生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑

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第1部-ファフニール王国・自由編-

022_力

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 その晩、部屋に戻ったリリアはいつまでも寝付けずにいた。暗闇の中、窓のそばの椅子に腰かけ、ぼんやりと外を眺める。アンからは危ないからと禁じられていたが、どうしても夜空を見ていたかった。
 夜も深くなる頃、屋敷前に馬車が止まった。こんな時間に何だろうと不審に思って屋敷に向かってくる影を見守る。屋敷に入る直前、影と一瞬目があったような気がして、リリアは息を飲む。慌ててベッドに戻ると、ぎゅっと目をつむった。
 ドキドキとする心臓を抑えて眠ろうしてどれくらいの時間がたったのだろう。耳慣れない足音が廊下に響き、リリアの部屋の前で止まった。ノックの音が響き、じっと扉のほうを見つめる。リリアが黙ったままでいると、再びコンコンとノックされる。
 
「おい、リリア。起きてんだろ」
「……レオ?」
 
 ベッドから飛び降りて扉を開く。王宮で見るよりもずっと簡素なレオファルドがそこにはいた。レオファルドは案内もなくリリアの部屋までたどり着いたらしく一人っきり。小さなため息とともにリリアを見下ろすと、来ていた上着を着せた。隠しきれていない笑みが口の端に浮かぶ。
 
「なんて格好してんだよ。ったく、慌てすぎだろ」
「え? あっ、ごめん。ありがとう」
 
 人前に見せるような格好ではない。頬を染めて俯くと、上から遠慮のない手が頭を撫で、リリアは恥ずかしさを隠すように慌ててかけられた上着を深く着込む。
 
「んでいつまでたたせておくつもりだ?」
「そうだった。入って入って」
 
 部屋に灯りをつけてレオファルドを迎え入れて、リリアはいそいそとお茶を入れだす。
 尊大にソファに座ったレオファルドが、その様子を楽しそうに見守っている。
 
「いつもとは逆だな」
「うん。もてなされる気分はどう?」
「普段はほっといても侍女がするが、やってるのがお前だと思うと気分はいい」
「それは良かった」
 
 二人は向かい合ってお茶を楽しむ。
 
「オズウェルから話は聞いた」
 
 唐突に切り出した内容が何を指すのかを悟って、リリアは顔を曇らせた。
 
「お前が無事で良かった」
「……うん」
「そのバルトとかいうやつがしたことは論外だが、お前が自分を守るためにできることがある」
「できること?」
「力をつけろ。武力が一番わかりやすいが、権力でも知恵、知識でもいい」
「……」
 
 そのどれもを持ち合わせていない、と小さく首を振る。
 
「手っ取り早いのが、前に言っていた養子の話だな。ハミルトン家なら、家格はそこそこだが、このファフニール王国の中でも由緒ある家柄だ。それに、オズウェルとオレとのつながりもある。それだけあれば大体の家とはやりあえる」
「でも……私、ファフニール王国の出身じゃない」
「そんなこと言わなきゃわかんねーよ。王家の血が入っているならなおさらな」
「他の人には関係ないのに、まきこめないよ……」
「かけろよ。迷惑をかけたくないなら権力に守られるだけじゃなくて、守れるようになればいい」
「知ってるだろ。王族は生まれた時から命を狙われる。子供だった俺が将来持つ権力を守るために何人もが死んだ。だが、今は俺の行動一つで守れるものも多い」
「私はレオみたいにはなれないよ……きっと迷惑だけかけて終わる」
「それはそれでいいじゃねーか。やりたくてしていることだ」
「うん……」
 
 やりたくてしている。みんながそう言ってくれる。でも本当にそれでいいのか、とリリアは自らに問いかけた。

「返せるものがないんだよ」
「作ればいい。今のままでいるよりずっといいはずだ。お前の家のことも力さえあれば解決できる。ずるずるしたくないだろ?」
「うん……そうだね」
 
 テーブル越しに乱暴に撫でるレオファルドに、暗い表情だったリリアは思わす声をあげる。いつもこうやって思考を邪魔される。
 
「わっ、ちょっと!」
「もう寝ろ。まったく、いつまで起きてるつもりだ?」
「レオが来たからなのに!」
「それはそれ、だ。そばにいれば寝られるだろ?」
「レオはどうするの?」
「まだオズウェルと話があるんでな。そのあとなら添い寝してやるが?」
「い、いらない……」
「ほら、ベッドに行け」
 
 半ば無理やり追い立てられてベッドに入る。近くの椅子に腰かけたレオファルドに見守られてリリアは目を閉じた。
 
「ねぇレオ」
「なんだ?」
「妃を選ぶんだって聞いたよ。それも力のため?」

 一瞬息を飲んだレオファルドが深いため息をついた。
 
「……オズウェルに聞いたのか。まぁ大方そうだろう」
「そうだろう、って。レオのことなのに」
「俺にそのつもりはないからな。力を求めているとはいえ、俺には心に決めたやつがいる。その願いを曲げてまではいらない」
「そうなんだ……その選択肢があるのも、力があるから?」
「そうだな」
「そっか……」
 
 リリアはそれっきり黙ってしまう。レオファルドも会話の意味を追求することをしなかったため、部屋には沈黙が広がる。二人の呼吸だけが互いに聞こえ、次第に眠りに落ちていった。
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