夢ノコリ

また遅刻する夢

１．

遅刻する夢を見るのは、普段の生活で不安を抱えているからだ、なんてのを以前、テレビで言っていた気がする。何かもっと重大な意味が込められているのかと思っていたので、意外と普通な答えだなと思った記憶がある。それが正しいのかは良く分からないけど、起きた時には、何か不安なのかなと思う時もある。ただ、それは起きた後の話で、夢の中では、ただ遅刻する事に焦っているだけだったりする。

その日の夢も遅刻する夢だった。場面は電車の中から始まった。僕は電車の七人掛けの座席の真ん中に座っていて時間を気にしていた。完全に遅刻の時間だったから、焦っても仕方無いと思いつつ、焦っていた。何でそんなに焦っていたかと言うと、その日のその授業に出ないと卒業できないからだった。

何でそんな事になっているのかと思う。その夢の中で僕は何度も遅刻をする常習犯だったからだ。次、遅刻したら卒業できないと言われていたのだった。それなのに遅刻していたので焦ったのだった。その授業は音楽の授業だった。

何か、少し前に同じシチュエーションがあった気がする。あれはなんだったけなと思う。電車に乗っていた気もする。ふとやけに電車がのんびりと走っている気がした。いつもこんなにゆっくりと走っていたっけ、焦っているからそんな風に感じるだろうかと思いながら、少しイライラした気持ちになっていた。

これだったら、自分で走った方が早いのではとそんな事を思ったりした。どうしようもなく、諦めて大きくため息をつくと、目の前の席に座っていた女の子がクスクスと笑った。僕の方を見ながら笑っている。髪の毛で表情はあまり見えなかったけど、それは間違いないようだった。あれ、こんなの前にもあったなと僕は思う。それが何なのかは良く分からない。

「大丈夫だよ。間に合うから」

僕と同じ高校の制服姿の女の子は続けて言う。

「また、会えるとは思っていなかった」

知っている子なのかなと思うが、思い当たらない。でも、どこかで会ったような気もしていた。

「大丈夫、分かっているから」

困惑している僕に向かって楽しそうにそう言う。

「ひとつ、お願い事があるんだ」

見ず知らずの女の子にそう言われたら何と答えるべきなんだろう。

「あっ、でももう時間が無いかな」

戸惑う僕に構わず、女の子が続ける。

「また、会う事があったらお願いするかも」

そう言うと世界がグラッと揺れた。

次の瞬間、僕は教室にいた。すでに一時間目は始まっている時間だった。音楽の授業は音楽室で行われているから、普段の教室には誰もいない。間に合ってないじゃん、と思いながら僕は教科書を持って、音楽室に向かった。音楽の先生にガミガミと言われそうで嫌だなと思いつつ、一生懸命走って教室に向かうところで夢から覚めた。