一目惚れなんです、黒竜様

雪吹つかさ

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12:新しい時代のために

夢想の先

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 食事の用意を終えて、部屋に戻ろうとした時だった。裏口の戸が叩かれた。頭に浮かんだのはミランダの姿だ。最近は収穫祭があるからか来ていなかったが、収穫祭も終えたため来たのかもしれない。シェリーたちはまだ来そうにないため、イヴが出る事にした。返事をして戸を開ける。
 開いたそこにに立っていたのは赤髪の美女だった。予想外の相手の訪問にイヴは数秒固まる。訪ねてきたリリス側は気にしていない様子でにっこりと魅力的な笑顔を見せた。


「こんにちは」
「こ……こんにちは……」
「話があるから入ってもいいかしら? 果実酒とかは出さなくてもいいから」
「え、こ、ここにですか?」


 中に上がりたがっている相手に、イヴは当惑する。住まわせてもらっている身だ。許可もなしに食卓の席には座らせづらい。それに二人が食事のため戻ってきてもおかしくはない。


「あの、それなら今日じゃない日のお昼に……」
「あら。できるだけ早く聞いておきたいものだと思ったけど。聞きたいでしょ? 進軍とか行き先とか」


 ヒュッと息を吸う。一瞬思考が停止した。同時に、森でのことは現実なのだと思い知らされる。脈拍が上がっていき、拳を握り締めた。深呼吸して自身を落ち着かせにかかる。
 彼女から真実を聞けば、現実として受け入れる事になる。夢であればと願う心はあったが、振り払った。何度も深呼吸をしてから与えられている自室を見遣って示す。


「それなら部屋にどうぞ」
「それでもいいわ」


 あっけらかんと承諾して、リリスは示された方に歩いていく。部屋の主より先に部屋の中へと入った。イヴはそれを追う形で入室する。入った頃にはリリスはベッドに座っており、イヴは間を空けて座る。


「あの竜様はあなたに聞かせたがらなかったけど……一応ここに着くのは一月ぐらい先だと思っていいと思うわ。決まったばかりみたいだし、一部隊で来るみたいだけど、一部隊の数も多くなるだろうから。地形的にもね」
「一月……」


 まだ先だとは知らされていたが、一月先と聞き確定ではないがイヴは安堵の息を吐く。逃亡するには十分な時間だ。


「それで、肝心の行き先だけど、あの魔王が破れた戦い以降、行き場のないモノ達が集まる……集落があるのよ。そこに誘ったの。そこは認識されないようにする強力な結界があるからそうそう立ち入られないし」
「フェリーク様はなんて……?」
「フェリーク? あの竜様のこと?」
「あ……はい。わたしが勝手にそう呼んでいるだけです、けど」
「ふぅん……」


 名称を聞いてきょとりとしたリリスだったが、話を聞くと口角を上げてイヴを見る。次にはにっこりと笑った。


「良い名前ね! じゃあ私も今度からフェリーク様って呼んじゃおうかしら」
「えっ……あ……」


 自分がつけた呼び名を他者が呼ぶのは初めてではないというのに、複雑な想いだった。それは恋敵だと思われる相手だからか、言い方か。イヴ本人にもわからない。リリスはというとそんなイヴの反応を見て笑っていた。少しして表情を抑える。


「――行くそうよ。集落に」
「あ……そうなんですね。良かった……」
「違う大陸だけど、彼なら飛べるし」
「……違う、大陸……違う大陸に行くんですか?」
「そうよ。そっちは違う国なんだけど、ここよりはモンスターに対して緩いから」


 この地を治めているのは皇帝ではないためここよりも緩い国はある。他の大陸――海の向こうの違う国へと渡るという事は、追い掛けねば見ることすら簡単には叶わぬという事だ。否結界があるという事はそれこそ二度と会えない可能性がある。それが頭の中で導き出された時、イヴは言葉を失った。


「あなたは? どうするの?」


 しばらく考え続けていたそれの答えを要求されて、イヴは言葉に詰まる。追いかけなければもう会えない。だが追う――というよりは一緒でなくては集落には入れない。
 答えを口にしないイヴを見て、リリスは目を丸くした。


「……意外ね。すぐに、一緒に行くって言うと思っていたわ」
「そこに行くなら、この大陸にはもう来られない、ですよね」
「来ようと思えば来られるわよ。ただ簡単ではないけど」


 どこの大陸に行くかはイヴにはわからないが、海を渡るという事は容易ではない。集落に行かないのとは違い、一生来られない訳ではないのだ。ただ、同じ孤児だった者たちやシスターに会っていない日々が続くくらいである。そうそうは来られないだろう。住民として受け入れられてきたこの町と、別れなければならないのだ。
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