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第一章 モラトリアム重大フェアリーズ
人間界への留学の意図
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「……妖精界の平均寿命が下がってきていることは知っているね。そして、あなたがたのように、出生率も。われわれ妖精族は、あらゆる意味で人間という種族に依存している存在だ。人間を助け、人間のために身を粉にして働く。人間ひとりの守護霊となる者もいれば、歴史を影で動かしたり、人間界で沈黙が訪れると天使が通ったと言うところの者になったり、それぞれだ。どういった役目を生涯果たすか、それを、妖精は十五歳になるときに決めねばならないよね」
入学式や成人式以外では、はじめて聴く長老さまの長いお話。
「あまりにも、シビアすぎる現実だと思わないか。だいたい、人間だって、十五歳のときに自分の生涯を決められる者などほとんどいない。人間のモラトリアムは長いのに、妖精のそれは短いと思わないかい」
「あっ、はいはいオレそれ思いまーすっ。人間ってだって高校はだいたい行けるっぽいしー、その先に大学とか専門もあったりーなんですよね。大学なら二十歳過ぎだし、高校だって十八歳くらいってことですよね? オレらは人間でいう中卒の年齢で一生のこと決めなきゃなんて正直重すぎっすわー」
「そうだろう、レオンハルト。ロザラインは、どう思う」
「ひゃっ、はっ、はいっ、修行中の身である私にもお尋ねくださるとは光栄の至り……で、あのその、えっと」
「つまりな、もっとモラトリアムほしくね? って話だよ」
「あ、えっとモラトリアムですか猶予期間、その、私はルールにはきっちり従うつもりですけど、たしかにもうちょっと考える時間があれば、より適切な選択ができるのかなぁ……と思うことは、なきにしもあらずで……」
「そうだろう、ロザライン。……それでは決定だな」
長老様は、言う。
「レオンハルト。ロザライン。あなたたちに、人間界への留学を命ずる。妖精学校の最終学年は私の権限によって一年間の留学に置き換わるものとする、人間界をよくよく見てきてほしい」
「……長老さま。ひとつ質問、いっすか」
「なんだ、レオンハルト。なんでも言ってみなさい」
「オレらなんのために人間界留学するんっすか?」
長老さまはわずか、黙った。
「人間界の現実を見てきてほしい……はたして、多くの妖精たちが言うように、彼らはほんとうにわれわれ妖精が助くことを続けるに値する存在であるのかを。そのうえで、あなたたちにはあなたたちの使命を決めてほしいのだ。……きみたちに対し、重い任であることはすまなく思っている」
「――それって、まさか」
ローザはさっと顔を青くして、口もとを押さえた。
「なんだよローザ、長老さまが言ってんのどゆこと?」
「だいじょうぶだよ、ロザライン。私からはっきりとレオンハルトに言っておこう」
長老さまは口もとだけでにっこりと笑った。
「人間界に対してわれわれ妖精が反逆を起こすべきなのかどうか、見定めてほしい。成人の日に懸ける願いは妖精にとって絶対であり、その価値により寿命も決まる。結論はどちらでもよい。人間を助けても、見放してもよい。……ただ一年後にはふたり揃ってどちらかの立場を明確に選択し、その目的のための願いを、熟考のすえで成人のその日に竜神さまに誓って懸けてほしいのだ。人間界のためにも、また、妖精界のためにも」
ローザはいまにも震えはじめるんじゃないかってくらいに目を見開いて長老さまを見上げていたが、オレはにやっと笑った。――面白いことになりそうじゃないか。
ためにも、ね。にも。ってことは、つまりだ。
「あざっす、長老さま――オレはオレの寿命を延ばすような選択肢をしやすくなる、ってなことですよね?」
「ははっ、早まるなレオンハルト、それだけが目的ではないぞ。だが、そうだな。選択肢の幅は広がるだろうな」
選択肢の幅……ね。
「オレは人類にもめちゃくちゃ貢献できてー、なおかつー、このままぐーたら毎日ゲームできるようなミッションを見つけまーすっ!」
「ちょっとレオンッ、長老さまの前でいいかげんに――」
「レオンハルト、それもまた然りだ。ロザライン、あなたの目標はどういったミッションなのだろうか、いま、聴いておきたい」
「あっ、あ、私ですねっ、はいっ、私は……人類全体にとても貢献できるような……」
「ふわっとしてんなー。それだとオレの言ってることと変わらんぞ」
「た、たしかにそうね……それだったら私はレオンとは違って、その、もっと崇高な……」
「然り」
長老さまの声は優しかった。
「然りだ、ロザライン。それでよい。レオンハルトもだ。人間界に留学したのち、また、妖精界に戻り人間のためにミッションを決めるそのときにも、その心がけを忘れないでほしい。人間に対する答えがどうあれ、私たちは人間に依存し人間のためだけに存在するのだから。レオンハルト、ロザライン。……あなたたちには仲よく正義を果たしてほしい。善良を本質とする妖精として」
はいっ、と返事したオレとローザの声は、なぜだかこんなときにかぎって、きれいに重なったのだった。
入学式や成人式以外では、はじめて聴く長老さまの長いお話。
「あまりにも、シビアすぎる現実だと思わないか。だいたい、人間だって、十五歳のときに自分の生涯を決められる者などほとんどいない。人間のモラトリアムは長いのに、妖精のそれは短いと思わないかい」
「あっ、はいはいオレそれ思いまーすっ。人間ってだって高校はだいたい行けるっぽいしー、その先に大学とか専門もあったりーなんですよね。大学なら二十歳過ぎだし、高校だって十八歳くらいってことですよね? オレらは人間でいう中卒の年齢で一生のこと決めなきゃなんて正直重すぎっすわー」
「そうだろう、レオンハルト。ロザラインは、どう思う」
「ひゃっ、はっ、はいっ、修行中の身である私にもお尋ねくださるとは光栄の至り……で、あのその、えっと」
「つまりな、もっとモラトリアムほしくね? って話だよ」
「あ、えっとモラトリアムですか猶予期間、その、私はルールにはきっちり従うつもりですけど、たしかにもうちょっと考える時間があれば、より適切な選択ができるのかなぁ……と思うことは、なきにしもあらずで……」
「そうだろう、ロザライン。……それでは決定だな」
長老様は、言う。
「レオンハルト。ロザライン。あなたたちに、人間界への留学を命ずる。妖精学校の最終学年は私の権限によって一年間の留学に置き換わるものとする、人間界をよくよく見てきてほしい」
「……長老さま。ひとつ質問、いっすか」
「なんだ、レオンハルト。なんでも言ってみなさい」
「オレらなんのために人間界留学するんっすか?」
長老さまはわずか、黙った。
「人間界の現実を見てきてほしい……はたして、多くの妖精たちが言うように、彼らはほんとうにわれわれ妖精が助くことを続けるに値する存在であるのかを。そのうえで、あなたたちにはあなたたちの使命を決めてほしいのだ。……きみたちに対し、重い任であることはすまなく思っている」
「――それって、まさか」
ローザはさっと顔を青くして、口もとを押さえた。
「なんだよローザ、長老さまが言ってんのどゆこと?」
「だいじょうぶだよ、ロザライン。私からはっきりとレオンハルトに言っておこう」
長老さまは口もとだけでにっこりと笑った。
「人間界に対してわれわれ妖精が反逆を起こすべきなのかどうか、見定めてほしい。成人の日に懸ける願いは妖精にとって絶対であり、その価値により寿命も決まる。結論はどちらでもよい。人間を助けても、見放してもよい。……ただ一年後にはふたり揃ってどちらかの立場を明確に選択し、その目的のための願いを、熟考のすえで成人のその日に竜神さまに誓って懸けてほしいのだ。人間界のためにも、また、妖精界のためにも」
ローザはいまにも震えはじめるんじゃないかってくらいに目を見開いて長老さまを見上げていたが、オレはにやっと笑った。――面白いことになりそうじゃないか。
ためにも、ね。にも。ってことは、つまりだ。
「あざっす、長老さま――オレはオレの寿命を延ばすような選択肢をしやすくなる、ってなことですよね?」
「ははっ、早まるなレオンハルト、それだけが目的ではないぞ。だが、そうだな。選択肢の幅は広がるだろうな」
選択肢の幅……ね。
「オレは人類にもめちゃくちゃ貢献できてー、なおかつー、このままぐーたら毎日ゲームできるようなミッションを見つけまーすっ!」
「ちょっとレオンッ、長老さまの前でいいかげんに――」
「レオンハルト、それもまた然りだ。ロザライン、あなたの目標はどういったミッションなのだろうか、いま、聴いておきたい」
「あっ、あ、私ですねっ、はいっ、私は……人類全体にとても貢献できるような……」
「ふわっとしてんなー。それだとオレの言ってることと変わらんぞ」
「た、たしかにそうね……それだったら私はレオンとは違って、その、もっと崇高な……」
「然り」
長老さまの声は優しかった。
「然りだ、ロザライン。それでよい。レオンハルトもだ。人間界に留学したのち、また、妖精界に戻り人間のためにミッションを決めるそのときにも、その心がけを忘れないでほしい。人間に対する答えがどうあれ、私たちは人間に依存し人間のためだけに存在するのだから。レオンハルト、ロザライン。……あなたたちには仲よく正義を果たしてほしい。善良を本質とする妖精として」
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