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【鬼灯】
第1話 全ての始まり
しおりを挟む「貴女は全ての罪を裁き、償い、その身を捧げなさい」
薄暗く明かりの一つも差し込まない部屋。周りの音が遮断されているのか何も聞こえない。そんな中、ひとつの声が語りかけてくる。誰が、どこから、そんな疑問は辺りを見回しても解決されそうにない。裁き償い捧げろ、何を言っているのか問いかけようと声を出そうとした。しかし、出るのは僅かな空気の音だけ。そもそも、ここはどこなのだろうか。不安を煽るように先程の声が続く。
「それが貴女に課せられた、存在価値。愚かな貴方へ与えられる名は─────」
***
「……て、おきて!起きろ!このねぼすけ小田巻!」
激しく肩を揺すられる。重たい瞼は未だに開かない。小田巻、私の苗字は小田巻。下の名前はなんだったんだっけ。考えを巡らせつつ、聞き覚えのあるドスの効いた声の方へ手を伸ばす。そして、その口を手で塞いで顔を押しやった。まだまだ寝足りないのだから、たまの休日ぐらいもう少し寝かせて欲しい。
そんな悠長な考えを遮るように、外から謎の奇声と人々の怯える叫び声。暫くすると、銃声が聞こえ始める。そこでようやく様子がおかしいことに気がついた。しかし、気付くことが遅すぎたのか、口をふさいでいる手の甲を思い切り摘まれる。
「いったぁっ!なにするの!」
「なにが人の口塞いでおいて、なにするの、よ!早く起きて着替えろって言ってんの!メイ、あんたのせいでどれだけの人が犠牲になるのかわかってるの!?」
メイ、ああ、思い出した。私の名前は、小田巻芽唯。
そして、今叩き起してくれた彼女は、杏春花。私と同室で、同じ部署の相棒。耳より高い位置のポニーテールは、太陽に照らされると太陽その物かと疑うほどに真紅の髪。そして、情熱だけで惑わされないとでも言うような、冷静さの伺える深い青の瞳。ぱっちりとした目の形は、世間一般的に言う可愛い部類なのだろう。そんな彼女は、一般的な女性よりも細身なのだが、細身とは思わせない力の強さで私の手を引き、走り出す。向かった先はロッカールーム。
「さっさと着替えなさい!外の状況は最悪!部隊がアイツらを対処しているけれど、住民の避難が遅れているの。部隊の方も苦戦していて、援軍を呼んでる。でも、このままじゃ援軍が来る前に部隊は全滅するわ!」
「ちょっと待って、頭が起きていないから詳しく説明してもらえる?その間に着替えるから。」
「もう!一回で理解してよね!もう一度説明するけど、急にアイツらが出てきたの。スズランよ。」
スズラン。それは、数年前からこの花の都ヘリクリサムを脅かす危険生物として知られ始めた。元は、普通の花のスズランだったはずだ。それが変異をし、人間に寄生。そのまま人間の体内で毒を撒き散らし、人間を死に至らせる。人間は死んだままスズランの意のままに動く、生きた死体。何故、スズランが変異したのか原因は未だ不明。研究者もお手上げの状態だ。どこかの映画に出てくる【ゾンビ】という化け物に似たものが、スズランと呼ばれている。
スズランは人を襲う。スズランに触れられるだけでも皮膚はかぶれる。スズランに噛まれると、そのままスズランの毒が体内に回り死に至り、そして死んだ人がスズランになってしまう。
「今、スズラン討伐部隊の第二勢力のデイジーと第三勢力のラベンダーが出動しているわ。じきに第一勢力のカルミアが到着予定なのだけれど、どうやら向かっている途中で別のスズランに足止めをされてしまっているみたい。援軍のカルミアが到着する前に、デイジーとラベンダーは全滅してしまいそう。」
スズラン討伐部隊。それは、スズランを仕留める為に立ち上げられた軍隊。防護服を纏い、スズランになってしまった者の頭を銃で撃ち抜く。スズランによって一度死んでしまっている者を、更に仕留めるだなんて残酷だ。しかし、仕留めなければ更にスズランは増え続けてしまう。討伐部隊も楽なものでは無い。
そして、討伐部隊もいくつかに分けられている。討伐能力に長けている第一勢力はカルミア。公にされている部隊の中では、圧倒的な討伐能力で住民の大きな希望とされている。第二勢力はデイジー。スズラン討伐に最近慣れてきた者で編成されている部隊。第一勢力には劣るが、少数のスズランであれば第二勢力だけでも討伐は可能。第三勢力のラベンダーは、スズラン討伐志願者が初めて組みわけられる部隊。独り立ちは未だ出来ない為、第二勢力と共に出動することが多い。
「カルミアの到着が間に合わない以上、私たち特殊勢力のナスタチウムが対処した方がいいと、本部のアルストロメリアの司令よ。」
特殊勢力のナスタチウム。それが、私たちが所属する討伐部隊。少数精鋭部隊だが、それぞれが様々な能力に長けている。カルミアの援軍で出動するか、カルミアでも対処しきれない程のスズランや、緊急時に急遽出動することが多い。ナスタチウムは、公に公表はされていない。それは、本部の司令と言われているが曰く付きの人材が集められているからだと、私は予測している。
本部アルストロメリアは、スズラン討伐部隊をまとめる役目だ。今後のスズランの討伐方法を考え、スズランを絶滅させる計画を練っているらしい。部隊と本部の人間は関係性が浅く、部隊に所属していても本部の人間と会う事は稀な為、部隊のほとんどは本部を信用していない。
「それで、ナスタチウムの中でスズラン区域に一番近い隊員が出動となったわ。それが、私とメイ、そして、ミツさんね。」
スズラン区域。スズランが発生した場所からその区一帯を示す言葉。スズランが発生した場合、その区一帯は直ちに閉鎖されてしまう。住民の避難は予め部隊が用意している安全地帯がある為、そこへ各自避難してもらう。また、スズランの発生は部隊がスズランを目視した段階で、該当区域の個人のスマートフォンへスズラン警報を流すようになっている。スズランの発見が遅れることがないよう、外には至る所に監視カメラが設置されており二十四時間、部隊で監視をしているのだ。
そして、スズラン区域に近い、私とハル、ミツが選ばれた。私とハルは部隊の寮に住んでいて、同室だ。そして、寮監であり上長にあたる者が鬼灯光代。通称、ミツだ。
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