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ハンサーラ公国と亡国の思惑

狂乱の大公

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公国首都グレーダーにある城、ダリス城。

真夜中の謁見の間に王冠を被った、老人が玉座に座っている。

目は血走り、痩せ細った身体は、まるでノーライフキングを彷彿させる容貌である。

「大公陛下、例の研究の件でありますが……」

「まだ成果は出ぬのか?」

「……はい。」

臣下は、額に流れる汗が次々と吹き出し恐れながら返答をする。

「何をしとるのか!!」

大公は急に大声で、臣下に怒鳴りつけた。

「世に最強の軍を携え、儂も不老不死となり、世を統べるのだ!!儂の命が有るうちに完成せずして、いつ完成するのだ!?」

「そ、それは私にも解り兼ねます……」

「主は阿呆か?」

「はっ?」

ハンカチで汗を拭く臣下。

「主は阿呆か!亡国の死皇帝め、儂を利用しようとしているのが見え見えだ。その前に儂が利用し、天下を儂のモノにするのだ!解るか?え?」

「は、はぁ……」

「成果が出ねば……わかるな?儂は主に期待・・しとるのだぞ?失望させるなよ?失望すれば……」

「わ、私の命……で御座いますか?」

すると大公は玉座から勢い良く立ち上がり、臣下の顔と大公の顔とが近い距離まで詰め寄り、更に怒鳴った。

「阿呆!ぬるい!ぬるいわ!!一族郎党、全てレビウスの実験にしてくれようぞ!!」

思わず臣下は、余りの気迫にその場にて、へたり座ってしまった。

「……ひっ、ひゃひゃひゃ、見とれよ。儂を利用するには甘いと言う事を。儂を倒すには、まだまだ、力が足りぬと言う事を!あひゃひゃひゃっ!」

(……狂っておる。狂気に深みが増しておる!)

臣下は恐れおののきながら、己が主を見上げていた。

この暴君タイラントアヒム・フォン・ヴィルヘルムの暴走は、果たして止められるのか?
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