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【5】わたしにはできない
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こうなったら逃げるしかない!
我妻くんの手からルーズリーフを奪い取って⋯⋯って、取れない。
わたしが手を伸ばすよりも先に、ルーズリーフを天高く掲げた我妻くん。
わたしたちの身長差は約二十センチ。
背伸びをしても、飛んでみても、ルーズリーフには手が届かない。
「悪いけど逃がす気ないから」
不敵な笑みを浮かべる我妻くんはじりじりと距離を詰めてくると壁に手を付き、わたしを壁と自分の間に閉じ込めた。
逃げ道を完全に封鎖されてしまった。
小説では何度も書いたことのある壁ドンをまさか自分が体験することになるなんて。
「もう一度聞く」
「は、はい⋯⋯」
「比高って小説書くんだな」
逃げ場をなくしたわたしは黙って頷くことしかできなかった。
小説を書いていることは家族以外誰にも言っていないのに、よりによって同じクラスの我妻くんにバレちゃうなんて。
「それで本題はこっからなんだけど」
「えっ⁉ これで終わりじゃないの?」
わたしの大きな声が廊下に響いて、壁に手をついていた我妻くんが数歩後ろへと下がる。
これ以上、何を話すことがあるんだろう。
「本題って何?」
「比高に俺たちのバンドの歌詞を書いてほしい」
「⋯⋯へっ?」
我妻くんの口から出た突拍子もない発言に間抜けな返事をしてしまうわたし。
「バンドの歌詞って?」
我妻くんのバンドってMEBIUSのことだよね。
「MEBIUSのラブソングを比高に書いてほしいってこと」
「あの⋯⋯言ってる意味がよくわからないんだけど」
どうしてわたしにそんな話をするんだろう?
「俺たちラブソングだけは書けないんだよ。だから、他に書いてくれる人を探してて、比高なら書けるんじゃないかと思って」
我妻くんは持っていたルーズリーフをひらひらと揺らした。
わたしを旧校舎まで呼び出したのはこの話をするためだったの?
「わたしにMEBIUSの歌詞なんて書けないよ。我妻くんのファンの子たちに頼んでみたらどうかな」
MEBIUSの頼みならみんな喜んで協力してくれると思う。
「なんで他の奴が出てくるんだよ。俺は比高に頼んでるんだ」
「それってわたしが小説を書くから? 小説を書くのと歌詞を書くのとではわけが違うよ」
「それは俺もわかってる。だけど、比高がいいんだよ。小説を書くからだけじゃない。比高の選ぶ言葉が好きだから」
そんなことを言われたのは初めてだった。
どれだけコンテストや公募に応募しても選外だと選評はもらえないことがほとんど。
サイトに載せている小説にも感想はゼロで、わたしの小説について話してくれたのは我妻くんが初めてだ。
“比高の選ぶ言葉が好きだから”そう
言われて涙が出そうなくらい嬉しかった。
わたしは言葉と向き合う時間が大好きで、歌詞を書いてみたい気持ちもある。
だけど、やっぱりわたしには書けないよ。
「ごめん。わたしには無理なの」
「どうして?」
「今は小説を書くだけでいっぱいいっぱいだから。わたしには二つのことなんてできないの」
小説で結果を残せていないわたしが作詞に時間を費やすなんてできない。
「やってみたことはあるのか?」
「⋯⋯ないけど」
「じゃあ、やってみなきゃわからないだろ」
我妻くんとわたしは違う。
同じ中学生なのにギターが弾けて、歌も歌えて。
ステージにも立って、ファンがいて。
歌詞もラブソング以外は書けるんでしょう?
だから、自信を持ってそう言えるんだよ。
「我妻くんとわたしは違うから」
わたしの言葉をかき消すように予鈴が鳴った。
「授業がはじまるし教室に戻ろう」
「⋯⋯わかった」
教室に戻るまでの間、後ろを歩く我妻くんが口を開くことはなかった。
我妻くんの手からルーズリーフを奪い取って⋯⋯って、取れない。
わたしが手を伸ばすよりも先に、ルーズリーフを天高く掲げた我妻くん。
わたしたちの身長差は約二十センチ。
背伸びをしても、飛んでみても、ルーズリーフには手が届かない。
「悪いけど逃がす気ないから」
不敵な笑みを浮かべる我妻くんはじりじりと距離を詰めてくると壁に手を付き、わたしを壁と自分の間に閉じ込めた。
逃げ道を完全に封鎖されてしまった。
小説では何度も書いたことのある壁ドンをまさか自分が体験することになるなんて。
「もう一度聞く」
「は、はい⋯⋯」
「比高って小説書くんだな」
逃げ場をなくしたわたしは黙って頷くことしかできなかった。
小説を書いていることは家族以外誰にも言っていないのに、よりによって同じクラスの我妻くんにバレちゃうなんて。
「それで本題はこっからなんだけど」
「えっ⁉ これで終わりじゃないの?」
わたしの大きな声が廊下に響いて、壁に手をついていた我妻くんが数歩後ろへと下がる。
これ以上、何を話すことがあるんだろう。
「本題って何?」
「比高に俺たちのバンドの歌詞を書いてほしい」
「⋯⋯へっ?」
我妻くんの口から出た突拍子もない発言に間抜けな返事をしてしまうわたし。
「バンドの歌詞って?」
我妻くんのバンドってMEBIUSのことだよね。
「MEBIUSのラブソングを比高に書いてほしいってこと」
「あの⋯⋯言ってる意味がよくわからないんだけど」
どうしてわたしにそんな話をするんだろう?
「俺たちラブソングだけは書けないんだよ。だから、他に書いてくれる人を探してて、比高なら書けるんじゃないかと思って」
我妻くんは持っていたルーズリーフをひらひらと揺らした。
わたしを旧校舎まで呼び出したのはこの話をするためだったの?
「わたしにMEBIUSの歌詞なんて書けないよ。我妻くんのファンの子たちに頼んでみたらどうかな」
MEBIUSの頼みならみんな喜んで協力してくれると思う。
「なんで他の奴が出てくるんだよ。俺は比高に頼んでるんだ」
「それってわたしが小説を書くから? 小説を書くのと歌詞を書くのとではわけが違うよ」
「それは俺もわかってる。だけど、比高がいいんだよ。小説を書くからだけじゃない。比高の選ぶ言葉が好きだから」
そんなことを言われたのは初めてだった。
どれだけコンテストや公募に応募しても選外だと選評はもらえないことがほとんど。
サイトに載せている小説にも感想はゼロで、わたしの小説について話してくれたのは我妻くんが初めてだ。
“比高の選ぶ言葉が好きだから”そう
言われて涙が出そうなくらい嬉しかった。
わたしは言葉と向き合う時間が大好きで、歌詞を書いてみたい気持ちもある。
だけど、やっぱりわたしには書けないよ。
「ごめん。わたしには無理なの」
「どうして?」
「今は小説を書くだけでいっぱいいっぱいだから。わたしには二つのことなんてできないの」
小説で結果を残せていないわたしが作詞に時間を費やすなんてできない。
「やってみたことはあるのか?」
「⋯⋯ないけど」
「じゃあ、やってみなきゃわからないだろ」
我妻くんとわたしは違う。
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ステージにも立って、ファンがいて。
歌詞もラブソング以外は書けるんでしょう?
だから、自信を持ってそう言えるんだよ。
「我妻くんとわたしは違うから」
わたしの言葉をかき消すように予鈴が鳴った。
「授業がはじまるし教室に戻ろう」
「⋯⋯わかった」
教室に戻るまでの間、後ろを歩く我妻くんが口を開くことはなかった。
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