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1話『天然熟女は超マイペース』
野次馬は四人
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聡はベビーカーを元に戻した。中では赤ちゃんがぐっすりと眠っている。
八百屋に向かう自分の母親を見据えた。
「ええ、言わなくても良いことを言っては揉めてくる母です」
声が脱力してしまった。
呆れているというよりも、70歳を超えているんだから不必要にパワーを使わないで落ち着いてほしいという気持ちの方が強くなった気がする。
フォローのつもりか、「相手を選ばずに自分の意見をぶつけるのってすごいですよ」、「ルール違反な人とか迷惑な人に文句言ってくれますしね」などと、2人は口々に言ってくれる。
心から喜んでいいものかわからず、あいまいに返事をして、八百屋の店の奥にかかる時計を見る。
11時を5分すぎている。
そういえば大藤静彦がまだ来ない。それどころかハルエも文乃も姿を見せない。
左右に首を振り、商店街の通りを行きかう人たちを見る。水曜日の午前中は1週間のうちで一番人気が少ない。営業へ行く途中のサラリーマン、散歩中の高齢者、スピードを出しすぎている自転車の若者がいるくらいだ。
厳格そうな大藤が遅刻するとは思えない。どうなっているのか。
首をかしげると、頭が何かにぶつかった。
聡が驚いて、そちらを見ると眼鏡の男子大学生がサンドイッチを頬張りながら立っている。
「あ、もごもご。なんかおもしろそうだったんで」
手にはミックスサンドを持っている。立ったまま食べるつもりらしい。
行儀が悪いと注意をしようか。どういう言葉で伝えようかと考えていると、大学生が肩をたたいて密着してきた。
「ほら、おばさんが止まってマイペースおばさんをにらんでますよ。わざわざ離れたところで止まるって何をするつもりなんだろ」
マナーよりも好奇心が勝った聡は八百屋へと顔を向ける。
最初の『おばさん』は留以子のことで、『マイペースおばさん』は好美のことを指しているらしい。口調から二人の性格や行動を知っているように感じた。
こんな若者にまで知られているとは、この2人はどれだけ有名人なんだろうか。
特に、自分の母親が有名なことに頭を抱えてしまう。
先週、好美の迷惑行動を止めようと何かを企んでいそうな留以子を、一瞬でも応援した自分を反省してしまう。
左腕で体を抱き、右手で額を覆う。
聡に密着していた大学生が体を離した。
カウンターへ向かおうとしている。
「おばさんたち、絶対おもしろいことやってくれますよ」
声が弾んでいるように聞こえる。腰のあたりでは、女性2人が「何が起こるんだろうね」と、やはり声を弾ませている。
八百屋では、畑山が野菜をいくつか持って先客の主婦たちに何やら説明をしている横で、好美が買い物かごに野菜を入れている。
聡にとって都合の良いことに、ランチを食べに入ってくる客はいない。気持ちを切り替えることにした。
根っからの噂話好き、好奇心が強い性格もあって、あっさりと気分は切り替わった。
気づくと、今度は手にヨーグルトの入ったミニカップを持って、大学生が隣に立っている。
ベビーカーの赤ちゃんは大人の様子など関係ないと言った風に2人とも熟睡している。
4人は八百屋の様子を静観し始めた。
八百屋に向かう自分の母親を見据えた。
「ええ、言わなくても良いことを言っては揉めてくる母です」
声が脱力してしまった。
呆れているというよりも、70歳を超えているんだから不必要にパワーを使わないで落ち着いてほしいという気持ちの方が強くなった気がする。
フォローのつもりか、「相手を選ばずに自分の意見をぶつけるのってすごいですよ」、「ルール違反な人とか迷惑な人に文句言ってくれますしね」などと、2人は口々に言ってくれる。
心から喜んでいいものかわからず、あいまいに返事をして、八百屋の店の奥にかかる時計を見る。
11時を5分すぎている。
そういえば大藤静彦がまだ来ない。それどころかハルエも文乃も姿を見せない。
左右に首を振り、商店街の通りを行きかう人たちを見る。水曜日の午前中は1週間のうちで一番人気が少ない。営業へ行く途中のサラリーマン、散歩中の高齢者、スピードを出しすぎている自転車の若者がいるくらいだ。
厳格そうな大藤が遅刻するとは思えない。どうなっているのか。
首をかしげると、頭が何かにぶつかった。
聡が驚いて、そちらを見ると眼鏡の男子大学生がサンドイッチを頬張りながら立っている。
「あ、もごもご。なんかおもしろそうだったんで」
手にはミックスサンドを持っている。立ったまま食べるつもりらしい。
行儀が悪いと注意をしようか。どういう言葉で伝えようかと考えていると、大学生が肩をたたいて密着してきた。
「ほら、おばさんが止まってマイペースおばさんをにらんでますよ。わざわざ離れたところで止まるって何をするつもりなんだろ」
マナーよりも好奇心が勝った聡は八百屋へと顔を向ける。
最初の『おばさん』は留以子のことで、『マイペースおばさん』は好美のことを指しているらしい。口調から二人の性格や行動を知っているように感じた。
こんな若者にまで知られているとは、この2人はどれだけ有名人なんだろうか。
特に、自分の母親が有名なことに頭を抱えてしまう。
先週、好美の迷惑行動を止めようと何かを企んでいそうな留以子を、一瞬でも応援した自分を反省してしまう。
左腕で体を抱き、右手で額を覆う。
聡に密着していた大学生が体を離した。
カウンターへ向かおうとしている。
「おばさんたち、絶対おもしろいことやってくれますよ」
声が弾んでいるように聞こえる。腰のあたりでは、女性2人が「何が起こるんだろうね」と、やはり声を弾ませている。
八百屋では、畑山が野菜をいくつか持って先客の主婦たちに何やら説明をしている横で、好美が買い物かごに野菜を入れている。
聡にとって都合の良いことに、ランチを食べに入ってくる客はいない。気持ちを切り替えることにした。
根っからの噂話好き、好奇心が強い性格もあって、あっさりと気分は切り替わった。
気づくと、今度は手にヨーグルトの入ったミニカップを持って、大学生が隣に立っている。
ベビーカーの赤ちゃんは大人の様子など関係ないと言った風に2人とも熟睡している。
4人は八百屋の様子を静観し始めた。
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