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6.結婚式の帰りは2人で(尚)①
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右手で緩まっていたネクタイを外しながら五段ほどの階段を下りていく。尚は左手に持っている白い紙袋を見てから、今出てきた会場を振り返る。
「良い結婚式だったな。2人は幸せそうだったし、レストランだから堅苦しくなかったし」
階段を下りきって、式場となったレストランの門へ向かいながら、隣を歩く大地を見上げる。
彼は尚と同じようにネクタイを外し、持っている紙袋に突っ込んだ。
「ああ、ほんと。25歳で結婚って早すぎないかって思ったけど、彼女が10歳年上なんだもんな。年齢差を聞いたときは驚いたけど、お似合いだった」
夕焼けが広がる空をへと向けられた彼の目は、その空の奥を見ているように感じた。
話す言葉にも余韻があるように聞こえる。まだ言葉が続きそうなのに、口は閉ざされている。
どうかしたか、と声を出そうとしたとき、後ろから肩を組まれて尚と大地の間に割り込むように体を滑り込ませてきた男がいた。
大地や尚と同様、レストランウェディングに招待された会社の同期の周吾だ。
「尚、大地。これから、みんなで二次会行こうって言ってんだけど、お前らも行かね?」
周吾が後ろへ向けた視線を追って、尚は後ろを振り向く。
そこには他の会社の同期と、新婦の友人らしき女性が数人歩いてきていた。
黒と白ばかりの男性陣と違って、色とりどりのパーティドレスを着た女性たちは華やかだ。その女性陣の視線が、尚や周吾ではないほうへ向いてるのがわかった。
彼女たちの視線を追うまでもない。その先にいるのは大地だ。
周吾の視線が彼女たちから大地へ移り、最後にこっちを見た。
「な、わかるだろ。2人にも来てほしいわけ」
「俺じゃなくて、大地に来てほしいんだろ。俺を見るなよ」
肩に回った周吾の手がなだめるようにたたいてきた。
「大地だけ誘っても断られるのは目に見えてる。尚、二次会行くって言え」
「そんなおまけみたいな誘い方されて、気持ちよく行くって言えると思うか」
一緒に飲みに行ったら、女性たちに大地が囲まれるのは目に見えている。そんなところに行きたくなんてない。
尚は周吾を睨むように見たけれど、彼はへらへらと笑っている。
「そんな目で見るなよ。気を悪くしたら謝るけど、尚、にらんでも怖くないぞ。小動物に睨まれてる感じでかわいい」
渾身のにらみをしたつもりだったのに、通用してない。
「かわいいってなんだよ。周吾に言われても嬉しくない…わ」
最後まで周吾に聞いてもらえなかった。
大地が彼の肩に手を回して、いや、首に腕を巻き付けて自分の方へ引き寄せていた。
「楽しそうなところ悪いんだけど、俺、これだから、二次会には行かない。また今度、同期の男だけで飲みに行こうな」
これ、と言ったときに、大地が周吾に見せたのは右手の薬指にはめた指輪だった。
尚は自分の首にぶら下がるチェーンを触る。その先には大地とおそろいの指輪があるのだ。
口角が緩く上がるのを感じた。
背の高い大地に首を絞めるようにされ、見下ろされた周吾は瞬きを素早く繰り返した。
「あ、ああ。指輪はめてるのは知ってたけど、ちょっと飲みに行くくらいならいいかなって」
「ダメ」
大地の声のトーンが低い。
首に巻きついた腕をほどいた周吾は体勢を立て直して、こっちを見る。
「尚はどうする」
そう聞かれて、これみよがしに大きなため息をついた。
「おまけみたいに誘われたこと、忘れてないよ。また今度、同期で飲も」
わかったよ、と周吾は口をわざとらしくへの字にして手を振ってきた。
尚は手を振り返し、後ろを振り返って、一緒に二次会へ行くだろうメンバーに軽く頭を下げる。隣にいる大地は頭の上に手を挙げて挨拶していた。
「良い結婚式だったな。2人は幸せそうだったし、レストランだから堅苦しくなかったし」
階段を下りきって、式場となったレストランの門へ向かいながら、隣を歩く大地を見上げる。
彼は尚と同じようにネクタイを外し、持っている紙袋に突っ込んだ。
「ああ、ほんと。25歳で結婚って早すぎないかって思ったけど、彼女が10歳年上なんだもんな。年齢差を聞いたときは驚いたけど、お似合いだった」
夕焼けが広がる空をへと向けられた彼の目は、その空の奥を見ているように感じた。
話す言葉にも余韻があるように聞こえる。まだ言葉が続きそうなのに、口は閉ざされている。
どうかしたか、と声を出そうとしたとき、後ろから肩を組まれて尚と大地の間に割り込むように体を滑り込ませてきた男がいた。
大地や尚と同様、レストランウェディングに招待された会社の同期の周吾だ。
「尚、大地。これから、みんなで二次会行こうって言ってんだけど、お前らも行かね?」
周吾が後ろへ向けた視線を追って、尚は後ろを振り向く。
そこには他の会社の同期と、新婦の友人らしき女性が数人歩いてきていた。
黒と白ばかりの男性陣と違って、色とりどりのパーティドレスを着た女性たちは華やかだ。その女性陣の視線が、尚や周吾ではないほうへ向いてるのがわかった。
彼女たちの視線を追うまでもない。その先にいるのは大地だ。
周吾の視線が彼女たちから大地へ移り、最後にこっちを見た。
「な、わかるだろ。2人にも来てほしいわけ」
「俺じゃなくて、大地に来てほしいんだろ。俺を見るなよ」
肩に回った周吾の手がなだめるようにたたいてきた。
「大地だけ誘っても断られるのは目に見えてる。尚、二次会行くって言え」
「そんなおまけみたいな誘い方されて、気持ちよく行くって言えると思うか」
一緒に飲みに行ったら、女性たちに大地が囲まれるのは目に見えている。そんなところに行きたくなんてない。
尚は周吾を睨むように見たけれど、彼はへらへらと笑っている。
「そんな目で見るなよ。気を悪くしたら謝るけど、尚、にらんでも怖くないぞ。小動物に睨まれてる感じでかわいい」
渾身のにらみをしたつもりだったのに、通用してない。
「かわいいってなんだよ。周吾に言われても嬉しくない…わ」
最後まで周吾に聞いてもらえなかった。
大地が彼の肩に手を回して、いや、首に腕を巻き付けて自分の方へ引き寄せていた。
「楽しそうなところ悪いんだけど、俺、これだから、二次会には行かない。また今度、同期の男だけで飲みに行こうな」
これ、と言ったときに、大地が周吾に見せたのは右手の薬指にはめた指輪だった。
尚は自分の首にぶら下がるチェーンを触る。その先には大地とおそろいの指輪があるのだ。
口角が緩く上がるのを感じた。
背の高い大地に首を絞めるようにされ、見下ろされた周吾は瞬きを素早く繰り返した。
「あ、ああ。指輪はめてるのは知ってたけど、ちょっと飲みに行くくらいならいいかなって」
「ダメ」
大地の声のトーンが低い。
首に巻きついた腕をほどいた周吾は体勢を立て直して、こっちを見る。
「尚はどうする」
そう聞かれて、これみよがしに大きなため息をついた。
「おまけみたいに誘われたこと、忘れてないよ。また今度、同期で飲も」
わかったよ、と周吾は口をわざとらしくへの字にして手を振ってきた。
尚は手を振り返し、後ろを振り返って、一緒に二次会へ行くだろうメンバーに軽く頭を下げる。隣にいる大地は頭の上に手を挙げて挨拶していた。
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