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8月12日 木曜日 『映画館デート』(2/2)
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2時間半後、エンディングの音楽が流れる中席を立った。
「面白かったねぇ」
「うん!波が綺麗なのにすごい迫力あったし、映画館で見られてよかった!」
「そんなに喜んでくれて僕も嬉しいなぁ」
にこにこと、今日は随分とご機嫌なようだ。そんなマオに釣られて私も笑顔になっていた。
人の流れに身を任せて外に出ると、そこら中で今出てきた人達が立ち止まって話し込んでいた。その人達の隙間を抜けて近くのショッピングモールを目指す。歩きながら借りていた服を脱いだ。映画の途中で寒がっていた私にマオが貸してくれたのは、腰に巻いていたパーカー。季節に合わない服はこのためだったのだと気づく。私が寒くないようにと用意してくれていたのだろう。私よりはるかに大きいパーカーは、周りの空気も取り込んで映画の間中、適温を保ってくれていた。
「服返すよ。ありがとう」
「僕ってばえらーい」
「うんうん。流石マオだね」
「ちょっとぉ、全然思ってないでしょ」
「気のせい気のせい」
「依代ちゃんー」
拗ねた表情でパーカーを受け取るが、足取りは軽いまま。元のようにパーカーを巻きなおしたところで、ショッピングモールに着いた。行きたかった手芸屋さんに引っ張ると、マオは肩を竦めて仕方がないと大人しくついてきた。
「遅くなるといけないからちょっとだけだからねぇ」
「うん!」
私が熱心に毛糸を見ている間、マオは物珍しそうに店内を見回っていたのだった。一通り見終わって満足したところで時間を見ると昼の三時。そろそろ帰らないとお母さんが帰ってきてしまう。帰路は行きとは違う道を通って帰る。ゆっくりしたいというマオの希望でちょっと遠回り。ぶらぶらと寄り道をしながら家を目指した。
公園で、木陰に入っているベンチを見かけ並んで座る。隣で汗を拭いていたマオが、どこからともなく財布を取り出し手のひらに乗せた。
「依代ちゃん、悪いんだけどそこの角っこに自販機があったから、ジュース買ってきてくれない?」
「いいけど。何が飲みたいの?」
「お任せ。依代ちゃんチョイスでいいよぉ」
「わかった。ちょっと待ってて」
公園を出て信号を渡ったところに、目的のものはあった。コーヒー、紅茶にエナジードリンク、炭酸飲料、ジュースも果汁入りやゼリー入りのものなど豊富である。どれにしようかと少し悩んでから、一番下の段のボタンを押した。ガランガランという音がして、取り出し口に白ぶどうが描かれたパッケージのジュースが横たわっていた。もう一本。マオには何を買っていこうか。大人はコーヒーが好きなイメージだけれど、マオとは結び付かない。悩んだ末、コーヒーはコーヒーでも、ミルクの入ったコーヒーを買った。二本の缶を取り出して立ち上がった時、ふと自動販売機の裏の建物が目に入った。交番。入り口にはポスターが貼ってあり、大きく指名手配と書かれた下には何人もの顔写真が貼ってある。どれも薄暗く白黒の写真で私には同じ顔に見えた。
気になった顔があり交番に近づいたところで、中から人が出てくる足音が聞こえて慌てて離れる。
「おかえりぃ」
緩い笑顔に迎えられ何でもない話をしているうちに、いつの間にかポスターのことはすっかり忘れていた。
「依代ちゃん、ほら帰るよぉ」
「うん!」
手を差し出され、今度は迷いなくその手に応えた。
「素直だねぇ。そんなに映画が見られて嬉しかったの?」
「マオと見たかったんだよ。夏休みの思い出作りに」
「僕なんかで良かったのぉ?」
「夏休みに誰とも過ごさないなんて寂しいじゃない」
そんな私の言葉に驚いたマオは、少しして頷いた。
「それは確かにねぇ。うーん、よし。それじゃあせっかくだからもう一つ、思い出作っちゃう?」
「え?」
「このお祭り、一緒に行こぉ」
指さしたのは掲示板に貼られた近くにある神社で行われる祭りの告知。8月17日土曜日の昼から。マオは外に出るのが嫌いだと思っていたのに。
「良いの?」
「もっちろん。でも、土曜日だけだよぉ」
「仕方ないなぁ」
分かっている、と顔を見合わせて笑いあった。
「面白かったねぇ」
「うん!波が綺麗なのにすごい迫力あったし、映画館で見られてよかった!」
「そんなに喜んでくれて僕も嬉しいなぁ」
にこにこと、今日は随分とご機嫌なようだ。そんなマオに釣られて私も笑顔になっていた。
人の流れに身を任せて外に出ると、そこら中で今出てきた人達が立ち止まって話し込んでいた。その人達の隙間を抜けて近くのショッピングモールを目指す。歩きながら借りていた服を脱いだ。映画の途中で寒がっていた私にマオが貸してくれたのは、腰に巻いていたパーカー。季節に合わない服はこのためだったのだと気づく。私が寒くないようにと用意してくれていたのだろう。私よりはるかに大きいパーカーは、周りの空気も取り込んで映画の間中、適温を保ってくれていた。
「服返すよ。ありがとう」
「僕ってばえらーい」
「うんうん。流石マオだね」
「ちょっとぉ、全然思ってないでしょ」
「気のせい気のせい」
「依代ちゃんー」
拗ねた表情でパーカーを受け取るが、足取りは軽いまま。元のようにパーカーを巻きなおしたところで、ショッピングモールに着いた。行きたかった手芸屋さんに引っ張ると、マオは肩を竦めて仕方がないと大人しくついてきた。
「遅くなるといけないからちょっとだけだからねぇ」
「うん!」
私が熱心に毛糸を見ている間、マオは物珍しそうに店内を見回っていたのだった。一通り見終わって満足したところで時間を見ると昼の三時。そろそろ帰らないとお母さんが帰ってきてしまう。帰路は行きとは違う道を通って帰る。ゆっくりしたいというマオの希望でちょっと遠回り。ぶらぶらと寄り道をしながら家を目指した。
公園で、木陰に入っているベンチを見かけ並んで座る。隣で汗を拭いていたマオが、どこからともなく財布を取り出し手のひらに乗せた。
「依代ちゃん、悪いんだけどそこの角っこに自販機があったから、ジュース買ってきてくれない?」
「いいけど。何が飲みたいの?」
「お任せ。依代ちゃんチョイスでいいよぉ」
「わかった。ちょっと待ってて」
公園を出て信号を渡ったところに、目的のものはあった。コーヒー、紅茶にエナジードリンク、炭酸飲料、ジュースも果汁入りやゼリー入りのものなど豊富である。どれにしようかと少し悩んでから、一番下の段のボタンを押した。ガランガランという音がして、取り出し口に白ぶどうが描かれたパッケージのジュースが横たわっていた。もう一本。マオには何を買っていこうか。大人はコーヒーが好きなイメージだけれど、マオとは結び付かない。悩んだ末、コーヒーはコーヒーでも、ミルクの入ったコーヒーを買った。二本の缶を取り出して立ち上がった時、ふと自動販売機の裏の建物が目に入った。交番。入り口にはポスターが貼ってあり、大きく指名手配と書かれた下には何人もの顔写真が貼ってある。どれも薄暗く白黒の写真で私には同じ顔に見えた。
気になった顔があり交番に近づいたところで、中から人が出てくる足音が聞こえて慌てて離れる。
「おかえりぃ」
緩い笑顔に迎えられ何でもない話をしているうちに、いつの間にかポスターのことはすっかり忘れていた。
「依代ちゃん、ほら帰るよぉ」
「うん!」
手を差し出され、今度は迷いなくその手に応えた。
「素直だねぇ。そんなに映画が見られて嬉しかったの?」
「マオと見たかったんだよ。夏休みの思い出作りに」
「僕なんかで良かったのぉ?」
「夏休みに誰とも過ごさないなんて寂しいじゃない」
そんな私の言葉に驚いたマオは、少しして頷いた。
「それは確かにねぇ。うーん、よし。それじゃあせっかくだからもう一つ、思い出作っちゃう?」
「え?」
「このお祭り、一緒に行こぉ」
指さしたのは掲示板に貼られた近くにある神社で行われる祭りの告知。8月17日土曜日の昼から。マオは外に出るのが嫌いだと思っていたのに。
「良いの?」
「もっちろん。でも、土曜日だけだよぉ」
「仕方ないなぁ」
分かっている、と顔を見合わせて笑いあった。
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