白水緑【掌握・短編集】

白水緑

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此処から改革を望む

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 ずっとそうでした。
 わたしの個としての存在価値はないのですか?

「ねえ、生まれてくる子にもし何かあったらどうしよう?」
「何かってなんだ」
「だから例えば途中でもし病気になったり事故にあったりしたら……」

 若い女がそう不安そうに男へ訴える。診察室で2人は向かい合っていた。女の妊娠は間違いないことで、結婚することも決まっていた。男は女の肩を軽く叩いた。

「大丈夫だよ。そんなのはTVの中のことさ」
「……でも」

 なおも言い募る女に男は頷いた。

「分かった。じゃあ生まれてくる子を双子にしよう」
「出来るの?」
「うん。今から受精させるわけだけど、生まれる日を調整すれば、ね」

 男も心なしか楽しそうに同意した。それが成功すれば史上初人工的な双子を作り出すことが出来る。病院の施設がなくでも本人が医者なら問題ないだろう。

「君は何も心配することはないよ」

 それから数ヶ月後、無事に双子の女の子が生まれた。姉が麻子、妹は理子と名付けられた。人工的に作られたのは理子だった。試験管の中で育てられて、生まれたときは3000gもなかった。3歳で存在理由を知らされた理子は何も言わなかった。彼女たちは幼い頃から区別された。通う学校は同じ。しかし与えられる物は全く違っていた。ブランド品を与えられる麻子と100円均一の品を与えられる理子。それでも2人の周りにはそれぞれの友達がいた。派手なグループの中心で我が儘に振る舞う麻子と、静かに読書して静かにお喋りする理子のグループ。2つのグループの関わりは一切なかったが、2人の関係は一目瞭然だった。小学生の頃から麻子は髪を染めていたものの、体のつくりから浮かべる表情まで瓜二つなのだった。学校では無関係を貫いていたが、家での麻子の態度は横暴としか表現出来ないほど酷いものだった。

「理子、宿題やっといてよ」
「理子、この鞄潰れたからあんたのと交換して」
「理子、お腹空いた。お菓子買ってきてよ」

 何かと理子に面倒なことを押しつけていた。それは姉の麻子に限ったことではなく両親でさえも同じだった。理子の扱いは使用人たち以下であったが、何一つ不満を漏らさなかった。ただ黙って生きていた。

 そんなある春休みのこと。例の如く麻子の我が儘で健康診断を5年ぶりに受けた結果、癌を患っていた。悪性で完治するには移植する必要があると告げられた。麻子はすぐに入院して治療が始まった。癌治療の問題点はドナーが簡単に見つか
らないことだ。しかし、治療法が提示されてすぐに双子と見せかけられていた理子の型が一致することを担当医に伝えられ、半強制的に同意させられた。必要な書類にサインし、手術を待つだけになった。

 手術前日、理子に一通の手紙が届いた。それを珍しく笑みを浮かべて開封する。中に入っていたのは一枚の便箋と3枚の写真だった。

「わたくしは約束を破ったことはないの。すぐに貴方の元へ行きます」

 その夜、両親が寝静まるのを待って理子は動き出した。必要最低限の荷物を唯一与えられた大きい鞄に詰め込む。すぐに身辺整理を終えて、牢獄のような窓から外へと脱出した。机の上に残されたのはシンプルな1枚の紙と写真立てだけだった。

 翌朝、時間になっても降りてこない理子に業を煮やした両親が呼びに行くとそこには無人の空間が広がっていた。真っ青になる母親と顔を真っ赤にして憤った父親は部屋中を隈無く探した挙げ句に目に付いたのは理子が残した手紙。

『わたくしがあなた方の思い通りにならないということを予言出来なかったということは、所詮あなたはその程度の占い師ということの証ですね。お世話になりました。さようなら リコ』

 理子の机に飾られていたのは1枚の写真。あの封筒に入っていたものの1つだった。黒い背景に浮かぶ日本人形の首。頭から血を流して舌をだらりと垂らしながら笑っていた。母親は腰を抜かし、父親も怯えたように辺りを見回した。そうして気付く。この部屋にあるものは全て規則に従って並べられている。父親は知っていた。その並びの目的を。
それは――対象者の最も忌む死に方をさせる呪い。

「おい、とりあえず麻子のところへ行くぞ」

 父親は不気味なものを感じて母親を促した。立てなかった母親を支え病院に着く。事情を説明して、手術は延期になった。ドナーを探してみるものの見つからない。日が経つにつれて麻子の体は抗体物質に侵されていく。毛が抜け吐き気に悩ませられる。日が経ちやがて麻子は知る。かつて彼女の友人だった女子5人が、何らかの形で不幸にも命を落としたということを。そうしてついに麻子にも最終通告が訪れる。病室に届けられた一通の手紙。そこには一文だけ書かれていた。

「あなたは明日、屋上から飛び降りて自殺する」
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