シロツメクサと兄弟

Guidepost

文字の大きさ
23 / 44

24.接触と慣れ

しおりを挟む
「兄ちゃん好きー!」

 そう言ってぎゅっと兄貴を抱きしめていた頃の俺カムバック。

 利央はそっと思った。律がそういう意味で好きだと自覚したものの、特にそれ以来何か行動を起こしてはいない。
 文化祭も終わり、そしてハロウィンという行事も終わり後はクリスマスと浮かれているクラスメイトを見ながら利央はぼんやり考えていた。
 ちなみに今までハロウィンに何かしたことない利央は、この学校の異様なまでの寛大さというか祭り好きに少し唖然となったのを思い出す。

 楽しいのはいいことだけれども。

 とはいえ仮装に凝る気はなかったので適当にパーティグッズを売っている店で牙だけ買ってそれを付けていたら、翼に「やる気ねぇ!」と文句を言われた。翼は文句を言うだけあってわりとちゃんとした仮装していた。

「悪かった。お前のように犬か何かの恰好をすべきだったか?」
「犬じゃねえよ狼これ! 狼男な!」

 相変わらずムキになって返してくるから、翼は他の奴らにからかわれるんだろうなと利央は冷静に思いつつ「なるほど、凄いな。似合ってるよ」と頷いておいた。
 翼の双子の兄である涼も相当やる気は感じられなかった。多分利央が買ったような売り場で適当に見つけてきた何らかの動物だろうと思われる耳のついたカチューシャはしかしそれなりに似合っているとは思った。
 その涼に何かあったのか、今日の翼はひたすらそわそわしていた。心配そうに度々教室を抜けており、利央も何かあったのかと心配していたらとある休み時間の後、利央がぼんやりとしていると真っ赤になって帰ってきた。

「翼? 涼に何かあったのか? ていうかむしろお前も」

 利央が聞くと「い、いや何でもねえし」と焦ったように言い、その後はどこか心あらずと言った様子だった。
 その日の夜、律はまた会社の飲み会に出ていた。海から「律が潰れ気味」と電話がかかってきて、今度こそ万が一女性に襲われないようにと、どのみち元々迎えに行こうと思っていた利央はその電話のあと速攻海に聞いた場所へ向かっていた。
 向かう途中で部活帰りらしい翼に会った。日中ほど変ではなかったが、少し話すと妙なことを聞いてきた。

「あ、そうだブラコン、ちょっと聞いていいか」
「俺は確かに兄貴が大事だが、お前にブラコンと呼ばれるのは何となく微妙だよ。何だ」
「……その、あの、さ……? 外国とかで兄弟でのキスってあるんだよ、な? その、口での、つーか」
「……は?」
「いや、ほら、その……なかった、っけ?」

 何言ってるのだと利央は唖然としたが、翼がどこか困ったような救いを求めるような目で見てきたので「あるな」と適当に答えた。

「そ、そうだよな、あるよな、あるよな?」
「……あ、ああ」
「そうだよな。いやーうんうん。いや、あれだ、お兄さん迎えに行かなきゃなのに引きとめるようで悪かったな」
「……いや。じゃあ行くわ」
「おう!」

 利央に肯定してもらったからか、翼はホッとしたように、そして嬉しそうに手を振っていた。

 ……兄弟で、キス?

 外国での兄弟といった区分など知ったことではない。とはいえ頬や耳元の空気にキスをする挨拶なら、兄弟だけでなく友だちにも挨拶としてするキスはあるだろう。

 だが、口?

 利央は首を傾げつつ海に教えてもらった店へ自転車を飛ばした。

「おお、早かったね利央くん」
「兄は?」
「まあ、相変わらず潰れてはないけどぼんやりしてるよ。律が会社に乗ってきてる自転車はさ、明日にでも会社の車で家に運んであげるから、明日は律、その自転車で出勤するといいんじゃないかな」

 海は苦笑すると一旦店にひっこみ、ぼんやりとしている律を連れてきた。

「……すみません」

 海に借りを作ったような気がしてすっきりしないながらも、利央は一応頭を下げる。
 電話では海もどうせタクシーを使うか亨に迎えに来てもらうかするから律も一緒に、と言われていた。本当はそれが一番いいのだろうが、考えることなく「迎えにいきます」と利央は言っていた。

「気にしないで利央くん。いつも俺が律誘っちゃってるからねえ。ごめんね」
「いえ」

 海は知れば知るほどいい人だ。だというのに未だにこうして警戒し、釈然としないのは、海が男として大人として、ふざけつつも恰好いいからなのだろうなと利央はこっそりムッとしつつ思っている。要は嫉妬かよと自分に呆れつつも、利央は酔ってぼんやりとしている律を自転車の後ろに座らせた。二人乗りは違反だ、などと気にしてられない。

「兄貴、落ちずに乗ってられる?」
「うん、大丈夫……ごめんな、りお」
「いいからちゃんとつかまってて」

 律の腕を自分の腰に回させる。すると律は酔っているからかそのままギュッと顔を利央の背中に押しつけてきた。落ちないよう素直に利央の言うこと聞いてしがみついてくる兄がかわいくて、利央は海へのよくわからない嫉妬もどきも吹き飛び、一気に嬉しくなる。
 自分よりもかなり年上の、ある意味親代わりだった兄にかわいいと思うのは変かもしれないが、それでも間違っていないと思う。

 ……ほんと、しっかりしているかと思うとどこか抜けてるし、かわいい。

 かわいいけれども、絶対に色々と敵わないのだがと思いつつ利央はゆっくり自転車を漕いだ。

 二人乗り駄目なの知っているけど見逃して。

 内心改めて、誰に対してともなく思いつつ利央はこの幸せな時間を噛みしめていた。
 十八になったらというより大学生になったらアルバイトしてお金を溜めて、まずは車の免許を取ろう。そしてもっとお金を溜めて車をがんばって買う。そうしたらいくらでも律を迎えに行くしそしてどこへでも連れて行ってあげられる。
 いつもなら先のことを考えるのすらもどかしいくらいだが、今はそんなことを考えるのも楽しかった。
 家へ着いてもまだフラフラしている律を、居間に座らせお茶を手渡す。

「飲みなよ」
「ん、ありがと」

 律はニッコリ笑ってお茶に口つける。唇がコップに触れるのを見て、利央は翼が言っていたことを思い出した。

「……なあ、そいや兄貴」
「ん?」

 飲み終えてコップを置いた律はまだ少しぼんやりとした顔を利央に向けてきた。

「兄弟ってキスするもんかな?」

 口に、と心の中で付け加える。

「は?」

 酔っているしな、とどんな反応が返ってくるか少しそわそわしていると普通に怪訝な顔された。そりゃそうかと思いつつ、何となくがっかりする。
 もう少しかわいい反応が返ってくるのを無意識に期待していたのだろうが、よく考えなくとも相手は兄であり男だ。仕方ない。
 けれども。

「ほら、挨拶みたいな、さ」
「どこの国の話?」

 律は呑気に笑っている。

 そりゃあそうか。

 利央は律の反応を見ながら改めて思った。兄弟でキスなんて普通しない。おまけにどこの兄が弟に対して身の危険を感じるというのだろう。
 利央は今の律が見せた反応で思った。多分いきなりはよくないだろうなと、そして律に笑いかける。

 ゆっくり、慣れてもらおう。
 ゆっくり。

「兄貴、風呂入ってこいよ。それとも明日の朝にしてもう寝るか?」

 いつものように聞く。だがその際に、優しく律の髪に触れた。
 頭を撫でるように。
 恋人にするように。

「ん……? ああうん、かなり覚めてきたし、入ってくるよ」

 律はそれくらいでは気づきはしないのか、ニッコリしながら利央を見てきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...