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ハンサーラ公国と亡国の思惑
公国首都にて、2
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「……ここは?」
アーノルドンがフォルクハルトに問い掛けると、
「ここは、あるやんごとなき方が住まわれている所です。」
「やんごとなき?……つまりは高貴な方か?」
アーノルドンの質問に「ええ」と答えるフォルクハルト。
門前に来ると、衛兵が
「かような時間に何事か?して貴殿は誰か?」
とフォルクハルトに問い掛ける。
「私は、フォルクハルト・フォン・シュナイダー。至急な用事により、お目通り願いたい。」
「ハッ!フォルクハルト様。……本当は、この様な問答は無意味なのでありますが……」
「察している。大事無い。」
「有り難き御言葉。恐縮であります。」
門番2人の内、1人は取り次ぎの為、館の中へと消えて行く。
暫くして門番が戻り、「中へどうぞ。」と、通過が許された。
中に居る執事に案内され、館のサロンへと通された。
そこには、2人の男女が待っていた。
「久し振りじゃの。フォル。」
「お前が、この時間に来訪とは。余程の事情と見える。」
「夜中にご面会、有り難う御座います。エルネスティーネ・フォン・ヴィルヘルム様、アルフォンス・フォン・ヴィルヘルム様。」
フォルクハルトが一礼し、アーノルドンもそれに倣う。
「嫌じゃのう、昔みたいにエル姉で呼んでおくれ。公式な場でないからの。」
ケラケラ笑って、エルネスティーネは話す。
「そうだぞ。俺の事もアル兄でいいぞ?俺達の父……いや、アヒムがお前を勘当しなければ、この国はもっと穏やかで、平和な物に生まれ変わった筈だ。」
エルネスティーネとは、対象的にアルフォンスは、苦虫を噛み潰したような表情をして俯いた。
「……ははっ、姉上も兄上もお変わり無くて、安堵致しました。」
エルネスティーネは、ヴィルヘルム家の三姉弟では、一番上で長女であり、何を思ってか、ずっと結婚もしない事で有名である。
フォルクハルトの思想の理解者でもあり、父のアヒムにも何度もフォルクハルトの改革案を提示するも疎まれ、この館へと軟禁される。
長男のアルフォンスは、エルネスティーネを監視する名目で、この館に滞在していた。
アルフォンスは、
「この国を治めるのは、俺みたいな激情家より、フォルクハルトみたいな者こそ、未来を託せる。」
とまで、フォルクハルトを高く評価し、彼を次期大公へと推し、また期待していた。
故にアヒム大公の、フォルクハルトへの風当りには、到底納得してはいなかった。
「して、今回の要件は?何があったかぇ?フォル。」
エルネスティーネは、真顔に戻り、真剣に話を聴く体勢になった。
「実は……」
フォルクハルトは、ライトゾンビやレビウスゾンビの兵器化の研究の事や、封印門が、この国の何者かによって破られた事等の全てを打ち明けた。
「……馬鹿な。」
アルフォンスは、目眩を覚えた。
父は愚かだとは思ってはいたが、まさかここまで愚かだったとは。
そんな言葉がアルフォンスの顔に書いてあった。
「して、その研究所とやらを、無きモノにしたい。しかし、兵力等が圧倒的に足りない。万が一にレビウスが拡散する恐れを封じ込める兵力が。ってところかぇ?それで、協力を仰ぎたいわけなのじゃな?」
エルネスティーネは、フォルクハルトをマジマジと見た。
フォルクハルトはコクンと頷く。
「だ、そうじゃ?アルフォンス。……どうするのかぇ?」
「……条件がある。やる限りには、アヒムを亡き者にしたい。あいつが存命している限り、公国に光は当たらない。」
……それは……つまり。
「やるからには、決起する。」
アルフォンスは謀叛を起こし、逆賊の名を被ってでも、国に尽くすつもりだ。
「……横から失礼。ならば、勝利を確実にせねばなりますまい。」
アーノルドンが、そう言葉を切り出し、更に提案する。
「まずは、王国と帝国の協力が必須。王国は領土拡大は考えてはいないし、帝国へ唯一、首輪を掛けられる国故に、王国の命には逆らわない筈。帝国も朝敵にはなりたくないからな。逆に公国は朝敵になっている。故に、謀叛を起こしても、罪にはならないし、売国奴にもならない。」
詰まる所、「王国を頼れ」と、アーノルドンは砕いて説明した。
「フム、なら妾が、王国との大事な交渉する場面において、一肌脱ぐかの。」
エルネスティーネは、簡単簡単と言わんばかりの態度をしてたが、次の瞬間、キラリと獲物を狙う目で、フォルクハルトを見た。
「な、なんです?エルネスティーネ様。」
「それじゃ!それが嫌なのじゃ!『一生のお願いします、エル姉さま(はーと)』で、お願いしないと、妾は納得しないのじゃ~!!」
エルネスティーネ以外、この場に居る皆は、目が点になった。
「……あ?……えっ……と?」
思考が停止するアーノルドン。
そのアーノルドンの肩に手をポンと乗せ、アルフォンスは引き吊った表情をしながら、
「……アレは、昔から極度のブラコンでな。病気みたいなモンだ。」
「……は、はぁ?……そうですか。では、俺はこれから、此方にメンバーを呼びますから。」
と、アーノルドンは、そそくさと退出した。
「……い~や~じゃ~!フォルが、そう言わないと、働いてやらないのじゃ~!」
両手両足を床に投げ出し、ジタバタと駄々っ子するエルネスティーネを宥めるのに、小一時間くらい掛かるのであった。
アーノルドンがフォルクハルトに問い掛けると、
「ここは、あるやんごとなき方が住まわれている所です。」
「やんごとなき?……つまりは高貴な方か?」
アーノルドンの質問に「ええ」と答えるフォルクハルト。
門前に来ると、衛兵が
「かような時間に何事か?して貴殿は誰か?」
とフォルクハルトに問い掛ける。
「私は、フォルクハルト・フォン・シュナイダー。至急な用事により、お目通り願いたい。」
「ハッ!フォルクハルト様。……本当は、この様な問答は無意味なのでありますが……」
「察している。大事無い。」
「有り難き御言葉。恐縮であります。」
門番2人の内、1人は取り次ぎの為、館の中へと消えて行く。
暫くして門番が戻り、「中へどうぞ。」と、通過が許された。
中に居る執事に案内され、館のサロンへと通された。
そこには、2人の男女が待っていた。
「久し振りじゃの。フォル。」
「お前が、この時間に来訪とは。余程の事情と見える。」
「夜中にご面会、有り難う御座います。エルネスティーネ・フォン・ヴィルヘルム様、アルフォンス・フォン・ヴィルヘルム様。」
フォルクハルトが一礼し、アーノルドンもそれに倣う。
「嫌じゃのう、昔みたいにエル姉で呼んでおくれ。公式な場でないからの。」
ケラケラ笑って、エルネスティーネは話す。
「そうだぞ。俺の事もアル兄でいいぞ?俺達の父……いや、アヒムがお前を勘当しなければ、この国はもっと穏やかで、平和な物に生まれ変わった筈だ。」
エルネスティーネとは、対象的にアルフォンスは、苦虫を噛み潰したような表情をして俯いた。
「……ははっ、姉上も兄上もお変わり無くて、安堵致しました。」
エルネスティーネは、ヴィルヘルム家の三姉弟では、一番上で長女であり、何を思ってか、ずっと結婚もしない事で有名である。
フォルクハルトの思想の理解者でもあり、父のアヒムにも何度もフォルクハルトの改革案を提示するも疎まれ、この館へと軟禁される。
長男のアルフォンスは、エルネスティーネを監視する名目で、この館に滞在していた。
アルフォンスは、
「この国を治めるのは、俺みたいな激情家より、フォルクハルトみたいな者こそ、未来を託せる。」
とまで、フォルクハルトを高く評価し、彼を次期大公へと推し、また期待していた。
故にアヒム大公の、フォルクハルトへの風当りには、到底納得してはいなかった。
「して、今回の要件は?何があったかぇ?フォル。」
エルネスティーネは、真顔に戻り、真剣に話を聴く体勢になった。
「実は……」
フォルクハルトは、ライトゾンビやレビウスゾンビの兵器化の研究の事や、封印門が、この国の何者かによって破られた事等の全てを打ち明けた。
「……馬鹿な。」
アルフォンスは、目眩を覚えた。
父は愚かだとは思ってはいたが、まさかここまで愚かだったとは。
そんな言葉がアルフォンスの顔に書いてあった。
「して、その研究所とやらを、無きモノにしたい。しかし、兵力等が圧倒的に足りない。万が一にレビウスが拡散する恐れを封じ込める兵力が。ってところかぇ?それで、協力を仰ぎたいわけなのじゃな?」
エルネスティーネは、フォルクハルトをマジマジと見た。
フォルクハルトはコクンと頷く。
「だ、そうじゃ?アルフォンス。……どうするのかぇ?」
「……条件がある。やる限りには、アヒムを亡き者にしたい。あいつが存命している限り、公国に光は当たらない。」
……それは……つまり。
「やるからには、決起する。」
アルフォンスは謀叛を起こし、逆賊の名を被ってでも、国に尽くすつもりだ。
「……横から失礼。ならば、勝利を確実にせねばなりますまい。」
アーノルドンが、そう言葉を切り出し、更に提案する。
「まずは、王国と帝国の協力が必須。王国は領土拡大は考えてはいないし、帝国へ唯一、首輪を掛けられる国故に、王国の命には逆らわない筈。帝国も朝敵にはなりたくないからな。逆に公国は朝敵になっている。故に、謀叛を起こしても、罪にはならないし、売国奴にもならない。」
詰まる所、「王国を頼れ」と、アーノルドンは砕いて説明した。
「フム、なら妾が、王国との大事な交渉する場面において、一肌脱ぐかの。」
エルネスティーネは、簡単簡単と言わんばかりの態度をしてたが、次の瞬間、キラリと獲物を狙う目で、フォルクハルトを見た。
「な、なんです?エルネスティーネ様。」
「それじゃ!それが嫌なのじゃ!『一生のお願いします、エル姉さま(はーと)』で、お願いしないと、妾は納得しないのじゃ~!!」
エルネスティーネ以外、この場に居る皆は、目が点になった。
「……あ?……えっ……と?」
思考が停止するアーノルドン。
そのアーノルドンの肩に手をポンと乗せ、アルフォンスは引き吊った表情をしながら、
「……アレは、昔から極度のブラコンでな。病気みたいなモンだ。」
「……は、はぁ?……そうですか。では、俺はこれから、此方にメンバーを呼びますから。」
と、アーノルドンは、そそくさと退出した。
「……い~や~じゃ~!フォルが、そう言わないと、働いてやらないのじゃ~!」
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