葛城依代の夏休み日記~我が家に野良猫がきました~

白水緑

文字の大きさ
12 / 20

8月12日 木曜日 『映画館デート』(2/2)

しおりを挟む
2時間半後、エンディングの音楽が流れる中席を立った。

「面白かったねぇ」
「うん!波が綺麗なのにすごい迫力あったし、映画館で見られてよかった!」
「そんなに喜んでくれて僕も嬉しいなぁ」

 にこにこと、今日は随分とご機嫌なようだ。そんなマオに釣られて私も笑顔になっていた。
 人の流れに身を任せて外に出ると、そこら中で今出てきた人達が立ち止まって話し込んでいた。その人達の隙間を抜けて近くのショッピングモールを目指す。歩きながら借りていた服を脱いだ。映画の途中で寒がっていた私にマオが貸してくれたのは、腰に巻いていたパーカー。季節に合わない服はこのためだったのだと気づく。私が寒くないようにと用意してくれていたのだろう。私よりはるかに大きいパーカーは、周りの空気も取り込んで映画の間中、適温を保ってくれていた。

「服返すよ。ありがとう」
「僕ってばえらーい」
「うんうん。流石マオだね」
「ちょっとぉ、全然思ってないでしょ」
「気のせい気のせい」
「依代ちゃんー」

 拗ねた表情でパーカーを受け取るが、足取りは軽いまま。元のようにパーカーを巻きなおしたところで、ショッピングモールに着いた。行きたかった手芸屋さんに引っ張ると、マオは肩を竦めて仕方がないと大人しくついてきた。

「遅くなるといけないからちょっとだけだからねぇ」
「うん!」

 私が熱心に毛糸を見ている間、マオは物珍しそうに店内を見回っていたのだった。一通り見終わって満足したところで時間を見ると昼の三時。そろそろ帰らないとお母さんが帰ってきてしまう。帰路は行きとは違う道を通って帰る。ゆっくりしたいというマオの希望でちょっと遠回り。ぶらぶらと寄り道をしながら家を目指した。
 公園で、木陰に入っているベンチを見かけ並んで座る。隣で汗を拭いていたマオが、どこからともなく財布を取り出し手のひらに乗せた。
 
「依代ちゃん、悪いんだけどそこの角っこに自販機があったから、ジュース買ってきてくれない?」
「いいけど。何が飲みたいの?」
「お任せ。依代ちゃんチョイスでいいよぉ」
「わかった。ちょっと待ってて」

 公園を出て信号を渡ったところに、目的のものはあった。コーヒー、紅茶にエナジードリンク、炭酸飲料、ジュースも果汁入りやゼリー入りのものなど豊富である。どれにしようかと少し悩んでから、一番下の段のボタンを押した。ガランガランという音がして、取り出し口に白ぶどうが描かれたパッケージのジュースが横たわっていた。もう一本。マオには何を買っていこうか。大人はコーヒーが好きなイメージだけれど、マオとは結び付かない。悩んだ末、コーヒーはコーヒーでも、ミルクの入ったコーヒーを買った。二本の缶を取り出して立ち上がった時、ふと自動販売機の裏の建物が目に入った。交番。入り口にはポスターが貼ってあり、大きく指名手配と書かれた下には何人もの顔写真が貼ってある。どれも薄暗く白黒の写真で私には同じ顔に見えた。
 気になった顔があり交番に近づいたところで、中から人が出てくる足音が聞こえて慌てて離れる。

「おかえりぃ」
 緩い笑顔に迎えられ何でもない話をしているうちに、いつの間にかポスターのことはすっかり忘れていた。
「依代ちゃん、ほら帰るよぉ」
「うん!」

 手を差し出され、今度は迷いなくその手に応えた。

「素直だねぇ。そんなに映画が見られて嬉しかったの?」
「マオと見たかったんだよ。夏休みの思い出作りに」
「僕なんかで良かったのぉ?」
「夏休みに誰とも過ごさないなんて寂しいじゃない」

 そんな私の言葉に驚いたマオは、少しして頷いた。

「それは確かにねぇ。うーん、よし。それじゃあせっかくだからもう一つ、思い出作っちゃう?」
「え?」
「このお祭り、一緒に行こぉ」

 指さしたのは掲示板に貼られた近くにある神社で行われる祭りの告知。8月17日土曜日の昼から。マオは外に出るのが嫌いだと思っていたのに。

「良いの?」
「もっちろん。でも、土曜日だけだよぉ」
「仕方ないなぁ」

 分かっている、と顔を見合わせて笑いあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...