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第37話 闇市
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アイジャの様子を見に、ルマも盗賊のアジトへ確認しに行った。
ルマも戻って来ないな……何かあったか!?
俺はゆっくりと砂漠を進みアジトの入口へ向かう。
そっと中を覗き込むと背中をポンッと叩かれた。
「うわっ!」
「……お前がカケルか?」
しまったバレたか! どうする? 1人位なら薙ぎ倒して侵入するか……?
腰の剣に手をかけようと身構えたが、「やめた方が良い……」 心を読んだかのようにその男は語りかけてくる。
「……こっちだ」
男に案内され、盗賊のアジトへ入っていく。
一つのテントに通されると中には……。
「あ、カケル! モグモグ……」
アイジャが奥で座って何かを食べている。
「カケル! 遅かったじゃない!」
ルマもテーブルに置かれているフルーツ盛りをつまんでいた。
「……2人共なにやってんだ?」
「ほれなん……だけどね……モグモグ……」
「口の中の食べ物を飲み込んでから喋れ」
「ん……、ゴク……、この人達、悪い人ではなかったのよ」
盗賊が悪い人では無い?
「この盗賊の頭領は前女王の近衛兵の隊長だった人よ。 お母……、女王様が亡くなってキュリス王子に近衛兵をクビにされたらしいの」
「ま、そう言うわけだ」
俺を案内したこの男が、前女王の側近だったのか。
道理で強そうなわけだ。
「王子の計画を知ってクビになったけど、仲間を連れて盗賊になったフリをして王子から腕輪を守ってたってわけ」
ルマが肩に飛んで腰を下ろす。
「アイジャ王女が次期女王になる為には、腕輪がどうしても必要だったのでな。 王子の元にあるよりは盗賊でも俺の手元にあったほうがましだからな。 腕輪が無ければアイジャ王女の身も安全なはずだ」
「ちょ! ……ちょっと! なに言ってんのよ! 私は王女なんかじゃ……」
アイジャ……やっぱりそうだよね~、知ってた。
アイジャはオロオロしながらこちらを見ている。
盗賊のこの人には直ぐに正体がバレて話しがいってるらしい。
「ち、違うの……」
「わかった、わかった。 アイジャが王女だろうと無かろうと、アイジャには変わりない。 生意気で上から目線なのがアイジャだろ!?」
「なによー!!」
アイジャに笑顔が戻り俺をポカポカ殴ってきた。
「さて、これからどうするつもりなんだ?」
テーブルを囲んでこれからの予定を話し始める。
「腕輪は儀式直前にアイジャ王女に渡す予定だったんだがな」
盗賊の頭領【トーマ】はアイジャが城を抜け出すとは思って無かったらしい。
「その儀式の日に腕輪を持ってアイジャと城に乗り込めば良いんじゃ無い?」
ルマは俺の肩に座ったまま話している。
「恐らく警備が厳重になっているだろうし、ヘタをするとアイジャが盗賊と手を組んだとして捕まる可能性がある」
「私だけ城に戻れば良いのか?」
「それもどうかな? 城の者達は王子の息がかかった者が多いはずだ。 アイジャが腕輪を盗んだとして儀式が終わるまで閉じ込められるだろうな」
「じゃあどうするの?」
「儀式直前に王子には偽物を渡し、本物をアイジャ王女が持ち儀式に入るようにすれば良い。 アイジャ王女は私の手がかかった者達が捕らえ、儀式が終わるまで閉じ込めておくと伝えておこう」
「それならアイジャちゃんも安全ね」
「なるほど、確かにそれなら王子を出し抜ける」
「決まりだな」
儀式までこのアジトで過ごすこととなった。
「でもどうしてトーマは私に協力してくれるの?」
アジトで暇そうに過ごしているアイジャは、トーマに質問している。
「前王女様には世話になってな。 自分にもしもの事があったらアイジャ王女を守ってくれと頼まれていたのだよ」
「お母様が……」
アイジャは亡き母を思い出している様子だ。
「そんな訳でアイジャ様、これからは命をかけてお使えいたします」
「様はやめて! アイジャで良いわ。 それに命をかけるなんて言わないで!」
「しかし……」
「私はまだ女王になった訳じゃないし、儀式も終わっていない。 何より民達を命をかけて守るのが王族の使命。 民達のいない王なんて意味ないわ。 民達あっての国だもの」
アイジャのその言葉に、トーマと周りにいた者含め、アイジャにひざまついた。
流石王族の血筋だな。 アイジャなら良い女王様になれるだろう。
儀式の日までまだ2週間はある。 この1週間は砂漠に出て魔物を狩ったり、トーマさんに剣の相手をしてもらっていたりした。
そして今夜、闇市が開催され、変装したアイジャと俺、ルマ、トーマさんで闇市に来ている。
オアシスより離れた山岳地帯で開催されている。
闇市の中に入るにはトンネルを抜けて行く。
トンネルの入口には大きな男か2人、通る者に話しかけている。
「いいか、中に入るまで喋るな」
トーマさんについて来た俺達は決まり事なんて知らないからな、従わないと。
「証は持ってるか?」
男が聞いてくる。
トーマさんは懐から何か取り出し、男に見せると通る事を許された。
トンネルを抜けるとかなり広い場所に様々な出店が沢山出ている。
「カケル! きっとここなら精霊命珠の情報があるはずよ!」
アイジャは精霊命珠なんて知らなかった。 その事を3日前に話してきた。
俺達に力を貸してもらう為に嘘をついた事をひたすら謝ってきたが、別に怒ったりはしないし、もとよりそうだとは思っていたし。 その話しを聞いたトーマさんが闇市の話しを持ちかけてくれた。
精霊命珠がこの闇市にあるかはわからないが、ちょっと期待せずにはいられない。
売られている物は見た事無い物ばかり、宝石、何に使うかわからない野草、瓶に入った魔物の頭や体の一部、明らかに呪われそうな武器や防具などなど。
ルマがいつもの調子で出店に近づこうとするとトーマさんに止められた。
「あまり近づくな。 妖精なんて珍しいから直ぐに誘拐されるぞ! そしてお目当て以外は商品に触れるな。 ここはやばい物が多すぎる」
ルマには念のため首飾りに入ってもらった。
確かに周りを見ると皆んな黒いフードを被っていて顔が見えない。
出店の店主も顔が見えない人ばかりだ。
「あれは?」
アイジャが大きなテントに気がつくと、その入口には見た事のないマークが入っている。
「アイジャ様、近寄らないようお願いします。 あれは奴隷市場のテントです」
「奴隷だと!」
「はい、様々な場所から集められた奴隷が競売にかけられております」
「助けないと!」
「おやめください。 なかには無理やりの者もいるかも知れませんが、事情があって奴隷落ちした者もいるでしょう。 その者が買われる所によっては良い暮らしができる為、奴隷達も納得しているはずです」
「しかし……」
「奴隷と言っても乱暴に扱われたりはしておりません。 高く売る為には状態が良く無いと値段が上がりませんし、買った方も高い買い物をしているのですから手荒に扱う事は殆どございません」
「そ、そうか……」
アイジャには刺激が強すぎたか……。
俺も色々思うが、この世界ではこれが普通なら何も言えない。
……しばらくあちこち見ていると1人の男が声をかけて来た。
「兄さん達、何かお探しで?」
この男は顔はハッキリ見せてくるが、いかにも詐欺師っぽいやらしい顔出立ちをしているな。
「まぁな」
「あっしに出来る事が有れば協力いたしますぜ。 もちろん対価は頂きやすが」
「精霊命珠って知ってますか?」
「エレメン……? なんですかそりゃ?」
「この位の宝石の用な物で、人には触れ無い物なんだが」
「触れない宝石……、もしかしてあれかなぁ……?」
男は知っている風に首を傾げる。
「何か知ってるなら、情報を買うぞ」
トーマさんは男に袋の中をチラつかせる。
「この情報は貴重なんでね、その袋じゃ足りないんで、そこの兄さんが連れていた【妖精】でいかがで?」
ルマの事を見て声をかけて来たのだろう。
「ルマは売り物じゃない!」
「……そうですか~、それは残念。 わかりました、この話は無かった事で。 ではまた」
男はすんなりと引き下がり、歩いて行ってしまった。
なんて奴だ!
俺はルマを物扱いされた事に怒りを感じていた。
「ちょっとカケル! 良かったの?」
首飾りの中で話しを聞いていたルマが飛び出して来た。
「情報とルマを交換なんてできる訳ないだろ!」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、このままじゃ精霊命珠の場所がわからないままよ?」
「なんとか見つけて見せるさ」
もっと良く探せば何かしらの手がかり位はあるはずだ!
トーマさんとアイジャ、俺とルマは手分けして何か情報が無いかと探し始めた。
いくつかの出店を覗いて見るが、役に立ちそうな情報は無い。
ここにも情報は無いか……。
諦めかけていた時、さっきの男がまた声をかけて来た。
「いやー、兄さん方もなかなかやりますね。 さっきの所であっしの後ろを着いてこないとは、思ってませんでしたよ」
「当たり前だろ! ルマを物扱いしやがって」
「いやいや、申し訳ねぇ、そのお詫びでもさせてくれませんかね?」
「お詫び?」
「さっきの情報ではいかがです?」
「そんな事してお前になんの徳がある?」
「いえいえ、あっしの事はいいんでさぁ、あくまでもお詫びですから。 この業界信用が1番なんでね」
「なら精霊命珠についての情報だけもらう」
「へい、ありがとうございます! では……、そのエレメなんとかは恐らく王家の墓にあると思いますぜ」
「王家の墓?」
「代々王族しか入れない墓なんですが、その墓の中にデッカい緑の宝石があると聞いたことがあるです」
「それが精霊命珠って言う保証は?」
「この盗賊やら盗人やらが集まる場所にそんな大層なお宝を持ち出した事があるって事を聞かないのはおかしか無いですか? さっき兄さんが言っていたように、人に触れないのなら納得出来ませんかね?」
「確かに……」
「でしょう!? ならこれで兄さんとあっしの取引は完了したと言うことで」
「取引?」
「あ、いやいや、お詫びは終わったと言う事でさぁ。 じゃあ、あっしはこれで失礼しやす」
男は足早に行ってしまった。 でもこれで情報が手に入った。
アイジャとトーマさんにも報告して王家の墓に行ってみないとな。
「アイジャ! トーマさん!」
待ち合わせ場所で待っていた2人にさっきの男から聞いた情報を2人に話した。
「ちょっとまてカケル、妖精はいるか?」
「ルマなら首飾りに入ってもらってるけど?」
「呼び出してみろ」
「ルマ、聞いたろ? ちょっと出てきてくれ」
首飾りにいるルマに話しかけるがルマは出てこない。
寝ちゃってるのか?
軽くノックをして再度呼んでみるが、返事は無いし、出てこない。
……まさか……。
「ここの連中はお詫びなんて事でわざわざ情報をタダで渡したりしない。 取引の契約がここでの正義だ」
「早く探さないと!」
アイジャが焦り始めたが、俺はもっと焦っている。
「くそっ! あの野郎!」
あの男を追おうとしたが「無駄だ」とトーマさんに止められた。
「でも!」
「仮に追いついたとしても、取引が完了している以上あの男は妖精を返さないだろう」
「なら力ずくでも!」
「それもやめておけ。 ここでの争いは厳禁だ」
「ならどうすんだ!!」
「私に良い考えがある」
「アイジャ! 冗談言ってる場合じゃないんだ!!」
「冗談ではない! ちゃんと取引をしてルマを取り戻せば良いのだろう? 任せておけ」
あまり信用出来ないアイジャの提案だが、トーマさんも納得している。
アジトに戻って来た俺達はアイジャの提案を聞いた。
「まず、カケルは王家の墓に行き、精霊命珠とやらを手に入れる。 そして我が儀式を終えて女王になった時、男とルマを探しだして交渉しよう。 王族との取引なら価値は高いはず」
「それまでにルマが、売り飛ばされたらどうするんだ!?」
「そう簡単には売らないでしょう。 仮にも妖精、そう簡単に売れる値段ではない。 売るならちゃんとした場所を設けるでしょう」
男の居場所もわからない、取引出来る金も無い、ならアイジャの提案にかけるしかない。
「わかった……」
「うむ、ではカケル、王家の墓から1週間で戻って来るのだぞ」
「わかった」
ルマを助ける為には時間をかけられない。
アイジャが女王様になったら直ぐ取引出来る用にする為、王家の墓から1週間で戻って来ないといけない。
王家の墓まで往復4日、墓の中で精霊命珠を見つけて持ち出すまで3日しか無い。
王家の墓はトラップや魔物もいるし、かなり広いと聞いている。
全力で挑まなくては。
「ルマ待ってろ! 必ず助ける!」
ルマも戻って来ないな……何かあったか!?
俺はゆっくりと砂漠を進みアジトの入口へ向かう。
そっと中を覗き込むと背中をポンッと叩かれた。
「うわっ!」
「……お前がカケルか?」
しまったバレたか! どうする? 1人位なら薙ぎ倒して侵入するか……?
腰の剣に手をかけようと身構えたが、「やめた方が良い……」 心を読んだかのようにその男は語りかけてくる。
「……こっちだ」
男に案内され、盗賊のアジトへ入っていく。
一つのテントに通されると中には……。
「あ、カケル! モグモグ……」
アイジャが奥で座って何かを食べている。
「カケル! 遅かったじゃない!」
ルマもテーブルに置かれているフルーツ盛りをつまんでいた。
「……2人共なにやってんだ?」
「ほれなん……だけどね……モグモグ……」
「口の中の食べ物を飲み込んでから喋れ」
「ん……、ゴク……、この人達、悪い人ではなかったのよ」
盗賊が悪い人では無い?
「この盗賊の頭領は前女王の近衛兵の隊長だった人よ。 お母……、女王様が亡くなってキュリス王子に近衛兵をクビにされたらしいの」
「ま、そう言うわけだ」
俺を案内したこの男が、前女王の側近だったのか。
道理で強そうなわけだ。
「王子の計画を知ってクビになったけど、仲間を連れて盗賊になったフリをして王子から腕輪を守ってたってわけ」
ルマが肩に飛んで腰を下ろす。
「アイジャ王女が次期女王になる為には、腕輪がどうしても必要だったのでな。 王子の元にあるよりは盗賊でも俺の手元にあったほうがましだからな。 腕輪が無ければアイジャ王女の身も安全なはずだ」
「ちょ! ……ちょっと! なに言ってんのよ! 私は王女なんかじゃ……」
アイジャ……やっぱりそうだよね~、知ってた。
アイジャはオロオロしながらこちらを見ている。
盗賊のこの人には直ぐに正体がバレて話しがいってるらしい。
「ち、違うの……」
「わかった、わかった。 アイジャが王女だろうと無かろうと、アイジャには変わりない。 生意気で上から目線なのがアイジャだろ!?」
「なによー!!」
アイジャに笑顔が戻り俺をポカポカ殴ってきた。
「さて、これからどうするつもりなんだ?」
テーブルを囲んでこれからの予定を話し始める。
「腕輪は儀式直前にアイジャ王女に渡す予定だったんだがな」
盗賊の頭領【トーマ】はアイジャが城を抜け出すとは思って無かったらしい。
「その儀式の日に腕輪を持ってアイジャと城に乗り込めば良いんじゃ無い?」
ルマは俺の肩に座ったまま話している。
「恐らく警備が厳重になっているだろうし、ヘタをするとアイジャが盗賊と手を組んだとして捕まる可能性がある」
「私だけ城に戻れば良いのか?」
「それもどうかな? 城の者達は王子の息がかかった者が多いはずだ。 アイジャが腕輪を盗んだとして儀式が終わるまで閉じ込められるだろうな」
「じゃあどうするの?」
「儀式直前に王子には偽物を渡し、本物をアイジャ王女が持ち儀式に入るようにすれば良い。 アイジャ王女は私の手がかかった者達が捕らえ、儀式が終わるまで閉じ込めておくと伝えておこう」
「それならアイジャちゃんも安全ね」
「なるほど、確かにそれなら王子を出し抜ける」
「決まりだな」
儀式までこのアジトで過ごすこととなった。
「でもどうしてトーマは私に協力してくれるの?」
アジトで暇そうに過ごしているアイジャは、トーマに質問している。
「前王女様には世話になってな。 自分にもしもの事があったらアイジャ王女を守ってくれと頼まれていたのだよ」
「お母様が……」
アイジャは亡き母を思い出している様子だ。
「そんな訳でアイジャ様、これからは命をかけてお使えいたします」
「様はやめて! アイジャで良いわ。 それに命をかけるなんて言わないで!」
「しかし……」
「私はまだ女王になった訳じゃないし、儀式も終わっていない。 何より民達を命をかけて守るのが王族の使命。 民達のいない王なんて意味ないわ。 民達あっての国だもの」
アイジャのその言葉に、トーマと周りにいた者含め、アイジャにひざまついた。
流石王族の血筋だな。 アイジャなら良い女王様になれるだろう。
儀式の日までまだ2週間はある。 この1週間は砂漠に出て魔物を狩ったり、トーマさんに剣の相手をしてもらっていたりした。
そして今夜、闇市が開催され、変装したアイジャと俺、ルマ、トーマさんで闇市に来ている。
オアシスより離れた山岳地帯で開催されている。
闇市の中に入るにはトンネルを抜けて行く。
トンネルの入口には大きな男か2人、通る者に話しかけている。
「いいか、中に入るまで喋るな」
トーマさんについて来た俺達は決まり事なんて知らないからな、従わないと。
「証は持ってるか?」
男が聞いてくる。
トーマさんは懐から何か取り出し、男に見せると通る事を許された。
トンネルを抜けるとかなり広い場所に様々な出店が沢山出ている。
「カケル! きっとここなら精霊命珠の情報があるはずよ!」
アイジャは精霊命珠なんて知らなかった。 その事を3日前に話してきた。
俺達に力を貸してもらう為に嘘をついた事をひたすら謝ってきたが、別に怒ったりはしないし、もとよりそうだとは思っていたし。 その話しを聞いたトーマさんが闇市の話しを持ちかけてくれた。
精霊命珠がこの闇市にあるかはわからないが、ちょっと期待せずにはいられない。
売られている物は見た事無い物ばかり、宝石、何に使うかわからない野草、瓶に入った魔物の頭や体の一部、明らかに呪われそうな武器や防具などなど。
ルマがいつもの調子で出店に近づこうとするとトーマさんに止められた。
「あまり近づくな。 妖精なんて珍しいから直ぐに誘拐されるぞ! そしてお目当て以外は商品に触れるな。 ここはやばい物が多すぎる」
ルマには念のため首飾りに入ってもらった。
確かに周りを見ると皆んな黒いフードを被っていて顔が見えない。
出店の店主も顔が見えない人ばかりだ。
「あれは?」
アイジャが大きなテントに気がつくと、その入口には見た事のないマークが入っている。
「アイジャ様、近寄らないようお願いします。 あれは奴隷市場のテントです」
「奴隷だと!」
「はい、様々な場所から集められた奴隷が競売にかけられております」
「助けないと!」
「おやめください。 なかには無理やりの者もいるかも知れませんが、事情があって奴隷落ちした者もいるでしょう。 その者が買われる所によっては良い暮らしができる為、奴隷達も納得しているはずです」
「しかし……」
「奴隷と言っても乱暴に扱われたりはしておりません。 高く売る為には状態が良く無いと値段が上がりませんし、買った方も高い買い物をしているのですから手荒に扱う事は殆どございません」
「そ、そうか……」
アイジャには刺激が強すぎたか……。
俺も色々思うが、この世界ではこれが普通なら何も言えない。
……しばらくあちこち見ていると1人の男が声をかけて来た。
「兄さん達、何かお探しで?」
この男は顔はハッキリ見せてくるが、いかにも詐欺師っぽいやらしい顔出立ちをしているな。
「まぁな」
「あっしに出来る事が有れば協力いたしますぜ。 もちろん対価は頂きやすが」
「精霊命珠って知ってますか?」
「エレメン……? なんですかそりゃ?」
「この位の宝石の用な物で、人には触れ無い物なんだが」
「触れない宝石……、もしかしてあれかなぁ……?」
男は知っている風に首を傾げる。
「何か知ってるなら、情報を買うぞ」
トーマさんは男に袋の中をチラつかせる。
「この情報は貴重なんでね、その袋じゃ足りないんで、そこの兄さんが連れていた【妖精】でいかがで?」
ルマの事を見て声をかけて来たのだろう。
「ルマは売り物じゃない!」
「……そうですか~、それは残念。 わかりました、この話は無かった事で。 ではまた」
男はすんなりと引き下がり、歩いて行ってしまった。
なんて奴だ!
俺はルマを物扱いされた事に怒りを感じていた。
「ちょっとカケル! 良かったの?」
首飾りの中で話しを聞いていたルマが飛び出して来た。
「情報とルマを交換なんてできる訳ないだろ!」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、このままじゃ精霊命珠の場所がわからないままよ?」
「なんとか見つけて見せるさ」
もっと良く探せば何かしらの手がかり位はあるはずだ!
トーマさんとアイジャ、俺とルマは手分けして何か情報が無いかと探し始めた。
いくつかの出店を覗いて見るが、役に立ちそうな情報は無い。
ここにも情報は無いか……。
諦めかけていた時、さっきの男がまた声をかけて来た。
「いやー、兄さん方もなかなかやりますね。 さっきの所であっしの後ろを着いてこないとは、思ってませんでしたよ」
「当たり前だろ! ルマを物扱いしやがって」
「いやいや、申し訳ねぇ、そのお詫びでもさせてくれませんかね?」
「お詫び?」
「さっきの情報ではいかがです?」
「そんな事してお前になんの徳がある?」
「いえいえ、あっしの事はいいんでさぁ、あくまでもお詫びですから。 この業界信用が1番なんでね」
「なら精霊命珠についての情報だけもらう」
「へい、ありがとうございます! では……、そのエレメなんとかは恐らく王家の墓にあると思いますぜ」
「王家の墓?」
「代々王族しか入れない墓なんですが、その墓の中にデッカい緑の宝石があると聞いたことがあるです」
「それが精霊命珠って言う保証は?」
「この盗賊やら盗人やらが集まる場所にそんな大層なお宝を持ち出した事があるって事を聞かないのはおかしか無いですか? さっき兄さんが言っていたように、人に触れないのなら納得出来ませんかね?」
「確かに……」
「でしょう!? ならこれで兄さんとあっしの取引は完了したと言うことで」
「取引?」
「あ、いやいや、お詫びは終わったと言う事でさぁ。 じゃあ、あっしはこれで失礼しやす」
男は足早に行ってしまった。 でもこれで情報が手に入った。
アイジャとトーマさんにも報告して王家の墓に行ってみないとな。
「アイジャ! トーマさん!」
待ち合わせ場所で待っていた2人にさっきの男から聞いた情報を2人に話した。
「ちょっとまてカケル、妖精はいるか?」
「ルマなら首飾りに入ってもらってるけど?」
「呼び出してみろ」
「ルマ、聞いたろ? ちょっと出てきてくれ」
首飾りにいるルマに話しかけるがルマは出てこない。
寝ちゃってるのか?
軽くノックをして再度呼んでみるが、返事は無いし、出てこない。
……まさか……。
「ここの連中はお詫びなんて事でわざわざ情報をタダで渡したりしない。 取引の契約がここでの正義だ」
「早く探さないと!」
アイジャが焦り始めたが、俺はもっと焦っている。
「くそっ! あの野郎!」
あの男を追おうとしたが「無駄だ」とトーマさんに止められた。
「でも!」
「仮に追いついたとしても、取引が完了している以上あの男は妖精を返さないだろう」
「なら力ずくでも!」
「それもやめておけ。 ここでの争いは厳禁だ」
「ならどうすんだ!!」
「私に良い考えがある」
「アイジャ! 冗談言ってる場合じゃないんだ!!」
「冗談ではない! ちゃんと取引をしてルマを取り戻せば良いのだろう? 任せておけ」
あまり信用出来ないアイジャの提案だが、トーマさんも納得している。
アジトに戻って来た俺達はアイジャの提案を聞いた。
「まず、カケルは王家の墓に行き、精霊命珠とやらを手に入れる。 そして我が儀式を終えて女王になった時、男とルマを探しだして交渉しよう。 王族との取引なら価値は高いはず」
「それまでにルマが、売り飛ばされたらどうするんだ!?」
「そう簡単には売らないでしょう。 仮にも妖精、そう簡単に売れる値段ではない。 売るならちゃんとした場所を設けるでしょう」
男の居場所もわからない、取引出来る金も無い、ならアイジャの提案にかけるしかない。
「わかった……」
「うむ、ではカケル、王家の墓から1週間で戻って来るのだぞ」
「わかった」
ルマを助ける為には時間をかけられない。
アイジャが女王様になったら直ぐ取引出来る用にする為、王家の墓から1週間で戻って来ないといけない。
王家の墓まで往復4日、墓の中で精霊命珠を見つけて持ち出すまで3日しか無い。
王家の墓はトラップや魔物もいるし、かなり広いと聞いている。
全力で挑まなくては。
「ルマ待ってろ! 必ず助ける!」
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ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
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