世話焼き幽霊に今日も怒られています。

白水緑

文字の大きさ
4 / 11

いってらっしゃい

しおりを挟む
 朝、このところ鳴ることすらなかった目覚ましのアラームで起きた祐二は、干すだけではあまり皴の伸びなかったスーツを着て靴を履いていた。きちんとした時間に起きなくてはならないというストレスからか、あまり寝付けなかったようでずっと不機嫌なオーラを醸し出している。
 
 「もう行くのか」
 「一応会社員なんでな。呼ばれたらいかなきゃならんだろう。あんたこそ、朝なのに出てこられるんだな」
 「朝は眠いから寝とるだけで現れられないわけではない。ささ、行け行け。それでこそワシもゆっくり寝られるというものじゃ」
 「追い出すなよ。俺の家だぞ」
 「住んでいたかったらちゃんと働くことじゃな」
 「じゃああんたに留守番は任せる」(じゃあ行ってくる)?
 
 立ち上がって振り向くと、すぐそばの壁にもたれかかっている風の徳久。少し頬が赤くなっている。
 
 「どうした? 幽霊も風邪をひくのか?」
 「そんなことあるか! はよう行ってこい」
 「いってきます」
 「……いってらっしゃい」
 
 邪険にされているようで実は見送りに来ていたのだとわかり、祐二の口角が知らず知らずのうちに上がる。少し高いところにある頭に手を伸ばすと撫でる素振り。
 
 「何やっとるんじゃ! 早くいけー!」
 
 実際に触れられたわけではないがその動作の意味を理解して顔を真っ赤にして怒る徳久とは対照的に、祐二は満足そうに部屋を出た。寝起きの不機嫌さはもうない。階段を降りるとき、薄い壁越しに鍵を閉めろと怒鳴る声が聞こえたが、数歩の距離を戻るのが億劫でそのまま会社へと向かった。
 
 部屋へ帰ってきたのはそれから数時間後、昼前のことだった。ドアを開けた祐二が目にしたのは、部屋のど真ん中で肩肘をついて悠々と寝そべる徳久の姿。
 
 「やけに帰ってくるのが早いな。クビにでもされたか」
 
 気配を感じたのか、閉じられていた目が開くと、人間では到底真似できないような角度で起き上がる。ふわーと漂って祐二の目の前までくると、くるくると周りをまわる。
 
 「倒産したらしい。わざわざそれを教えるために呼ばれたらしいな」
 
 ぴた、正面で動きが止まる。何の感情も読み取れない祐二の顔を覗き込み、何を思っているのかと探っているらしい。
 
 「それで、これからおぬしはどうするんじゃ?」
 「寝る」
 
 言葉を失った徳久を避けて、先ほどまで徳久が寝転がっていた隣、いつもの定位置に横になる。徳久はまだ玄関から動こうとはせず肩が震えているようだ。
 
 「どうした、あんたももう一度寝たらどうだ」
 「おぬしというやつは! 生活はどうする気だ!」
 「まぁしばらくはなんとかなるだろう。最後の給料は払ってくれるらしいぞ」
 
 とはいえ、休業していたせいで微々たる額だが、とは祐二は口にしなかった。流石に余計に怒らせる内容だということはわかったようだ。
 
 「そういう問題ではない! おいこら、寝ている場合か!」
 「今日は何もする気にならん。ほら、こっちこいよ寝るぞ」
 「おい! 上着は脱げ! 型が崩れたらどうする!」
 「……それもそうか」
 
 言われて脱いだ上着は、そのまま横へぽいと避けただけ。動いただけマシかと徳久も横になる。祐二に怒っても暖簾に腕押しということはこの一週間ほどでよく理解していた。昼間から二人、寝転がりただ時間をつぶす。
 
 「明日はちゃんとやることするんじゃぞ」
 「やることってなんだ」
 「休業の間もう十分休んだじゃろ。働き口を探せ。それから見つかるまでに、堕落しきった生活習慣もなんとかせい」
 「頑張ってみる」
 「言ったな? 頑張ると言うたな?」
 「言った言った。あんたが頑張らせてくれるんだろ?」
 「は? 人を当てにするでない! おぬしが頑張らんでどうするんじゃ!」
 「あーわかったわかった。耳元で叫ぶな」
 「自分の言動を顧みることじゃ。おやすみ‼」
 
 祐二の適当な対応に、徳久は不貞腐れてしまったらしい。距離こそ近いままだがそっぽを向いて目をつぶってしまう。何か言おうとして口を開いた祐二だったが、言葉は出ずそのまま目を閉じた。
 
 「おやすみ、トク」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

処理中です...