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37.不穏の始まり(1)
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千紗のトルコライスが残り少なくなっても大輝は戻ってこない。
ざわついた胸には炎になりきらない火がくすぶり始める。
「なんなの。この気分の悪い、イラ立ち」
ドアベルが揺れて開くたびに、そちらへ目を向ける。何度見ても、入ってくるのは客ばかりだ。
食べる手を止めて、ぼーっと扉の方を見ていると、マスターが近寄ってくるのがわかった。
「彼氏くん、長い電話だね。良かったら、彼の引いとくよ。戻ってきたら温めて持ってくるからさ」
穏やかな話し方が千紗の胸を少し軽くしてくれた気がした。皿を持ち上げたマスターの動きが止まった。
「ねえ、あの外にいる女性は知り合い?じっとこっちを見てるけど」
マスターの視線をたどって、窓から外を見る。携帯電話で誰かと話しているらしい女性が、マスターの言うとおり、こっちを見つめている。こっちというよりも、千紗を見ているように見える。
「知らない人です」
目の動きで千紗に返事をしたマスターは、まだ一口も食べられていない大輝の皿を持って去っていった。
千紗は残っているトルコライスを口に運びながら、もう一度、右側の窓を通して外にいる女性見る。
女子大生か社会人だろうか。明るすぎない茶髪のボブヘアで、スカイブルーのワンピースに白の半そでパーカーを羽織っている。
咀嚼しながら女性の全身を観察した後、女性の顔を見る。何を話しているのか、眉間にシワを寄せ、あごに指を当てている。そのくせ、電話なのに体をくねらせて小首をかしげている。悩んでいるふうに見せている、そんな印象を受けた。視線は時折外すものの、基本的には千紗へ向けられていた。
できるだけゆっくり食べようと、一回に口に入れる量を少なくしてトルコライスを食べ続ける。大輝はまだ帰ってこない。千紗は言いようのない感情が怒りに変わりつつあるのを感じていた。
ふと気になって、外を見る。女性はちょうど電話を終えたらしく、携帯電話を耳から離して顔の前で操作していた。
その様子を見ていると、視線を感じたのか女性が顔を上げて千紗を見た。
一瞬にして、憎いものを見るような顔つきに変わる。視線で刺されると感じてしまうほどにらみつけられたと思ったら、急にニヤニヤした表情になった。
その表情の変化に背筋が凍りそうになる。
「知らない人だよね。どっかで会ったことあるのかな」
彼女から視線を外さずにつぶやく。
「だとしても、あんなににらまれる覚えないんだけど。あ、逆恨み?知らないうちに恨み買ってるとか?」
突然、頭に手が乗って心臓が飛び出そうになった。
思わずすくめた肩をそのままにして、窓とは逆方向へ顔を向けた。見覚えのあるロゴ入りの黒のTシャツと携帯電話を持つ手が目に入って、見上げる。大輝が首をかしげていた。
「何、ひとり言つぶやいてんの」
大輝はテーブルの上に自分の皿がないことに気づいたようで小さく声をあげた。
「俺のトルコライスは?」
「マスターが席に戻ってきたら、温めなおして持ってきてくれるって」
窓側の席に座った大輝の隣に腰を下ろしかけて、女性が気になって窓の外を見る。
千紗をにらみつけてきていた彼女はいなくなっていた。千紗は胸を撫でおろした。
ざわついた胸には炎になりきらない火がくすぶり始める。
「なんなの。この気分の悪い、イラ立ち」
ドアベルが揺れて開くたびに、そちらへ目を向ける。何度見ても、入ってくるのは客ばかりだ。
食べる手を止めて、ぼーっと扉の方を見ていると、マスターが近寄ってくるのがわかった。
「彼氏くん、長い電話だね。良かったら、彼の引いとくよ。戻ってきたら温めて持ってくるからさ」
穏やかな話し方が千紗の胸を少し軽くしてくれた気がした。皿を持ち上げたマスターの動きが止まった。
「ねえ、あの外にいる女性は知り合い?じっとこっちを見てるけど」
マスターの視線をたどって、窓から外を見る。携帯電話で誰かと話しているらしい女性が、マスターの言うとおり、こっちを見つめている。こっちというよりも、千紗を見ているように見える。
「知らない人です」
目の動きで千紗に返事をしたマスターは、まだ一口も食べられていない大輝の皿を持って去っていった。
千紗は残っているトルコライスを口に運びながら、もう一度、右側の窓を通して外にいる女性見る。
女子大生か社会人だろうか。明るすぎない茶髪のボブヘアで、スカイブルーのワンピースに白の半そでパーカーを羽織っている。
咀嚼しながら女性の全身を観察した後、女性の顔を見る。何を話しているのか、眉間にシワを寄せ、あごに指を当てている。そのくせ、電話なのに体をくねらせて小首をかしげている。悩んでいるふうに見せている、そんな印象を受けた。視線は時折外すものの、基本的には千紗へ向けられていた。
できるだけゆっくり食べようと、一回に口に入れる量を少なくしてトルコライスを食べ続ける。大輝はまだ帰ってこない。千紗は言いようのない感情が怒りに変わりつつあるのを感じていた。
ふと気になって、外を見る。女性はちょうど電話を終えたらしく、携帯電話を耳から離して顔の前で操作していた。
その様子を見ていると、視線を感じたのか女性が顔を上げて千紗を見た。
一瞬にして、憎いものを見るような顔つきに変わる。視線で刺されると感じてしまうほどにらみつけられたと思ったら、急にニヤニヤした表情になった。
その表情の変化に背筋が凍りそうになる。
「知らない人だよね。どっかで会ったことあるのかな」
彼女から視線を外さずにつぶやく。
「だとしても、あんなににらまれる覚えないんだけど。あ、逆恨み?知らないうちに恨み買ってるとか?」
突然、頭に手が乗って心臓が飛び出そうになった。
思わずすくめた肩をそのままにして、窓とは逆方向へ顔を向けた。見覚えのあるロゴ入りの黒のTシャツと携帯電話を持つ手が目に入って、見上げる。大輝が首をかしげていた。
「何、ひとり言つぶやいてんの」
大輝はテーブルの上に自分の皿がないことに気づいたようで小さく声をあげた。
「俺のトルコライスは?」
「マスターが席に戻ってきたら、温めなおして持ってきてくれるって」
窓側の席に座った大輝の隣に腰を下ろしかけて、女性が気になって窓の外を見る。
千紗をにらみつけてきていた彼女はいなくなっていた。千紗は胸を撫でおろした。
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