世話焼き幽霊に今日も怒られています。

白水緑

文字の大きさ
5 / 11

なぁ、死んだらどうなる?

しおりを挟む
 翌朝、有言実行と徳久は朝から祐二を叩起き起こす。
 
 「起きろ! いつまで寝ているつもりじゃ!」
 「まだ9時だ……」
 「もう9時じゃ! 仕事がないとはいえ7時には起きるんじゃ!」
 
 徳久は物体には触れられない代わり、部屋の中のものならば操れるようで、袋入りのラーメンを作っていた頃に買った鍋をお玉で叩かせる。耳に響く音に渋々起きた祐二は、空中で暴れる調理器具に、おお、と声を漏らす。どうやら目は覚めたらしい。
 
 「……幽霊っぽいことできるんだな一応」
 「一応とはなんじゃ! れっきとした幽霊じゃぞ」
 「今まで浮いてるかすり抜けることしかしてなかっただろ」
 「あんまりうるさくすると近所迷惑じゃからな」
 「それはなんとも良心的な幽霊なことで。その力で飯作ったりできないのか?」
 「できてもやらん! さあ起きたのならさっさと服を着替えんか! それで朝飯でも買ってこい」
 「……わかった」
 
 親に叱られているようだとは、もう言わなかった。のろのろとゆっくりした動きで言われたとおりに服を変える。昨日そのまま寝たせいでぐちゃぐちゃになったワイシャツと、スーツ一式をクリーニング屋にだすついでにコンビニで何食か分の弁当とパン、カップ麺を買い込む。部屋に戻って期限ぎりぎりの弁当を食べながらノートパソコンを開くと、求人サイトに登録する。個人情報や職務経歴を埋めていくのを、じっと見守っていた徳久は意外そうな声音で口をはさんだ。
 
 「ほうほう、おぬし営業じゃったのか」
 「全然売れなかったけどな」
 「そりゃそうじゃろうな。そんな怠惰な態度では」
 「いいんだ。ノルマない会社だったから」
 「神経の図太いやつじゃな。叱られたりはせんかったのか」
 「俺だからなってみんな諦めてた。冬樹先輩だけは面倒見てくれてたけど」
 「ふん。気のいい奴じゃ。おぬしも少しは努力せい。適正があるにしろないにしろ変わったはずじゃと思うがな」
 「そうかもしれない」
 
 もうその仕事についていないにもかかわらず説教されるが、祐二は聞き流すだけ。自分でもわかっているのだった。営業成績が伸びないのは、テンションの高さや売り方が大きな要因ではないと。祐二の興味の薄さ。人だけでなく物事にも関心がない。当然知っているはずの自社商品のこともテンプレートの文字しか覚えられず、何度言っても客先の顔も覚えられない。求められている以上の提案もしない。何度訪問をしてみたところで、これでは何の成果も出ないのは当然のことだった。
 
 「なぁ、死んだらどうなる?」
 
 一通り記入欄を埋めて、条件を絞った求人を眺めながら祐二はそう問いかけてみた。祐二にもたれかかるような、パソコン越しにいた徳久は、真面目な顔になる。
 
 「死んで楽になると思うならやめておいたほうがいい」
 「死んだら死ぬだけだろ?」
 「そう安易に考えるやつが絶えないから、こっちの世界は若いやつが多いんじゃ」
 「というと?」
 「死んでもこの世には残されるというわけじゃ。初七日だとか法事をきちっとしたところで、寿命より先に死んだ奴はこの世に留まらせられる。寿命を迎えるべき時になるまで黄泉には行けん。ちなみに、ふらふらしていれば良いかと思ったら大間違いでな、幽霊にもするべきことはある。生きて仕事に追われているほうがましじゃと、ワシは思うがな」
 「そうなのか。じゃあ生きてるほうが好き勝手出来て楽だな」
 「そういうことじゃ。わかったらさっさと手を動かせ! 怠けようとするんじゃない!」
 
 いつの間にか手を止めて聞き入っている祐二に怒号が飛ぶ。
 
 「いや、どう書けばいいかわからないし、あんたの話面白いし」
 「褒めればよいというものではないわ。手が動かんのなら役所に行ってこい」
 「何しに?」
 「失業手当もらってこい! 金がなければ生きられんじゃろうが!」
 「ああなるほど。詳しいなあんた」
 「ワシも伊達に何十年生きてるわけじゃないわい」
 「死んでるじゃないか」
 「うるさい!」
 「トクがうるさい。癇癪でポルターガイストは止めてくれよ」
 「文句を言う暇があったら早く動けー!」
 
 追い立てられて準備をしながら祐二はふとひっかかりを覚えて徳久を振り返る。不審そうな目に慌てて疑問を口にした。 
 
 「そういえば、さっき寿命が来るまで黄泉には行けないって言ってたけど、トクの寿命はいつなんだ?」
 「ワシは行けぬ。幽霊とはいえ地縛霊じゃからの」
 「何が違うんだ?」
 「幽霊というのは自分が死んだことを理解しておる。ワシは自分が死んだと理解できぬまま死んだ。故に黄泉には行けぬ。地縛霊は不便じゃ。好きなとこにも行けず、黄泉にも行けず。幽霊としての格も一番下じゃからな」
 「そうなのか。じゃあトクはずっとここにいるんだな」
 「そういうことじゃな。いつでも会いに来て構わんぞ」
 「ここを出る予定すらないんだが。じゃあ行ってくるから、俺の履歴書の中身でも考えていてくれ」
 「任せておけ。……なわけあるかー!」
 
 暴れまわる調理器具の騒音から逃げるように、祐二は外へ出たのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

処理中です...