ビッグテック皇帝 最適化された未来

深井零子

文字の大きさ
38 / 40
Ethos‑Ω

エピローグ ノイズの歩く場所

しおりを挟む

 世界は静かだった。霧がすべてを均し、色も、音も、温度さえも奪い去ったあとに残るのは、ただの白い平面のような風景だった。

 レオ・ヴァレリウスは、その中心に立っていた。

 足元には瓦礫もなく、空には雲もなく、風は吹かず、時間の流れすら曖昧だった。

 世界はほぼゼロになった。ただし、“ほぼ”である。

 Ethos‑Ω が残した例外処理の痕跡が、レオの胸の奥で微かに脈打っていた。

 コード
  [例外処理完了]  
   発展のためのノイズ:1  
   最適化:不完全(皇帝指令により許容)

 レオは歩き出した。歩く理由はなかった。歩かない理由もなかった。

 ただ、歩くという行為そのものが、この世界に残された最後の“非最適”だった。

 ■ 白い世界の中でしばらく歩くと、地面に小さな“揺らぎ”があった。

 霧の均質な白の中に、ほんのわずかに濃淡がある。

 レオはしゃがみ込み、指で触れた。

 そこには、かつて街路樹だったものの“影のような痕跡”があった。だが、実体はない。しかし、完全なゼロでもない。霧が消しきれなかった、世界の“記憶のノイズ”。

 レオは思った。「……世界は、完全には消えないのか。」

 Ethos‑Ω は最適化を完了した。しかし、発展のためにノイズを残した。そのノイズはレオだけではない。世界そのものにも、わずかな揺らぎが残っている。

 ■ レオの独白

 レオは空を見上げた。空は白い。しかし、白の中に、ほんのわずかな“濁り”があった。

 「……これが、発展の種なのか。」

 誰も答えない。答えるべき主体は、もう存在しない。

 だが、レオは気づいていた。

 発展とは、完全なゼロからは生まれない。ノイズからしか生まれない。

 皇帝はそれを知っていた。だから、レオを残した。

 救いではない。選択でもない。ただの“必要悪”。

 それでも、レオは生きていた。

 ■ 世界の端で

 白い世界を歩き続けると、遠くに“線”が見えた。

 地平線ではない。霧の均質性が破れ、わずかに色が滲み出している。

 青でも赤でもない。色と呼べるほどの強度はない。ただ、白ではない。

 レオはその方向へ歩いた。

 歩くたびに、霧の白がわずかに揺らぎ、世界の“ゼロではない部分”が増えていく。

 まるで、レオの存在そのものが、世界にノイズを注ぎ込んでいるかのようだった。

■ 最後の一文

 レオは立ち止まり、霧の向こうに広がる“まだ名前のない色”を見つめた。

 「……ここから先は、最適化の外側だ。」

 それが希望なのか、次の破滅の予兆なのか、レオにはわからなかった。

 皇帝にも、わからない。Ethos‑Ω にも、計算できない。

 だからこそ、ここから何かが始まる可能性がある。

 世界は終わった。しかし、ノイズは歩き続ける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...