夢ノコリ

hachijam

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4番バッターの夢

3.

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投げられたボールはイメージ通りのスピードボールだった。これだったら、ホームランになる。渾身のスイングをしながら、それを確認する。ボールに当たる瞬間もはっきりと分かるような気がした。これなら間違いない。そう思っていたけど、ボールの感触は全く伝わって来なかった。

「えっ」

思わず、そう言ってしまう。

「ストライクスリー。バッターアウト」

審判の声が響いた。まてまてまて、今の確実に捉えただろう。ミットに入ったボールを見て、僕は納得いかないと思う。ダメだダメだダメだ、これはやり直し。

そう思って、バットを構え直した。当然のように、やり直しとなる。だって、これは夢だから。そういう認識がはっきりとある夢だった。

僕はまたボールに意識を集中する。よく考えれば、自分が思う夢なのだから、自分の思い通りのボールが来ないといけないはずだ。加えて、その後の展開も望むような形で無ければおかしい。では、どういう展開が良いだろうか。ちょっと考えてみる。やっぱり、分かりやすく特大のホームランだろうか。サヨナラ満塁逆転ホームランだったら、誰もが分かりやすいシチュエーションだ。それをイメージする。

ボールが投げられる。今度は自分の思い通りになるはずだ。そう思って、思いっきりバットを振る。確かな感触が手に残った。これは間違いなくホームランだった。なぜだか、実況の声も聞こえてきて、大ホームランである事を告げる。沸く歓声。まさしく、イメージ通りだと思う。

満足しながら、ダイヤモンドを一周しようとして、一旦、立ち止まる。待てよ。もっと劇的な展開は無いだろうか。逆転かどうかギリギリまで分からない展開。ホームでのクロスプレイなんてのを思い浮かべた。でも、それだと一塁ランナーに注目が集まってしまうのかもしれない。そう考えて、だったら自分がホームに駆け込んで、そうなるとランニングホームラン。いや、そもそも2点差だったら、一塁ランナーがホームにたどり着いた時点でゲームセットだ。だったら、3点差にするか。でも、そうなるとランニングホームランにしなければいけない。どんな打球だったら、ランニングホームランになるんだ。何か無茶なシチュエーションを考えなければいけない気もしてきた。

そんな事を考えていたら、また、バッターボックスの中にいた。場面は変わらず、9回裏ツーアウト満塁、点差は2点。カウントはツーストライクと言うところだった。やっぱり、ホームランか。考えている内にボールが投げ込まれる。振る事が出来ず悩んでいると、場面は巻き戻されて、同じ状況に戻っていた。どうしたら良いんだろう。迷っている間、その場面が延々と繰り返されていた。
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