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第1部-ファフニール王国・自由編-
016_私
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丘の上についたオズウェルは、リリアを村を見下ろせる岩の上に座らせた。落ち込んだリリアは俯いたまま。下からその顔を覗き込んで、零れかけていた涙を丁寧にぬぐう。
「ショックですか? 狙われる理由を知って」
「……うん」
「母君がファフニールの生まれでなければ、僕たちは出会えなかった。そうでしょう?」
「うん」
傷ついたリリアを抱きしめたまま、落ち着いた口調でオズウェルは続けた。しゃくりあげる声は聞こえないふりをする、
「確かにリリア嬢は望まれなかったのかもしれない。けれど、僕は今のリリア嬢を必要としています。レオファルドも。とりあえずはそれではいけませんか?」
「私、何の役にも立てない……。迷惑ばっかりかけるし、これからも……」
「生きたいのでしょう。だから逃げてきたんでしょう。だったらそうするべきです」
「でも……」
それでもまだ、リリアは揺らいでいた。本当にこのまま甘えていていいのか。
「あなたが生きているだけで僕は満足です。言っておきますが、迷惑ならとっとと追い出しています。僕は存外冷たい人間ですよ」
「……誰のこと?」
「僕です」
少しの沈黙の後、たまらずリリアは噴き出した。
「オズウェルは優しいよ」
「あなたの前だからです」
「嘘」
笑顔がこぼれたリリアに、ようやくオズウェルも頬を緩めた。もう大丈夫だろうと思い、おそるおそる離れてみようとするが、リリアは服を掴んで離そうとしない。
「リリア嬢?」
「もう少し、このままで」
「あの、涙を服で拭くのは困ります」
「ふふっ」
笑い声と共に解放されてオズウェルが服を確認すると、しっかりと涙の跡がついている。肩をすくめて、隣に腰かけた。
リリアはようやく大きく深呼吸すると、眼下に見える景色に体の力も抜ける。多少冷静になったのか、落ち着いた表情で沈んでいく太陽を眺めた。
「ありがとう。元気がでた気がする」
「良かったです。あまりにも泣いていらっしゃるので、目が取れるのではないかと心配していました」
「取れないもん」
頬を膨らませ、オズウェルを見上げて抗議する。まだまだ完全にとはいかないが、無理をしている様子もない。
「そろそろ戻りましょうか。サンドラ様が心配されているかと」
「うん。悪いことをしちゃった」
手を差し出されると、しっかりと前を見て自分の足で丘を下る。来た時よりも足取りは軽い。悩むことはいくらでもある。だが、すべてを受け入れてくれる人がいる。その事実だけでも、リリアの心はこんなにも安らいだ。
「これからどうされますか?」
「まだわからない。でも殺されたくない。私は私が生きたいように生きたい。人の都合に振り回されてるのはもうたくさん」
「では、リリア嬢がそう生きられるよう、僕にお手伝いをさせてくれますか?」
「ありがとう。オズウェル」
小屋に戻るとサンドラが温かい食事を用意して待っていた。隣にはクロウ。なかなかにこき使われたようで、来た時はしっかり着込んでいた服も、今は薄手のシャツ一枚を羽織るだけの格好をしていた。
「顔色が良くなりましたね、リリア様」
「オズウェルのおかげだよ。クロウも心配してくれてありがとう」
「笑っているほうがお似合いですよ。さ、不慣れながらもサンドラ様とお食事を作らせていただきましたから、お召し上がりを」
「うん」
オズウェルはサンドラと何やら話し込んでいたが、席について待っているリリアに気づいてすぐに戻ってくる。気候の違いから普段要となる野菜も異なり、オズウェルにとっては物珍しい、リリアにとっては懐かしい料理が並ぶ。給仕するクロウを除いた三人は、終始和やかな雰囲気で食事を進めた。
夜遅くなった一行は、サンドラの申し出もあり明日ファフニール王国へ帰ることにした。サンドラの小屋には部屋が二つしかないため、リリアとサンドラが寝室で、オズウェルとクロウが食事をした部屋で休むこととなった。
二人っきりになった部屋で、リリアはサンドラに話しかける。ソファで布団をかぶろうとしていたサンドラは、考えるしぐさを見せてから、ベッドに腰かけるリリアのそばまでやってきた。灯りはわずかにしか灯されておらず仄暗い。
隣に座っても良いかと尋ねリリアが頷くと、ぎりぎり服と服とが触れない距離に体重を預けた。
しばらくの沈黙の後、リリアが口を開く。
「あの、いろいろ教えていただいて、ありがとうございました」
「お役に立てたのであれば幸いです。もう、辛くはありませんか?」
「はい。支えてくれる人がいますから。時間はかかるかもしれませんが、どうするべきか考えてみようと思います。またお会いしに来てもよろしいでしょうか?」
「いつでもどうぞ。わたくしも良い機会ですから自分について考え直してみようかと」
「サンドラ様にも何か思い悩むことがおありですか?」
物静かで達観したように見えるサンドラでもそんなことがあるのかと意外そうな視線に、サンドラは苦笑を返す。
「それはもういくらでも。生きていれば何かしら、悩みは尽きないものですよ」
「そう、ですよね。私も頑張ります」
「頑張りすぎもよくありませんよ。ほどほどに、頑張るべき時だけ頑張ればよいのです」
「はい!」
わかっているのかわかっていないのかわからないリリアに、思わず笑みがこぼれたサンドラ。変なことを言ってしまったかと戸惑っている様子に、声を漏らして笑った。
「リリア様、もっと肩の力を抜いて」
「あっ……」
背中をポンポンと叩くと、リリアの強張っていた力が抜ける。そのまま優しく体を横たえさせると、眠れるように明かりを消した。
「ゆっくりとお休みください。リリア様」
「うん。……おやすみ、なさい」
「ショックですか? 狙われる理由を知って」
「……うん」
「母君がファフニールの生まれでなければ、僕たちは出会えなかった。そうでしょう?」
「うん」
傷ついたリリアを抱きしめたまま、落ち着いた口調でオズウェルは続けた。しゃくりあげる声は聞こえないふりをする、
「確かにリリア嬢は望まれなかったのかもしれない。けれど、僕は今のリリア嬢を必要としています。レオファルドも。とりあえずはそれではいけませんか?」
「私、何の役にも立てない……。迷惑ばっかりかけるし、これからも……」
「生きたいのでしょう。だから逃げてきたんでしょう。だったらそうするべきです」
「でも……」
それでもまだ、リリアは揺らいでいた。本当にこのまま甘えていていいのか。
「あなたが生きているだけで僕は満足です。言っておきますが、迷惑ならとっとと追い出しています。僕は存外冷たい人間ですよ」
「……誰のこと?」
「僕です」
少しの沈黙の後、たまらずリリアは噴き出した。
「オズウェルは優しいよ」
「あなたの前だからです」
「嘘」
笑顔がこぼれたリリアに、ようやくオズウェルも頬を緩めた。もう大丈夫だろうと思い、おそるおそる離れてみようとするが、リリアは服を掴んで離そうとしない。
「リリア嬢?」
「もう少し、このままで」
「あの、涙を服で拭くのは困ります」
「ふふっ」
笑い声と共に解放されてオズウェルが服を確認すると、しっかりと涙の跡がついている。肩をすくめて、隣に腰かけた。
リリアはようやく大きく深呼吸すると、眼下に見える景色に体の力も抜ける。多少冷静になったのか、落ち着いた表情で沈んでいく太陽を眺めた。
「ありがとう。元気がでた気がする」
「良かったです。あまりにも泣いていらっしゃるので、目が取れるのではないかと心配していました」
「取れないもん」
頬を膨らませ、オズウェルを見上げて抗議する。まだまだ完全にとはいかないが、無理をしている様子もない。
「そろそろ戻りましょうか。サンドラ様が心配されているかと」
「うん。悪いことをしちゃった」
手を差し出されると、しっかりと前を見て自分の足で丘を下る。来た時よりも足取りは軽い。悩むことはいくらでもある。だが、すべてを受け入れてくれる人がいる。その事実だけでも、リリアの心はこんなにも安らいだ。
「これからどうされますか?」
「まだわからない。でも殺されたくない。私は私が生きたいように生きたい。人の都合に振り回されてるのはもうたくさん」
「では、リリア嬢がそう生きられるよう、僕にお手伝いをさせてくれますか?」
「ありがとう。オズウェル」
小屋に戻るとサンドラが温かい食事を用意して待っていた。隣にはクロウ。なかなかにこき使われたようで、来た時はしっかり着込んでいた服も、今は薄手のシャツ一枚を羽織るだけの格好をしていた。
「顔色が良くなりましたね、リリア様」
「オズウェルのおかげだよ。クロウも心配してくれてありがとう」
「笑っているほうがお似合いですよ。さ、不慣れながらもサンドラ様とお食事を作らせていただきましたから、お召し上がりを」
「うん」
オズウェルはサンドラと何やら話し込んでいたが、席について待っているリリアに気づいてすぐに戻ってくる。気候の違いから普段要となる野菜も異なり、オズウェルにとっては物珍しい、リリアにとっては懐かしい料理が並ぶ。給仕するクロウを除いた三人は、終始和やかな雰囲気で食事を進めた。
夜遅くなった一行は、サンドラの申し出もあり明日ファフニール王国へ帰ることにした。サンドラの小屋には部屋が二つしかないため、リリアとサンドラが寝室で、オズウェルとクロウが食事をした部屋で休むこととなった。
二人っきりになった部屋で、リリアはサンドラに話しかける。ソファで布団をかぶろうとしていたサンドラは、考えるしぐさを見せてから、ベッドに腰かけるリリアのそばまでやってきた。灯りはわずかにしか灯されておらず仄暗い。
隣に座っても良いかと尋ねリリアが頷くと、ぎりぎり服と服とが触れない距離に体重を預けた。
しばらくの沈黙の後、リリアが口を開く。
「あの、いろいろ教えていただいて、ありがとうございました」
「お役に立てたのであれば幸いです。もう、辛くはありませんか?」
「はい。支えてくれる人がいますから。時間はかかるかもしれませんが、どうするべきか考えてみようと思います。またお会いしに来てもよろしいでしょうか?」
「いつでもどうぞ。わたくしも良い機会ですから自分について考え直してみようかと」
「サンドラ様にも何か思い悩むことがおありですか?」
物静かで達観したように見えるサンドラでもそんなことがあるのかと意外そうな視線に、サンドラは苦笑を返す。
「それはもういくらでも。生きていれば何かしら、悩みは尽きないものですよ」
「そう、ですよね。私も頑張ります」
「頑張りすぎもよくありませんよ。ほどほどに、頑張るべき時だけ頑張ればよいのです」
「はい!」
わかっているのかわかっていないのかわからないリリアに、思わず笑みがこぼれたサンドラ。変なことを言ってしまったかと戸惑っている様子に、声を漏らして笑った。
「リリア様、もっと肩の力を抜いて」
「あっ……」
背中をポンポンと叩くと、リリアの強張っていた力が抜ける。そのまま優しく体を横たえさせると、眠れるように明かりを消した。
「ゆっくりとお休みください。リリア様」
「うん。……おやすみ、なさい」
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