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第五話
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目の前が、真っ黒に塗りつぶされていく。
私が倒してしまった譜面台が立てた、耳を裂くような金属音。それが、この音楽室に潜んでいた全ての悪意を呼び覚ましてしまったみたいだった。
壁から、床から、天井から、黒い水が湧き出してくるように、あの人の形をした何かが次から次へと生まれてくる。それはもう、十や二十どころの話じゃない。数えることさえばかばかしくなるほどの、おびただしい数の絶望だった。
うごめく黒い塊は、音の発生源である私を目がけて、一斉にこちらへとにじり寄ってくる。出口への道は、あっという間に黒い壁で塗り固められてしまった。もう、どこにも逃げ場はない。
「くそっ!」
ハヤトくんが、私をかばうように前に立ってくれる。でも、彼の背中だって、この圧倒的な数の前では、あまりにも頼りなく見えた。
リコさんは、青白い顔で周囲の状況を必死に分析しようとしているけれど、その眼鏡の奥の瞳には、隠しきれない焦りの色が浮かんでいる。
「うわああ……! もう、おしまいだぁ……!」
ケンタくんは、とうとうその場にへたり込んで、頭を抱えてしまった。
私のせいだ。私が、油断したから。せっかくハヤトくんが命がけでチャンスを作ってくれたのに。せっかく、最初の希望を手に入れたのに。全部、私が台無しにしてしまった。
『ごめんなさい』という言葉が、声にならないまま喉の奥で消える。黒い人型たちは、もう私たちのすぐそこまで迫っていた。その黒い輪郭に触れられたら、どうなってしまうんだろう。私も、この色のない世界の一部に、なってしまうんだろうか。
ぎゅっと、目を閉じる。右の手には、さっき手に入れたばかりの『赤の絵の具』の、ひんやりとした感触が残っていた。
その、時だった。
「――うるさいっ!」
聞こえたのは、ケンタくんの、裏返った叫び声だった。それは、恐怖に怯える悲鳴とは少し違う、何かに逆らうような、必死の叫び。
私がおそるおそる目を開けると、信じられない光景が広がっていた。
さっきまで頭を抱えてうずくまっていたはずのケンタくんが、いつの間にか立ち上がっていた。彼は、いつも着ている多機能ベストのポケットというポケットに手を突っ込み、何かを探している。そして、一つの小さな機械のようなものを取り出すと、それを私たちと黒い人型たちの間に、思い切り投げつけた。
カラン、と乾いた音がして、床に転がる小さな機械。それは、普段彼が分解して遊んでいる、古いカメラか何かの部品みたいに見えた。
「みんな、目をつぶって!」
ケンタくんが叫ぶ。その声に、私たちは訳も分からないまま、反射的にぎゅっと目を閉じた。
次の瞬間。
ピカッ!
まぶたを閉じていても分かるほどの、強烈な閃光。世界が、一瞬だけ真っ白になった。真昼の太陽を、真正面から見た時みたいに。
そして、閃光と同時に、ジジジジッ、という耳障りな放電音みたいなものが、ごく短く鳴り渡った。
何が起きたの?
おそるおそる目を開けると、そこにいた黒い人型たちが、一様に動きを止めているのが見えた。いや、それだけじゃない。強い明るさを浴びたせいか、その黒い輪郭が、少しだけ薄くなっているような気がする。彼らは、その明るさそのものを怖がるかのように、後ずさるような動きを見せていた。
「今だ! 今のうちに、出口へ!」
ケンタくんの声に、私たちは我に返った。ハヤトくんが、すぐさま私の腕をつかむ。
「行くぞ!」
四人は、もつれる足で、それでも必死に出口へと向かって走り出した。黒い人型たちが作った壁は、輝きのおかげで、ほんの少しだけ隙間が生まれている。私たちは、そのわずかな隙間を、体をぶつけ合うようにして駆け抜けた。
廊下に転がり出た私たちは、一度も振り返ることなく、階段を目指して走った。音楽室から、あの黒い何かが追いかけてくる気配はなかった。
◇
一階の廊下の隅までたどり着いた私たちは、壁に背中をもたせかけるようにして、その場にずるずると座り込んだ。
ぜえ、ぜえ、と、四人分の荒い息だけが、色のない空間に重なる。私は、自分の心臓が、体から飛び出してしまいそうなくらい、激しく脈打っているのを感じた。
生きてる。私たちは、助かったんだ。
しばらくして、ようやく息が落ち着いてきた頃、ハヤトくんが、まだ息を切らしながらケンタくんに向き直った。
「ケンタ……お前、すげぇじゃないか! あれ、何だったんだよ」
尋ねられたケンタくんは、少し照れくさそうに、でも誇らしげに胸を張った。さっきまでの怯えた様子は、もうどこにもない。
「あ、あれは、その……古いカメラのフラッシュと、回路を改造したやつで……。つまり、強制的に電気を溜めて、一気に放出させることで、強力なフラッシュを焚いたんだ。うまくいって、よかった……」
専門的な言葉を並べながら、彼は早口で説明してくれた。私には半分も理解できなかったけれど、彼が自分の知識と技術で、私たちの絶体絶命のピンチを救ってくれたことだけは、はっきりと分かった。
「森くん、すごい。あなたがいなければ、私たちは今頃……」
リコさんが、心から感心したように言った。彼女が誰かをストレートにほめるのを、私は初めて見たかもしれない。
「い、いや、そんなことないよ。僕なんて、足手まといなだけで……」
ケンタくんは、いつもの調子で首を横に振る。でも、その口元は、少しだけうれしそうに緩んでいた。
私は、自分の手のひらを見つめた。そこには、さっき手に入れた『赤の絵の具』が、しっかりと握られている。
ハヤトくんがおとりになってくれて、ケンタくんが最後の最後で機転を利かせてくれて、リコさんがいつも冷静に状況を判断してくれる。だから、私たちは今、ここにいられる。この絵の具を、手に入れることができた。
一人じゃ、絶対に無理だった。
今まで、私はずっと一人で絵を描いてきた。自分の気持ちを誰かに伝えるのが怖くて、自分の世界に閉じこもってばかりいた。でも、今は違う。隣には、一緒に戦ってくれる仲間がいる。
快活で、みんなを引っ張ってくれるハヤトくん。
冷静で、いつも正しい答えを導き出してくれるリコさん。
気弱だけど、いざという時にすごい力を発揮するケンタくん。
少し前まで、ただのクラスメイトでしかなかったはずの三人が、今は、とても大きくて、かけがえのない存在に思えた。一つの危機を一緒に乗り越えたことで、私たちの間には、言葉にしなくても分かるような、強いつながりが生まれているのを感じた。
「さあ、次に行きましょう」
リコさんが、きりっとした表情で立ち上がった。
「休んでいる時間はありません。次の目的地は、給食室です」
彼女の言葉に、私たちも頷き、ゆっくりと立ち上がった。体は、まだ鉛のように重たい。でも、心は、さっきよりもずっと軽くなっていた。
◇
私たちは、古い見取り図を頼りに、一階の廊下を奥へと進んだ。給食室は、特別教室棟の、一番端にあるらしかった。
廊下を曲がると、ひときわ大きな両開きの金属製の扉が見えてきた。ステンレスでできたその扉は、この白黒の世界では、周りの壁と同じような鈍い灰色にしか見えない。
でも、その扉の隙間から、何かが漏れ出てきているのが分かった。
匂いだ。
色がないはずのこの世界で、その感覚だけは、やけにはっきりと私の鼻を刺激した。それは、一つの匂いじゃない。カレーのスパイスの匂い、パンが焼ける香ばしい匂い、シチューのミルクの甘い匂い、野菜を煮込んだ時の優しい匂い。
たくさんの食べ物の匂いが、ごちゃごちゃになって、私たちの周りを漂っている。
本来なら、お腹が空いてくるような、幸せな匂いのはずだ。でも、今は違う。色も音も、人の気配も全くないこの世界で、この強烈な匂いの存在は、ひどくちぐはぐで、不気味なものに感じられた。
「……なんだか、変な感じだな」
ハヤトくんが、鼻のあたりを押さえながら言った。
「ええ。匂いの記憶だけが、この場所に残っているみたいですね」
リコさんが、冷静に分析する。
ハヤトくんが、そっと扉を押し開けた。中は、想像していた通りの場所だった。広々とした土間に、巨大な鍋や調理器具がいくつも並んでいる。大きなシンクや、作業台も、全部が灰色に染まって、工場のようにも見えた。
そして、私たちは、それを見つけてしまった。
給食室の中を、ゆっくりと、目的もなく歩き回る、いくつかの黒い人型。音楽室で見たものと同じ、あの異形たちだ。数は、十体もいないくらい。音楽室の時と比べれば、ずっと少ない。でも、その存在は、この場所に重苦しい緊張感を与えていた。
「匂いにつられて、集まってきたんでしょうか」
リコさんが、小さな声でつぶやく。
「どうする? また、ケンタのあれ、使えないのか?」
ハヤトくんの問いに、ケンタくんは力なく首を振った。
「ごめん……。あれは、一回しか使えない、即席の装置なんだ。もう、部品もないし……」
「そうか……」
ハヤトくんは、残念そうにうなだれる。
私たちは、扉の陰に隠れて、中の様子をじっとうかがった。黒い人型たちは、相変わらずゆらゆらと、調理台の間をさまよっている。彼らに気づかれずに、どうやって『黄の絵の具』が隠されている場所まで行けばいいんだろう。
見取り図によれば、印がつけられているのは、部屋の一番奥にある、巨大な業務用冷蔵庫のあたりだった。
ここから、一番遠い場所。
どうしようかとみんなが黙り込んでしまった時、ずっと人型たちの動きを観察していたリコさんが、ふと何かに気づいたように、小さく声を上げた。
「……あれ?」
「どうしたの、氷川さん?」
私が尋ねると、彼女は眼鏡の位置を直しながら、指で一方向を示した。
「見てください。あそこの人型たちの動きを」
私たちが、彼女の指さす方を見る。そこは、果物なんかをカットする作業台のようだった。そのあたりをうろついている二体の人型は、他のものとは少し違う動きをしていた。
他の人型が、色々な匂いが混ざっている空間を気ままに歩き回っているのに対して、その二体は、なぜか作業台のある一角だけを、明らかに避けるようにして動いている。
「確かに……。なんで、あそこだけ避けてるんだ?」
ハヤトくんも、その不自然さに気づいたようだ。
「あの作業台では、何の調理が行われることが多いか、分かりますか?」
リコさんに尋ねられ、私は記憶を探った。給食の献立表。確か、あの場所は、デザートのフルーツポンチなんかを作る時に使われていたはずだ。オレンジや、パイナップルや、レモン……。
「……柑橘系の、果物とかを切る場所、だったと思う」
私がそう答えた瞬間、リコさんは「やはり、そうでしたか」と、確信したように頷いた。
「おそらく、彼らは、特定の匂いを嫌っているんです。特に、柑橘類が放つ、あの強い酸の匂いを」
「匂いを、嫌ってる?」
「ええ。あくまで仮説ですが、試してみる価値はあります」
リコさんの瞳には、知的な探究心の色が浮かんでいた。彼女の冷静な観察眼が、またしても、私たちに新しい突破口を示してくれようとしていた。
◇
「問題は、どうやってその匂いを用意するか、ですね」
リコさんは、腕を組んで考え込む。
「この給食室に、レモンか何か、残ってないかな」
私が言うと、ケンタくんが「でも……」と口ごもった。
「残ってたとしても、この世界じゃ、色だけじゃなくて、匂いとかも全部なくなってるんじゃ……」
彼の言う通りかもしれない。この給食室に残っている匂いは、あくまで『記憶』のようなもので、匂いの元となるもの自体が、まだ効果を持っているとは限らない。
どうしようかと、またしても行き詰まりかけた時、ケンタくんが、はっと何かを思い出したように顔を上げた。
「あ、そうだ! 僕、持ってるかもしれない!」
彼は、そう言うと、慌てて自分のランドセルを降ろし、中をごそごそと漁り始めた。教科書やノートにまぎれて、彼が取り出したのは、理科の実験で使う薬品がいくつか入った、小さなケースだった。
「理科室から、少しだけ持ち出してたんだ。クラブの活動で使うかもしれないと思って……。確か、この中に……あった!」
ケンタくんが、指先でつまみ上げて見せたのは、小さな薬品瓶だった。貼られたラベルには『クエン酸』と書かれている。
「クエン酸? それって、レモンとかに入ってる、酸っぱい成分のことだろ?」
ハヤトくんが、驚いたように言った。
「うん。これを水に溶かせば、かなり強い酸性の液体が作れるはずだよ。レモンそのものじゃないけど、代わりにはなるかも……」
「素晴らしい発想です、森くん」
リコさんが、ケンタくんのアイデアを称賛した。
「あとは、これをどうやって霧状に散布するか、ですが……」
「それなら、あそこに」
ハヤトくんが指さしたのは、壁際の掃除用具入れだった。そこには、殺菌用のアルコールなどを入れておく、空のスプレーボトルがいくつか置かれているのが見えた。
「よし、作戦は決まりだな」
ハヤトくんが、にやりと笑う。
作戦は、こうだ。まず、一番動きの俊敏なハヤトくんが、人型たちに気づかれないように、掃除用具入れからスプレーボトルを取ってくる。その間に、ケンタくんがクエン酸を水に溶かす準備をする。ボトルが手に入ったら、即席の忌避スプレーを作り、それを使いながら、目的地の冷蔵庫を目指す。
私たちは、もう一度お互いの顔を見合わせた。さっきの音楽室での一件で、私たちの間には、言葉にしなくても役割分担ができるような、不思議な一体感が生まれていた。
ハヤトくんは、頷き合うと、音もなく扉の陰から飛び出した。猫のように身をかがめ、調理台の陰に隠れながら、慎重に、でも素早く、掃除用具入れへと近づいていく。
人型の一体が、ふと彼の動いた方に顔を向けたような気がして、私の背筋が凍った。でも、それは気のせいだったらしい。人型は、また何事もなかったかのように、ふらふらと歩き去っていった。
やがて、ハヤトくんは、一本のスプレーボトルを手に、無事に私たちの元へと戻ってきた。
「よし、ケンタ! 頼んだぞ!」
「う、うん!」
ケンタくんは、ハヤトくんからボトルを受け取ると、近くの水道の蛇口をひねった。この世界でも、水だけはちゃんと出るらしい。彼は、ボトルに半分ほど水を入れると、そこにクエン酸の粉末を慎重に注ぎ込んだ。そして、ふたを固く締め、シャカシャカと、ボトルを必死に振る。
白い粉は、あっという間に水に溶けて、ただの透明な液体になった。
「できた……。即席、対異形用忌避スプレーだよ」
ケンタくんは、少し得意げにそう言った。その効果は、まだ分からない。でも、これは、私たちが自分たちの頭で考え、協力して作り出した、最初の『武器』だった。
◇
「よし、僕が前に出る。みんなは、僕の後ろに隠れててくれ」
ハヤトくんが、ケンタくんからスプレーボトルを受け取り、先頭に立った。私たちは、彼の背中に続くようにして、一列になる。
ハヤトくんは、大きく息を吸うと、給食室の中へと、堂々と一歩を踏み出した。
一番近くにいた人型が、私たちの存在に気づき、ゆらりとこちらへ向き直る。そして、その黒い手を、私たちの方へ伸ばそうとした。
シュッ!
ハヤトくんが、ためらうことなくスプレーの引き金を引く。霧状になった液体が、人型の顔のあたりに、まっすぐ噴射された。
すると、信じられないことが起きた。
液体を浴びた人型は、熱湯でもかけられたかのように、激しく身をよじった。そして、今まで私たちに向かってきていたのがうそのように、慌てて踵を返し、逃げるように後ずさっていく。
「すげぇ! 本当に効いてるぞ!」
ハヤトくんが、興奮した声を上げた。
「やった! やったよ、みんな!」
ケンタくんも、自分の発明の効果に、飛び上がらんばかりに喜んでいる。
その効果は、絶大だった。ハヤトくんが、近づいてくる人型たちにスプレーを吹きかけるたびに、彼らは面白いように、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。酸っぱい匂いが、よほど嫌いらしい。
私たちは、その光景に勇気づけられ、守られるようにして、部屋の奥へと進んでいった。目の前に立ちはだかっていた黒い絶望が、道を開けていく。それは、とても心強い光景だった。
やがて、私たちは、目的の場所である、巨大な業務用冷蔵庫の前にたどり着いた。銀色の、分厚い扉が、壁のようにそびえ立っている。
「この中、だよな?」
ハヤトくんが、私たちに確認するように言った。私たちは、こくりと頷く。
彼が、重たい扉の取っ手に手をかけ、渾身の力でそれを引いた。ごごご、と地響きのような音を立てて、扉がゆっくりと開いていく。
冷蔵庫の中は、もちろん空っぽだった。がらんとした空間には、棚が何段も設置されているだけ。そして、その一番奥の棚の上に、それはあった。
ぽつんと、一本だけ。
それは、太陽の光をそのまま固めたような、まぶしい『黄色』の絵の具だった。この灰色の世界の中にあるのが、信じられないくらい、鮮やかで、温かい色。見ているだけで、心がぽかぽかしてくるような、希望の色。
私は、吸い寄せられるように冷蔵庫の中に入り、その絵の具のチューブを、そっと手に取った。
やった。これで、二つ目だ。
赤と、黄色。二つの色が、私の手の中にある。ゴールが、また一歩、近づいた。
「やったな、相田!」
「ええ、これで二色目です。残すは、校長室の『青』だけですね」
「僕たち、すごいよ! きっと、元の世界に戻れるよ!」
冷蔵庫から出た私を、三人が笑顔で迎えてくれた。目的を果たした安心感と、仲間と力を合わせれば何でもできるという高揚感が、私たちを包み込む。もう、何も怖いものなんてない。そんな気さえしていた。
だから、私たちは、気づかなかったんだ。
ケンタくんが作った、あの即席スプレーの効果が、永遠に続くわけではないという、当たり前の事実に。
そして、その効果が、もう切れかかっているということに。
ふと、私は、さっきまで私たちの周りを満たしていた、あのツンとした酸っぱい匂いが、いつの間にか薄れていることに気がついた。
あれ? と思うのと、ハヤトくんが「……やべぇ」とつぶやいたのは、ほぼ同時だった。
見ると、さっきまで私たちを恐れて、部屋の隅の方でうずくまっていたはずの人型たちが、いつの間にか、またもぞもぞと動き出している。そして、一体、また一体と、顔を上げて、私たちのことを見ている。その黒い輪郭が、さっきよりも、少しだけ濃くなっているような気がした。
スプレーの効果が、切れたんだ。
その事実に気づいた時には、もう遅かった。
一度は退散したはずの黒い集団が、今度こそ私たちを完全に包囲しようと、じりじりと、その距離を詰めてきていた。
私が倒してしまった譜面台が立てた、耳を裂くような金属音。それが、この音楽室に潜んでいた全ての悪意を呼び覚ましてしまったみたいだった。
壁から、床から、天井から、黒い水が湧き出してくるように、あの人の形をした何かが次から次へと生まれてくる。それはもう、十や二十どころの話じゃない。数えることさえばかばかしくなるほどの、おびただしい数の絶望だった。
うごめく黒い塊は、音の発生源である私を目がけて、一斉にこちらへとにじり寄ってくる。出口への道は、あっという間に黒い壁で塗り固められてしまった。もう、どこにも逃げ場はない。
「くそっ!」
ハヤトくんが、私をかばうように前に立ってくれる。でも、彼の背中だって、この圧倒的な数の前では、あまりにも頼りなく見えた。
リコさんは、青白い顔で周囲の状況を必死に分析しようとしているけれど、その眼鏡の奥の瞳には、隠しきれない焦りの色が浮かんでいる。
「うわああ……! もう、おしまいだぁ……!」
ケンタくんは、とうとうその場にへたり込んで、頭を抱えてしまった。
私のせいだ。私が、油断したから。せっかくハヤトくんが命がけでチャンスを作ってくれたのに。せっかく、最初の希望を手に入れたのに。全部、私が台無しにしてしまった。
『ごめんなさい』という言葉が、声にならないまま喉の奥で消える。黒い人型たちは、もう私たちのすぐそこまで迫っていた。その黒い輪郭に触れられたら、どうなってしまうんだろう。私も、この色のない世界の一部に、なってしまうんだろうか。
ぎゅっと、目を閉じる。右の手には、さっき手に入れたばかりの『赤の絵の具』の、ひんやりとした感触が残っていた。
その、時だった。
「――うるさいっ!」
聞こえたのは、ケンタくんの、裏返った叫び声だった。それは、恐怖に怯える悲鳴とは少し違う、何かに逆らうような、必死の叫び。
私がおそるおそる目を開けると、信じられない光景が広がっていた。
さっきまで頭を抱えてうずくまっていたはずのケンタくんが、いつの間にか立ち上がっていた。彼は、いつも着ている多機能ベストのポケットというポケットに手を突っ込み、何かを探している。そして、一つの小さな機械のようなものを取り出すと、それを私たちと黒い人型たちの間に、思い切り投げつけた。
カラン、と乾いた音がして、床に転がる小さな機械。それは、普段彼が分解して遊んでいる、古いカメラか何かの部品みたいに見えた。
「みんな、目をつぶって!」
ケンタくんが叫ぶ。その声に、私たちは訳も分からないまま、反射的にぎゅっと目を閉じた。
次の瞬間。
ピカッ!
まぶたを閉じていても分かるほどの、強烈な閃光。世界が、一瞬だけ真っ白になった。真昼の太陽を、真正面から見た時みたいに。
そして、閃光と同時に、ジジジジッ、という耳障りな放電音みたいなものが、ごく短く鳴り渡った。
何が起きたの?
おそるおそる目を開けると、そこにいた黒い人型たちが、一様に動きを止めているのが見えた。いや、それだけじゃない。強い明るさを浴びたせいか、その黒い輪郭が、少しだけ薄くなっているような気がする。彼らは、その明るさそのものを怖がるかのように、後ずさるような動きを見せていた。
「今だ! 今のうちに、出口へ!」
ケンタくんの声に、私たちは我に返った。ハヤトくんが、すぐさま私の腕をつかむ。
「行くぞ!」
四人は、もつれる足で、それでも必死に出口へと向かって走り出した。黒い人型たちが作った壁は、輝きのおかげで、ほんの少しだけ隙間が生まれている。私たちは、そのわずかな隙間を、体をぶつけ合うようにして駆け抜けた。
廊下に転がり出た私たちは、一度も振り返ることなく、階段を目指して走った。音楽室から、あの黒い何かが追いかけてくる気配はなかった。
◇
一階の廊下の隅までたどり着いた私たちは、壁に背中をもたせかけるようにして、その場にずるずると座り込んだ。
ぜえ、ぜえ、と、四人分の荒い息だけが、色のない空間に重なる。私は、自分の心臓が、体から飛び出してしまいそうなくらい、激しく脈打っているのを感じた。
生きてる。私たちは、助かったんだ。
しばらくして、ようやく息が落ち着いてきた頃、ハヤトくんが、まだ息を切らしながらケンタくんに向き直った。
「ケンタ……お前、すげぇじゃないか! あれ、何だったんだよ」
尋ねられたケンタくんは、少し照れくさそうに、でも誇らしげに胸を張った。さっきまでの怯えた様子は、もうどこにもない。
「あ、あれは、その……古いカメラのフラッシュと、回路を改造したやつで……。つまり、強制的に電気を溜めて、一気に放出させることで、強力なフラッシュを焚いたんだ。うまくいって、よかった……」
専門的な言葉を並べながら、彼は早口で説明してくれた。私には半分も理解できなかったけれど、彼が自分の知識と技術で、私たちの絶体絶命のピンチを救ってくれたことだけは、はっきりと分かった。
「森くん、すごい。あなたがいなければ、私たちは今頃……」
リコさんが、心から感心したように言った。彼女が誰かをストレートにほめるのを、私は初めて見たかもしれない。
「い、いや、そんなことないよ。僕なんて、足手まといなだけで……」
ケンタくんは、いつもの調子で首を横に振る。でも、その口元は、少しだけうれしそうに緩んでいた。
私は、自分の手のひらを見つめた。そこには、さっき手に入れた『赤の絵の具』が、しっかりと握られている。
ハヤトくんがおとりになってくれて、ケンタくんが最後の最後で機転を利かせてくれて、リコさんがいつも冷静に状況を判断してくれる。だから、私たちは今、ここにいられる。この絵の具を、手に入れることができた。
一人じゃ、絶対に無理だった。
今まで、私はずっと一人で絵を描いてきた。自分の気持ちを誰かに伝えるのが怖くて、自分の世界に閉じこもってばかりいた。でも、今は違う。隣には、一緒に戦ってくれる仲間がいる。
快活で、みんなを引っ張ってくれるハヤトくん。
冷静で、いつも正しい答えを導き出してくれるリコさん。
気弱だけど、いざという時にすごい力を発揮するケンタくん。
少し前まで、ただのクラスメイトでしかなかったはずの三人が、今は、とても大きくて、かけがえのない存在に思えた。一つの危機を一緒に乗り越えたことで、私たちの間には、言葉にしなくても分かるような、強いつながりが生まれているのを感じた。
「さあ、次に行きましょう」
リコさんが、きりっとした表情で立ち上がった。
「休んでいる時間はありません。次の目的地は、給食室です」
彼女の言葉に、私たちも頷き、ゆっくりと立ち上がった。体は、まだ鉛のように重たい。でも、心は、さっきよりもずっと軽くなっていた。
◇
私たちは、古い見取り図を頼りに、一階の廊下を奥へと進んだ。給食室は、特別教室棟の、一番端にあるらしかった。
廊下を曲がると、ひときわ大きな両開きの金属製の扉が見えてきた。ステンレスでできたその扉は、この白黒の世界では、周りの壁と同じような鈍い灰色にしか見えない。
でも、その扉の隙間から、何かが漏れ出てきているのが分かった。
匂いだ。
色がないはずのこの世界で、その感覚だけは、やけにはっきりと私の鼻を刺激した。それは、一つの匂いじゃない。カレーのスパイスの匂い、パンが焼ける香ばしい匂い、シチューのミルクの甘い匂い、野菜を煮込んだ時の優しい匂い。
たくさんの食べ物の匂いが、ごちゃごちゃになって、私たちの周りを漂っている。
本来なら、お腹が空いてくるような、幸せな匂いのはずだ。でも、今は違う。色も音も、人の気配も全くないこの世界で、この強烈な匂いの存在は、ひどくちぐはぐで、不気味なものに感じられた。
「……なんだか、変な感じだな」
ハヤトくんが、鼻のあたりを押さえながら言った。
「ええ。匂いの記憶だけが、この場所に残っているみたいですね」
リコさんが、冷静に分析する。
ハヤトくんが、そっと扉を押し開けた。中は、想像していた通りの場所だった。広々とした土間に、巨大な鍋や調理器具がいくつも並んでいる。大きなシンクや、作業台も、全部が灰色に染まって、工場のようにも見えた。
そして、私たちは、それを見つけてしまった。
給食室の中を、ゆっくりと、目的もなく歩き回る、いくつかの黒い人型。音楽室で見たものと同じ、あの異形たちだ。数は、十体もいないくらい。音楽室の時と比べれば、ずっと少ない。でも、その存在は、この場所に重苦しい緊張感を与えていた。
「匂いにつられて、集まってきたんでしょうか」
リコさんが、小さな声でつぶやく。
「どうする? また、ケンタのあれ、使えないのか?」
ハヤトくんの問いに、ケンタくんは力なく首を振った。
「ごめん……。あれは、一回しか使えない、即席の装置なんだ。もう、部品もないし……」
「そうか……」
ハヤトくんは、残念そうにうなだれる。
私たちは、扉の陰に隠れて、中の様子をじっとうかがった。黒い人型たちは、相変わらずゆらゆらと、調理台の間をさまよっている。彼らに気づかれずに、どうやって『黄の絵の具』が隠されている場所まで行けばいいんだろう。
見取り図によれば、印がつけられているのは、部屋の一番奥にある、巨大な業務用冷蔵庫のあたりだった。
ここから、一番遠い場所。
どうしようかとみんなが黙り込んでしまった時、ずっと人型たちの動きを観察していたリコさんが、ふと何かに気づいたように、小さく声を上げた。
「……あれ?」
「どうしたの、氷川さん?」
私が尋ねると、彼女は眼鏡の位置を直しながら、指で一方向を示した。
「見てください。あそこの人型たちの動きを」
私たちが、彼女の指さす方を見る。そこは、果物なんかをカットする作業台のようだった。そのあたりをうろついている二体の人型は、他のものとは少し違う動きをしていた。
他の人型が、色々な匂いが混ざっている空間を気ままに歩き回っているのに対して、その二体は、なぜか作業台のある一角だけを、明らかに避けるようにして動いている。
「確かに……。なんで、あそこだけ避けてるんだ?」
ハヤトくんも、その不自然さに気づいたようだ。
「あの作業台では、何の調理が行われることが多いか、分かりますか?」
リコさんに尋ねられ、私は記憶を探った。給食の献立表。確か、あの場所は、デザートのフルーツポンチなんかを作る時に使われていたはずだ。オレンジや、パイナップルや、レモン……。
「……柑橘系の、果物とかを切る場所、だったと思う」
私がそう答えた瞬間、リコさんは「やはり、そうでしたか」と、確信したように頷いた。
「おそらく、彼らは、特定の匂いを嫌っているんです。特に、柑橘類が放つ、あの強い酸の匂いを」
「匂いを、嫌ってる?」
「ええ。あくまで仮説ですが、試してみる価値はあります」
リコさんの瞳には、知的な探究心の色が浮かんでいた。彼女の冷静な観察眼が、またしても、私たちに新しい突破口を示してくれようとしていた。
◇
「問題は、どうやってその匂いを用意するか、ですね」
リコさんは、腕を組んで考え込む。
「この給食室に、レモンか何か、残ってないかな」
私が言うと、ケンタくんが「でも……」と口ごもった。
「残ってたとしても、この世界じゃ、色だけじゃなくて、匂いとかも全部なくなってるんじゃ……」
彼の言う通りかもしれない。この給食室に残っている匂いは、あくまで『記憶』のようなもので、匂いの元となるもの自体が、まだ効果を持っているとは限らない。
どうしようかと、またしても行き詰まりかけた時、ケンタくんが、はっと何かを思い出したように顔を上げた。
「あ、そうだ! 僕、持ってるかもしれない!」
彼は、そう言うと、慌てて自分のランドセルを降ろし、中をごそごそと漁り始めた。教科書やノートにまぎれて、彼が取り出したのは、理科の実験で使う薬品がいくつか入った、小さなケースだった。
「理科室から、少しだけ持ち出してたんだ。クラブの活動で使うかもしれないと思って……。確か、この中に……あった!」
ケンタくんが、指先でつまみ上げて見せたのは、小さな薬品瓶だった。貼られたラベルには『クエン酸』と書かれている。
「クエン酸? それって、レモンとかに入ってる、酸っぱい成分のことだろ?」
ハヤトくんが、驚いたように言った。
「うん。これを水に溶かせば、かなり強い酸性の液体が作れるはずだよ。レモンそのものじゃないけど、代わりにはなるかも……」
「素晴らしい発想です、森くん」
リコさんが、ケンタくんのアイデアを称賛した。
「あとは、これをどうやって霧状に散布するか、ですが……」
「それなら、あそこに」
ハヤトくんが指さしたのは、壁際の掃除用具入れだった。そこには、殺菌用のアルコールなどを入れておく、空のスプレーボトルがいくつか置かれているのが見えた。
「よし、作戦は決まりだな」
ハヤトくんが、にやりと笑う。
作戦は、こうだ。まず、一番動きの俊敏なハヤトくんが、人型たちに気づかれないように、掃除用具入れからスプレーボトルを取ってくる。その間に、ケンタくんがクエン酸を水に溶かす準備をする。ボトルが手に入ったら、即席の忌避スプレーを作り、それを使いながら、目的地の冷蔵庫を目指す。
私たちは、もう一度お互いの顔を見合わせた。さっきの音楽室での一件で、私たちの間には、言葉にしなくても役割分担ができるような、不思議な一体感が生まれていた。
ハヤトくんは、頷き合うと、音もなく扉の陰から飛び出した。猫のように身をかがめ、調理台の陰に隠れながら、慎重に、でも素早く、掃除用具入れへと近づいていく。
人型の一体が、ふと彼の動いた方に顔を向けたような気がして、私の背筋が凍った。でも、それは気のせいだったらしい。人型は、また何事もなかったかのように、ふらふらと歩き去っていった。
やがて、ハヤトくんは、一本のスプレーボトルを手に、無事に私たちの元へと戻ってきた。
「よし、ケンタ! 頼んだぞ!」
「う、うん!」
ケンタくんは、ハヤトくんからボトルを受け取ると、近くの水道の蛇口をひねった。この世界でも、水だけはちゃんと出るらしい。彼は、ボトルに半分ほど水を入れると、そこにクエン酸の粉末を慎重に注ぎ込んだ。そして、ふたを固く締め、シャカシャカと、ボトルを必死に振る。
白い粉は、あっという間に水に溶けて、ただの透明な液体になった。
「できた……。即席、対異形用忌避スプレーだよ」
ケンタくんは、少し得意げにそう言った。その効果は、まだ分からない。でも、これは、私たちが自分たちの頭で考え、協力して作り出した、最初の『武器』だった。
◇
「よし、僕が前に出る。みんなは、僕の後ろに隠れててくれ」
ハヤトくんが、ケンタくんからスプレーボトルを受け取り、先頭に立った。私たちは、彼の背中に続くようにして、一列になる。
ハヤトくんは、大きく息を吸うと、給食室の中へと、堂々と一歩を踏み出した。
一番近くにいた人型が、私たちの存在に気づき、ゆらりとこちらへ向き直る。そして、その黒い手を、私たちの方へ伸ばそうとした。
シュッ!
ハヤトくんが、ためらうことなくスプレーの引き金を引く。霧状になった液体が、人型の顔のあたりに、まっすぐ噴射された。
すると、信じられないことが起きた。
液体を浴びた人型は、熱湯でもかけられたかのように、激しく身をよじった。そして、今まで私たちに向かってきていたのがうそのように、慌てて踵を返し、逃げるように後ずさっていく。
「すげぇ! 本当に効いてるぞ!」
ハヤトくんが、興奮した声を上げた。
「やった! やったよ、みんな!」
ケンタくんも、自分の発明の効果に、飛び上がらんばかりに喜んでいる。
その効果は、絶大だった。ハヤトくんが、近づいてくる人型たちにスプレーを吹きかけるたびに、彼らは面白いように、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。酸っぱい匂いが、よほど嫌いらしい。
私たちは、その光景に勇気づけられ、守られるようにして、部屋の奥へと進んでいった。目の前に立ちはだかっていた黒い絶望が、道を開けていく。それは、とても心強い光景だった。
やがて、私たちは、目的の場所である、巨大な業務用冷蔵庫の前にたどり着いた。銀色の、分厚い扉が、壁のようにそびえ立っている。
「この中、だよな?」
ハヤトくんが、私たちに確認するように言った。私たちは、こくりと頷く。
彼が、重たい扉の取っ手に手をかけ、渾身の力でそれを引いた。ごごご、と地響きのような音を立てて、扉がゆっくりと開いていく。
冷蔵庫の中は、もちろん空っぽだった。がらんとした空間には、棚が何段も設置されているだけ。そして、その一番奥の棚の上に、それはあった。
ぽつんと、一本だけ。
それは、太陽の光をそのまま固めたような、まぶしい『黄色』の絵の具だった。この灰色の世界の中にあるのが、信じられないくらい、鮮やかで、温かい色。見ているだけで、心がぽかぽかしてくるような、希望の色。
私は、吸い寄せられるように冷蔵庫の中に入り、その絵の具のチューブを、そっと手に取った。
やった。これで、二つ目だ。
赤と、黄色。二つの色が、私の手の中にある。ゴールが、また一歩、近づいた。
「やったな、相田!」
「ええ、これで二色目です。残すは、校長室の『青』だけですね」
「僕たち、すごいよ! きっと、元の世界に戻れるよ!」
冷蔵庫から出た私を、三人が笑顔で迎えてくれた。目的を果たした安心感と、仲間と力を合わせれば何でもできるという高揚感が、私たちを包み込む。もう、何も怖いものなんてない。そんな気さえしていた。
だから、私たちは、気づかなかったんだ。
ケンタくんが作った、あの即席スプレーの効果が、永遠に続くわけではないという、当たり前の事実に。
そして、その効果が、もう切れかかっているということに。
ふと、私は、さっきまで私たちの周りを満たしていた、あのツンとした酸っぱい匂いが、いつの間にか薄れていることに気がついた。
あれ? と思うのと、ハヤトくんが「……やべぇ」とつぶやいたのは、ほぼ同時だった。
見ると、さっきまで私たちを恐れて、部屋の隅の方でうずくまっていたはずの人型たちが、いつの間にか、またもぞもぞと動き出している。そして、一体、また一体と、顔を上げて、私たちのことを見ている。その黒い輪郭が、さっきよりも、少しだけ濃くなっているような気がした。
スプレーの効果が、切れたんだ。
その事実に気づいた時には、もう遅かった。
一度は退散したはずの黒い集団が、今度こそ私たちを完全に包囲しようと、じりじりと、その距離を詰めてきていた。
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