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いってらっしゃい
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朝、このところ鳴ることすらなかった目覚ましのアラームで起きた祐二は、干すだけではあまり皴の伸びなかったスーツを着て靴を履いていた。きちんとした時間に起きなくてはならないというストレスからか、あまり寝付けなかったようでずっと不機嫌なオーラを醸し出している。
「もう行くのか」
「一応会社員なんでな。呼ばれたらいかなきゃならんだろう。あんたこそ、朝なのに出てこられるんだな」
「朝は眠いから寝とるだけで現れられないわけではない。ささ、行け行け。それでこそワシもゆっくり寝られるというものじゃ」
「追い出すなよ。俺の家だぞ」
「住んでいたかったらちゃんと働くことじゃな」
「じゃああんたに留守番は任せる」(じゃあ行ってくる)?
立ち上がって振り向くと、すぐそばの壁にもたれかかっている風の徳久。少し頬が赤くなっている。
「どうした? 幽霊も風邪をひくのか?」
「そんなことあるか! はよう行ってこい」
「いってきます」
「……いってらっしゃい」
邪険にされているようで実は見送りに来ていたのだとわかり、祐二の口角が知らず知らずのうちに上がる。少し高いところにある頭に手を伸ばすと撫でる素振り。
「何やっとるんじゃ! 早くいけー!」
実際に触れられたわけではないがその動作の意味を理解して顔を真っ赤にして怒る徳久とは対照的に、祐二は満足そうに部屋を出た。寝起きの不機嫌さはもうない。階段を降りるとき、薄い壁越しに鍵を閉めろと怒鳴る声が聞こえたが、数歩の距離を戻るのが億劫でそのまま会社へと向かった。
部屋へ帰ってきたのはそれから数時間後、昼前のことだった。ドアを開けた祐二が目にしたのは、部屋のど真ん中で肩肘をついて悠々と寝そべる徳久の姿。
「やけに帰ってくるのが早いな。クビにでもされたか」
気配を感じたのか、閉じられていた目が開くと、人間では到底真似できないような角度で起き上がる。ふわーと漂って祐二の目の前までくると、くるくると周りをまわる。
「倒産したらしい。わざわざそれを教えるために呼ばれたらしいな」
ぴた、正面で動きが止まる。何の感情も読み取れない祐二の顔を覗き込み、何を思っているのかと探っているらしい。
「それで、これからおぬしはどうするんじゃ?」
「寝る」
言葉を失った徳久を避けて、先ほどまで徳久が寝転がっていた隣、いつもの定位置に横になる。徳久はまだ玄関から動こうとはせず肩が震えているようだ。
「どうした、あんたももう一度寝たらどうだ」
「おぬしというやつは! 生活はどうする気だ!」
「まぁしばらくはなんとかなるだろう。最後の給料は払ってくれるらしいぞ」
とはいえ、休業していたせいで微々たる額だが、とは祐二は口にしなかった。流石に余計に怒らせる内容だということはわかったようだ。
「そういう問題ではない! おいこら、寝ている場合か!」
「今日は何もする気にならん。ほら、こっちこいよ寝るぞ」
「おい! 上着は脱げ! 型が崩れたらどうする!」
「……それもそうか」
言われて脱いだ上着は、そのまま横へぽいと避けただけ。動いただけマシかと徳久も横になる。祐二に怒っても暖簾に腕押しということはこの一週間ほどでよく理解していた。昼間から二人、寝転がりただ時間をつぶす。
「明日はちゃんとやることするんじゃぞ」
「やることってなんだ」
「休業の間もう十分休んだじゃろ。働き口を探せ。それから見つかるまでに、堕落しきった生活習慣もなんとかせい」
「頑張ってみる」
「言ったな? 頑張ると言うたな?」
「言った言った。あんたが頑張らせてくれるんだろ?」
「は? 人を当てにするでない! おぬしが頑張らんでどうするんじゃ!」
「あーわかったわかった。耳元で叫ぶな」
「自分の言動を顧みることじゃ。おやすみ‼」
祐二の適当な対応に、徳久は不貞腐れてしまったらしい。距離こそ近いままだがそっぽを向いて目をつぶってしまう。何か言おうとして口を開いた祐二だったが、言葉は出ずそのまま目を閉じた。
「おやすみ、トク」
「もう行くのか」
「一応会社員なんでな。呼ばれたらいかなきゃならんだろう。あんたこそ、朝なのに出てこられるんだな」
「朝は眠いから寝とるだけで現れられないわけではない。ささ、行け行け。それでこそワシもゆっくり寝られるというものじゃ」
「追い出すなよ。俺の家だぞ」
「住んでいたかったらちゃんと働くことじゃな」
「じゃああんたに留守番は任せる」(じゃあ行ってくる)?
立ち上がって振り向くと、すぐそばの壁にもたれかかっている風の徳久。少し頬が赤くなっている。
「どうした? 幽霊も風邪をひくのか?」
「そんなことあるか! はよう行ってこい」
「いってきます」
「……いってらっしゃい」
邪険にされているようで実は見送りに来ていたのだとわかり、祐二の口角が知らず知らずのうちに上がる。少し高いところにある頭に手を伸ばすと撫でる素振り。
「何やっとるんじゃ! 早くいけー!」
実際に触れられたわけではないがその動作の意味を理解して顔を真っ赤にして怒る徳久とは対照的に、祐二は満足そうに部屋を出た。寝起きの不機嫌さはもうない。階段を降りるとき、薄い壁越しに鍵を閉めろと怒鳴る声が聞こえたが、数歩の距離を戻るのが億劫でそのまま会社へと向かった。
部屋へ帰ってきたのはそれから数時間後、昼前のことだった。ドアを開けた祐二が目にしたのは、部屋のど真ん中で肩肘をついて悠々と寝そべる徳久の姿。
「やけに帰ってくるのが早いな。クビにでもされたか」
気配を感じたのか、閉じられていた目が開くと、人間では到底真似できないような角度で起き上がる。ふわーと漂って祐二の目の前までくると、くるくると周りをまわる。
「倒産したらしい。わざわざそれを教えるために呼ばれたらしいな」
ぴた、正面で動きが止まる。何の感情も読み取れない祐二の顔を覗き込み、何を思っているのかと探っているらしい。
「それで、これからおぬしはどうするんじゃ?」
「寝る」
言葉を失った徳久を避けて、先ほどまで徳久が寝転がっていた隣、いつもの定位置に横になる。徳久はまだ玄関から動こうとはせず肩が震えているようだ。
「どうした、あんたももう一度寝たらどうだ」
「おぬしというやつは! 生活はどうする気だ!」
「まぁしばらくはなんとかなるだろう。最後の給料は払ってくれるらしいぞ」
とはいえ、休業していたせいで微々たる額だが、とは祐二は口にしなかった。流石に余計に怒らせる内容だということはわかったようだ。
「そういう問題ではない! おいこら、寝ている場合か!」
「今日は何もする気にならん。ほら、こっちこいよ寝るぞ」
「おい! 上着は脱げ! 型が崩れたらどうする!」
「……それもそうか」
言われて脱いだ上着は、そのまま横へぽいと避けただけ。動いただけマシかと徳久も横になる。祐二に怒っても暖簾に腕押しということはこの一週間ほどでよく理解していた。昼間から二人、寝転がりただ時間をつぶす。
「明日はちゃんとやることするんじゃぞ」
「やることってなんだ」
「休業の間もう十分休んだじゃろ。働き口を探せ。それから見つかるまでに、堕落しきった生活習慣もなんとかせい」
「頑張ってみる」
「言ったな? 頑張ると言うたな?」
「言った言った。あんたが頑張らせてくれるんだろ?」
「は? 人を当てにするでない! おぬしが頑張らんでどうするんじゃ!」
「あーわかったわかった。耳元で叫ぶな」
「自分の言動を顧みることじゃ。おやすみ‼」
祐二の適当な対応に、徳久は不貞腐れてしまったらしい。距離こそ近いままだがそっぽを向いて目をつぶってしまう。何か言おうとして口を開いた祐二だったが、言葉は出ずそのまま目を閉じた。
「おやすみ、トク」
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