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エピローグ
アヴェルヌスの夜明け
しおりを挟むベルギオットが真の魔王として目覚めてから、アヴェルヌスは大きく変わった。かつて地獄と呼ばれたその地は、徐々に緑を取り戻し、空には星が輝き始めた。
魔王城の玉座の間には、もはや冷徹な威圧感はなく、温かな光が満ちていた。ベルギオットは、豪華な装飾を排し、簡素ながらも風格のある玉座に座り、民の声に耳を傾けていた。
「魔王様、東部の農村で魔獣の被害が出ております」
「魔王様、下層街では食料が不足しており、餓死者が出ているとの報告です」
側近の悪魔たちが、次々と報告を上げる。ベルギオットは、一つ一つに真剣に耳を傾け、適切な指示を出していく。
彼は、もはや力に溺れる暴君ではなく、民を思いやる賢明な王だった。
かつてのベルギオットを知る者は、その変貌ぶりに驚きを隠せない。最下層で虐げられていた弱小悪魔が、アヴェルヌス全体を統べる慈悲深い魔王へと成長したのだ。
ベルギオットは、日々の政務に追われながらも、民との交流を大切にしていた。彼は、定期的に城下町へ足を運び、民と直接対話を交わす。彼らの暮らしぶりを自分の目で確かめ、悩みや不安に寄り添う。
「魔王様、ありがとうございます」
「魔王様のおかげで、安心して暮らせるようになりました」
民たちは、ベルギオットに感謝の言葉を述べる。彼らの笑顔は、ベルギオットにとって何よりも大切なものだった。
ある日、ベルギオットは、城の庭園を散策していた。咲き乱れる花々、鳥たちのさえずり、穏やかに流れる小川。かつての地獄のような風景は、そこにはなかった。
「セシリア…見ているか? 私は、約束を果たしたよ…」
ベルギオットは、空を見上げ、亡くなった恋人、セシリアに語りかける。
彼は、セシリアとの約束を胸に、アヴェルヌスを真の楽園へと変えたのだ。
その時、ベルギオットの背後から、優しい声が聞こえた。
「ええ、見ているわ…ベルギオット…」
振り返ると、そこには、セシリアの姿があった。彼女は、生前と変わらぬ美しさで、ベルギオットに微笑みかけている。
「セシリア…!」
ベルギオットは、驚きと喜びで、セシリアを抱きしめる。
「あなたは…本当に…?」
「ええ、私は、あなたのそばにいるわ…ずっと…」
セシリアは、ベルギオットの頬に手を添え、優しく囁く。
「あなたは、よく頑張ったわね…ベルギオット…」
ベルギオットは、セシリアの温かさに包まれ、涙を流す。彼は、長い孤独から解放され、真の幸福を手に入れたのだ。
ベルギオットは、セシリアと共に、庭園を歩く。二人は、穏やかな時を過ごし、未来への希望を語り合う。
ベルギオットは、真の魔王として、そして、一人の男として、新たな人生を歩み始めた。
アヴェルヌスには、新たな夜明けが訪れていた。
fin
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