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【1】わたしの好きなもの
しおりを挟む今日はわたしにとって大事な結果発表がある日。
「十三時まであとちょっと⋯⋯!」
スマホに表示されていた時間が【12:59】から【13:00】に切り替わった瞬間、とあるサイトへアクセスした。
ページを読み込んでいる間も心臓はドクドクと音を立てていて、今にも口から飛び出してしまいそうな勢いだ。
「⋯⋯今回こそは!」
祈るような気持ちで画面をスクロールするけれど、そこにわたしの名前はなかった。
比高咲茉、中学二年生。
小説家志望のわたしは、たった今十三回目の選外を経験したところだ。
「まただめだった⋯⋯」
画面いっぱいに開かれたままの『中学生の青春小説大賞』のページを閉じてスマホをポケットの中へとしまう。
子供の頃から本を読むことが大好きだったわたしは中学生になってから公募やコンテストに応募するようになった。
けれど、今まで一度も賞をとれたことはない。
選外を経験するたびに自分が面白いと思うものを否定されたような気持ちになる。
まだ十三回、だけどもう十三回。
同い年の子たちが結果を残すたびに焦ってしまう。
わたしだけが置いていかれるって。
そのせいか、最近はどんな小説なら受賞できるのかってことばかりを考えて自分の“好き”を見失いかけている気がする。
「でも、書かないと始まらないよね」
落ち込んでいる暇はない。
今はお昼休み。次の授業が始まるまであと十五分はある。
次のコンテストに出す小説を少しでも進めないと。
わたしは階段に腰を下ろしてルーズリーフに物語の続きを書きはじめた。
やっぱり静かな場所は筆が進む。
真っ白だったルーズリーフを二ページ分埋めたところで時間を確認すると、五限の授業開始まであと七分しかなかった。
わたしが今いる旧校舎から本校舎までは歩いて五分はかかる。
小さなため息をひとつこぼして、ルーズリーフをクリアファイルの中へとしまう。
「休み時間ってどうしてこんなにも短いんだろう」
授業を受けているときよりも、時間が二倍速に感じる。
それに次の授業が苦手な英語だと思うと、余計に気が乗らない。
けれど、サボる度胸なんてないわたしは鉛のように重い足で教室へと向かうことにした。
忘れ物がないか最後にもう一度チェックしてから、階段を下りはじめたそのとき──。
「……誰かいるのか?」
下の階から男の子の声が聞こえて、階段を大きく踏み外した。
「わ、わわわっ」
足は階段から離れて、手に持っていたクリアファイルと筆箱がくるりと空中で一回転。
ひらひらと舞う紙の隙間からよく知る男の子が現れて、気づくとわたしは彼の胸の中へと飛び込んでいた。
「あっ、ぶねーな」
耳元で聞こえた声に思わず顔を上げる。
力強い腕はわたしを片手で支えながら、もう片方の手で手すりを掴んでいた。
「ご、ごめんなさい!」
階段から転げ落ちる寸前のところを助けてくれた彼に慌てて謝る。
「怪我は?」
さらりと揺れた黒髪の隙間から切れ長の目があらわになり、ドクンと心臓が跳ねた。
「⋯⋯大⋯⋯丈夫」
わたしを助けてくれたのは、同じクラスの我妻奏人くん。
端正な顔立ちと八頭身というモデルのようなスタイルをしていて、周りから一目置かれている存在。
だけど、我妻くんが一目置かれている理由は他にもあって、それは学校内で大人気のバンドグループ・MEBIUSのメンバーだから。
MEBIUSは三人組のグループで我妻くんはボーカル兼ギター。
昨年の文化祭、ステージで歌う我妻くんの姿を見てさらにファンが急増したんだとか。
同じクラスでも凡人のわたしにとって才能のある我妻くんはまるで別世界の住人のように遠い人だ。
「あ、我妻くんこそ怪我してない?」
わたしの不注意のせいで我妻くんに怪我を負わせたなんてことになったら大問題だ。
頭の中には【MEBIUS活動休止】の言葉と共に頭を抱えるメンバーとショックを受けるファンの姿が浮かぶ。
⋯⋯せ、責任を取らないと。
で、でも、どうやって?
わたしが我妻くんのためにできることなんて雑用係ぐらいだよ⋯⋯!
「あ、あの⋯⋯ひとまず保健室に」
「保健室? 何言ってんだ。このくらいで怪我なんかするかよ」
「え⋯⋯本当? 本当にどこも痛くない?」
「だから平気だって言ってんだろ」
我妻くんの一言にほっと胸を撫でおろす。
「よ、よかった」
ほんっとーによかった!
そうだお礼! まだ言ってなかった。
我妻くんが受け止めてくれなかったら、運動神経の悪いわたしは今ごろ骨の一本や二本折っていたかもしれない。
そんなことになったら執筆活動に支障が出る。
「我妻くん助けてくれて本当に、本当にありがとう!」
「あ、ああ⋯⋯」
わたしの熱のこもったお礼に我妻くんは少し戸惑った表情を見せたあと、廊下に散らばったルーズリーフを一枚一枚拾い始めた。
ちょ、ちょっと待って! そ、それ、わたしが書いた小説!
「じ、自分で拾うから大丈夫!」
我妻くんにそう言って近くにあったルーズリーフを手に取ると、そこにはたくさんの音符が並んでいた。
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