ベルギオットスワンの物語

エピソード20

真なる魔王

老人が出現させた扉の先は、ベルギオットの想像を絶する世界だった。そこは、アヴェルヌスの暗黒とは対照的に、光に満ち溢れた美しい世界が広がっていた。
緑豊かな草原、澄み切った青空、そして、穏やかに流れる川。ベルギオットは、生まれて初めて見る光景に目を奪われる。
「ここは…？」
ベルギオットが呟くと、老人は静かに答えた。
「ここは、かつてのアヴェルヌス…ルシファーが堕天する前の、楽園の姿だ」
老人の言葉に、ベルギオットは驚きを隠せない。アヴェルヌスが、かつてはこんなにも美しい世界だったとは…。
「ルシファーは、自らの野望のために、この楽園を破壊し、地獄へと変えてしまった。お前は、ルシファーと同じ過ちを繰り返してはならない」
老人は、ベルギオットに、真の魔王としての道を説く。
「真の魔王とは、力によって支配する者ではない。民を愛し、彼らと共に歩む者だ。お前は、自らの力と知恵で、このアヴェルヌスを、再び楽園へと導くことができる」
老人の言葉は、ベルギオットの心に深く響く。彼は、これまで、力こそがすべてだと信じて生きてきた。だが、試練の塔での経験、そして、魔王としての重責を担う中で、彼は、真の強さとは何かを学び始めていた。
「私は…民のために…」
ベルギオットは、力強く決意を表明する。
その時、老人は、ベルギオットに最後の試練を与える。
「この世界にいる、迷える魂たちを救い、彼らに希望を与えよ。それができれば、お前は真の魔王として目覚めるだろう」
ベルギオットは、老人の言葉に従い、この楽園のような世界を探索し始める。彼は、そこで、様々な魂たちと出会う。
ルシファーの堕天によって、絶望に暮れる天使たち。
アヴェルヌスの支配に苦しみ、自由を奪われた悪魔たち。
そして、戦乱によって命を落とし、彷徨う人間の魂たち。
ベルギオットは、彼らの言葉に耳を傾け、彼らの苦痛を理解しようと努める。彼は、魔導書の知識と、試練の塔で得た知恵を駆使し、魂たちを救済していく。
天使たちには、ルシファーの罪を償い、アヴェルヌスを救済する道を示す。
悪魔たちには、自由と平等を約束し、新たな社会を築くビジョンを提示する。
人間の魂たちには、彼らの故郷である地上へと戻るための導きを与える。
ベルギオットは、魂たち一人ひとりと向き合い、彼らの心に寄り添う。彼は、力ではなく、慈悲と共感で、彼らを救済していく。
そして、ベルギオットは、ついに最後の魂を救済する。それは、かつての恋人、セシリアの魂だった。
セシリアは、ベルギオットが最下層にいた頃、唯一彼に優しく接してくれた女性だった。しかし、彼女は、ベルギオットを守るために、他の悪魔に殺されてしまった。
「セシリア…」
ベルギオットは、セシリアの魂を抱きしめ、涙を流す。彼は、セシリアの死を、ずっと悔やんでいた。
「ベルギオット…あなたは…立派になったのね…」
セシリアは、優しい笑顔でベルギオットを見つめる。
「私は…あなたを…誇りに思うわ…」
セシリアの言葉に、ベルギオットは、心の底から救われる。彼は、セシリアの愛に支えられ、真の魔王へと目覚めることができたのだ。
ベルギオットは、すべての魂を救済し、老人のもとへと戻る。
「私は…試練を…乗り越えました…」
老人は、ベルギオットの成長に満足そうに頷く。
「おめでとう、ベルギオット。お前は、真の魔王として目覚めた。これより、お前は、アヴェルヌスを真の楽園へと導くことができるだろう」
ベルギオットは、光に包まれ、アヴェルヌスへと戻る。彼は、新たな決意と希望を胸に、魔王としての職務を果たす。
ベルギオットは、民の声に耳を傾け、彼らのために尽くす。彼は、差別や不平等をなくし、すべての悪魔が平和に暮らせる社会を築く。そして、アヴェルヌスを、再び楽園へと再生させる。
ベルギオットは、真の魔王として、アヴェルヌスに永遠の繁栄をもたらした。彼の名は、後世まで語り継がれ、人々は彼を「救世主ベルギオットスワン」と称えた。