「好き」があふれて止まらない!

梶ゆいな

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【7】初めての感覚

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五限目の授業を終えてわたしと我妻くんはそれぞれ教室掃除、廊下掃除を済ませたあと旧校舎で落ち合った。

「⋯⋯な、なんだか緊張してきた」


音楽室の前で大きく深呼吸をするわたしを見て我妻くんは「歌うのは俺らだぞ?」と不思議そうな顔をする。

「それはそうなんだけど」

MEBIUSのうちひとりは先輩だから緊張しちゃうよ。

顔はぼやっとしか思い出せないけど、優しそうな人。⋯⋯だったはず。

もう一度、深く息を吸ったタイミングでガラガラとドアの開く音がした。

「客、連れてきた」

我妻くんは息を吐いたばかりのわたしの背中を後ろからぽんっと優しく押す。

わたしはその勢いのまま音楽室へと足を踏み入れた。


音楽室の中には杉浦くんともうひとりの男の子がいて、わたしを見た瞬間に目を丸くする。

「……え、奏人が女の子を連れてくるなんてどういう風の吹き回し?」

「一番初めに言うことがそれかよ、千里」

我妻くんが千里と呼んだ男の先輩は襟足が長めの黒髪を後ろでひとつに束ねていて、黒縁のメガネをかけていた。

「ごめんごめん。あまりにも珍しい光景だったからつい。驚いた顔をしてごめんね。はじめまして、三年の二階堂にかいどう千里です」

突然お邪魔したわたしににっこりと微笑んでくれる二階堂先輩。

優しそうな人ってイメージはどうやら間違ってなかったみたい。

「わたしは我妻くんと同じクラスの比高咲茉です。今日は急にお邪魔してすみません」

わたしも慌てて自己紹介をしてから頭を下げる。


「なんだよ。その肩苦しい挨拶は」

「そうそう。ゆるくでいいよ、ゆるくで。さぁさぁ座って」

そう言いながら近くにあったイスを運んできてくれたのは杉浦くん。

明るい茶色の髪に、綺麗なアーモンドアイの瞳が特徴的。

人懐こい性格で誰とでも仲良くなれるタイプみたい。

教室にいると彼の笑い声がよく耳に入ってくる。


「奏人からお客さんを連れてくるって聞いてたけど、比高だったんだな」

「歌詞を書けそうな奴がいるって話しただろ。それが比高」

「なんで比高?」

杉浦くんが疑問に思うのも無理はない。

わたしに歌詞を書けそうな要素なんてひとつもないんだもん。

「それは⋯⋯」

我妻くんは隣にいたわたしに目配せをしてから話を続けた。


「なんとなく書けそうだと思ったから。比高っていつも本読んでるし語彙力がありそうだろ」


一瞬、小説のことを話されちゃうのかと思ってドキッとした。

我妻くん、秘密にしてくれたんだ⋯⋯。


「なるほどな」

手のひらに拳をポンッと乗せて納得の表情をする杉浦くん。

「へー、そうなんだ」

二階堂先輩も我妻くんの説明をすんなり受け入れてくれたみたい。

「今日は一度、俺たちの曲を聴いてもらおうと思って連れてきた」

「そういうことか! じゃあ、さっそく聴いてもらおうぜ!」

「その前になんの曲を披露するの?」

杉浦くんはドラムの前に移動して、二階堂先輩はベースを肩にかける。


「『響け!!!』にする」

我妻くんが曲名らしきものを口にすると、三人は音合わせをはじめた。

音楽室にギター、ベース、ドラム。それから我妻くんの歌声が響く。

調整が終わったのか、音が鳴り止むと我妻くんがマイク越しに話しはじめた。


「今から披露するのは俺たちが初めて作った曲『響け!!!』です。これよりもできの良い曲はあるけど、比高にはこの曲を聴いてほしい。ただ好きなものに対する気持ちを詰め込んだだけのこの曲を」

我妻くんが話し終えると、杉浦くんがドラムスティックをカンカンと鳴らしてカウントをとる。

その直後、三人の音がぴったりと重なった。

我妻くんの表情が変わる。

音に、声に、飲み込まれる。

目が離せない。

鼓膜が揺れる感覚も、鼓動がこんなに速くなることも初めて知った。

時間にするとたった五分。

それなのに、本を一冊読んだときと同じくらい胸がいっぱいになった。


「⋯⋯どうだった?」

「えっと⋯⋯」

うまく言葉がでない。

涙だけがポロポロと目からこぼれ落ちた。

「比高?」

「ご、ごめんなさい」

わたしは気づいたら音楽室を飛び出していた。

「おい! 比高」

背中越しに我妻くんの声が聞こえたけれど、立ち止まることはできなかった。


あんな情熱、わたしは知らない──。



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