14 / 14
【鬼灯】
第14話 演技
しおりを挟むシロの涙を見て、ナスタチウムのメンバーは息を飲む。作戦を考えた私自身も、まさかここまで出来るとは思っていなかった。しかし、これだけで騙される程ナスタチウムのメンバーは甘くない。やはり、ユリが真っ先に噛み付いた。
「そうやって泣いて同情させようなんて大間違いよ!」
「同情なんて……。本当のことなの……」
シロはそう呟くと、どうすることも出来ないというように顔を俯いて見せる。あえて何も言わないという作戦だろうか。変に反論しても余計に信じられにくくなる。黙り込んですすり泣くシロに、シオが近付く。
「家族はいつから人質に?」
「ナスタチウムのメンバーを、全員暗殺するように命じられた時からだよ……」
「なにそれ……。なんで急にそんな命令が降りるのよ!?意味わかんない!」
シロの言葉を聞き、ナスタチウムのメンバーは時が止まったかのようにかたまる。ユリは自分の命が狙われていたことに恐怖を覚えているのか、普段の威勢はなくなった。声の震えを感じる。
「何故、オミ達は殺されなければならないのですか?」
「分からないよ……。僕だって、命令を聞いた時に理由を聞いた。でも、何も言わずにただただ殺せって……。そうしないと、お前もお前の家族も殺すって言われたから……」
「意味わかんない……。だって、あたしたちは罪を償うためにここにいるのに……。償うことすら不要になったってことなの……?」
ユリはしおらしい様子で床を見つめる。それは、ユリだけではなくシオやオミも同じだった。そして、私が沈黙を破るように口を開く。
「でも、それなら命令してきた人を殺すことだって出来たじゃない。自分と家族の命の方が大事でしょう?」
「殺せなかった。命令をしてきた人も、服の内側に爆弾を仕掛けられていたから……」
「なんだよそれ……。酷すぎるんじゃないか……」
私がシロに軽く反論すると、ナスタチウムのメンバーはシロの返答を待つように見つめた。そして、シロは命令してきた人物も脅されていたことを告げる。メンバー内で唯一、優しい心を捨てきれないシオは見事にシロの作戦にかかった。
「でも、それも自作自演かもしれないじゃない。命令に背かないように、その人が仕組んだ可能性も捨てきれないわ」
私はシロと手を組んでいないと示すため、さらに追い討ちを掛けていく。シオは私の前に立って止めに入ろうとした。シオはシロ側についたらしい。
「僕は、命令にすぐ応えられなかった。少し時間を要してしまった。……廊下の監視カメラで僕たちの様子を見ていたんだろうね。僕たちから近い部屋が、爆発したんだよ」
「命令に背くことは許さない。爆弾は本物だと、見せつけられたんですね。そんな非人道的な人、オミも許せません」
オミもシロ側についた。やはり部下の二人は、ナスタチウムの中でも優しい子たちだと実感した。その優しさを利用する自分には、心底嫌悪感を抱く。
「おねがい……。僕の祖母はもう先も長くない……。最期ぐらいそんな恐怖に陥れたくないんだよ……」
シロはその後、ぼろぼろと大粒の涙を零した。ここまでくると、ユリも同情してしまうようだ。シオの後ろに隠れるようにしながら、シロに近づいた。
「もしも嘘だったら絶対許さないんだから」
ユリはそう呟き、シロの味方についた。ここまではうまくいった。後は、私がもう少しシロとの繋がりを絶っておかなければ怪しまれる。
「もしもそれが嘘だったのならば、私がシロを殺すわ」
冷静に淡々と告げる。ナスタチウムのメンバーには、これが本気だと思わせるには十分な言葉だと思う。恨みのない人間以外には、殺すだとかそういった野蛮な言葉は使わない。
「信じてくれてありがとう……。この事が上に知られたら、僕と家族の命に保証はない。だから、この事は絶対に他の人に離さないでほしい……」
シロのお願いを聞くように、みんなは頷いた。そして、オミが小声で何かを呟く。
「黙っておく事は出来ます。でも、この部屋の監視カメラはどうするのですか。こうやって話している間も監視されているのなら不信感を抱かせていると思います」
「大丈夫だよ。それは録音機能はついていないから。でも、不信感は抱かせてしまっただろうね。どうしようかな……」
シロは悩むように目線を下に落とした。万が一、中で起きたことを話せと言われた時になんと言って切り抜けるか。
「俺たちがここに連れて来られたことに癇癪起こして、シロを泣かせたってだけでは納得しない上司なのか?」
「分からない……。あの人は何を考えているのか、本当に理解が出来ない人だから」
「でも、何も思い浮かばないよりはいいと思う。一旦それでいいんじゃないか。俺たちもうまくやれるだろうし」
「……うん」
シロは納得いかない様子で頷いた。きっと、シロが懸念している事は彼らに嘘をついていて、尚且つ上司にも嘘をついてしまって平気なのかという事だろう。どこかで嘘がばれてしまわないか心配しているはずだ。そこは私がうまくカバーしようと考えた。
「大丈夫よ、私もうまくやるわ」
「オミもこう見えて口はかたいのです」
えっへん、という効果音がつきそうなオミに雰囲気が和らいだ。そして、こちらに近付く足音が聞こえる。ナスタチウムのメンバーとシロは、警戒するように扉を見つめた。
「あらぁ……、皆さんお揃いのようですね。あのまま起きなかったらどうしようかと思っていたので、安心しました」
人あたりの良さそうな笑みが特徴的な女性。物腰柔らかで、一見悪い人には見えない。しかし、私たちの後ろにいたシロが体を小刻みに震わせる。
「シロちゃん、命令はどうしたのでしょうか?」
優しく穏やかな口調でも、どこか冷たく感じる。それは、この場にいる人はみんな感じただろう。これが、シロの上司だろうか。
「命令は……。すみません、命令は失敗しました」
シロの勇気を振り絞ってそう告げる。しかし、その瞬間、私の横を何かがすり抜けた。すぐ後ろには、シロがいる。
「ぐっ……!」
呻き声をあげるシロ。後ろを振り返ると、シロの肩にはナイフが刺さっていた。シロの上司の方へ向き直すと、手には数本の小型ナイフを持っている。シロの上司か、シロに攻撃をしたのだ。
「あらあら、喉を狙ったのだけれど外れてしまったようですね。次はどこを刺されたいですか?」
にこにことした笑みを浮かべたまま、ナイフを持つ相手に狂気を覚える。その場で動けない私たち。そんな中、一人が相手に近付いた。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし
さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。
だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。
魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。
変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。
二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
お久しぶりです( 'ω')/
ネタバレになることは書けませんが、キャラそれぞれの生き方があってとても心奪われています…
これからもご無理なさらず、頑張って下さい!応援しています!
ちずけーきさま
お久しぶりでございます( 'ω')/
感想・ネタバレ配慮頂き、
ありがとうございます!
まだまだ、キャラの全てを出し切れておりませんが、現段階でそう感じていただき嬉しい限りです(´°̥̥̥ω°̥̥̥`)
引き続き、お楽しみ頂けますと幸いです!
最新話まで読ませて頂きました!
まだ分からない部分がこの先どう紐解けていくのか、すごく楽しみです!
引き続き応援しています!( 'ω')/
ちずけーきさま!
最新話までご覧いただきありがとうございます。まだまだ読んでいるだけだと分からない部分が多いかと思いますが、是非最後までお付き合い頂けましたら幸いです(* . .)))
それは!私の愛用顔文字…!!
私のおとも( 'ω')/ と、ともに、
これからも応援お願いいたします。
初めまして!(。・ω・。)❁
花をモチーフにした素敵な作品だなと思いお気に入りさせて頂きました!これからも応援しています!
初めまして(* . .)))
感想とお気に入り登録ありがとうございます。
これからも地道に連載出来るよう、がんばりますので今後とも応援のほどよろしくお願いいたします( 'ω')/ ︎︎❁⃘*.゚