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【鬼灯】
第14話 演技
しおりを挟むシロの涙を見て、ナスタチウムのメンバーは息を飲む。作戦を考えた私自身も、まさかここまで出来るとは思っていなかった。しかし、これだけで騙される程ナスタチウムのメンバーは甘くない。やはり、ユリが真っ先に噛み付いた。
「そうやって泣いて同情させようなんて大間違いよ!」
「同情なんて……。本当のことなの……」
シロはそう呟くと、どうすることも出来ないというように顔を俯いて見せる。あえて何も言わないという作戦だろうか。変に反論しても余計に信じられにくくなる。黙り込んですすり泣くシロに、シオが近付く。
「家族はいつから人質に?」
「ナスタチウムのメンバーを、全員暗殺するように命じられた時からだよ……」
「なにそれ……。なんで急にそんな命令が降りるのよ!?意味わかんない!」
シロの言葉を聞き、ナスタチウムのメンバーは時が止まったかのようにかたまる。ユリは自分の命が狙われていたことに恐怖を覚えているのか、普段の威勢はなくなった。声の震えを感じる。
「何故、オミ達は殺されなければならないのですか?」
「分からないよ……。僕だって、命令を聞いた時に理由を聞いた。でも、何も言わずにただただ殺せって……。そうしないと、お前もお前の家族も殺すって言われたから……」
「意味わかんない……。だって、あたしたちは罪を償うためにここにいるのに……。償うことすら不要になったってことなの……?」
ユリはしおらしい様子で床を見つめる。それは、ユリだけではなくシオやオミも同じだった。そして、私が沈黙を破るように口を開く。
「でも、それなら命令してきた人を殺すことだって出来たじゃない。自分と家族の命の方が大事でしょう?」
「殺せなかった。命令をしてきた人も、服の内側に爆弾を仕掛けられていたから……」
「なんだよそれ……。酷すぎるんじゃないか……」
私がシロに軽く反論すると、ナスタチウムのメンバーはシロの返答を待つように見つめた。そして、シロは命令してきた人物も脅されていたことを告げる。メンバー内で唯一、優しい心を捨てきれないシオは見事にシロの作戦にかかった。
「でも、それも自作自演かもしれないじゃない。命令に背かないように、その人が仕組んだ可能性も捨てきれないわ」
私はシロと手を組んでいないと示すため、さらに追い討ちを掛けていく。シオは私の前に立って止めに入ろうとした。シオはシロ側についたらしい。
「僕は、命令にすぐ応えられなかった。少し時間を要してしまった。……廊下の監視カメラで僕たちの様子を見ていたんだろうね。僕たちから近い部屋が、爆発したんだよ」
「命令に背くことは許さない。爆弾は本物だと、見せつけられたんですね。そんな非人道的な人、オミも許せません」
オミもシロ側についた。やはり部下の二人は、ナスタチウムの中でも優しい子たちだと実感した。その優しさを利用する自分には、心底嫌悪感を抱く。
「おねがい……。僕の祖母はもう先も長くない……。最期ぐらいそんな恐怖に陥れたくないんだよ……」
シロはその後、ぼろぼろと大粒の涙を零した。ここまでくると、ユリも同情してしまうようだ。シオの後ろに隠れるようにしながら、シロに近づいた。
「もしも嘘だったら絶対許さないんだから」
ユリはそう呟き、シロの味方についた。ここまではうまくいった。後は、私がもう少しシロとの繋がりを絶っておかなければ怪しまれる。
「もしもそれが嘘だったのならば、私がシロを殺すわ」
冷静に淡々と告げる。ナスタチウムのメンバーには、これが本気だと思わせるには十分な言葉だと思う。恨みのない人間以外には、殺すだとかそういった野蛮な言葉は使わない。
「信じてくれてありがとう……。この事が上に知られたら、僕と家族の命に保証はない。だから、この事は絶対に他の人に離さないでほしい……」
シロのお願いを聞くように、みんなは頷いた。そして、オミが小声で何かを呟く。
「黙っておく事は出来ます。でも、この部屋の監視カメラはどうするのですか。こうやって話している間も監視されているのなら不信感を抱かせていると思います」
「大丈夫だよ。それは録音機能はついていないから。でも、不信感は抱かせてしまっただろうね。どうしようかな……」
シロは悩むように目線を下に落とした。万が一、中で起きたことを話せと言われた時になんと言って切り抜けるか。
「俺たちがここに連れて来られたことに癇癪起こして、シロを泣かせたってだけでは納得しない上司なのか?」
「分からない……。あの人は何を考えているのか、本当に理解が出来ない人だから」
「でも、何も思い浮かばないよりはいいと思う。一旦それでいいんじゃないか。俺たちもうまくやれるだろうし」
「……うん」
シロは納得いかない様子で頷いた。きっと、シロが懸念している事は彼らに嘘をついていて、尚且つ上司にも嘘をついてしまって平気なのかという事だろう。どこかで嘘がばれてしまわないか心配しているはずだ。そこは私がうまくカバーしようと考えた。
「大丈夫よ、私もうまくやるわ」
「オミもこう見えて口はかたいのです」
えっへん、という効果音がつきそうなオミに雰囲気が和らいだ。そして、こちらに近付く足音が聞こえる。ナスタチウムのメンバーとシロは、警戒するように扉を見つめた。
「あらぁ……、皆さんお揃いのようですね。あのまま起きなかったらどうしようかと思っていたので、安心しました」
人あたりの良さそうな笑みが特徴的な女性。物腰柔らかで、一見悪い人には見えない。しかし、私たちの後ろにいたシロが体を小刻みに震わせる。
「シロちゃん、命令はどうしたのでしょうか?」
優しく穏やかな口調でも、どこか冷たく感じる。それは、この場にいる人はみんな感じただろう。これが、シロの上司だろうか。
「命令は……。すみません、命令は失敗しました」
シロの勇気を振り絞ってそう告げる。しかし、その瞬間、私の横を何かがすり抜けた。すぐ後ろには、シロがいる。
「ぐっ……!」
呻き声をあげるシロ。後ろを振り返ると、シロの肩にはナイフが刺さっていた。シロの上司の方へ向き直すと、手には数本の小型ナイフを持っている。シロの上司か、シロに攻撃をしたのだ。
「あらあら、喉を狙ったのだけれど外れてしまったようですね。次はどこを刺されたいですか?」
にこにことした笑みを浮かべたまま、ナイフを持つ相手に狂気を覚える。その場で動けない私たち。そんな中、一人が相手に近付いた。
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