63 / 71
12:新しい時代のために
夢想の先
しおりを挟む食事の用意を終えて、部屋に戻ろうとした時だった。裏口の戸が叩かれた。頭に浮かんだのはミランダの姿だ。最近は収穫祭があるからか来ていなかったが、収穫祭も終えたため来たのかもしれない。シェリーたちはまだ来そうにないため、イヴが出る事にした。返事をして戸を開ける。
開いたそこにに立っていたのは赤髪の美女だった。予想外の相手の訪問にイヴは数秒固まる。訪ねてきたリリス側は気にしていない様子でにっこりと魅力的な笑顔を見せた。
「こんにちは」
「こ……こんにちは……」
「話があるから入ってもいいかしら? 果実酒とかは出さなくてもいいから」
「え、こ、ここにですか?」
中に上がりたがっている相手に、イヴは当惑する。住まわせてもらっている身だ。許可もなしに食卓の席には座らせづらい。それに二人が食事のため戻ってきてもおかしくはない。
「あの、それなら今日じゃない日のお昼に……」
「あら。できるだけ早く聞いておきたいものだと思ったけど。聞きたいでしょ? 進軍とか行き先とか」
ヒュッと息を吸う。一瞬思考が停止した。同時に、森でのことは現実なのだと思い知らされる。脈拍が上がっていき、拳を握り締めた。深呼吸して自身を落ち着かせにかかる。
彼女から真実を聞けば、現実として受け入れる事になる。夢であればと願う心はあったが、振り払った。何度も深呼吸をしてから与えられている自室を見遣って示す。
「それなら部屋にどうぞ」
「それでもいいわ」
あっけらかんと承諾して、リリスは示された方に歩いていく。部屋の主より先に部屋の中へと入った。イヴはそれを追う形で入室する。入った頃にはリリスはベッドに座っており、イヴは間を空けて座る。
「あの竜様はあなたに聞かせたがらなかったけど……一応ここに着くのは一月ぐらい先だと思っていいと思うわ。決まったばかりみたいだし、一部隊で来るみたいだけど、一部隊の数も多くなるだろうから。地形的にもね」
「一月……」
まだ先だとは知らされていたが、一月先と聞き確定ではないがイヴは安堵の息を吐く。逃亡するには十分な時間だ。
「それで、肝心の行き先だけど、あの魔王が破れた戦い以降、行き場のないモノ達が集まる……集落があるのよ。そこに誘ったの。そこは認識されないようにする強力な結界があるからそうそう立ち入られないし」
「フェリーク様はなんて……?」
「フェリーク? あの竜様のこと?」
「あ……はい。わたしが勝手にそう呼んでいるだけです、けど」
「ふぅん……」
名称を聞いてきょとりとしたリリスだったが、話を聞くと口角を上げてイヴを見る。次にはにっこりと笑った。
「良い名前ね! じゃあ私も今度からフェリーク様って呼んじゃおうかしら」
「えっ……あ……」
自分がつけた呼び名を他者が呼ぶのは初めてではないというのに、複雑な想いだった。それは恋敵だと思われる相手だからか、言い方か。イヴ本人にもわからない。リリスはというとそんなイヴの反応を見て笑っていた。少しして表情を抑える。
「――行くそうよ。集落に」
「あ……そうなんですね。良かった……」
「違う大陸だけど、彼なら飛べるし」
「……違う、大陸……違う大陸に行くんですか?」
「そうよ。そっちは違う国なんだけど、ここよりはモンスターに対して緩いから」
この地を治めているのは皇帝ではないためここよりも緩い国はある。他の大陸――海の向こうの違う国へと渡るという事は、追い掛けねば見ることすら簡単には叶わぬという事だ。否結界があるという事はそれこそ二度と会えない可能性がある。それが頭の中で導き出された時、イヴは言葉を失った。
「あなたは? どうするの?」
しばらく考え続けていたそれの答えを要求されて、イヴは言葉に詰まる。追いかけなければもう会えない。だが追う――というよりは一緒でなくては集落には入れない。
答えを口にしないイヴを見て、リリスは目を丸くした。
「……意外ね。すぐに、一緒に行くって言うと思っていたわ」
「そこに行くなら、この大陸にはもう来られない、ですよね」
「来ようと思えば来られるわよ。ただ簡単ではないけど」
どこの大陸に行くかはイヴにはわからないが、海を渡るという事は容易ではない。集落に行かないのとは違い、一生来られない訳ではないのだ。ただ、同じ孤児だった者たちやシスターに会っていない日々が続くくらいである。そうそうは来られないだろう。住民として受け入れられてきたこの町と、別れなければならないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる