8 / 16
望みのままに
しおりを挟む
夢を見た。
『 人を消す力をあげよう』
その声の主は分からなかったけど、人を消すことの出来る能力はとても魅力的で、僕は一も二もなく頷いた。
「ほら、朝よ!起きなさい勇大」
「もうちょっとだけ……」
「だめ!遅刻するわよ」
気持ちよく寝ていたのを無理やり起こされて僕は渋々制服に着替える。ふと、鏡を見た時にぼんやりとした夢での出来事を思い出した。使い方は、強く念じればいいんだったかな。
『 お母さん、消えてしまえばいいのに』
ほんの一瞬だけ強く念じたものの、何かが変わったようには感じない。カバンを持って1階に降りる。バタートーストのいい匂いが広がっていて、先に出たお父さんが飲んでいたのであろうコーヒーの残り香も混じっている。
「お母さん、夜ご飯はハンバーグ食べたい」
パンを食べながら夜ご飯のリクエストもいつものこと。だが、しばらく待っても返事がない。いつもは壁越しに聞こえる、はーい、という声が聞こえない。不審に思って洗い場に行ってみたが、やっぱりいない。
「お母さん……?」
まさか本当にいなくなってしまったのだろうか。いや、きっと何か足りないものがあって買い物にでも出かけてる。そう半ば無理やり自分を納得させて学校へ向かった。
「おはよう」
「おっはー」
教室に入るとそこかしこでそんな挨拶が交わされていて、僕もその輪の中に溶け込む。なんてことないただの日常。
「おっす。早いなお前ら」
この子は苦手だ。僕とは住んでいる世界が違う。直ぐに大声を出すし、手も出る。自分の言動が周りを威圧するとわかっていてやるから尚更タチが悪い。いなくなればいいのに。
「……えっ?」
ほんの少しいなくなれば、と願っただけなのに瞬きをした瞬間、姿が消えた。最初からいなかったかのよう。慌てて一緒にいた友達を見るが、何も気づいた様子はない。むしろ、どうした?と僕を訝しむ視線。僕は必死に何事もなかったフリをした。
授業中、これからどうしたらいいのかずっと考えていた。目の前で消えたのだ。もはや確信するしかない。2人もの人を僕は消してしまった。願うだけ、ほんの少しいなくなれと願うだけで願いが叶う。罪悪感と、いなくなっても周りは気付いていないという事実に、ならば最初からいなかったものと同じであるという極論。いないのなら、いなくなったところで問題ではない。僕は、この便利な力を得て酔いしれていた。嫌いな人間なんて、存在する価値がない。大切にしてくれる友達だけで十分だ。そう思えば思うほど、周りのクラスメイトも不要に思えてくる。自分に選ばれない人間は、そいつが悪いのだとそう錯覚するほど。
「いらない。こいつもいらない。あの子も僕のことをふったんだ、いらないよ……」
そう思うとどんどん人が消えていく。クラスメイトが半分くらいになったところでようやく人を消すのを辞めた。それでも残った友達は、誰もクラスメイトが減ったことに気付いていないようだ。放課後も嫌な先輩を消し、先生を消した。僕の学校生活は快適になった。
家に帰るとやっぱりお母さんがいなくてお腹がすいたけど、お父さんが帰ってくると何事も無かったかのように夕飯を作ってくれた。
「あれ?お母さんは?」
「何言ってるんだ。もう母さんはいないんだぞ」
「そう、だよね」
もういない。そう思うと不思議と物悲しい気持ちになった。他の人では感じなかった感情。やっぱり母親という存在は特別なのかもしれない。そう思いながらも、今更どうしようもない。僕はただこの生活を上手く楽しむだけだ。
それからの僕の生活は順風満帆だった。嫌な相手、ライバルそういった人たちをどんどん消していった。大学には推薦で入り、学年でも1位になった。その過程でクラスメイトや同級生たちは半分以下に減ったけど、それはそれで仕方がない。僕が1番になりたかったから。就活もスムーズに大企業に決まり、仕事もすぐに軌道に乗った。嫌な上司を消してもなんの問題もなく仕事は回った。満員電車に乗る人も、邪魔だからと消した。次々人を消していく度に、全能感とすっきりとした感覚になり、いつの間にかお父さんも従兄弟やおじさんおばさんまでもがいなくなっていた。
やがて20代後半になりさて、そろそろ結婚を、と思った時に気づいて愕然とした。もう自分以外の誰も居ないと。この世界には自分一人っきりで、なんの問題もなく生活出来ていたのは自分しかいないから。人がしていたことはいつの間にか機械に置き換わって、滞りなく見せ掛けていたに過ぎない。
どうしてこんなことに。今更思ったところで後の祭り。原因はわかっている。僕がいなくなって欲しいと願わなければこうはならなかぬた。今まで居なくなった人たちは戻せない。どうして楽しくやってこられたのだろう。こんな世界、生きていても楽しくない。
『僕なんていなくなればいいのに』
研究者はようやくカメラから顔を離した。患者の思考を読み取る機械。患者が今世界をどうみているのかを知ることができる。人権やプライバシーの観点からこの実験は一般の人間には禁止されていたが、自殺未遂の者への使用は認められていた。しかし、この研究をしている者の自殺未遂も後を絶たない。この患者も、かつては彼の上司だったのだから……。
『 人を消す力をあげよう』
その声の主は分からなかったけど、人を消すことの出来る能力はとても魅力的で、僕は一も二もなく頷いた。
「ほら、朝よ!起きなさい勇大」
「もうちょっとだけ……」
「だめ!遅刻するわよ」
気持ちよく寝ていたのを無理やり起こされて僕は渋々制服に着替える。ふと、鏡を見た時にぼんやりとした夢での出来事を思い出した。使い方は、強く念じればいいんだったかな。
『 お母さん、消えてしまえばいいのに』
ほんの一瞬だけ強く念じたものの、何かが変わったようには感じない。カバンを持って1階に降りる。バタートーストのいい匂いが広がっていて、先に出たお父さんが飲んでいたのであろうコーヒーの残り香も混じっている。
「お母さん、夜ご飯はハンバーグ食べたい」
パンを食べながら夜ご飯のリクエストもいつものこと。だが、しばらく待っても返事がない。いつもは壁越しに聞こえる、はーい、という声が聞こえない。不審に思って洗い場に行ってみたが、やっぱりいない。
「お母さん……?」
まさか本当にいなくなってしまったのだろうか。いや、きっと何か足りないものがあって買い物にでも出かけてる。そう半ば無理やり自分を納得させて学校へ向かった。
「おはよう」
「おっはー」
教室に入るとそこかしこでそんな挨拶が交わされていて、僕もその輪の中に溶け込む。なんてことないただの日常。
「おっす。早いなお前ら」
この子は苦手だ。僕とは住んでいる世界が違う。直ぐに大声を出すし、手も出る。自分の言動が周りを威圧するとわかっていてやるから尚更タチが悪い。いなくなればいいのに。
「……えっ?」
ほんの少しいなくなれば、と願っただけなのに瞬きをした瞬間、姿が消えた。最初からいなかったかのよう。慌てて一緒にいた友達を見るが、何も気づいた様子はない。むしろ、どうした?と僕を訝しむ視線。僕は必死に何事もなかったフリをした。
授業中、これからどうしたらいいのかずっと考えていた。目の前で消えたのだ。もはや確信するしかない。2人もの人を僕は消してしまった。願うだけ、ほんの少しいなくなれと願うだけで願いが叶う。罪悪感と、いなくなっても周りは気付いていないという事実に、ならば最初からいなかったものと同じであるという極論。いないのなら、いなくなったところで問題ではない。僕は、この便利な力を得て酔いしれていた。嫌いな人間なんて、存在する価値がない。大切にしてくれる友達だけで十分だ。そう思えば思うほど、周りのクラスメイトも不要に思えてくる。自分に選ばれない人間は、そいつが悪いのだとそう錯覚するほど。
「いらない。こいつもいらない。あの子も僕のことをふったんだ、いらないよ……」
そう思うとどんどん人が消えていく。クラスメイトが半分くらいになったところでようやく人を消すのを辞めた。それでも残った友達は、誰もクラスメイトが減ったことに気付いていないようだ。放課後も嫌な先輩を消し、先生を消した。僕の学校生活は快適になった。
家に帰るとやっぱりお母さんがいなくてお腹がすいたけど、お父さんが帰ってくると何事も無かったかのように夕飯を作ってくれた。
「あれ?お母さんは?」
「何言ってるんだ。もう母さんはいないんだぞ」
「そう、だよね」
もういない。そう思うと不思議と物悲しい気持ちになった。他の人では感じなかった感情。やっぱり母親という存在は特別なのかもしれない。そう思いながらも、今更どうしようもない。僕はただこの生活を上手く楽しむだけだ。
それからの僕の生活は順風満帆だった。嫌な相手、ライバルそういった人たちをどんどん消していった。大学には推薦で入り、学年でも1位になった。その過程でクラスメイトや同級生たちは半分以下に減ったけど、それはそれで仕方がない。僕が1番になりたかったから。就活もスムーズに大企業に決まり、仕事もすぐに軌道に乗った。嫌な上司を消してもなんの問題もなく仕事は回った。満員電車に乗る人も、邪魔だからと消した。次々人を消していく度に、全能感とすっきりとした感覚になり、いつの間にかお父さんも従兄弟やおじさんおばさんまでもがいなくなっていた。
やがて20代後半になりさて、そろそろ結婚を、と思った時に気づいて愕然とした。もう自分以外の誰も居ないと。この世界には自分一人っきりで、なんの問題もなく生活出来ていたのは自分しかいないから。人がしていたことはいつの間にか機械に置き換わって、滞りなく見せ掛けていたに過ぎない。
どうしてこんなことに。今更思ったところで後の祭り。原因はわかっている。僕がいなくなって欲しいと願わなければこうはならなかぬた。今まで居なくなった人たちは戻せない。どうして楽しくやってこられたのだろう。こんな世界、生きていても楽しくない。
『僕なんていなくなればいいのに』
研究者はようやくカメラから顔を離した。患者の思考を読み取る機械。患者が今世界をどうみているのかを知ることができる。人権やプライバシーの観点からこの実験は一般の人間には禁止されていたが、自殺未遂の者への使用は認められていた。しかし、この研究をしている者の自殺未遂も後を絶たない。この患者も、かつては彼の上司だったのだから……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる