食い気味で質問攻めにしてくる桜庭に少し気圧されながら、俺は夢の中の出来事を必死に思い返した。
やはり、意識が無い間になにか妙なことをされていないか不安になったのだろう。
「でも、あの、あくまでミッションの指示に従っただけだからな。俺の本心じゃなくてー……」
俺はもう一度念を押すように桜庭に説明した。
これはあくまでもミッションによる指示であって俺の本心ではない。
だから安心して欲しい。
そんな意味を含ませて伝えたつもりなのだが、桜庭の反応は俺の予想とは少し違っていた。
「そんな必死にならなくても分かってるっての」
桜庭は困ったように笑みを浮かべると、ジョッキに残ったビールを一気に飲み干してから勢いよくテーブルに置いた。
「……あ、そういやもう一個気になることがあったんだ」
俺は店員さんがお冷や運んでいる姿を横目で見ながら、桜庭に質問を投げかけた。
「あの夢でさ、初めて物が出現したんだよ」
「……え」
「ほら、自販機とかでも普通に売ってる、500mlのペットボトルのミネラルウォーター」
俺はジェスチャーでサイズ感を伝えると、桜庭は驚いたように目を見開いた。
「ちょうど桜庭が飲み物探して部屋をうろついてた時だったかな?ペットボトルが出てくる瞬間は見てないんだけど……お前が飲むの、止められなくて悪かった」
「いや、それは別にいいんだけど……」
桜庭は何か考えるように黙り込んでしまった。
「どうした?」
「あー……いや、なんでもない」
歯切れの悪い返事に首を傾げていると、タイミングよく注文していた料理が運ばれてきた。
とりあえず腹ごしらえをしようと箸を手に取る。
「おー!うまそ……」
「悪い。今日はもう帰るわ」
「えっまだ飲み始めたばっかだろ」
突然のお開き宣言に俺は驚いて目を見開く。
「明日早いの忘れててさ。お前はまだゆっくりしていけよ」
桜庭は財布を取り出すとテーブルの上に2人分の代金を置いて立ち上がった。
「桜庭……」
「迷惑かけたお詫び。釣りはやるから好きなもん食ってくれ」
「あ、え、ご馳走様です…」
引き止める間もなく彼は店から出て行ってしまった。
「いっちゃった……」
夢の中とはいえ、酔って寝ている間に告白されたという事実を知って気分が悪くなったのだろうか?
それとも、俺に泥酔姿を晒してしまったことが恥ずかしくなったのか?
モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、結局その日はそれ以上酒を飲む気にもなれず、テーブルに残された料理を黙々と片付けて帰宅することにした。
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