夢ノコリ

hachijam

文字の大きさ
94 / 275
スローモーションで走る夢

6.

しおりを挟む
「これが噂の…」

興味深そうに、大げさに下山さんはそう言うと、カラクリ箱を手に取った。

「何が入っているんですかね」

そう言いながら、耳元で振っている。

「一応、大事なものなんだから、丁寧に扱ってよ」

社長が少し心配そうに言った。

「ああ、すいません」

と、一旦、元に戻す。そして、もう一度、持ち上げるとどうにかならないかといじくり始めた。乱暴な手つきに社長が慌てる。

「下山君…」

「ああ、すいません」

同じ様に謝るが、多分、反省はしていないんだと思う。そこまで慎重に扱う必要はないと思うけど、下山さんの扱いはさすがに雑だなと思った。

しばらく、いじっても何の変化も無く。だんだんと、下山さんは力を込めていじり始めた。少しイライラしているようにも見えた。

「下山君…」

社長はちょっと泣きそうな顔をし始めた。

「ああ、すいません」

今度は少し申し訳なさそうな顔を下山さんがした。ちょっと調子に乗り過ぎたと思ったようだ。

「思いっきり、ガツンとやったらダメですか」

冗談とも本気ともつかぬ口調で下山さんが言った。ここで思い切ってやって良いよと言ったら、恐らく力任せで壊しそうだなと思った。その様子を見て、

「ダメだよ。大事な箱なんだから」

と、社長は言うと、下山さんの手から守るようにカラクリ箱を持った。

「もう、乱暴に扱いませんよ」

そう言っているが、社長は信じていないようだった。確かに本当に壊してしまいそうな気配があると僕も思った。

「見せてもらって良いですか」

僕は控えめに聞く。

「ああ、構わないよ。大事にしてね」

僕は大丈夫だと思ったのか、簡単に渡してもらえた。ちょっと、下山さんはすねたような表情をした。相手をするのも面倒なので、そこは軽く無視して箱を見てみる、改めて細工が綺麗だなと思う。これを見て、壊して中身を見ようという下山さんも凄いなと思う。人によって価値観が違うというところだろうか。

「あれ?」

模様を良く見ると、一か所だけ、ちょっと違和感を感じる部分があった。何が変なんだろうとじっくりと見る。

「何か分かった?」

社長が言う。

「…」

社長の問いかけに答えずに、ひっくり返したり、斜めにしたりしてみて、気が付いた。そこだけ、模様が左右反転していたのだ。対称性のある図形だったので、全体として見ると、それは小さな違和感なのだが、気が付いてしまえば、明らかに違っていた。その部分に触れてみる。ちょっと、動きそうな感じがしたので、少し力を入れて押してみた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜

黒城白爵
ファンタジー
 異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。  魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。  そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。  自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。  後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。  そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。  自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。

処理中です...