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hachijam

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幕間3

1.

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思っていたよりも、ずっとスムーズに運転出来ている自分に驚いていた。初めての遠出だったので、とても緊張していたけど、でも、何だかとても安心して運転出来ていた。隣に彼がいるからだ。

彼は免許を持っていないし、車に興味があるという訳ではない。だから、きっと、何かトラブルがあったら、全く役には立たないだろう。それでも安心できるのは何だろうか。多分、それは彼だからだろう。単なるのろけかと言われたら否定する事は出来ないけど、それはなぜか確信めいた事だった。

車の中での彼との距離感が何だかとても心地よく感じた。何でだろうと思ったけど、直接、目を合わせなくて良いからなのかもしれないと思った。向かい合って、会話していたら目は合う。でも、運転して正面を向いている限り、合わせる必要がない。合わせていたら、危険な運転になってしまうだろう。それが自然に出来る空間と言うのが心地よいのかもしれない。

何となく、独り言をつぶやいて、それで会話している気になる。思っている事がはっきりと言える。スッと出てくる気がする。無理に言葉を飾る必要はない。なぜなら独り言だから。それでいて、彼はちゃんと答えてくれる。やっぱり、優しい人なんだと思う。私の気持ちを分かってくれる人なんだと、だから、ちょっと辛くなる。海まではもう少しでたどり着く。



車の中での彼女との会話。それは何だか不思議な物だった。会話をしているんだけど、それは彼女の独白を聞いているみたいだった。凄く特別な事を言っている訳ではない。話としては、いつもと変わらない気がする。でも、いつもより、彼女の気持ちが直接響いてきている気がする。何だろう、何かを訴えかけている。いや、それが何なのかは何となく察する事が出来た。

ふと、外を見ると、海が近い事を告げる看板を見かけた。彼女は気が付いているんだろうか。そんな事を思う。道に迷う事は無かった。彼女はしっかりと事前準備をしてきたのだろう。それにそんなに複雑な道ではなかった。大きな道を道なりに進んだだけ、途中、二か所ぐらいあった分岐も案内板があり、間違える要素は無かった。

後はどこに車を止めるかだろう。具体的な所を目指しているのかは良く分からない。ただ、何となく海が見えるところをなのか、それとも、ここと言うポイントがあるのか、どっちなんだろう。でも、彼女は何も言わない。彼女の中では決まっている事なんだろうと思う。やっぱり、察するべきなんだろうか。そういうことをどうしても考えてしまう。

大きな看板。海水浴場の案内板。右折、駐車場あり。彼女はそこを右に曲がった。
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