アイデンティティ崩壊フェアリーズ 妖精たちが人間の中学校に留学したら、たいへんなことになりました。

柳なつき

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第一章 モラトリアム重大フェアリーズ

人間界へ、留学!

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 ローザは媚びるような笑顔で、おずおずと言う。


「あの……成人式の私とレオンハルトの願い、もしかしてすでに決めていたほうが、あるいは妖精として当然決めているべき時期なのでありましょうか。妖精学校では、成人式の当日までは他言することも禁じられているとの教えを受けましたが――あっ、その違います、長老さまの偉大なるお考えをその、否定とか、じゃなくってあのその、私ごとき未成年が長老さまともあろうおかたにご意見するつもりなど毛頭ないのですがっ」
「おいローザ、ちょっと落ち着け」

 オレは小声でそう言った。ローザは優等生のくせに、どうもパニクる癖がある。

 長老さまはふふっと小さく笑った、ように見えた。

「そうだ。レオンハルトの言う通り。落ち着きなさい、ロザライン。私はなにもあなたを叱りたいのではない。私は妖精学校の教師ではないのだから」
「あっ、はい……す、すみません、長老さま……」
「ロザライン、あなたは優秀だ。妖精学校の教師たちからも、よく評判を聴くよ」
「はっ、ありがたきお言葉っ……」
「レオンハルト。あなたは学業にはあまり秀でていないようだ。だが、人間界の文化に通じているとの評判だね」
「文化っつーか……サブカルチャーっつーか、ですかね? いまとなっては市民権得てきてー、ゲーム漫画アニメなどなどをサブカルともオタクカルチャーとも言えないみたいな風潮、高まってはきてますけどー」
「レオンッ!」

 またローザに突っ込まれた。ローザがオレをたしなめたり、オレがローザに声をかけたり。長老さまの前だというのに通常運転って感じである。


 はっはっは、と長老さまは笑う。


「あなたたちは仲がよい。よいことだ。……あなたたちの代は、あなたたちふたりしかいない。どういった因果であるのか、年々授かる妖精は減っているが……ふたりだけというのは、あなたたちの前にも後にもないことだね。妖精史のかぎり、もっとも少ない。ほかの代は、どんなに少なくても、三人は授かった」

 オレもローザも、なにも言えない。その通りすぎるし、いろんなおとなたちからそのことはよくも悪くも言われ続けて、正直うんざりしているというのは共通の本音だ。長老さまに言われたのははじめてだけど。

「妖精の赤子というのは竜神さまからの授かりもの。少ないことにこちらから文句を言うことはできない。だが、あなたたちは、ふたりだけであることによって苦労したことと思う。あなたたちの一歳上の世代が成人となったいま、あなたたちにかかる期待はいかほどのものであろうか」
「期待っすかね。期待だといいんすけどね、ほら、ローザはともかくオレなんか劣等生なんでわかりませんよー」
「はは。それでも、期待ということにしておこうではないか。じっさい、私もあなたたちに期待している。……レオンハルト、ロザライン」

 長老さまがあまりにもしみじみと感慨深そうにオレたちふたりの名前を呼んだので、このオレでさえもびっくりする。

「妖精界史上でも最小の、たったふたりのあなたたちだから、私から頼めることがある」

 頼める――? 長老さまがなにかを下々の妖精に、命令ではなく、頼むということなど――ありうるのか。

 ちらりと見ると、ローザも口を若干開けてぽかんとしている。こいつ、ほんとうに驚くと口がちょっとだけ開くんだよな。女児の顔になるんだよな。学校ではぜったいに見せない表情だし、長老さまの前でこんな顔しているというのもだからまあすごいことだ。


「私は、千年来続く妖精界の伝統の改革をおこなおうかと思っている」


 その声はあくまでも、静かに厳かに響く。


「あなたたちには、改革の最初の礎となってもらいたい」


 もうなにも言えなくなってるっぽいローザの代わりに、オレはふだんならばローザがやる役を引き受けた。


「と、いうと、どういうことですか」
「人間界に留学しなさい」
「はいっ?」「えっ?」


 オレたちはほぼ同時に驚きの声を上げた。
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