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8月18日 水曜日 『拾った理由』
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8月18日 水曜日 天気:雨
「ねぇ依代ちゃん」
お昼ご飯で使った食器を片付けていると、ソファにゴロゴロと寝転んでいたマオが、背もたれから顔を覗かせた。それに気づいて少しだけ顔をあげると、いつものようにニコニコとした笑顔で私のほうを見ている。
「なに?」
「どうして僕のことを拾おうと思ったのぉ?」
何気ない問いに、私は違和感を覚えた。どうしてそんな急に気にするんだろう。
なんとなく、嫌な気がした。でも、その正体はわからずに、素直に答える。
「死んじゃうっていうから仕方なく」
「その割に一回家に帰ったでしょぉ」
マオは頬を膨らませて拗ねるそぶりを見せるが、目元は笑ったまま。少し意地悪をしたくなり、茶化してみる。
「だって見るからに不審者だもん。誰だって近づきたいとは思わないよ」
真夏に全身黒の服を着て子供に声をかける人。それだけでも危ない人なのに、捨て猫を自称しているのだ。誰も関わりあいになりたくはないだろう。
「悲しいなぁ。ただの捨て猫なのに」
私の理由に説得力があったのか、マオはしょんぼり、といったふうにうなだれて見せるが、それもなんだかわざとらしい。
「普通の大人はそんなこと言わない」
「捨て猫の気持ちになってみただけなのにぃ」
本当に、マオはよくわからない。そんなことをするよりも、普通に年頃の女性に声をかけたほうが顔目当ての誰かが連れ帰ってくれそうな気がするのに。
私がそういえば、にやついたマオがわざわざ回り込んできて私の頬をつつく。
「それでもわざわざ戻ってきてくれたんだぁ。依代ちゃんってば優しい~」
「ちょっと!」
頬に伸びてくる手を何度振り払っても、嬉しそうにマオは手を伸ばしてくる。
「ほんっと、依代ちゃんってば可愛いんだからぁ」
「やめてってば」
このままでは洗い物を続けられない。蛇口から流れ出る水を手のひらにすくい、マオにかける。予想外の反撃に流石のマオも呑気にはしていられなかったようで、慌てて顔を庇う。
「何するのさぁ!」
「それは私の台詞だよ。まったく」
「ひどいよねぇ」
どの口が言うのかと非難の視線を送れば、私が悪いことをしたと言わんばかりに不満そうな顔を向けられる。心外だ。
「それよりはやく終わって、遊ぼうよぉ」
「マオが邪魔するからだよ」
「気のせいだってば。ほら、僕も手伝うからさぁ」
そういって洗い終わった食器を片付けだす。手際は悪くない。なのにこうも悪戯をするのだから、マオは本当に自由気ままだ。
「ねぇ依代ちゃん」
背を向けたマオはそう再び声をかけてきた。
「なに?」
「僕がまた捨てられてたら拾ってくれる?」
突然の、ずっと寂しそうな声に驚く。何を言ってるんだろう。忘れかけていた嫌な予感を思い出し、慎重に答える。
「一回拾った人を捨てたりしないよ」
「そうかもしれないけど。また僕みたいな人が現れるかもしれないし」
マオみたいな人? 流石にこんな人があちらこちらにいては堪らない。
見えていないとわかっていながら、マオに呆れた視線を向けた。
「拾わないに決まってるでしょう。そんな変な人」
「ひっどーい」
その言葉には安心がにじみ出ていて、私はようやくほっとした。
振り向いた表情は見慣れたにこにことした笑顔。良かった。いつも通りのマオだ。マオは再び私の頬をつつきだす。
「ねぇねぇ、拾ってくれないの?」
「マオは一人で十分だもの」
「僕がいっぱいいたら楽しいと思うんだけどなぁ」
「そんなわけないでしょう」
邪魔なその手を払いのけて、精一杯の背伸びをしてマオの鼻をつつく。
「もう少しいい子にしてたら拾ってあげる」
「ええー」
悪びれないその反応が期待通りで嬉しくなる。
マオを拾った理由。
――私と同じで寂しがってるように思えたからかもしれない。
「ねぇ依代ちゃん」
お昼ご飯で使った食器を片付けていると、ソファにゴロゴロと寝転んでいたマオが、背もたれから顔を覗かせた。それに気づいて少しだけ顔をあげると、いつものようにニコニコとした笑顔で私のほうを見ている。
「なに?」
「どうして僕のことを拾おうと思ったのぉ?」
何気ない問いに、私は違和感を覚えた。どうしてそんな急に気にするんだろう。
なんとなく、嫌な気がした。でも、その正体はわからずに、素直に答える。
「死んじゃうっていうから仕方なく」
「その割に一回家に帰ったでしょぉ」
マオは頬を膨らませて拗ねるそぶりを見せるが、目元は笑ったまま。少し意地悪をしたくなり、茶化してみる。
「だって見るからに不審者だもん。誰だって近づきたいとは思わないよ」
真夏に全身黒の服を着て子供に声をかける人。それだけでも危ない人なのに、捨て猫を自称しているのだ。誰も関わりあいになりたくはないだろう。
「悲しいなぁ。ただの捨て猫なのに」
私の理由に説得力があったのか、マオはしょんぼり、といったふうにうなだれて見せるが、それもなんだかわざとらしい。
「普通の大人はそんなこと言わない」
「捨て猫の気持ちになってみただけなのにぃ」
本当に、マオはよくわからない。そんなことをするよりも、普通に年頃の女性に声をかけたほうが顔目当ての誰かが連れ帰ってくれそうな気がするのに。
私がそういえば、にやついたマオがわざわざ回り込んできて私の頬をつつく。
「それでもわざわざ戻ってきてくれたんだぁ。依代ちゃんってば優しい~」
「ちょっと!」
頬に伸びてくる手を何度振り払っても、嬉しそうにマオは手を伸ばしてくる。
「ほんっと、依代ちゃんってば可愛いんだからぁ」
「やめてってば」
このままでは洗い物を続けられない。蛇口から流れ出る水を手のひらにすくい、マオにかける。予想外の反撃に流石のマオも呑気にはしていられなかったようで、慌てて顔を庇う。
「何するのさぁ!」
「それは私の台詞だよ。まったく」
「ひどいよねぇ」
どの口が言うのかと非難の視線を送れば、私が悪いことをしたと言わんばかりに不満そうな顔を向けられる。心外だ。
「それよりはやく終わって、遊ぼうよぉ」
「マオが邪魔するからだよ」
「気のせいだってば。ほら、僕も手伝うからさぁ」
そういって洗い終わった食器を片付けだす。手際は悪くない。なのにこうも悪戯をするのだから、マオは本当に自由気ままだ。
「ねぇ依代ちゃん」
背を向けたマオはそう再び声をかけてきた。
「なに?」
「僕がまた捨てられてたら拾ってくれる?」
突然の、ずっと寂しそうな声に驚く。何を言ってるんだろう。忘れかけていた嫌な予感を思い出し、慎重に答える。
「一回拾った人を捨てたりしないよ」
「そうかもしれないけど。また僕みたいな人が現れるかもしれないし」
マオみたいな人? 流石にこんな人があちらこちらにいては堪らない。
見えていないとわかっていながら、マオに呆れた視線を向けた。
「拾わないに決まってるでしょう。そんな変な人」
「ひっどーい」
その言葉には安心がにじみ出ていて、私はようやくほっとした。
振り向いた表情は見慣れたにこにことした笑顔。良かった。いつも通りのマオだ。マオは再び私の頬をつつきだす。
「ねぇねぇ、拾ってくれないの?」
「マオは一人で十分だもの」
「僕がいっぱいいたら楽しいと思うんだけどなぁ」
「そんなわけないでしょう」
邪魔なその手を払いのけて、精一杯の背伸びをしてマオの鼻をつつく。
「もう少しいい子にしてたら拾ってあげる」
「ええー」
悪びれないその反応が期待通りで嬉しくなる。
マオを拾った理由。
――私と同じで寂しがってるように思えたからかもしれない。
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