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8月8日 日曜日 『隠し事』
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8月8日 日曜日 天気:晴れ
それから、お母さんがいない間はマオと過ごすことにも慣れた。朝、お母さんを見送るとマオを迎えに行く。一緒に朝ご飯を食べて、宿題をする。その間、マオはお父さんの本を読んでいるようだ。お昼は一緒に作り、そのあとは映画を見たり、パズルをしたりして過ごしていた。
パズルのピースとにらめっこするのにも少し疲れてきたころ、つけっぱなしのテレビから、昨日マオと一緒に見たばかりの『冬の女王と夏の王様』の続編となる映画のコマーシャルが流れてきて、マオを振り返る。
「ねぇ、これ見に行きたい」
「映画館かぁ」
「だめ? あ、お金かかるから……」
「それは平気なんだけど。うーん、外かぁ」
考え込む様子のマオ。普段から散歩と称して好き勝手に出歩いているのに、何が問題なのだろう。
「ごめんね。僕とじゃなくてお友達と行ってきてくれる?」
「友達いないの、マオも知ってるでしょ」
「そういうところだよぉ。誘ってみればいいのにぃ」
「いい。マオが行かないなら我慢する」
「ええー。困ったなぁ」
言葉とは裏腹に、マオの表情は笑顔のまま。うーんと考え込む仕草をし、考えあぐねているのか何度も首を左右に傾けている。どういう結論が出るかとじっと待っていると、お手上げだと肩をすくめた。
「行けたらね」
「それ、大人の逃げ口って知ってるよ」
「そう言わないで。ちゃんと行けそうなら声かけるから」
どうやら譲る気はないらしい。へらへらと笑って、途中だったパズルに視線を戻してしまう。幸い、映画の公開は始まったばかりのようだし、気長に誘ってみようと心に決めて、私もパズルに意識を戻した。
「そういえば、マオって昼間ほとんどうちにいるけどお金どうしてるの?」
「働いてるよぉ。僕数字が得意だから株とかでさささっと儲けられるんだぁ」
「すごいね! 私も教えてもらったら稼げる?」
「そのためにはちゃんと勉強しないとねぇ」
「はいはーい」
世の中そんなに甘くはないらしい。眩しいくらいの笑顔を向けられて、顔をそらす。今日の分の宿題は終わっているのだからもうやらないよという意思表示だ。
「そんな依代ちゃんにお知らせがあるんだけど、……聞きたい?」
ちらりと媚びるような上目遣いに私はため息をついた。
「言いたいなら聞いてあげる」
「ええー。依代ちゃんってば意地悪なんだからぁ」
「はいはい。それでなんの話?」
「うーん、残念なお知らせ?」
「じゃあ聞かない」
「ひどーい」
言葉とは裏腹に、楽しそうに笑うマオ。
「えっとねぇ、今言ったお仕事で明日はお泊まりになりそうだから、帰ってこられなさそう」
さらっと言われた内容に驚く。 株というのは泊まり込むような仕事なのだろうか。
「忙しいの?」
「まぁねぇ」
「でもさっきはそんな時間かからないって」
「大人には色々あるんだよぉ」
誤魔化すような表情が気になったのは一瞬。パズルのピースを手渡され、視線を戻した時には、文句の付け所のない完璧な笑顔だった。
「ほらほら、手を動かして。今日中に完成させるよぉ」
「……大人ってずるいよね」
「そう?」
確信的な表情で首を傾げるマオに、ズルいとまた思った。
夜、帰ってきたばかりのお母さんにおやすみなさいの挨拶をして部屋へと戻ろうとすると、ちょっと依代、と呼び止められた。規則正しい生活を優先するお母さんが珍しい。
「どうしたの?」
「ちょっといらっしゃい」
リビングに呼び戻され向かい合って座る。お母さんは困ったような表情をしていた。
「ペットとか育ててないわよね?」
「え?」
唐突な切り出しに、心臓が跳ねた。バレたのだろうか。なんて言えばマオを守れるだろう。そう逡巡している間にもお母さんは喋り続けた。
「犬、はないとおもうけどハトとかに餌をやっちゃだめよ。たくさん集まってきてしまうから」
「そんなことしてないよ!」
「そう? 最近パンが良く減っているから、てっきり」
「私が食べてるの」
マオが見つかったわけではないらしい。けれども私の本心を探ろうとするお母さんの視線に、慌てて誤魔化した。最近すぐお腹がすくんだよね、と付け足す。
「成長期にはまだ早い気がするけれど、食べすぎには気をつけるのよ」
「うん」
「もういいわよ。おやすみなさい」
聞きたかったことはそれだけなのだろう。あっさりと尋問から解放された。いつもはお母さんとなんでもない話をしたいという気持ちが強いが、今日ばかりはお母さんの淡白な態度にほっとして部屋へと戻った。
布団に入ってもドキドキは止まず、今頃夜風にあたってのんびりと過ごしているであろうマオに思いを馳せる。次に会えるのは明後日。はやく帰ってきてくれればいいのに、と思わず呟いた。
それから、お母さんがいない間はマオと過ごすことにも慣れた。朝、お母さんを見送るとマオを迎えに行く。一緒に朝ご飯を食べて、宿題をする。その間、マオはお父さんの本を読んでいるようだ。お昼は一緒に作り、そのあとは映画を見たり、パズルをしたりして過ごしていた。
パズルのピースとにらめっこするのにも少し疲れてきたころ、つけっぱなしのテレビから、昨日マオと一緒に見たばかりの『冬の女王と夏の王様』の続編となる映画のコマーシャルが流れてきて、マオを振り返る。
「ねぇ、これ見に行きたい」
「映画館かぁ」
「だめ? あ、お金かかるから……」
「それは平気なんだけど。うーん、外かぁ」
考え込む様子のマオ。普段から散歩と称して好き勝手に出歩いているのに、何が問題なのだろう。
「ごめんね。僕とじゃなくてお友達と行ってきてくれる?」
「友達いないの、マオも知ってるでしょ」
「そういうところだよぉ。誘ってみればいいのにぃ」
「いい。マオが行かないなら我慢する」
「ええー。困ったなぁ」
言葉とは裏腹に、マオの表情は笑顔のまま。うーんと考え込む仕草をし、考えあぐねているのか何度も首を左右に傾けている。どういう結論が出るかとじっと待っていると、お手上げだと肩をすくめた。
「行けたらね」
「それ、大人の逃げ口って知ってるよ」
「そう言わないで。ちゃんと行けそうなら声かけるから」
どうやら譲る気はないらしい。へらへらと笑って、途中だったパズルに視線を戻してしまう。幸い、映画の公開は始まったばかりのようだし、気長に誘ってみようと心に決めて、私もパズルに意識を戻した。
「そういえば、マオって昼間ほとんどうちにいるけどお金どうしてるの?」
「働いてるよぉ。僕数字が得意だから株とかでさささっと儲けられるんだぁ」
「すごいね! 私も教えてもらったら稼げる?」
「そのためにはちゃんと勉強しないとねぇ」
「はいはーい」
世の中そんなに甘くはないらしい。眩しいくらいの笑顔を向けられて、顔をそらす。今日の分の宿題は終わっているのだからもうやらないよという意思表示だ。
「そんな依代ちゃんにお知らせがあるんだけど、……聞きたい?」
ちらりと媚びるような上目遣いに私はため息をついた。
「言いたいなら聞いてあげる」
「ええー。依代ちゃんってば意地悪なんだからぁ」
「はいはい。それでなんの話?」
「うーん、残念なお知らせ?」
「じゃあ聞かない」
「ひどーい」
言葉とは裏腹に、楽しそうに笑うマオ。
「えっとねぇ、今言ったお仕事で明日はお泊まりになりそうだから、帰ってこられなさそう」
さらっと言われた内容に驚く。 株というのは泊まり込むような仕事なのだろうか。
「忙しいの?」
「まぁねぇ」
「でもさっきはそんな時間かからないって」
「大人には色々あるんだよぉ」
誤魔化すような表情が気になったのは一瞬。パズルのピースを手渡され、視線を戻した時には、文句の付け所のない完璧な笑顔だった。
「ほらほら、手を動かして。今日中に完成させるよぉ」
「……大人ってずるいよね」
「そう?」
確信的な表情で首を傾げるマオに、ズルいとまた思った。
夜、帰ってきたばかりのお母さんにおやすみなさいの挨拶をして部屋へと戻ろうとすると、ちょっと依代、と呼び止められた。規則正しい生活を優先するお母さんが珍しい。
「どうしたの?」
「ちょっといらっしゃい」
リビングに呼び戻され向かい合って座る。お母さんは困ったような表情をしていた。
「ペットとか育ててないわよね?」
「え?」
唐突な切り出しに、心臓が跳ねた。バレたのだろうか。なんて言えばマオを守れるだろう。そう逡巡している間にもお母さんは喋り続けた。
「犬、はないとおもうけどハトとかに餌をやっちゃだめよ。たくさん集まってきてしまうから」
「そんなことしてないよ!」
「そう? 最近パンが良く減っているから、てっきり」
「私が食べてるの」
マオが見つかったわけではないらしい。けれども私の本心を探ろうとするお母さんの視線に、慌てて誤魔化した。最近すぐお腹がすくんだよね、と付け足す。
「成長期にはまだ早い気がするけれど、食べすぎには気をつけるのよ」
「うん」
「もういいわよ。おやすみなさい」
聞きたかったことはそれだけなのだろう。あっさりと尋問から解放された。いつもはお母さんとなんでもない話をしたいという気持ちが強いが、今日ばかりはお母さんの淡白な態度にほっとして部屋へと戻った。
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