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ルフトシュロス学院 小等部
Sクラス担任との情報共有
しおりを挟む先に歩いていた零に追いついた泉莉は零に話しかけようとして、零の表情がいつになく鋭く堅いものになっている事に気付き躊躇った。泉莉の様子に気づいた零はそれまでの表情を笑みに変えて話しかけやすい空気を作り出す。
「どうしたの?泉莉」
「ん、零はどう思う?篠宮先生とさっきの魔法について」
「まだ情報が少ないから詳しい所まではわからないよ?あくまでも私の予想と推測でしかない。それでもいいなら話すよ」
「それでもいい、でもね、もし零がまだ考えを纏めたいと思うならそれを待つよ!」
「大丈夫よ、ただ、きっと面倒事がまだまだ起こるんだろうなって憂鬱になってただけだから。あぁ、でも出来れば篠宮先生と話をして情報共有を確かなものにしてからでもいい?」
「うん、私もちょっと疲れたから零が先生と話してる間にお風呂とか済ませておくね」
寮の自室に向かいながら、周りで魔族の瘴気を感じ取ったのであろう生徒達がざわついているので、その会話が聞かれないようにさり気なく風属性の魔法障壁を作って更に小声で話した後、零達の間に会話はなかった。
だが、2人の間に流れる沈黙にはお互いへの気遣いが溢れているからか気まずいものではなかった。自室に戻った後、簡単な食事を済ませて泉莉はリヒトと共に光属性の結界魔法を部屋全体に張り巡らせ、入浴した。
泉莉とリヒトの張った結界魔法の中で、零は自身にまとわりついていた瘴気がゆっくりと、だが確実に浄化されていくのを感じて今まで張り詰めていた緊張を解いた。
(流石に泉莉とリヒトの結界は効果覿面ね。それにしても、魔族との契約魔法なんて本来ならばこの学院どころか全国家を揺るがすほどの魔法…一体何処で知り得たのか。それに、やっぱり篠宮先生は想定通りの属性みたいだったし。まだ入学して1週間しか経ってないってのに、本当に面倒事が絶えない事になりそうね。でも、今後も魔族が関わってくるのは確実でしょうし、そろそろ泉莉に光属性の攻撃魔法を本格的に教えておくべきね。いつどんな時でも私が護るくらいは言いたいけど、現実問題無理な話だし。よし、考えも粗方纏ったし、そろそろ先生も戻ってきてるでしょ)
皇紀と白雪を抱きしめながら、つらつらと先程わかったことやこれからするべき事についての考えを纏めた零は、未だに入浴中の泉莉に一声かけてから、闇属性の隠蔽魔法を使い、自身を他人の目に映らないようにした上で空木の部屋に向かった。
生徒寮と教師寮では、設備などに色々と違いがある。その内の1つが各々の部屋の鍵だ。生徒寮の鍵は数多くある二次創作物で出てくる設定の1つである学生証が部屋の鍵や財布の役割を果たす。とは言っても、それぞれの魔力を学生証に込めてあるので例えば他人がその人の学生証を使って買い物なりをしようとしても出来ない仕組みになっている。そして、教師寮の方は教員証と合言葉が必要になってくる。買い物などは教員証だけで出来るが、部屋に入る際には必ず教員証と合言葉がなければ絶対に開けられない。そもそも、何故そのような面倒な仕組みになったかといえば、当然ながら教員証を盗み出し課題の答えを教師の部屋から盗もうとした馬鹿がいたからなのだが、その事を知るのは当時の教員生徒達以外は後任の教員達くらいである。閑話休題。
空木の部屋に着いた零は合言葉を告げて室内に入ってから隠蔽魔法を解除した。そこには既に空木がおり、コーヒーを飲みながら零の事を静かに見ていた。
「ごきげんよう、先生。先程の言葉通りお邪魔させていただきましたわ」
「あー、いい。お前らとあの生徒達のやり取りは見てたから猫被りなのはもうわかってる、普通に話せ。俺も教師としての態度じゃねぇだろ」
恐らく零達と貴族令嬢達とのやり取りは見ていただろうとは思いつつも、幼い頃からの習慣でつい令嬢口調で挨拶をしたが、予想通り既に猫を何枚も被っていた事はバレているらしく空木も教師としてではなくただの空木として接してくる。
「それもそうね、じゃあ聞かせてもらえる?あの後彼女達がどうなったか」
「まずそれからか?」
「先に確認しておくべき事よ。魔族との契約魔法についてなんだし、私と泉莉は今後も彼女達みたいな人に絡まれる可能性がある以上、避けられないことでしょう?私はともかく泉莉には魔族の瘴気も、魔族自体も致死性の毒になる。その危険を避けるには彼女達がどういう経緯であの魔法を知り、使い得たのかを知らなきゃならないのよ。という訳で、話してもらえるんでしょう?」
それに対し零も、零として言葉を紡いだ。確かにあの令嬢達の事以外にも空木に確認すべき点がいくつもあるのは事実だが、それよりも大事なのは、零と泉莉に直接的に関わってくる問題についてだ。今後もあの令嬢達のような馬鹿共に絡まれる可能性はかなり高い。ならば、万が一にも泉莉が傷付くような問題は早めに片付けておきたいのだ。
そんな零の気持ちを察したのか、空木は頭を掻きながら窓際にある書棚に行き、本やファイルが乱雑に立てかけられたり積まれたりしている中から数枚の書類を取り出し零に渡した。
「そこに、今回の件の概要が書かれてる。詳しい事はそれを読んでからだ。読み終わったら、言え」
「この短時間で、ね。確かに全国家共通の魔法学院なだけはあるのね」
「この学院は魔法学校でもあるが、魔法や精霊、そして魔族の研究もしている全国家共通の研究所でもあるからな。だからこそ、優秀な人材が全国から集められるんだよ」
「そのようね、小等部の教師だけでも国の一角くらいなら崩せる程の実力者でしょう?規格外にも程があるわね、貴方も含めて」
「それがわかる時点で、お前も大概規格外な存在だと自覚する事だな」
軽口を言い合いながら、互いに互いの実力の一端ではあろうが、それを認識している事を暗に示した。ふっと軽く息を吐いて、ピリピリと張り詰めていた空気を和らげ零が書類を手にしたまま椅子を指差し言った。
「で、座ってもいいかしら?後、できれば私もコーヒーが飲みたいわね。勿論、ブラックで」
「あぁ、読んでろ。淹れてきてやるよ。ったく、担任をパシるってどういう教育受けてきてんだ」
「対等であるべき人に対してはそれ相応の態度でいなさいと、両親に教えられてるのよ」
「そりゃ、いい教えだな」
ニッコリと不必要な程に満面の笑みを浮かべて言う零にくつくつと喉の奥で笑いながら、空木も自身の空気を和らげ零の要望通り、コーヒーを淹れるために立ち上がった。それを横目で流し見た後、眉間に皺を寄せながら書類を見下ろし、その表紙をめくった。
先日起きた魔族との契約魔法行使の件は以下4名の女生徒による行いである。
小鳥遊千裕(たかなしちひろ)
千堂美愛(せんどうみあ)
毅堂彩奈(きどうあやな)
永瀬結依華(ながせゆいか)
全員Aクラス所属。
彼女達が何故契約魔法を行使したのかは調査中である。
契約魔法を発動させたのは、小鳥遊千裕だが、彼女1人では契約魔法の発動には魔力が足りず、他3名も何らかの方法で自身の魔力を小鳥遊千裕に分け与え関与したと推測。
彼女達に契約魔法の術式等を教えた者については詳しい事は判明していない。
また、契約魔法行使の際の瘴気により4名は意識不明状態。意識回復後に確認と詰問に入る。
以上の内容は、あくまでも我々の経験による推測に過ぎない事を追記しておく。
「あまり詳しい事はわからなかったのね」
「読み終わったか、まあな。アレを使った張本人達が瘴気にやられて意識不明だからな。詳しくは調べようがねえんだよ」
「彼女達の意識が回復してから詰問するって言っても、彼女達が正気だったらって事でしょう?」
「知ってたのか」
「伊達に神域の領主の娘をしてる訳じゃないわ。特に、泉莉がいるんだもの。そういうのは幼い頃に嫌という程習ったし・・・」
「?習ったし、何だ?」
「いえ、これは貴方に確認すべき事を確認し終えてからにするわ。さて、答えて貰いましょうか?」
「お前にこの部屋への入室許可を与えた時点でお前の質問には答えるつもりだったさ。だが、交換条件として、お互いに一問一答するってのはどうだ?」
「構わないわよ、信用できる人は1人でも多い方がいいしね」
報告書を読み終わったものの、やはり契約魔法に関する詳しい情報は書かれておらず、それに関しては女生徒達の意識回復を待つ事にした。それはそれと意識を切り替え、零は空木との情報の共有を図ることにした。
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