夢ノコリ

hachijam

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4番バッターの夢

1.

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「4番、センター羽田」

場内にアナウンスが流れて自分の打順が回ってきたことに気が付いた。僕は大きく息を吐いて、ベンチから飛び出した。バットを持ち、ブンブンと振り回す。やたらと気合が入っているのを感じる。場面はツーアウト満塁、点差は2点差で負けているけど、一打同点、逆転のチャンスでもある。しかも、どうやら9回裏みたいだ。4番バッターとしては、最高の見せ場である。

ふといつからプロ野球選手になったんだろうと思う。と言うか、バッターボックスに立って、バットを振るなんていつ以来だろうと思ったりする。何か、はるか遠い、昔の事のような気がしてきた。この試合はいつからやっているんだとか、前の打席はとか、辻褄があっていない事に戸惑うけど、そういうことを言っている場面では無かった。何しろ、4番バッターなんだから。

バッターボックスから見る風景は、まるでテレビゲームのような感じがした。カーソルを合わせて、タイミングよくボタンを押せば、打てる気がしてきた。そう考えると、目の前にカーソルが浮かんでくるようにも思えた。

そんな事を思っていると、ピッチャー方向から見た風景も浮かんでくる。まるで、テレビ中継の画面のようだった。バッターボックスに立つ、自分の姿を見ているようで、何だか不思議な光景だった。ピッチャーは相手チームのエースのようだ。帽子を深くかぶっているからなのか、顔は良く見えなかったけど、にやりと笑っていて、白い歯が光っているようにも思えた。

なぜか悔しいと思ってしまい。僕はバットをピッチャーに向ける。ホームラン予告のつもりだ。大きな歓声が響いた。その歓声でお客さんがたくさんいる事に気が付いた。どうやらスタンドは満員のようだ。満員のお客さんが僕に注目している。やたらと張り切りたくなってきた。僕はバットを素振りして、もう一度、ホームラン予告をする。更に気分が盛り上がってきた。

ピッチャーはそれが気に入らないようで、一度、セットポジションを外した。僕も息を吐いて、バットを構え直す。仕切り直しと言う感じで呼吸を整える。だんだんと、ピッチャーとバッターとしての僕の間の緊張感が高まってきた。

おそらく力任せの豪速球が来るだろう。エースと言われるぐらいだから、あのホームラン予告に対して真っ向勝負を挑んでくるのは間違いないと思った。だったら、初球から狙ってやると思った。ど真ん中に力任せのボール。僕はそのボールをイメージした。
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