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第30話『最高の仲間たち』

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 カロールタウンに戻った俺は、まずウルフガングがどうなったのかを確認した。
 彼は原因不明の死因で死亡してしまったらしい。おそらくはシェリルの奴が粒子の力を使って何かしたのだろう。

 街の頭が消えたことにより、ウルフガングの部下たちは混乱する……かと思いきや、どうやら役割を引き継ぐ奴はすでに決まっていたそうだ。おそらく、ウルフガングの奴も知ってはならないことを知ったことを理解して、殺される可能性を考えていたのだろう。
 そして、それは現実になった。

 ウルフガングを継ぐ男の名はアイザック。どうやらウルフガングの弟らしい。
 俺はアイザックに兄であるウルフガングを守れなかったことを謝罪した。本来なら、依頼人を守りぬかなければならないというのに、それを果たせなかった。
 正直に言えば、気分は最悪。だが、きっとそれ以上にアイザックたちの気分は最悪だろうな。
 俺はアイザックから赦されたのだが、気分は晴れることはなかった。

「気を落とさないでください。兄さんは覚悟していたはずです。それに、本来ならもっと多くの仲間を失う事案だった。それを兄さん一人だけの犠牲で済んだのはサカイさんのおかげなんですから」

 兄のウルフガングとは違い、アイザックは落ち着いた様子でやさしい声で喋る。
 だが、言うことは棘があった。肉親であってもウルフガングの死を「一人だけの犠牲」だなんて表現をするなんて、冷たい奴……というよりはクレバーな奴なんだろうな。

 ウルフガングの教育の賜物なのか、それとも元々の才能なのか。
 とにかくアイザックはリーダーに向いていることは確かだ。
 きっと、俺には無い才能をアイザックは持っている。裏の住人としては、彼の様な人間が上に立つにふさわしいはずだ。

「……じゃあ、俺はこれで。もし何かあれば、何でも屋ジェネシスに連絡ください」
「はい。困ったことがあって、自分たちだけでは手に負えない状況になれば頼ります」

 とても落ち着いた声で喋るアイザックと握手を交わし、俺はカロールタウンを後にした。
 きっと、依頼を受けてここに訪れることはないだろう。アイザックならば、俺が出向くような事態には絶対に陥らないはずだ。
 俺が再びここに訪れるとすれば……ヘーレジアから流出した《禁止領域》の知識が暴れたときになるだろう。

「さて、帰るかフェルト」
「はい、ナオシさん」


  ◆


 クリオタウンに戻った俺たちを迎えてくれたのは、おなじみジェネシスの二人。
 ロディとリリーが、事務所の外でわざわざ俺の帰りを待っていてくれた。

「わざわざ外で待っていてくれなくてもよかったのに」
「おうおうおう、せっかく人が厚意で外で出迎えてやったってのに、感謝しないとはどういうことだ?」
「そうだな、まずは感謝の言葉を言わねぇとな。ありがとうなロディ。そしてただいま」
「おう! おかえりナオシ。リリーにも言ってやれよ。お前が帰ってくるまでずっとソワソワしてたんだぜコイツ」
「ちょ、ちょっとピットマンさん!?」

 そして俺は思い出す。ヘーレジアの中で登録されたリリーの言葉を。

「リリーも、俺のことを出迎えてくれてありがとう」

 わしゃわしゃと、彼女の頭をちょっと乱暴に撫でてやる。ほら、これがええんやろ? お前じゃないけど違うリリー本人に聞いてきたんだからな!

「う、うぅ……や、やめてくださいよぉ」

 え、嫌だったの? ヘーレジアの登録されたリリーの言葉はなんだったの?

「やめてくださいったら、えへへ」

 いや、俺の勘違いでした。言葉とは裏腹にうれしそうな顔をしていました。
 こう可愛い反応してくれるといじめたくなる衝動に駆られるのが男の性ですわ。

「そうか……嫌だったか。前は撫でて欲しいって言ってたから喜ぶかと思って」
「え、ちょっと、いや、なんていうか……ん? 顔がニヤけてますよサカイさん! さては分かっててやってますね!?」

 あれ、顔に出てた?

「最低ですねナオシさん。女心を弄ぶとは最低ですねナオシさん」

 なんで二回言ったの? フェルト、それ結構心が痛くなるんだけど。

「そうですよサカイさん。最低ですよもう……」
「悪かったよ。もう一度やり直す?」
「いいですよ! 帰ってくるって言うからご馳走用意して待ってたのに、最悪です」

 これも褒められたくてやったのか?
 じゃあ、思いっきり褒め殺してやろう。どんな反応をしてくれるか楽しみだ。
 さぁ、今度こそ休息の時間だ。

「ごめんごめん。腹が減ってて死にそうだったからな、すげーありがたいよ」
「ホント、ですか?」
「本当だよ。さぁ、みんなで食べよう。リリーが作ってくれたご飯、楽しみだな」
「期待しておけよナオシ。リリーのやつなんかぶつくさ言いながら作ってたからな。たとえば……」
「え!? ちょっと、聞いてたんですかピットマンさん!!」
「たしか美味いって言ってくれるかな? とか、頭撫でてくれるかな、とか、後は――」
「あー! あー!! あああーーーー!! 中に入って食べましょうよ! すぐに食べましょう! そうしましょう!!」

 まったく、騒がしいったらありゃしないな。道行く人の視線を貰いすぎだ俺ら。
 こんな宣伝は逆効果だよ!! こんな注目いらないよ!!
 はぁ……でもこれが俺ら何でも屋のジェネシスなんだよなぁ。
 ホント、最高の仲間だよ。

「フェルト、ロディ、リリー」
「なんでしょうナオシさん」
「なんだよ?」
「なんですか?」

 これだけは今すぐに言っておこう。とても、とても、とても、大事なことだから。

「大変なことが続くだろうけど、これからもよろしくな」

 フェルトは相変わらずの無表情と、感情のこもっていない声で答えた。

「私は、ナオシさんといつまでも一緒です」

 ロディはそっけなく答えた。

「あたりまえだろ」

 リリーはとびっきりの笑顔と、元気の良い声で答えた。

「当然です! これからもジェネシスの為に頑張ります!!」

 最高だ。こんな仲間を得ることができて幸せだよ。
 元の世界に住むオリジナルの俺! コピーである俺はこんな幸せを掴んだぞ。そっちの俺も、裕紀姉さんと幸せを掴めよな!

 この世界の生活はとても楽しい。
 それに、この世界の神とも言える存在から授けられた使命もある。
 俺は掴むことができた幸せを失わないためにも戦い続けよう。
 この世界を絶対に守ってみせるからな!

 俺たち、何でも屋『ジェネシス』は、その名の通り何でもやっちゃります。
 戦いでもよし、荷運びでもよし、家事・育児でもよし。
 要は犯罪じゃなけりゃ何でもやっちゃるスタンスのチームです。
 戦火の中にだって飛び込む戦闘要員、俺ことナオシ=サカイと不思議な剣の姿になれる少女フェルト。
 荷運びならおまかせのイカれたスピード狂、ロディ=ピットマン。
 家事育児なんでもござれの魔法使い、リリアン=マクファーレン。

 この四人が、どんなことでも解決に導きます。
 ご依頼の方はジェネシスの事務所までご連絡ください!
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2016.06.07 ユーザー名の登録がありません

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