「好き」があふれて止まらない!

梶ゆいな

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【4】みんなには秘密にしてたのに!

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明日なんてこなければいいのに。

そう願っても当然のように日は昇るわけで。

わたしはいつもどおりスマホのアラームの音で目を覚ました。


「⋯⋯咲茉、もう食べないの?」

朝食を半分以上残しているわたしを見て、お母さんが不思議そうな顔をする。

テレビからはお馴染みのアナウンサーさんの声。

画面の左上に表示された時刻は七時五分。

いつもならとっくに朝食を食べ終えている時間だ。


「何、具合でも悪いの?」

お母さんの手が額に触れて、熱がないか確認される。

「熱は⋯⋯ないわね。具合が悪いようなら今日は学校お休みする?」

「ううん。⋯⋯行く」

今日、休んでも問題が先送りになるだけだ。


だ、大丈夫。我妻くんは忙しくて楽譜を見てない。

だから、小説にも気づいていない!


そう自分に言い聞かせてなんとか学校までたどり着いたんだけれど──。


「比高って小説書くんだな」


わたしは今、旧校舎の片隅で我妻くんに壁ドンをされています⋯⋯!

話は十五分前に遡る。

辺りをキョロキョロと確認しながら自分の席に着いたわたしはどうやって小説を回収するか考えていた。

『我妻くん、おはよう! 昨日、わたしのルーズリーフが一枚足りないことに気づいて⋯⋯。我妻くん持ってないかな?』

これが自然かな。⋯⋯本当に?

わたしみたいな目立たない人間が人気者の我妻くんに自ら話しかけるなんて不自然じゃない?

一度、教室から出てもらう?

だけど、そのためには結局自分から声をかけないといけないし⋯⋯。


小説を読みたい気持ちをグッとこらえて必死に頭を働かせる。

三パターン目を考えはじめたときに廊下から黄色い歓声が上がった。

それから程なくして我妻くんと同じMEBIUSのメンバーである杉浦新くんが教室に入ってきた。

き、来た⋯⋯!

近くの男の子と挨拶を交わして席に着く杉浦くん。

我妻くんは廊下側にある自分の席をスルーして教室の奥へと足を進める。

そして、なぜかわたしの目の前で立ち止まった。

「あのさ、ちょっといい?」

我妻くんはいつもと変わらない平然とした表情でわたしを見下ろす。

「えっと⋯⋯?」

「昨日、比高のルーズリーフを持ち帰ったんだけど」

「や、やっぱり我妻くんが持っててくれたんだ」

ルーズリーフが見つかってひとまず安心。


だけど、今度は小説を読まれたんじゃないかって不安が襲ってくる。


「返すからついてきて」

我妻くんはそう言うと視線を廊下へと向けた。

「へっ?」

今、返してくれるんじゃないの?

あっ、ここで我妻くんがわたしにルーズリーフを渡したらみんなが不思議に思うから?

でも、我妻くんとふたりで教室を出ていったほうが後々、騒ぎになるような⋯⋯。

わたしと違って周りの様子なんて一切、気にしない我妻くんは先に教室から出ていってしまった。

ル、ルーズリーフ! わたしの小説!

返してもらわなきゃ!

ヒソヒソ話をするクラスメイトたちの視線を避けて、わたしは彼の背中を追った。


***

旧校舎まで来てようやく足を止めた我妻くん。


「あっ、あの我妻くん。わっ、わたしのルーズリーフ⋯⋯」


彼の歩幅に合わせたせいか、わたしの息は微かに上がっている。



「ああ、返すよ。その前にひとつ確認してもいいか?」

「うん?」

「あのさ、これって小説だよな?」

その言葉のあと、視界は白と黒の色で覆われた。

目の前でひらりと揺れたのは間違いなくわたしのルーズリーフだ。

あ⋯⋯我妻くん今、小説って口にしたよね?

目を見開くわたしの向こう側で我妻くんがどういう表情をしているのかはわからない。

だって、わたしの視界は数秒前からルーズリーフに遮られているから。

「あの、これは小説って言うか。ほ、本が好きで! その本の内容を書き写したものなんだ~」

「誰のなんて本?」

「えっと⋯⋯」

「なんのために書き写してんの?」

「それは⋯⋯」

普段あまり喋らない我妻くんから次々と質問が飛んでくる。

「まぁ、いいや」

ようやく終わった質問タイムにほっと胸を撫でおろす。

目の前にあったルーズリーフはゆっくり遠ざかっていって、いつもと変わらない表情をした我妻くんと目が合った。

「じゃあ、そろそろ返してもらってもいいかな?」

わたしがそう口にした次の瞬間、あろうことか彼はルーズリーフに書かれた文章を音読しはじめた。

「お賽銭を入れて⋯⋯」

そ、その一節は五ページ目の出だしの部分!

「こ、声に出して読まないで!!」


「やっぱり比高の小説じゃん」

「あっ⋯⋯」

わたしの負け。

我妻くんにその場しのぎの嘘は通用しなかった。

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