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なぁ、死んだらどうなる?
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翌朝、有言実行と徳久は朝から祐二を叩起き起こす。
「起きろ! いつまで寝ているつもりじゃ!」
「まだ9時だ……」
「もう9時じゃ! 仕事がないとはいえ7時には起きるんじゃ!」
徳久は物体には触れられない代わり、部屋の中のものならば操れるようで、袋入りのラーメンを作っていた頃に買った鍋をお玉で叩かせる。耳に響く音に渋々起きた祐二は、空中で暴れる調理器具に、おお、と声を漏らす。どうやら目は覚めたらしい。
「……幽霊っぽいことできるんだな一応」
「一応とはなんじゃ! れっきとした幽霊じゃぞ」
「今まで浮いてるかすり抜けることしかしてなかっただろ」
「あんまりうるさくすると近所迷惑じゃからな」
「それはなんとも良心的な幽霊なことで。その力で飯作ったりできないのか?」
「できてもやらん! さあ起きたのならさっさと服を着替えんか! それで朝飯でも買ってこい」
「……わかった」
親に叱られているようだとは、もう言わなかった。のろのろとゆっくりした動きで言われたとおりに服を変える。昨日そのまま寝たせいでぐちゃぐちゃになったワイシャツと、スーツ一式をクリーニング屋にだすついでにコンビニで何食か分の弁当とパン、カップ麺を買い込む。部屋に戻って期限ぎりぎりの弁当を食べながらノートパソコンを開くと、求人サイトに登録する。個人情報や職務経歴を埋めていくのを、じっと見守っていた徳久は意外そうな声音で口をはさんだ。
「ほうほう、おぬし営業じゃったのか」
「全然売れなかったけどな」
「そりゃそうじゃろうな。そんな怠惰な態度では」
「いいんだ。ノルマない会社だったから」
「神経の図太いやつじゃな。叱られたりはせんかったのか」
「俺だからなってみんな諦めてた。冬樹先輩だけは面倒見てくれてたけど」
「ふん。気のいい奴じゃ。おぬしも少しは努力せい。適正があるにしろないにしろ変わったはずじゃと思うがな」
「そうかもしれない」
もうその仕事についていないにもかかわらず説教されるが、祐二は聞き流すだけ。自分でもわかっているのだった。営業成績が伸びないのは、テンションの高さや売り方が大きな要因ではないと。祐二の興味の薄さ。人だけでなく物事にも関心がない。当然知っているはずの自社商品のこともテンプレートの文字しか覚えられず、何度言っても客先の顔も覚えられない。求められている以上の提案もしない。何度訪問をしてみたところで、これでは何の成果も出ないのは当然のことだった。
「なぁ、死んだらどうなる?」
一通り記入欄を埋めて、条件を絞った求人を眺めながら祐二はそう問いかけてみた。祐二にもたれかかるような、パソコン越しにいた徳久は、真面目な顔になる。
「死んで楽になると思うならやめておいたほうがいい」
「死んだら死ぬだけだろ?」
「そう安易に考えるやつが絶えないから、こっちの世界は若いやつが多いんじゃ」
「というと?」
「死んでもこの世には残されるというわけじゃ。初七日だとか法事をきちっとしたところで、寿命より先に死んだ奴はこの世に留まらせられる。寿命を迎えるべき時になるまで黄泉には行けん。ちなみに、ふらふらしていれば良いかと思ったら大間違いでな、幽霊にもするべきことはある。生きて仕事に追われているほうがましじゃと、ワシは思うがな」
「そうなのか。じゃあ生きてるほうが好き勝手出来て楽だな」
「そういうことじゃ。わかったらさっさと手を動かせ! 怠けようとするんじゃない!」
いつの間にか手を止めて聞き入っている祐二に怒号が飛ぶ。
「いや、どう書けばいいかわからないし、あんたの話面白いし」
「褒めればよいというものではないわ。手が動かんのなら役所に行ってこい」
「何しに?」
「失業手当もらってこい! 金がなければ生きられんじゃろうが!」
「ああなるほど。詳しいなあんた」
「ワシも伊達に何十年生きてるわけじゃないわい」
「死んでるじゃないか」
「うるさい!」
「トクがうるさい。癇癪でポルターガイストは止めてくれよ」
「文句を言う暇があったら早く動けー!」
追い立てられて準備をしながら祐二はふとひっかかりを覚えて徳久を振り返る。不審そうな目に慌てて疑問を口にした。
「そういえば、さっき寿命が来るまで黄泉には行けないって言ってたけど、トクの寿命はいつなんだ?」
「ワシは行けぬ。幽霊とはいえ地縛霊じゃからの」
「何が違うんだ?」
「幽霊というのは自分が死んだことを理解しておる。ワシは自分が死んだと理解できぬまま死んだ。故に黄泉には行けぬ。地縛霊は不便じゃ。好きなとこにも行けず、黄泉にも行けず。幽霊としての格も一番下じゃからな」
「そうなのか。じゃあトクはずっとここにいるんだな」
「そういうことじゃな。いつでも会いに来て構わんぞ」
「ここを出る予定すらないんだが。じゃあ行ってくるから、俺の履歴書の中身でも考えていてくれ」
「任せておけ。……なわけあるかー!」
暴れまわる調理器具の騒音から逃げるように、祐二は外へ出たのだった。
「起きろ! いつまで寝ているつもりじゃ!」
「まだ9時だ……」
「もう9時じゃ! 仕事がないとはいえ7時には起きるんじゃ!」
徳久は物体には触れられない代わり、部屋の中のものならば操れるようで、袋入りのラーメンを作っていた頃に買った鍋をお玉で叩かせる。耳に響く音に渋々起きた祐二は、空中で暴れる調理器具に、おお、と声を漏らす。どうやら目は覚めたらしい。
「……幽霊っぽいことできるんだな一応」
「一応とはなんじゃ! れっきとした幽霊じゃぞ」
「今まで浮いてるかすり抜けることしかしてなかっただろ」
「あんまりうるさくすると近所迷惑じゃからな」
「それはなんとも良心的な幽霊なことで。その力で飯作ったりできないのか?」
「できてもやらん! さあ起きたのならさっさと服を着替えんか! それで朝飯でも買ってこい」
「……わかった」
親に叱られているようだとは、もう言わなかった。のろのろとゆっくりした動きで言われたとおりに服を変える。昨日そのまま寝たせいでぐちゃぐちゃになったワイシャツと、スーツ一式をクリーニング屋にだすついでにコンビニで何食か分の弁当とパン、カップ麺を買い込む。部屋に戻って期限ぎりぎりの弁当を食べながらノートパソコンを開くと、求人サイトに登録する。個人情報や職務経歴を埋めていくのを、じっと見守っていた徳久は意外そうな声音で口をはさんだ。
「ほうほう、おぬし営業じゃったのか」
「全然売れなかったけどな」
「そりゃそうじゃろうな。そんな怠惰な態度では」
「いいんだ。ノルマない会社だったから」
「神経の図太いやつじゃな。叱られたりはせんかったのか」
「俺だからなってみんな諦めてた。冬樹先輩だけは面倒見てくれてたけど」
「ふん。気のいい奴じゃ。おぬしも少しは努力せい。適正があるにしろないにしろ変わったはずじゃと思うがな」
「そうかもしれない」
もうその仕事についていないにもかかわらず説教されるが、祐二は聞き流すだけ。自分でもわかっているのだった。営業成績が伸びないのは、テンションの高さや売り方が大きな要因ではないと。祐二の興味の薄さ。人だけでなく物事にも関心がない。当然知っているはずの自社商品のこともテンプレートの文字しか覚えられず、何度言っても客先の顔も覚えられない。求められている以上の提案もしない。何度訪問をしてみたところで、これでは何の成果も出ないのは当然のことだった。
「なぁ、死んだらどうなる?」
一通り記入欄を埋めて、条件を絞った求人を眺めながら祐二はそう問いかけてみた。祐二にもたれかかるような、パソコン越しにいた徳久は、真面目な顔になる。
「死んで楽になると思うならやめておいたほうがいい」
「死んだら死ぬだけだろ?」
「そう安易に考えるやつが絶えないから、こっちの世界は若いやつが多いんじゃ」
「というと?」
「死んでもこの世には残されるというわけじゃ。初七日だとか法事をきちっとしたところで、寿命より先に死んだ奴はこの世に留まらせられる。寿命を迎えるべき時になるまで黄泉には行けん。ちなみに、ふらふらしていれば良いかと思ったら大間違いでな、幽霊にもするべきことはある。生きて仕事に追われているほうがましじゃと、ワシは思うがな」
「そうなのか。じゃあ生きてるほうが好き勝手出来て楽だな」
「そういうことじゃ。わかったらさっさと手を動かせ! 怠けようとするんじゃない!」
いつの間にか手を止めて聞き入っている祐二に怒号が飛ぶ。
「いや、どう書けばいいかわからないし、あんたの話面白いし」
「褒めればよいというものではないわ。手が動かんのなら役所に行ってこい」
「何しに?」
「失業手当もらってこい! 金がなければ生きられんじゃろうが!」
「ああなるほど。詳しいなあんた」
「ワシも伊達に何十年生きてるわけじゃないわい」
「死んでるじゃないか」
「うるさい!」
「トクがうるさい。癇癪でポルターガイストは止めてくれよ」
「文句を言う暇があったら早く動けー!」
追い立てられて準備をしながら祐二はふとひっかかりを覚えて徳久を振り返る。不審そうな目に慌てて疑問を口にした。
「そういえば、さっき寿命が来るまで黄泉には行けないって言ってたけど、トクの寿命はいつなんだ?」
「ワシは行けぬ。幽霊とはいえ地縛霊じゃからの」
「何が違うんだ?」
「幽霊というのは自分が死んだことを理解しておる。ワシは自分が死んだと理解できぬまま死んだ。故に黄泉には行けぬ。地縛霊は不便じゃ。好きなとこにも行けず、黄泉にも行けず。幽霊としての格も一番下じゃからな」
「そうなのか。じゃあトクはずっとここにいるんだな」
「そういうことじゃな。いつでも会いに来て構わんぞ」
「ここを出る予定すらないんだが。じゃあ行ってくるから、俺の履歴書の中身でも考えていてくれ」
「任せておけ。……なわけあるかー!」
暴れまわる調理器具の騒音から逃げるように、祐二は外へ出たのだった。
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