6 / 11
ルフトシュロス学院 小等部
魔法学院のSクラスである意味
しおりを挟むクラス分け試験から早1週間が経った。零と泉莉は常に行動を共にしていた。幸い寮の部屋も同室になっている為、学校が終わった後島内にあるデパートで買い物をして、自炊しているのでまだ一度も食堂は利用していない。
なので、今学院内で自分達がどれほど噂の的になっているかを実感してはいなかった。同クラスになった4大国の皇子達とも会話らしい会話をしていないのもそれに拍車をかけていた。
というか、零も泉莉もお互い以外に向ける意識があまりにも低かったのも、問題の1つではあるのだろうが。そんな事をつらつらと反省しながら、零は今の状況に頭を抱えたくなった。
「聞いていらっしゃいますの!?」
「そうですわ!あなた方のようなものがSクラスなどとありえませんわ!!」
「早く先生に本当の事を仰って本来のクラスに戻りなさいな!」
そう、零が頭を抱えたくなってしまう今の状況というのは、4大国の皇子達と是非ともお近付きになりたい他クラスや上級生の女生徒達によるお呼び出し。
4人の皇子達とは一切会話らしい会話などしていなかったのと、まだ入学してからだったの一週間しか経っていないというのもあり、少々油断していた事は認めよう。
だがしかし、考えてもみてほしい。ここルフトシュロス学院は全国家共通の魔法学院なのだ。学院への入学資格である魔力量の多さは基本的には血筋が最も関係する事が研究でわかっている。つまり、平民も通ってはいるが圧倒的に貴族の生徒が多いのだ。
(そう、貴族の生徒が多いんだから、まさかこんなあからさまな行動に出るとは思わないでしょ。泉莉は確かに平民だけど、大商家と国々に知れている家の一人娘で、私はタオフェ国の神域であるフェルタリアの領主の娘なのよ?本当にまさかよね。自分の家の立場が危うくなる事をこんなに堂々とするなんて、さ)
基本的にはこのルフトシュロス学院においては貴族、平民などという身分の差は存在してはならない事になっている。だがそれはあくまでも表面上でしかない。まあそれは、学院卒業後の国での政治などに深く関わってくるという所謂大人の事情とやらも関係してくるので仕方ない事ではある。
だが、だからこそ学院に通う貴族令嬢、令息は学院内での自身の行動や言動にはかなりの責任が生じる事になるのだ。例えば、この学院に入学した元平民が、卒業して冒険者や退魔師として大成する事で学院時代に令嬢、令息だからと平民を馬鹿にしていた生徒に社会的な制裁を加えたという有名な話もあるくらいだ。
この話は学院に入学する貴族令嬢、令息は必ず親にされるものである。かくいう零も両親にくれぐれも気をつけるようにと言われていた。
「確かに私は平民だけど、零は神月家の令嬢ですよ?それに、学院内での過ごし方を親に言われてないんですか?というか、こんな事を私達に言っている暇があるならそれこそ、研鑽して魔力量を少しでもあげて、皇子様達に話しかけに行けばいいじゃないですか。大体、私達あの方達と会話らしい会話すらしてませんよ?」
「なんですって?!この、平民風情がワタクシ達に逆らうだなんて!許しませんわよ!!」
考え足らずにも程がある令嬢達の行動に、頭痛までしてきて頭を抱える零をおいて泉莉が相手をする。泉莉の言葉はかなり刺々しいが、それも仕方ないともいえる。泉莉にとって零は姫巫女の再来だと領民が傅いだ時も対等でいてくれ、彼女自身貴族令嬢であるというのに自身に対しての口調や態度を拒否する事はなかったのだ。確かに人前ではやめておけと注意される事はあったが、それは泉莉の事を考えての言葉だというのはわかっていた。
そして、零の家族である領主の亜紀と朱里も泉莉に対しての態度はあくまでも娘である零の友人としての態度だったのだ。だからこそ、彼女達の貴族意識からのものであろう言葉が泉莉には許せなかったのだ。
「泉莉、それ以上その方達に何を言ったところで無駄というものです。一応名乗っておきますわ。文句があるのならば私に来なさいな。私はヴォール国の神域、フェルタリア領領主、神月亜紀が娘神月零です。行きましょう、泉莉。関わるだけ私達の時間が無駄になるだけです」
言い捨てて零は泉莉を連れてその場を去ろうとした。だが、すぐにその足を止める事になった。
「我の声を聴け、魔に属するモノタチよ。我の願いに応え、紅き鮮血、我が前に来たれアオス・シュテルベン」
それは、その旋律は、人間の魔力保持者であれば決して使ってはならない魔法を発動させる為の旋律、術式。
魔族との契約魔法。
辺りに濃い瘴気が溢れ出す。
禍々しい瘴気が辺りに満ち、魔界との扉が開いた。零は瞬時に泉莉を自身の背後に庇い、術式を展開する為旋律を奏でる。
「我が声を聴け、闇あるところに光があった、光あるところに闇があった。闇と光は表裏一体にして同一。瘴気を払い、光闇の剣と化せアングライフェン」
「我が声に応えよ、浄化の光、癒しの光。我が前に在りし禍々しきを退けよシーセン」
零の旋律に重なるように泉莉の旋律が響く。零の魔法術式は、魔族の瘴気を払う光属性と魔族に有利に攻撃できる闇属性の融合魔法、これは零が無属性だからこそできる魔法だ。泉莉の魔法術式は光属性の、浄化魔法。零の融合魔法では払いきれない瘴気をこれ以上辺りに溢れさせないためだ。
「仮にも貴族令嬢が、魔族との契約魔法を発動させるとはね。本当に救えない」
「零、私は護ったり癒したりは出来るけど、攻撃は出来ないよ」
「安心しなさい、私がいるでしょう?それより、もう少し下がりなさい。光属性の魔力保持者に魔族の瘴気は毒よ」
泉莉を背後に庇いながら、零は生み出した光闇の剣を構えた。魔族との契約魔法を発動させた張本人とその取り巻き達は既に魔族の発する瘴気に取り込まれかけている。零はそれに気付いたが、今この状況下で泉莉を残して彼女達の救出には向かえない。そんな事をすれば泉莉が瘴気に取り込まれ、その身を侵され恐らく死ぬ。
決断は、その瞬間に下された。
(結局、チート級の能力を持っていても人1人にできる事は限られてる。恨んでいいわ、憎んでもいい。それでも私は、よく知りもしない貴方達より泉莉の方が大切だから。せめて、苦しまないように逝かせてあげる)
泉莉の魔法術式の上から二重三重に結界魔法を張り巡らせ、零は瘴気の中心に立つ影に向かってその剣を振り下ろした。
ガッ
振り下ろされた剣は、間違いなく中心に立つ影に向かっていた筈だった。だが、影に当たる寸前で何者かに邪魔をされ、零ごと泉莉の立つ場所まで弾き飛ばされた。
予想外の展開に、零は目を瞠り自身の攻撃を邪魔した相手を見極める為にじっと動かずに目を凝らす。
零と泉莉の魔法により徐々に瘴気が晴れていく中、そこにいたのは零達のクラスの担任である篠宮空木だった。
「よく持ちこたえた。魔物はもういない、こっちの生徒も無事だ。他の教師が来る前にその魔法を解け」
「え?篠宮先生?何で、ここに?」
「泉莉、とりあえず巻き込まれる前に寮に戻ろう。先生、この場はお任せしても?」
「構わない。・・・俺は教師専用寮の部屋にいる。恐らく2時間後くらいになるだろうがな、合言葉はヴィーゲン・リートだ」
「それでは、後でお伺いします。泉莉、行くよ」
必要最低限の情報共有だけをして、零は泉莉に一言告げその場を立ち去った。泉莉は少し困惑していたが、零が何も話さない以上聞くのを諦め、零の中で整理がついたら話してくれるだろうと空木に一礼して零の後を追っていく。
残された空木は、肺の中の空気を全て吐き出す程大きく深い溜息を吐き、瘴気にあてられ気絶している女生徒をその場にい横たわせた。
「面倒な事になったもんだ。ちっ、ガキが魔族との契約魔法なんぞ使いやがって。暫くは荒れるな」
心底忌々しそうに呟き乱暴に自身の頭を掻いてこの後起こる他クラスの教師陣による質問責めと、その後来るであろう自身のクラスの生徒であるが、あまりにもその実力などが謎に包まれている生徒との腹の探り合いを思い胸ポケットから煙草を取り出し、紫煙と共に憂鬱な気持ちを吐き出した。
初めてその存在を目にした時、違和感を感じた。
違和感は今日、確信へと姿を変えた。
魔族との契約魔法、それは魔法が存在するこの世界において、決して侵してはならないタブー。
既に彼方と此方との扉は開かれた。
待つのは絶望か、それとも希望か。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
いらない子のようなので、出ていきます。さようなら♪
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
魔力がないと決めつけられ、乳母アズメロウと共に彼女の嫁ぎ先に捨てられたラミュレン。だが乳母の夫は、想像以上の嫌な奴だった。
乳母の息子であるリュミアンもまた、実母のことを知らず、父とその愛人のいる冷たい家庭で生きていた。
そんなに邪魔なら、お望み通りに消えましょう。
(小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる