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31.まだ付き合っていない二人(3)
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次の日も、大輝は登校してきたら校門を入ったところで千紗に抱きつき、そのまま手をつないで教室まで行く。休み時間はくっつくようにして過ごす。
そのたびに千紗は、大輝が好きな女子から届く鋭い視線やささやかれる陰口に気づかない振りをした。時には、直接、嫉妬をむき出しにして文句を言ってくる女子もいたけれど、そういうときは悠里がかばってくれたり、相田が割って入ってくれたりした。
2人には、当事者が言い返さない方がいいと言われて、何を言われても黙っていた。
木曜日、大輝が朝、千紗に抱きついてくるようになって4日目。
千紗はこれまでと変わらず、校門をくぐった。同じように背後から走ってくる足音が聞こえる。周りを歩く生徒たちも気づいたらしい。
「また南が走ってくるぜ。飽きねえな」
「南先輩、彼女さんのことが本当に好きなんだね」
「ラブラブっぷりがうらやましいかも」
ささやかれる声が昨日までと変わった。
千紗は自然にみえるように装って、周りにいる生徒の顔を見る。ほとんどが男子生徒か、大輝に憧れ以上の気持ちはなさそうな女子生徒だった。わかりやすく千紗に敵意を見せてきた女子たちは何も言わずに歩いているようだ。
背中に衝撃が走って、後ろから二本の腕が回ってきた。
「おはよ」
千紗は小さくため息をついて振り返る。少し周りの反応が変わってきているのはわかっている。でも、さすがに毎朝、人前でこういうことをされるのは恥ずかしすぎる。
「……おはよ。……あのさ」
言いかけたところで、女子のあきれるような声が聞こえてきた。
「毎日、飽きないでよくやるわ」
「南くんって、本命できても執着しないイメージだったから残念」
「軽い南くんをカッコいいって思ってたのに、毎日、彼女にくっつくとかイヤだわ」
「好きなのはわかるけど重すぎ。彼女に同情しそう」
千紗は口が半開きになったまま、隣に並んだ大輝を見上げる。
腰に手を回され、体を大輝の方へ引き寄せられた。
「な、言ったとおりだろ。ってか、口、閉じろよ。バカみたいな顔してるぞ」
腰に回っていた手が離れて、頭に乗る。千紗は言われた通り口を閉じ、密着させられていた体を大輝から離した。
昼休み、千紗は大輝と悠里と蓮の4人しかいない屋上で弁当箱を広げながら、大輝に疑問をぶつけた。
「どうして、数日でみんなの反応が変わるってわかったの」
お気に入りなのか、大輝は今日も購買で買った焼きそばパンを頬張っている。
「あー、大体、3日も続けば見慣れるだろうっていうのと。あと、俺のことが好きっていう女の子って、チャラい俺とか、単に俺の顔が好きなんだよ。で、そういう子らは、1人に執着して過剰に愛情を表現すると重いって感じるらしいし、根が飽きっぽいんだよ。だから3日くらいかなって。もちろん全員がそうとは言わないけどさ」
日差しは強いが、心地よい風が吹く。
悠里はスカートがめくれないようにお箸を持つ手で抑えた。
「確かに、ちょっと千紗に同情するかも。朝、抱きつかれるだけじゃなくて、休み時間のたびに何かとかまわれてスキンシップされるんだもんね。本当なら、ちょっと重いわ」
悠里はカラッとした笑い声を響かせる。
蓮もおかしそうに笑って、大輝の髪をかきまわす。蓮とじゃれあいながら、大輝は千紗に顔を向けてきた。
その瞳は揺れていて、視線が千紗の顔の横をすり抜けていっているようだ。
「これからスキンシップは抑えるから。さすがに千紗もイヤだろ」
キッパリとした口調に反して、彼の視線はゆっくりと下へ落ちていく。
たぶん千紗しか気づいていないだろう。
その表情はとても悲しげで、大輝と2人っきりなら抱きしめていたんじゃないかと思うほどだった。
「人前はさすがに恥ずかしい。恥ずかしすぎて、もう限界だなって思ってた。人前はね」
千紗は最後の言葉を強調するように言ってみた。落ちていた彼の視線が上がってくる。
「人前は、か」
安心したように目を細めていた。
そのたびに千紗は、大輝が好きな女子から届く鋭い視線やささやかれる陰口に気づかない振りをした。時には、直接、嫉妬をむき出しにして文句を言ってくる女子もいたけれど、そういうときは悠里がかばってくれたり、相田が割って入ってくれたりした。
2人には、当事者が言い返さない方がいいと言われて、何を言われても黙っていた。
木曜日、大輝が朝、千紗に抱きついてくるようになって4日目。
千紗はこれまでと変わらず、校門をくぐった。同じように背後から走ってくる足音が聞こえる。周りを歩く生徒たちも気づいたらしい。
「また南が走ってくるぜ。飽きねえな」
「南先輩、彼女さんのことが本当に好きなんだね」
「ラブラブっぷりがうらやましいかも」
ささやかれる声が昨日までと変わった。
千紗は自然にみえるように装って、周りにいる生徒の顔を見る。ほとんどが男子生徒か、大輝に憧れ以上の気持ちはなさそうな女子生徒だった。わかりやすく千紗に敵意を見せてきた女子たちは何も言わずに歩いているようだ。
背中に衝撃が走って、後ろから二本の腕が回ってきた。
「おはよ」
千紗は小さくため息をついて振り返る。少し周りの反応が変わってきているのはわかっている。でも、さすがに毎朝、人前でこういうことをされるのは恥ずかしすぎる。
「……おはよ。……あのさ」
言いかけたところで、女子のあきれるような声が聞こえてきた。
「毎日、飽きないでよくやるわ」
「南くんって、本命できても執着しないイメージだったから残念」
「軽い南くんをカッコいいって思ってたのに、毎日、彼女にくっつくとかイヤだわ」
「好きなのはわかるけど重すぎ。彼女に同情しそう」
千紗は口が半開きになったまま、隣に並んだ大輝を見上げる。
腰に手を回され、体を大輝の方へ引き寄せられた。
「な、言ったとおりだろ。ってか、口、閉じろよ。バカみたいな顔してるぞ」
腰に回っていた手が離れて、頭に乗る。千紗は言われた通り口を閉じ、密着させられていた体を大輝から離した。
昼休み、千紗は大輝と悠里と蓮の4人しかいない屋上で弁当箱を広げながら、大輝に疑問をぶつけた。
「どうして、数日でみんなの反応が変わるってわかったの」
お気に入りなのか、大輝は今日も購買で買った焼きそばパンを頬張っている。
「あー、大体、3日も続けば見慣れるだろうっていうのと。あと、俺のことが好きっていう女の子って、チャラい俺とか、単に俺の顔が好きなんだよ。で、そういう子らは、1人に執着して過剰に愛情を表現すると重いって感じるらしいし、根が飽きっぽいんだよ。だから3日くらいかなって。もちろん全員がそうとは言わないけどさ」
日差しは強いが、心地よい風が吹く。
悠里はスカートがめくれないようにお箸を持つ手で抑えた。
「確かに、ちょっと千紗に同情するかも。朝、抱きつかれるだけじゃなくて、休み時間のたびに何かとかまわれてスキンシップされるんだもんね。本当なら、ちょっと重いわ」
悠里はカラッとした笑い声を響かせる。
蓮もおかしそうに笑って、大輝の髪をかきまわす。蓮とじゃれあいながら、大輝は千紗に顔を向けてきた。
その瞳は揺れていて、視線が千紗の顔の横をすり抜けていっているようだ。
「これからスキンシップは抑えるから。さすがに千紗もイヤだろ」
キッパリとした口調に反して、彼の視線はゆっくりと下へ落ちていく。
たぶん千紗しか気づいていないだろう。
その表情はとても悲しげで、大輝と2人っきりなら抱きしめていたんじゃないかと思うほどだった。
「人前はさすがに恥ずかしい。恥ずかしすぎて、もう限界だなって思ってた。人前はね」
千紗は最後の言葉を強調するように言ってみた。落ちていた彼の視線が上がってくる。
「人前は、か」
安心したように目を細めていた。
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